194.呪い
目が覚めると淡い金髪。いつもよりしっかしと抱きしめられている?
私には番が分からない。どんな存在であるのか。イリィが私を求めるのは番だから?私が消えたら、イリィはどうなるのだろう。
漠然とそんなことを考えた。
この国で始まった私の生は、始まりと同時に終わりへ向かっている。他の人よりも確実に早く。
イリィ、残していきたくはないけど…その髪にキスをする。いつかまた天界で会えたらいいね。
その時は私の家族を紹介するよ。
黒髪の私を見て、イリィはなんて言うかな?変わらずに抱きしめてくれる?
ふんわりとした思考の中で、まだ見ぬ未来を思い描く。うん、悪くないね。会えない時間は寂しいけど。
イリィが身じろぐ。
「おはようイリィ。よく眠れた?」
「おはようアイ。ぐっすり」
良かった。おでこにキスをする。ベットから起きて朝食の準備だ。
マルクスからも食材を貰ったけど、イリィが買ってくれた食材がね?
ふふふっ楽しみにしてて。
下準備は終わってるからね。
鍋に材料を入れて煮込む。いい匂いだ。トマティベースだからな。
イリィが後ろから覗き込む。
「それは?」
「イリィが買ってくれた食材だよ」
「へー楽しみ」
出来上がる頃には匂いに釣られてロリィもハク、ブラン、ナビィたちも集まって来た。
「私の故郷の食材だよ」
そう、日本人の心…お米だ。イリィはもみ殻の付いたお米をそれと知らずに私のために11袋も買ってくれていた。
私が何を喜んだって?もちろんイリィの気持ちだよ。でもやっぱりお米が嬉しくてね…。
それがお米だって気が付いたときは密かに泣いたよ?だってもう恋しくて仕方なかった食材だからね。
あとは醤油とみそかな。大豆さえ手に入れば後はジョブでごり押しだ。
待っててよ、和食。これだけはイリィに残して生きたい。
私の子供たちには私の故郷の味を。
間に合うといいんだけどな…。
出来上がったのはリゾットでトマト味。
実はお米と一緒に海苔が入ってたんだ?奇跡だよね。
朝に食べる白がゆが大好きでさ…海苔を載せてね、ちょっとだけお醤油を垂らして。
せめて魚醤があればベトナム風のおかゆになるのに。
探す?作る?
若木の件が解決したら考えよう。
まだもう少しだけは時間があるからね。
それぞれのお皿によそって置く。皆の目がキラキラしてるよ?
ナビィなんてすっごいご機嫌でしっぽが凄い高速ふりふり。
イリィとロリィの髪がたなびくくらいのね。
「気に入って貰えると嬉しい」
そう言って皆を見ると一斉に食べ始める。初めての食材でも全く躊躇なく食べてくれる。それは信頼の証だから、嬉しいよ。
「美味しい」
「不思議な食感…」
『『『ガッガッ…美味しいー』』』
良かった。私も一口食べる。お米だ…お米だよ。
目から涙が溢れる。死ぬ前にもう一度食べられて良かった。私は気持ちが昂ってすぐには食べられなかった。
ナビィが鼻を寄せてくれる。私の口元をペロペロ舐めると
『ご飯だね』
頷いてナビィを抱きしめてまた泣いた。
ようやく涙が収まった頃には少し冷めてたけど、私は猫舌だからちょうどいい。とても、とても美味しかった。
「アイ、大丈夫?」
「うんイリィ、ありがとう」
抱きつく。ギュッと抱きしめてくれるその体にしがみ付くようにして甘える。
うん、なでなで嬉しいよ。イリィの匂いをたくさん補充して離れる。
今日は昨日のシア兄様の話にあった、森で拾った人に会う。それぞれ別々に会うみたいだ。
私が地下に行けないからここに来て貰う。
ソファでまったりしているとブランが
『シアだ!』
早いな。
扉を開けると下にはシア兄様に支えられて馬から降りる人がいた。ここまで上がれるかな?
私は階段を降りて
「シア兄様おはよう」
「アイルおはよう」
(君付けは恥ずかしいので呼び捨てで、とお願いしていた)
「階段登れる?」
「支えればなんとか」
「私が抱えても?」
シア兄様がその人を見る。ぽかんと口を開けてツリーハウスを見ていた。
「えっ?」
「急な階段を登らないといけない。彼が抱えるが、いいか?」
驚いた顔のまま頷く。
私はその体をそっと抱き上げて階段を登る。風魔法で軽くしてるから楽だよ。上に着いて降ろす。
その人は玄関前のポーチから周りを見渡す。
「凄い…」
少し低くて掠れた声は耳に心地良かった。
「凄いだろ?入ろう」
シア兄様が支えて中に入る。
「…ふぅ」
息を吐いている。やっぱりキツいんだろうな。
「ここは呼吸が楽?」
頷く。
シア兄様が
「息苦しかったのか?」
また頷く。
「気が付かなくて…」
首を振る。
「散々世話になって…文句など」
私はその人をジッと見る。
(呪いが肩から首元まで進んでいる 強い呪い アイルのスープで少し緩和されてる)
やっぱりか…食事だけで改善する?
