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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第4章 転移の真実

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202/429

197.町の近くで

第4章始まります

 そこはまだ若く小さな森。ごく小さな木々がその勢力を伸ばそうと日々、横に縦にと広がり森としての姿を整えていく。

 下草も勢いよく生えていき、やがて小さな生き物がその森を棲家としさらにて、森として成長していた。


 その小さな森はおよそ500メル(m)ほどか。その中程に屋敷があった。

 屋敷のそばには立派な木々にまたがり家がある。木の上にあるその家は大きくて、急勾配の階段で登れるようになっている。


 その階段を勢いよく降りて来たのは子どもだ。


「兄様!」


 向かった先には青年がいて、その子に応えて手を挙げる。

 階段を降りた勢いのまま抱き付くその子を、青年が危なげなく抱き止める。その表情は優しく、その子の頭をぎこちなく撫でた。


 青年はふと森を見る。まだ小さく頼りないが、その成長は著しい。その成長を支えているのは森の中心にある屋敷、ではなく、ツリーハウスでもない。

 地面に埋まっている鉱物。アルミニウムだ。


 軽くて加工し易いその鉱物は、この森に欠かせない資源となっている。

 まだまだ地中にはたくさん埋蔵されているらしく、生活の基盤を整えるのに必要な量は充分ありそうだ。



 あの日、しばらく世話になった場所を出て、ここから少し離れた場所で野営をした。

 野営とは過酷なものという認識を覆すほど快適なものだった。

 世話になった人たちはまるで抜け殻のように佇むばかり。何か彼らのために出来ないか…そう考えていた時、彼が言った。


 森を作ろう、と。

 何を言っているのか、そう思った。でも彼ならばあるいは。そう思える人だ。

 そして本当に作ってしまった。


「みんなの力だよ」


 なんて事なく言う。特別なことをしたという自覚はなく、ただ必要だと思ったからした。彼からはそんな気持ちが透けて見えた。

 そうだね、君はそういう人だったね。

 彼は沢山のものを残してくれた。遠くを見つめる。君はみんなの心にたくさんの大切な想いを残していったよ…。

 ねぇ、どこかで見てるかい?アイル…。

 物思いにふけっていると呼ぶ声が聞こえる。


「エリアス!」


 声の方を見ればそこには優しい笑顔でこちらを見る青年。


「ネーシア」


 青年は歩いてくると

「まだ無理はするな。解呪の影響はまだ残るらしい。焦るな」

 そう言って頬を撫でる。その手に自分の手を重ね

「大丈夫、もっと早く…ネーシアの家族を笑顔にしたいから」

 そう言うエリアスをネーシアは笑顔で見つめる。

「ゆっくりでいい…ゆっくりと時間をかけて、エリアスの心も…癒していこう」

 そう言って肩を叩く。

 こんなに優しい触れ合いを私は知らなかった。それを教えてくれたのもアイルだ。


 彼を想う。彼のくれたもので溢れているこの森で、彼の愛したイーリスの家族と共に。





 あの日、動けないネーシアたちを連れて少しだけ白の森から離れた。ギリギリ森が見える位置で野営する。

 ネーシアたちを私とイーリスとアイルで世話をする。

 動かない人形のようになってしまった彼らを手分けして。

 その中で立ち直りが早かったのがリベールで、次にネーシア。関わりが深かったファーブルとその妻はしばらく抜け殻だった。


 安心して休めるように、アイルが出したのは大きな2本の木。

 えっ?木…?階段が付いている。これは…見上げればあのツリーハウスだ。はっ…?何でここに?

 理解が追いつかずあっけに取られていると

「イリィ、お母様たちを中に」


 はい?

 ツリーハウスを見上げて呆けていると

「イルはいつもこんなだから…気にしたら負け」

 貴族然とした美形の青年が言う。

 何に負けるんだ?と思ったが、もう気にしないぞ。そう思ったけど、気にしたら負け、と言った本人が何処からか屋敷を出した。


 はい…?屋敷?何故ここに屋敷?いや、その前にどこから?

 もう頭が混乱して固まっていた。

「ほっほ…アイル様のすることに驚いていたら疲れるだけですぞ。あるがままに受け入れるのが良い」

 きちんとした身なりのいかにも執事然とした壮年の男性が言う。


 何で執事がいる?

 そらにその奥では何やら台が出て来て、白い帽子を被った男性が手際良く食材を刻み、料理をしている。

 野営で?しかもいかにも料理人だ。本職の料理人が帯同している野営?

 もう何がなんだか分からない。


「兄さん、気にするな!驚くだけ無駄だ。まだまだ序の口だからな」

 探索者風の男性が言う。人懐っこそうな優男といった風体の彼はテントを組み立てていた。いや、出したら出来上がっていた。

 はぁ?

