201.バレた
最近、投稿時間がぶれぶれですみません…
ロリィには色々と分かってしまった。でも安心している自分もいる。どこかで気が付いて欲しかったのかな?そんな自分が嫌になる。
ロリィが一人で行かないでと言ってくれたのが嬉しい。嬉しいのに、喜んでいる自分は嫌いで。
なんだか不安定だな、私も。
そうだ、ツリーハウスももう要らないよね?回収しておこう。きっとイリィの家族にとっては嫌な思い出だろうから。
またロリィと一緒に森を出て拠点に戻る前に食事。ロリィがちゃんと食べるのを見るよって言うから。
だから久しぶりに料理。ホワイトシチューにオークのステーキだよ。いきなりガッツリは無理だから私はシチューと一口だけステーキ。
ハクやブラン、ナビィにミストとミア、ベビーズはおお肉をたっぷりね。
久しぶりに体に摂りこんだ栄養は染み渡るようだった。
『ロルフが一緒に来てくれて良かった』
『うん、アイリってばいくら言っても栄養はもう要らないからって、食事を口に入れるだけでポーチに捨ててたから』
『ちゃんと食べてって言っても聞いてくれなくて』
いや、告げ口はどうかと思うよ?
「イル、メっだよ?」
「だって、私たちが転移したのは死ぬ為で。だから毎日は死に向かってる。なら味わうだけでいいと思って」
「それは違うと思う。ユーグ様は神の温情だと言った…死にゆくための転移だとは思えない」
ロリィは言葉を選びながら言う。
「イル、何かを見落としているように思う。僕の力が必要。イルの楔…僕の役割を見落としてる、気がする」
ロリィの役割?温情そして楔…何かが今引っ掛かったような?
ダメだ、分からない。
「だから早まらないで…僕は意外としつこいよ?」
どういう意味?
「離さないから」
私は驚いて、そして笑った。
「ありがとう、ねぇ、ロリィ。一緒に町に行かない?」
「彼らを迎えに?」
さすがだな…私は頷く。
「エリアスもキリウスもヨナも連れて行こう」
「彼らは自分の馬がある。ロリィは馬に乗れる?」
「貴族の嗜み…」
やっぱりお貴族様は凄いな。
「彼らの馬に乗れたら、私も乗せて」
「でも、エリアスたちがいるなら、馬車がいいかな。私の馬車なら…貴族の紋章を掲げられる」
「あぁ、入るのが問題だったな。なら馬車で」
「案内がいるから、サリーとラドにも…」
「そうだね」
拠点に戻るとエリアスに声を掛けてサリーとラドにも話をする。
「そろそろ行かないとヤバいと思ってたんだ。ここに帰ってくるか?」
「イル、町にしばらく滞在しよう。イーリスとは別行動になるけど…」
「そうだね」
エリアスたちの今後についても、ある程度決めないと。すぐには難しいだろうし。
こうしてエリアスたちを連れて、町に行くことにした。行きはラドとサリーは馬に乗って行く。あの蘇生させた馬だ。
ナムとシグ、リベラとソマリにも声を掛けて出発した。馬車と馬だが、夕方までには町に着くだろう。
馬車には私とロリィが隣り合って。向かいにエリアスとキリウスとヨナはエリアスの膝の上だ。
床にハクが寝そべり、ナビィは小さくなって私の膝。ブランは肩でミストとミアは腕のポーチだ。
ベビーズはナビィと一緒に私の膝で、リツはロリィの膝。アイリーンはロリィのポーチの中で収まっている。
少しずつ暮れていく空を馬車から見上げた。
シア兄様は打ちひしがれて蹲ってしまった。でももう言葉は戻せない。兄様の体を起こして屋敷に戻る。
「ご飯を食べよう」
と言ってもアイが渡してくれた食事だ。
「これもアイル君が…」
しんみりとしながら食事を終えて、居間に移動する。
紅茶を静かに飲みながら、ゆっくりとした時間は過ぎていった。
シア兄様が立ち上がって
「森を作ろう。ツリーハウスの周りに植物を植えて」
「そうだな、少しだけでも植えよう」
「そうね、私たちは森と共に生きる種族」
良かった。これでアイも喜んでくれる。そう思って屋敷を出た。そして、あっ…。
ツリーハウスは無くなっていた。始めから何も無かったように。そうか、アイは僕たち家族には辛い記憶になると思ったんだ。
枯れた木も草もしまっていたじゃないか。どうしていつも僕は気が付かないんだろう。
アイは…?見つからない。ロリィの屋敷を訪ねる。するとリベラが出て来て
「ロルフ様はお出かけです。助けて町に送り届けた彼らの保証人の件で、アイル様と」
そうだった。僕たちはエリアスの事すら放ってしまった。助けた人たちも、だ。
「エリアスは?」
「ロルフ様とアイル様が」
まただ。僕たにはまたアイに負担をかけて、ぜんぶアイがやってくれる。なのに僕たちはアイを傷付けるばかりで。
アイがどんな想いでツリーハウスを片付けたのか。どんな気持ちでここを離れていたのか。何も分かっていなかった。
僕はロルフの屋敷を後にした。アイが傷付いてここを離れた時に、そばにいたのは僕じゃない。
アイがエリアスの為に町に行く時に、そばにいるのも僕じゃない。
僕が辛い時はアイがそばにいるのに…僕は。何もしてあげてない。
小指の蔦模様を見る。僕たちは家族なのに。
またしても皆が呆然としていた。
「アイル君は…?」
「町に…エリアスと」
「あっ…」
シア兄様が口ごもる。忘れていたのだ、彼らの事を。
「森を作ろう、一から自分たちの手で」
ベル兄様が言う。
「そうだな、自分たちでやらなければ意味がない」
「そうよね、無意識に頼ろうとしてたのね…」
僕たちは頷き合うと持っていた種を植え始めた。もう、それしか無い。自分たちの森なのだから。
アイルは本格的に暮れはじめた空を見る。もう少しかかるかな?