(強力な呪い 解毒剤では命に関わる)
強すぎる呪いはそれだけ薬も作用するって事かな。リアもスーザンも悶絶してたもんな…弱ってたら危ないか。
「少し体に触っても?」
その人に聞く。頷いたのでその肩に触れる。咄嗟に手を引いた。何…この呪いは生きてる。蠢くそれを感じた。解毒剤がダメならどうしたら…。
「肩周りを見せて貰えるか?」
それにも頷いてシャツのボタンを外し…って遅いな。立ち上がって手伝う。一瞬だけ体が強張ったけどそれ以降は大人しく脱がされている。
やはり肩から首にかけて紫のアザがある。
(おかゆなら大丈夫 白がゆに海苔を散らせばいい)
解呪まで可能?
(元凶まで辿り着ける 後は食事で改善可)
私はシャツを戻して真ん中のボタンだけ嵌める。
「少し待ってて」
そう言い置いておかゆを作る。シア兄様が部屋を案内している。
簡単におかゆを作り、塩と薬草で味を整え海苔は横に添える。
机にお皿を乗せると
「これを食べて…」
その人は不思議な顔をしつつも椅子に座り、ゆっくりと食べ始める。
「横にあるのは海藻で、千切って乗せて」
言われた通りに海苔を散らす。そして一口食べて目を開く。
「…なんて美味しい」
私の目には彼の肩から首元までが強く水色に光り、体全体が淡く光るのが見えた。
全身に広がっているか…。
食べ終えたその人はほっと息を吐くと
「えっ…」
自分の体を見て驚く。真ん中のボタンを外、そうとしてまごついたいたので手伝う。
首元のアザは消えて肩に一部だけアザが残った。ここが元凶か。
酷いことを…反射してやる。
紫のアザに手を当てる。ヒンヤリと冷たい、そして驚くほど白くて透明な肌だ。
(呪いは返すよ、人を呪わば穴二つってね? 思い知れ、この人の苦しみを…)
手を離して服を着せる。その人の手が私の頬に触れる。
「なぜ?泣いてる…」
分からない、ただ…悔しくて。この人からはとても透明で純粋な感情が伝わってくる。そして同じくらい辛い気持も。
「たくさん、我慢したんだね…」
その人は驚いた顔をする。
「私の、為…」
違う、ただ愚直に真面目に生きている人が報われないことに苛立っているだけだ。
仕方ないと分かっているのに…。どうしようもなく救いたいと思ってしまう。
烏滸がましいと思う。でも、生きられる命なら救いたい。だから…。
「もう大丈夫…大切な人も、きっと」
その人を見つめる。その目から静かに涙が溢れ、そして笑った。
「ありがとう…私はエリアストレーザ・イグニシア」
「アイル、ただのアイルだよ」
「アイル…その名は、私の胸に一生刻もう」
そう言って私をふわり抱きしめた。
私を腕から離すと
「君が…ネールが言っていた人だね?」
ネールって…あぁなるほど。
「多分?」
「色々と、トイレとかシャワーとか…」
確かに色々作って渡したかも。ノリノリで作ってると後で何を作ったか覚えてないんだよね。
楽し過ぎてさ。
その後、ソファに誘ってせっかくだし甘味をご馳走しようと思ったら
「…体が動く」
まぁ原因まではたどり着いたからね。元凶も反射で返したし。時間に完全解呪出来る筈。
足踏みして肩を動かして固まった。そして私を見るとがばりと抱き着いてきた。
はい?ギュッ…痛い痛い。
肩をタップする。
「申し訳ない。つい嬉しくて…」
そう言って輝くような笑顔で笑った。
うん、眩しいな。年上美青年の微笑。
その白い髪と白い肌、虹彩が透けるほど淡い水色の目。
端正な顔立ちの中世的な美青年だ。
黙っていたら氷の彫刻みたいな美形なんだけど、笑うと雪解けのような華やかさがある。
雪上の華かな?
うん、言いこといったよ私。
紅茶を入れてくクルミ入りのパウンドケーキを出す。
皆がガン見してるね。分かってるよ、みんなのもあるからね。
うん、だからちょっと待って。はいはい、用意したよ?
「甘味、しつこくないから食べやすいと思う」
エリアスさんは恐々とフォークにさして口に運ぶ。
「…!」
一瞬で溶けた。
やっぱり甘味は飲み物説が有力かな?
「アイルは凄いな…」
(アイル殿って言われて呼び捨てにしてってお願いした)
「エリは甘いもの大丈夫?」
(エリアスさんと呼んだらエリと呼んで欲しいと言われた)
「考えたことない」
そうか。
「でもアイルの作るものは何でも好きだ」
良かった。
こうしてエリとの初顔合わせは終わった。
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