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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
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20.強制指名依頼

 私は馬車に揺られている。膝にハクを抱いて、まだ朝日が登ったばかりの早い時間に…向かう先は30キロル先の森。

 そして向かいの座席には…そっと溜め息をつく。


 朝早く起きてハクの匂いを嗅ぐ。今日は少し北に向かうからローブを来て行こう。初期装備にあったローブはアイアンリザードの革で色は濃いグレー。軽くてしっかりしている。グレードは上級。洞察力によるとかなりいい品物みたいだ。耐候性、耐魔法性、防汚、防水などが付与されている。

 服も初期装備。こちらも洞察力によると良品。昨日買った服と違い、こちらも防水と防汚がついている。お店でチラッと見たけど、付与付きの服は最低でも大銀貨1枚だった。約1万円か…お高い。初期装備は大切に使わなきゃ。


 準備が出来たので部屋を出て階段を降りる。主人は厨房にすでにいて、私に気がつくとすぐに出てきて昨日頼んだ通りのパンを渡してくれる。お礼を言って受け取り、出発。主人が見送ってくれる。何だかんだとあの人も優しいな。なんて思いながらハクと西門に向かって歩いて行く。

 まだ早い時間だけど町はもう動き出していた。まだ行ったことがないけど市場があるから、昼の賑わいとは違って活気がある。その通りを進み工房街を過ぎると西門が見えた。


 うん、良かった。少し早く着いた。門はすでに開いているので、邪魔にならない場所で人の流れを見ながら待つ。すると馬車が目の前に止まる。御者が降りてくる前に扉が開き、ロルフ様が降りてくる。

 相変わらず青白くて眠そうだ。私を上から下まで見て頷く。そのまま無言で馬車に向かい振り返る。

「乗って…」

 …こちらも無言で馬車に乗り向かいの席に座る。そして

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」と言った。ロルフ様は軽く頷き、2時間30分ほどかかるから好きにしていていい。そう言って目を瞑った。


 こちらの馬車は色々硬い。座面は柔らかいけど車輪は木だし、衝撃吸収とかの仕組みはない。車のサスペンションとかショックアブソーバー、いわゆるダンパーみたいな機構ね。だから地面のオウトツがそのまま体に伝わる。そう、お尻と腰がヤバいのだ。前回、馬車に乗って分かった。辛い。だから昨日、帰ってからささっとクッションを作った。

 材料は昨日の服屋で貰ったハギレ。安く譲ってもらえないか聞くと、捨てるだけだから好きなだけ持って行っていいと言われた。それならと腕に抱えるくらいの量を貰っていった。

 宿に戻ってから見ると生地は綿や麻、その他の植物で出来ていた。そのまま使えそうだったので混紡にして一枚の布にする。ほんと生産者のジョブ様様だ。中身を詰めるのではなく空気で膨らむタイプにする。そうすれば持ち運びも楽だからね。


 空気を入れる吸入口は木で作った。蓋は木の水分を抜いて、その分空気が入るからコルク状になった木をはめ込む。しっかり押し込んでおけば簡単には外れない。持ち手を残しておけば外すときには引っ張ればいい。

 空気は指から風魔法で注入。ただ、布だけだと空気が抜けてしまうから内側に密閉の加工をする。さらに破裂したりしないようにクッションを縦横4分割になるようにする。これで空気が抜けにくく偏りにくくなって安定するはず。そうやって作ったお手製のクッション。いつ使うの?今でしょ!

 ノリノリで肩掛けカバンからクッションを出す。蓋を外して空気を注入。よし、膨らんだ。破裂防止と安定感を出すために7分目くらいまで空気を入れて蓋をする。横でハクはしっぽを緩く振りながら眺めている。そっと頭を撫でるとコロンと横になった。可愛い。

 では早速使いますか。いそいそとお尻の下にクッションを引く。おぉ~良きかな。体重で程よく潰れて空気が分散する。これでたいぶ楽になる。ウキウキしながらハクを撫でていると


「それは何だ?」

 え…?前の座席を見ると眠っていると思っていたロルフ様の目が開いている。さっきよりしっかりと開いている。そして目線はクッションに…

「いつから…」

「カバンから出したところ」

 最初からやん。いそいそウキウキを見られていたと思うと恥ずかしい。

 赤面しているともう一度

「それは何だ?」と聞かれる。

「お尻と腰の救世主です」

 真顔で答えてやった。ロルフ様は眉間にしわを寄せ、手を差し出した。

 その手は何でしょうね…?そっと目を逸らすと逸らした先にまた手が差し出される。

 溜息をついてお尻の下から救世主を取り出しロルフ様に渡す。

 ロルフ様はそれをじっくりと見る。裏返したり蓋の部分を触ったり外したりまたはめたり。そうしてからおもむろに自分の尻の下に敷く。そして

「ほぉ」と呟いた。

 しばらくそうしていてから

「いいな、これ」 

 あぁ、私のクッション。仕方ない。もう1つ作ろう。実はそんなこともあろうかと材料は持ってきている。布と吸収口、そして蓋を取り出し組み合わせる。そして出来たクッションに空気を入れて蓋をする。