 さらに箱型の建物が設置される。私が見ているのに気が付いたのか、振り返って

「お風呂とトイレだ」

「…」


 さっきの人が言った通りだ。考えてはいけない。あるがままを受け入れ…


 ドンっ


 もう一つ屋敷が出現した。

「アイル、これは?」

「ん?屋敷だよ」

「いや、そうではなくて…」

 あぁ、というふうに頷くと

「大丈夫、他からは見えないように隠蔽してあるから」

 なるほど…いや、そうじゃなくて。聞きたいのはそこじゃない。

 って隠蔽?この屋敷を…?

 ふらっ…

「エリアス様」

 キリウスが支えてくれる。


「考えちゃダメなヤツですよ」

 頷くしかなかった。


 そんな感じでテントが立ち、屋敷が2つにツリーハウス(大きな木ごと)が設置された。

 どこぞの町かな?

 森から離れた側には小屋が建っていた。いつの間に?馬房らしい。

 パルメとアエラ、ワッツにもう1頭で小屋一つ。

 軍人が連れてる馬と馬車を引いていた馬たちでさらに小屋一つ。

 ネールたちの家族の馬の小屋が一つ。


 白く凍った森からは冷気が漂って来る。それを防ぐために木が植えられた。ネールたちがその木を成長させ寒さを防ぐ。

 さらにテントは地盤を嵩上げし、風除けの塀まで建った。


 町かな?ここは。


 アイルは貴族然とした青年と話をしている。そして私の方に歩いて来た。

「エリ、彼はロリィ。この国の貴族だよ。イリィの家族たちのこともあるし、森のこともあるから。しばらくここを拠点にしようと思う。住む場所なんだけど…ロリィのお屋敷にしばらく滞在して欲しい。ロリィも構わないって言ってくれたから」


 私は跪く。慌ててアイルが私の体を起こし

「まだ体が…」

「そういうのは要らない、よ。イズワットの民、エリアス」

 私は首を垂れる。そう言ってくださるのか…。

「ありがとうございます。私はエリアストレーザ・イグニシア、今はただのエリアスです」

「私はロルフリート・エバルデル。バナパルトの伯爵だよ。よろしく」


 横でアイルが驚いた顔をしている。ロルフ様は軽く頷いて後でね、と言った。


「この辺りは白の森に近く、磁場の影響が強くて…森と合わせて空白地帯になっている。占領したらいいよ。ここなら、彼らも落ち着くだろう」

「しかし、彼らは森人…森と共に生きるもの。ここでは…」

「森を作ればいいんじゃない?」

「イル、そうだね…」

「作れる?」

「うん、種とか苗があれば…ね。ツリーハウスと一緒に下草も持って来れたから」

 それに…。


「森人がいるからね、すぐだよ!」

『近くの森から木を持って来たらいい?僕が飛んで取ってくる!』

『僕もちょっと行って、転移で持ってくるよ!』

「ブラン、ハクーやり過ぎはだめだよー!」


「くふぅっ…」

 ロルフさまが吹き出している。

「どの口が言う…」

 全力で同意した。

「ロリィ、どうした?」

 本人は真剣に聞いている。誰かが無自覚で天然だって言ってたけど、激しく納得だ。

 こちらの心にスルッと入り込んで来る。それが心地よいのだ。


『取って来たよー』

 元気に大きな犬と鷹が帰って来た。犬はアイルのそばまで来て盛大にしっぽを振っている。褒めて、という主張が聞こえてくるようだ。鳥は小さくなって(なんでやねん!)その肩に止まる。

「お帰り、早かったね。ちゃんと木も草も残して来た?」

『うん!どこに植えるの?』

「ツリーハウスの近くがいいかな?」

『分かったー』

 犬たちは応えるとその近くに木や草を出した。


「シア兄様」

 答えてネールがやって来る。

「これをあの辺りに植えて」

「出来るだろ?」

 ネールは少し冷たく言う。アイルはその言い方に怒るでもなく

「シア兄様がやらないと意味がない」

 そう言って、離れて行った。

 ネールは憮然としている。そこにイーリスが

「兄さん、分かってるだろ?」

「何が?」

「ここは兄さんたちの為の森だ。アイルが作ったら意味がない」

 ネールは悔しそうに唇を噛む。分かってるさと呟いて。


 アイルは少し離れた所にいるが、きっと会話は聞こえている。彼は悪くない。むしろ良くしてくれている。それが余計に彼らには辛いのだろう。

 私にはその気持ちが分かる気がする。でもアイルに当たるのは間違っている。


「ネール、木を植えよう」

「後でやる」

「ネール…私を見て」

 ここを離れようとしていたネールは立ち止まって私を見る。何も映さないその目は、どういった感情を抱いているのだろうか。

「アイルは良くしてくれている」

 手を強く握る。

「分かっている」

「なら」

「分かってるんだ!ただの八つ当たりだよ…自分では何も出来ないくせに」

「彼が傷付いていないと思うのか?」

 それでも私は言う。


「…アイルにはイーリスがいる。ロルフ様もハクやブラン、ナビィだって…俺には、もう」

「私がいる、よ…ネール」

 その震える体を抱きしめる。

「大丈夫…私がいる」





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