2.買い物
取り敢えず金属製のコップを買うことにする。
人がいるカウンターに持って行くとガタイのいいおじさんがいた。
「これ」と言ってみる。
言葉通じるのかな?ドキドキしていると
「銅貨5枚」と言われたので大銀貨を1枚出す。
すると予想通り銀貨9枚と銅貨5枚のお釣りが貰えた。
ホッとした。言葉についてはさっきの通りで人が話す言葉が分かったから聞けるのは知っていた。ただ、自分の言葉が通じるかは分からなかったから、通じることが分かって安心した。
店を出る。さて、次はどうしよう。
色々と教えてくれる人を探す?でもそんな簡単には見つからないよな。その時目の端に子供が映った。
小汚いなりの男の子2人だ。あ、これはいけるかも?と思い声をかける。
「この辺のこと詳しいか?」
警戒しながらも1人が頷く。
「田舎から出てきて色々分からなくて困ってるんだ。
串焼きをご馳走するから街のこと教えてくれないか?」
「そんなこと言って俺らを捕まえて売るんだろ!」
とこちらを睨みながら言う。
「え?そんなことしないよ!ここで話すればいいだろ?」
と言うと子供達からくぅ〜きゅる〜と音がする。
こちらを睨んでいた男の子はお腹を押さえてそっぽを向く。
「お腹が空いてるんだろ?」
「…」
返事を待たずに串焼きの屋台で5本買い、それを持って彼らに頷き端の椅子に座る。
1本を取って残りを男の子達に渡すと警戒しながらも串焼きを食べ始めた。するとあっという間に完食した。余程お腹が空いていたらしい。
「話聞いてもいいか?」
と聞くと今度は素直に
「何を知りたい?」
と言ってくれたから街のことや仕事について聞いた。
まず町の名前はゼクス。この辺りでは一番大きくて中規模の町だそうだ。
仕事は外から来て働くなら探索者になるのが一番簡単だということだ。
何の伝手もないとお店で働くのは難しいらしい。
探索者は誰でもなれる職業で銀貨5枚の登録料さえ払えば身分証明書代わりの探索者証が発行されるお手軽な職業だとか。
異世界あるあるの冒険者ではないようだ。でも都合がいい。
お礼を言って別れようと思ったがこの先も知りたいことがあるかも知れない。それならまた会えるようにした方が良さそうだ。
「ありがとう。また聞きたいことがあったら教えて欲しいんだが、どこに住んでる?」
と聞くと
「…貧民街の廃屋で暮らしてる」
俯きながら答える。
「貧民街がどこか分からないから教えてくれるか?」
「…いいのか?」
「あぁ、知らないことばかりだからな」
そうして男の子達と一緒に歩いて行く。
街中から遠ざかるように進んで途中で脇道へ入る。
その辺りから明らかに寂れてきて家も古くてボロくなってきた。人通りも少なく道に蹲るようにして動かない人もいる。
そうしてもう掘立て小屋より見窄らしい扉も窓もない建物に着いた。
「ここ」
そう言って扉のない入り口から入ると中には辛うじて人が住んでる痕跡があった。
聞けば貧民街からさっきいた街中に毎日食べ物や仕事を探して出ているらしい。
仕事がなければあの辺りにいるというので、また機会があれば声を掛けることにした。
それにしても屋根こそあるがこれではあまりにも暮らしにくい。しかも廃屋とはいえ勝手に使っていいのかと思っていると
「貧民街は占拠した人の物になるから今は俺たちのものだ」
と言われた。なるほど。
見た目は廃屋のままで少しでも暮らしやすく出来ないかな?と考える。自分のジョブを試したいこともあり
「ちょっと手を加えても?」と聞くと訝しそうにしながらも頷いてくれたので試すことにした。
部屋の扉を付けて後は台所とトイレかな。水はどうするか。
屈んで土の中を洞察力で視る。水脈がある。これを引っ張れれば水は確保出来そうだ。
体を起こし、ますばそれなりに広い部屋の入り口2箇所に扉を付けることにする。床には木材やら金属が転がっているからそれを材料にして作ろう。
入り口付近の壁に手を当て、木で扉を金属で蝶番と取手を想像して作る。