「そちらは少し空気が抜けているのでこちらを」と言ってロルフ様に出来立てを渡す。代わりに戻ってきたマイクッションに空気を少し足してお尻の下に敷く。


 これで良し。そして何事もなかったかのように馬車の窓から外を見る。

「ふふふっ」

 突然笑い声が聞こえた。

 前を見るとロルフ様が笑っていた。何で笑っているのか分からず首を傾げていると

「君、面白いね」

 面白いことをした自覚は皆無なんだけど…

「アイルです」

「くふふっアイル君ね、覚えたよ」

 何が可笑しいのか分からないけどロルフ様はしばらく笑っていた。面倒なので見なかったことにする。

 それからはごく順調に進み、お尻も痛くならずに馬車は目的地近くに到着した。




「明日の朝6時に食堂で」

 そういうとロルフ様は部屋に入っていった。

 なんでこうなった…パート2。



 無事に採取地近くに馬車が到着した。そこから森に入っていく。ラベンダーとローズマリーは森の中の開けた場所にある。ジャスミンとバラは森の日当たりのいい場所にある。同じ森の中で見つかるそうなので採取範囲はそこまで広くない。

 ロルフ様はこの森に詳しいそうなので後ろから付いていく。30分ほど歩いて開けたところに出る。そこは一面のラベンダー畑だった。独特の芳香が漂ってくる。懐かしい、大好きな匂いだ。隣のハクを見る。嗅覚が鋭いハクは苦手かな?と思ったけどスンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。うん、大丈夫そうだ。

 ロルフ様が袋を渡していたので、少し離れて早速採取開始。

 ラベンダーは花が開きすぎていない濃い紫のものだけを選んで採っていく。群生していたのですぐに袋いっぱいになった。よし、次は自分の分だ。こちらは腰の空間収納ポーチに時間が許す限り入れてゆく。今日はラベンダーオイルを枕に垂らして寝よう。ルンルン気分でどんどん採取を進めた。

 自分のポーチにロルフ様の採取分の3倍ほど詰め込んだ時に声がかかったので、終わったことを伝える。

 そのままロルフ様の元に行って採取した袋を渡す。チラッと見て頷くと自分の腰に着けたポーチにしまう。あ、空間拡張ポーチだ。じっと見ていると

「200倍入る」

 そう言って歩き出す。慌てて追いかける。そこから10分ほど入ったところでジャスミンを発見。ロルフ様も気が付いてまた袋を渡される。


 ジャスミンは小さな白い花でその花ごと摘む。香りは摘んだ直後が一番香るから、ロルフ様の分が終わったらまた自分の分を時間停止のポーチに入れよう。

 またロルフ様から離れて採取を始める。開ききっていない花をどんどん摘んでいく。あぁいい香り。ハクを見るとこちらの香りも大丈夫みたいで飛び回ってはしゃいでいる。可愛い。花弁が潰れないように気を付けて袋にいれ、ぎゅうぎゅうにならにように袋いっぱい詰める。

 さて、次は自分の分。サクサクと摘んでいく。ロルフ様の分みたいに袋の中で潰れないように気遣う必要がないから早い。しかもロルフ様からは見えない位置で摘んでいるのでポーチの存在もバレないはず。そうしてけっこう摘めた頃にまたロルフ様から声がかかる。そしてまた袋を渡して頷かれる。

 よし、大丈夫そう。ここで少し早いけどご飯を食べようと言われてラベンダー畑まで戻って草地に座る。宿の主人に作ってもらった朝食を取り出そうとするとロルフ様がポーチからスープとパンを出してこちらに差し出す。

 え?驚いているとさらにこちらに差し出してくるので、思わず受け取ってしまった。ロルフ様を見ると頷いている。貰っていいらしい。

 お礼をいって食べ始める。スープはまだ暖かい。時間停止か…思わず暖かいと呟くと時間停止だとボソッと言う。せっかくだしちょっと聞いてみるか。


「あの、時間停止のポーチって高いんですか?欲しいと思うんですけどいくらぐらいするのか分からなくって」と聞くと

「知らない…家にあったから」

 あ、はい。お貴族様でしたね。聞いた相手が悪かった。しょんぼりしていると欲しいならやるが?と言ってきた。いやいやいや、貰えないでしょ。ただより高いものはないっていうし。

 なので首を振って大丈夫ですと答えた。

 ロルフ様はなんで?というように首を傾げる。それを見なかったことにしてスープとパンを食べる。ロルフ様もそれ以上はしゃべらず無言のまま食べていた。

 食べ終わるとそのまま少し休憩をしてローズマリーとバラを探す。ここまでとても順調だったから今日は早く帰れそうだ。


 そう思ったのがフラグだった。


 ラベンダー畑から奥に進み30分ほど歩いたところで何かの気配を感じた。ハクを見るとしっぽがピンと立っている。

『ブラックベアだな』

『…どの辺り?』

『500メルくらい先。気が付かれた!来るぞ』

 ハクを見ると

『僕は戦えないよ。犬だから』

 そうだった。ハクが銀狼だとバレるわけにはいかない。でも私の能力も隠したい。ロルフ様が討伐してくれたらいいけど…青白いその顔を見る限り無理そう。いや、自分だって見た目は弱弱だけどさ。

 どうしたもんか…考えている内にドタドタと足音が聞こえてきた。早い!

「ロルフ様。あの木の後ろに隠れてください。なるべく気配を消して…早く」

 そう言うとロルフ様を追い越して別の方向へ走り出した。

 

※読んでくださる皆さんにお願い※


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