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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第4章 転移の真実

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199.持たざる者

 ハクたちが取ってきたあの木や草は結局、枯れてしまった。

 あの日、ロルフの伝言は


 ―イルは優しい子だ。彼は悪くなくても、自分を責めてしまう。もっと出来ることがあったのではないかと。

 強力なジョブがあるからこそ、聖獣がそばにいるからこそ、余計にその想いは強い。

 だからと言って、自分を責めたからといって、イルが何を言われても、何をされても傷付かない訳ではない。とても傷付いている筈だよ。

 こんな時に、ここを離れたくなるほどには、ね。

 自分がこの世界に相容れない存在だと、そう思ってる彼の孤独はとても深い、よ…僕たちが想像するよりも遥かに―


 その通りだ。アイはいつだって優しくて、誰かを責めたりはしない。代わりに傷付いて内に籠ってしまう。

 分かっていたのに僕はアイのそばにいなかった。


 しばらく帰って来ない、かも。


 ロルフの言う通りだ。アイ、ごめんね。


 朝早く目が覚めた。アイが帰って来てるかも!そう思って、でもやっぱり昨日も一昨日もアイはいなくて。

 それでも今日もアイがいるかも、と起きて外を見る。

 そして、その姿を見つけた。アイ…テントを飛び出して後ろから抱き付く。

「アイ…」

「イリィ、もう起きたの?まだ朝早いのに」

 そんなことを言って頭を撫でてくれる。

「どこに行って…ぐすっ…寂しかったよぉ…」


 泣き出した僕をアイが正面から抱きしめてくれる。

「ごめんな、ちょっと…」

 僕は首を振ってその細い体をギュッと抱きしめる。

「おはよう、アイ」

 顔を上げてキスをする。アイも優しくキスを返してくれて…。

「まだ朝早いならもう少し寝れるよね?」

「えっイリィ?」

 僕はアイの手を引いてテントに入る。そして、そのまま押し倒した。


 寂しかったんだよ、アイ。だから僕をたくさん愛して、僕の愛を受け止めて…アイ、アイ…。

 僕は夢中だアイと体を重ねる。僕をその体に刻み込んで…。


 隣でアイが目を瞑っている。少し痩せた?その頬に手を滑らせる。アイが目を開けて僕を見る。透明で真っ直ぐな目で。何かを言いかけて、口を噤む。

 しばらくして言った言葉は結局

「みんなは、大丈夫?」


 アイ、君が言いたい言葉は本当にそれなの?

 君は何を隠しているの?


 その後、久しぶりにアイと朝食を食べた。

 楽しく笑っていたら、ツリーハウスからお母様とシア兄様が僕たちを見ていた。


「イーリス、何をしてるの?ご飯はこっちで…()()()一緒に食べるのよ」

「こんな状態のお母様を放置して楽しそうだな」


 僕は青ざめた。なんでそんな酷いことを。アイの手が止まり表情が消える。


「イーリス、早く来なさい」


 でもお母様の様子が気になって

「アイ、ごめん」

 僕は立ち上がる。アイは首を振った。

 気にしないで、そう聞こえた。僕は悲しくて泣きそうになりながらハウスに登って行った。




 終わりは確実に近付いている。こんなにも早く。

 そうか、私は()()()()()()。それがもう一つの答え、かな。


 ロリィが私を呼ぶ。何だろう。

 屋敷の中、ロリィの部屋だ。ロリィは

「お風呂…」

 そうだったね。

「僕の前に、エリアスを」

 彼もだった。


 エリアスの部屋を訪ねる。

「お風呂はどうしてた?」

「水をかぶってた…」

 えっ?それは寒いだろう。すぐに浴槽に湯を貯め始める。

 エリの服を脱がしてその体を洗う。まだ肩の呪いは残っている。

 今なら解毒剤を渡しても大丈夫だろう。後で渡しておこう。私がそばに居るうちに。

 体を洗い終えて髪を洗う。全て終わったら浴槽に入れる。

「アイル…その、教えて欲しい」

「何?」

「キスとは気持ちのいいものか?」

 ?どういう意味?

「舌を噛まれたり、唇を噛み切られたりしないキスはどんなものかと。イーリスとしてるのを見て」


 私は何て答えればいいか分からなかった。これはもう言葉でない方法で伝えるしか…ないのか?