すると入り口に真新しい木の扉が出来た。
疲労感や脱力感はない。もう片方の扉も同じように作り、部屋の隅に移動して今度は蛇口と洗面器を想像する。蛇口は金属で、洗面器は割れた陶器で。また心の中で作ることを考えると洗面器と蛇口が出来た。
次に反対側の隅に移動して便器を想像する。割れたたくさんの陶器が散らばっているので洋式の便器と下水管と流しは金属で作る。
お馴染みの便器が登場。流石に広い空間に便器が見えるのは無いな。だから崩れた壁を見て便器の周りを囲む壁を想像し作る。
壁が床から立ち上がり天井まで届いた。入り口は先ほど同様に扉を付ける。
次は水だ。床に手を当て地下の水脈からポンプで水を吸い上げるようにする。配管は地中の土だ。吸い上げはサイフォン効果でいいだろう。想像する。接続先はトイレのタンクと蛇口。よし、繋がった。試しに蛇口を撚れば水が出た。はじめは濁っていたがやがて透明になる。
そこでスキル洞察力を使う。
(真水、美味しい)
と見えた。そう、この洞察力。実はただの鑑定より優秀なのだ。真理を見極めると説明にあったのだ。材料や質だけでなく、事象全てを見極められるのだ。
物や人だけではない。これがポイント。スキルを信じて水を飲むと本当に美味しかった。
それらを目を見開いて見ていた男の子達が我に返り
「はぁ?何が起きてるんだ?」
と呟いた。
「ん?暮らしやすくしようと思って。お水おいしいぞ?」
と言うと
「はぁ??少し前に知り合ったばかりで?俺らの為にか?バカか…」
えーなんで怒られるのかな?憮然としているともう一人がお水を飲んだ。
「美味しい!」
驚きに目を丸くして叫ぶ。慌てて怒ってた方もお水を飲む。
「うまい…」
そう言うと兄ちゃんと呼びかけてから深々と頭を下げた。驚いていると
「さっきはバカとか言ってごめん。これは俺たちの為にしてくれたんだよな?」
「当たり前だろ?」
「ありがとう」
そう言うと泣き出してしまった。
オロオロしながらもその子の背中をそっとさする。見た目以上に細くて小さな背中だった。
しばらくして落ち着くとこれはポツリポツリと話を始めた。
彼らはこの街よりだいぶ遠い村から何家族かで出てきたそうだ。農業をしながら細々と暮らしていたが、干ばつで食べられなくなり、村を出て町を目指したそうだ。その途中に何度か魔獣の襲撃を受け、村を出た時は5世帯20人だったが町が見える頃には2世帯8人まで減ったそうだ。
ようやく町に着くと思った矢先、魔獣が襲ってきた。そこで2人の親も殺されて残ったのは子供だけ5人。町では魔獣の被害者達に広場を開放してテントや毛布を支給してくれた。
食事もスープだけだが配給されたそうだが、運悪く病気がその広場で流行った。
子供達は疲れや不安で弱っていたので全員が罹患。結局3人亡くなり、彼ら2人が残った。広場も閉鎖され、行く宛のない彼らは必然的に貧民街へたどり着いた。小さな子供が出来る仕事は少ない。探索者は10才からしかなれない。
怒ってた子が7才でもう1人が5才。こんに小さいのに…親を亡くして二人で寄り添って生きていたのか。
なんとか簡単なお使いでわずかな食料を貰って暮らしていたが、干ばつの影響は町にもあって誰も貧民街の子供に構う余裕は無かった。
そうしてもう何日もご飯も食べられずいたところに自分が声をかけたらしい。
しかも家に水がでる。部屋がある。トイレがある。そら泣くわな。
話が終わって落ち着いた所で、宿を探すためにここを離れることにした。
子供達はレオナルドとルドルフと名乗った。またこれから何度も会うだろう。そう思って別れを告げると、いい宿を知ってるから案内すると言われた。お使いで色々行ってそこの宿の主人は無口だけどいい人だからと教えてくれた。
この子達を見下さない人なら確かに安心だなと思い、案内を頼んだ。
その前に自己紹介をする。名前がアイル。遠くから出て来てこの町やその他色々と知らないことがあると。それからさっきのことは秘密だということも。
彼らはもちろんだよと言ってくれた。