「町が見えたぞ!」
サリーの声だ。なんとか暗くなる前に着けそうだ。
やがて門に着いた。貴族の紋章を掲げたこの馬車はフリーだ。サリーやラドは探索者だし、問題なく通れる。衛兵には探索者ギルドに連絡をして貰う。
馬車は町中を進んで行く。仕事から帰る人や買い物客が帰るところか、たくさんの人が行き交っていた。
馬車が止まる。外で何かやり取りをする声が聞こえた。
やがて
「探索者ギルドのマスターです」
「開けて…」
こういう時のロリィは貴族然としている。いや、まあ貴族なんだけど。
御者が扉が開くとそこには頭を下げた男性がいた。
「お初にお目にかかります。ハウゼント子爵。ここナルダの町で探索者ギルドのマスターをしておりますノーベルと申します」
「ロルフリート・エバルデル、だよ。今は母の爵位を継いで伯爵だね」
「そうでしたか、存じませんで失礼しました」
「つい最近のこと、知らなくて当然だから…」
「寛大なお言葉、ありがとうございます」
「話がある、中に…」
「承知しました。中へご案内します」
こうしてギルマスに着いて中に入る。やっぱり行き先は会議室。
奥にロリィと私そしてエリアスたち。ヨナはエリの膝でキリウスはエリの後ろに立っている。ハクは私の膝に飛び乗り、ナビィはロリィの膝の上だ。
もちろんブランは肩の上だよ?
「少し前、ここに来た人たちのこと…」
「8人、探索者が連れて来た者たちですな」
「ゼクスのギルマス、バージニアの口ききでひとまず町に入れて貰ったと聞く」
「はい、今はギルドの提携宿に監視付きで」
「助かった、よ。彼らの保証人に私がなるよ…」
「エバルデル伯爵様が、ですか?」
「そう。あ、彼がアイルだよ」
ロリィが私を紹介する。なんで私?
ギルマスが体を乗り出す。
「この町にも何か…?」
?何?
「発明品とか…」
「それがあれば、彼らは受け入れられる?もしくは…この先の空白地帯を占領したら、町と取引が出来る?」
少し考えて
「商業ギルドと相談になると思いますが、多分」
ロリィが私を見る。えっ?そしてふと思い付いた。
「この辺りも牛や羊を放牧しているけど、食肉にはしてない?」
「牛は牛乳用で、羊は毛を刈る」
「死んだ羊とかは?」
「不味くて食えん」
「工夫して食べられたら?」
「食えるなら助かるが…」
「それと刈った毛はどうしてるの?」
「冬用布団の綿に…」
「毛織物は?」
「イル、待って…」
ロリィがギルマスを見て
「少し相談…」
頷くと席を外す。
「外にいます」
と言い置いて。
私はエリを見る。彼が身に付けていた服は毛織物が使われていた。
「毛織物」
しっかりと頷くと
「女性の仕事…」
「糸を紡ぐことから出来る?」
「機械があれば…」
「多分、作れる」
「それを産業に?」
「それだけじゃ弱いから…染色しよう。糸にするか、製品まで仕上げるかはギルドが考える。でもエリの故郷の技術を継承出来る。それはとても大切な事。途絶えたらその伝統の技は失われてしまうから」
エリはハッとした。そしてその目は強く輝く。
「一つはそれ、かな。肉は?」
「羊、特に成羊の肉は硬くて臭みがある。それを香辛料に浸けて…臭みを消す。それと、寒い貴様は香辛料で体も温まる」
「イル、出来る?」
「多分、ね」
「他には?」
「アルミニウム、かな」
「前に話してくれた鉱物だね?」
「磁場の影響を受ける場所にたくさん」
「ならエリアスたちが」
そう、なぜかエリアスたちは磁場の影響を殆ど受けない。魔力の少ない人が多いって訳でもなく。エリは魔力がそれなりにあるけど、大丈夫だって。
種族の問題かな?
「イルが作ったものに囲まれてたから、とか?」
「それだとサリーたちもだけど、辛そうだったよ」
「大丈夫ならその場所に住めばいい…彼らが望むのなら」
「我らには行く場所も、戻る場所もない。受け入れてもらえるのなら…」
「まずはアルミニウムと羊肉。この2つで町と取り引き、身分証の発行を持ち掛けよう。毛織物はまだ先…」
頷いてギルマスを呼ぶ。
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