「キス、してみる?」

 エリは頷いて目を閉じる。

 私はその透明な頬に手を当てて唇をそっと触れ合わせる。最初は軽く、そしてその感触が分かるようにしっかりと。

 エリの手が私の後頭部に回され、エリの方からもキスをしてくる。

 何度か唇を合わせて、離れる。

 間近にエリの透明な目が見えた。そして花が綻ぶようにふわりと笑った。

「柔らかい…」


「もっと…」

 しばらくエリが求めるままにキスをした。少しでも、これからを生きていく人たちを救えるなら。まだ人生が続いていく人の為になるなら、私がここにいる意味があるのかもしれない、そう思った。


「アイル…体を重ねるのも…気持ちいいか?」

 そうだね、好きな人と繋がることはとても幸せだよ。

 エリにも、そんな相手が出来るといいね。

「そうだね、エリが求める人と結ばれることを願ってるよ」

「私は…」


 私が想うのは君だよ、アイル。私は押さえつけられて痛いだけのあの行為が、アイルとなら優しく愛おしい時間になるかもしれないと思った。

 でもその言葉は飲み込んでまたキスをする。アイルの唇は温かくて柔らかくていい匂いがした。



 エリをお湯から上がらせて体を拭く。髪の毛の水分を魔法で飛ばし乾かす。

 服を着せようとしたらエリが

「私の体は…醜くないか?」

 えっ?

「いつか、大切な人と体を重ねたいと思っても…私はこんなに醜い体で…拒絶されたら」

「エリ…君のことを本当に大切だと思う人なら、そんな事は気にしないよ」

「アイルも…?」

 頷く。

「顔とか体とかは関係ない。エリはエリだから。真っ直ぐで純粋で我慢強くて優しい人…」

「アイル…私を抱いてくれないか?」

 それは…残された時間は…。


「あ…その、私は…」

「分かってるよ…大丈夫。でも私は難しいかな」

「イーリスがいるから?」

「自分の痕跡を、残したくないんだ」

 憂いなく逝く為に。残された人が泣かない為に。

「私は、君を…君を心に残したい」

「キスだけでは足りない?」

 エリは頷き私を抱きしめる。

「自分から誰かに触れたいと思ったのは…初めてだから」

 私はその背中に手を回す。

「少し、考えさせて…」

「嫌、だ。アイルが消えてしまいそうで…」


 私を覚えていて欲しい、と同時に忘れて欲しいと思う。だからなるべく私の生きた事実は限られた人だけのものにしたい。

 それでも、求められる事は嬉しい。生きていていいんだと言われているみたいで。


「消えたりしない…」

 そう言ってキスをして、体を離し服を着せる。

「また夜に来るよ」

 エリは頷いて、私は客間を出た。


 次はロリィだな。そして

「イルも一緒に…」

 ロリィとの刺激的なお風呂も、離れると寂しく思うんだから不思議だよ。

 無事?にお風呂も入ってソファで寛ぐのがいつもの流れなんだけど…今日のロリィは様子が違う。


 そのままベットに連れていかれ抱きしめられる。

「今日は、僕のもの…」

 えっ…?

「甘えて…君の想いなら何でも受け止める…悲しんでるよね?とても…。どうしてイルは、自分の感情を溜め込むの?僕はいつだって受け止めたい。みんなも同じだよ…」

 ロリィはどこまで気が付いて?

「だから、君が…。無理矢理にでも甘えさせるから…」

 そう言って私にキスをする。ダメだよ、ロリィ。この想いは誰にも言えない。だから…。

「聞かないよ…でもね、悟るのは僕の自由だ」


 もう気が付いている?

「君を僕の中に…忘れられないくらい、僕の記憶に…」

 こんなに自分の感情を表に出すロリィは初めてだ。情熱的で激しくて…同じくらい優しい。

 私はその想いが嬉しくて、悲しくて。ロリィの求めるままに体を重ねた。

 ロリィの細い体に抱きしめられてその熱を感じる。

 私は確かに生きているんだね…今。

 そのままゆっくりと眠りに落ちていった。




 目を瞑るイルを見る。私の目から涙が溢れた。君はとても儚くて、なのに我慢強いね。もっと頼って欲しいのに。


「律…待って、て」


 君の言う律はリツではないよね?アイリを守るのはいつだってリツだ、と言った。律って誰…?

 君の国では何才が成人なの…アイリ。残された時間は、後どれくらい?


 白の森の生命樹、契約、そして転移した30人。枯れた生命樹とそしてイル、君の存在。

 僕は何かを見落としてるような気がする。ユーグ様は神の温情だと言った。それが本当なら…僕がイルの為の楔なら、僕にも出来ることがある。

 イル、君は一人で静かに旅立とうとしてるね。でも僕は、諦めないよ…こんなにも心惹かれる人を悲しませる世界なんて、いらない。

 僕がその鍵を…見つけてみせるから。だからそれまで待ってて。


 愛おしい人の頬を撫でキスをする。一人では逝かせないよ。




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