193.イリィの家族と
ツリーハウスで目覚めた日、私は若木を見に行った。
その頼りない葉に触れる。やっぱりそうなのか…。優しく撫でる。
大丈夫だよ。
私は銀色の苔に手を当てる。
静かに魔力を浸透させて…大丈夫、待ってて。
ゆるりと若葉が揺れる。頑張って…私も頑張るよ。
ハウスに戻るとロリィが入り口近くで待っていた。
「おはよう、ロリィ」
「おはよう、イル…」
「ブランはどうだった?」
「うん、凄かった…」
だろうなぁ、あの魔力の交わりはある意味、体の繋がりよりも心地良い。衝撃だよね?
頬が染まっているから思い出してるんだな。
朝食を食べるとブランが
「ちょっとシア兄様の所に行ってくる!」
と飛んで行った。
ブランはシア兄様が大好きだな。それでもこっちで過ごしたのはやっぱり濃厚な森の…空気が辛かったんだろう。
それを言うとイリィが傷つきそうだけど。
ブランは戻ってきて
「イーリスがご主人に会いたいって、案内していい?」
「私が迎えに行ってくる!」
ナビィが言ってくれたからブランとナビィが迎えに出て行った。
「ロリィ、あの魔力の件だけど。イリィに言ってもいいかな?」
「言った方がいい…」
あれが森の異変と関係があるのなら、やっぱり言うべきだよね。
少ししたらナビィがイリィとシア兄様を背中に乗せて帰って来た。
2人はツリーハウスを見て口をぽかんと開けている。
私を見つけたイリィは泣きそうな顔で階段を一気に登って来た。そして私に抱き付く。
「アイ…ごめん。地下の…アイは、ぐすぅ」
私はイリィを抱きしめる。
「私こそごめん。お母さんのことも、拠点のことも。せっかく準備してくれたのに」
イリィは首を振る。
「僕が気が付かなければいけなかったのに」
「それは違うよ。イリィはこの森を突然出ることになった。もうすぐ18になる頃だ。いろんな想いがあっていっぱいだった筈だよ。私こそ気が付かずにごめんね」
「アイ…だからそういう所だよ」
好きが止まらない…小さな声でそう呟くと正面から私を見る。うん、やっぱり泣き顔もきれいだ。
「きれいだよ、イリィ」
「だから…アイ」
抱き付いてまた泣いてしまった。何で?
シア兄様も階段を登ってきて
「アイル君、その…申し訳ない。知ってたのに…」
私は首を振る。
「久しぶりの故郷だし事情があって地下に、なんでしょ?だから気にしないで」
「アイル…君って子は本当に。どれだけ僕を惹きつけるの?」
「兄様…ダメ。僕のアイだから」
鼻をぐずぐずさせながら言うイリィ、ぶれないね?
その後、ハウスに案内したら2人とも目をキラキラさせていた。
そして少し真面目な話をしていい?と聞いてから話をし始める。
この森の空気にハクやブラン、ナビィとロリィ、私まで気持ちがざわつくこと、ユウリ様の若木を見つけたこと、根付いていないことを話した。
若木はすでに命を抱えている。それは生まれる前の種のような物。まだ実になっていない。
早く根付かせないと種が消えてしまう。
急がなければ、この森の空気もおかしい。何かが起きようとしている。
少しでも早く若木を。そう言った。
「僕たちでは気が付かない変化だ。ここの森人は慣れ過ぎている」
「用心した方がいいと思う。今日あたり他の人も合流するし」
「そうだな、森に近づけば分かるから、迎えに行こう」
そんな話をしてイリィとも仲直り?出来てそのまま若木を見に行った。
朝と同じく根付かない若木。また地中に魔力を送る。
今度はイリィもロリィもシア兄様も一緒に。
早く根付きますように…実になりますように、どうか。
その後、シア兄様がイリィの家族をここに連れて来ていいか聞く。もちろん頷いた。きっとあの空気について話をするのだろう。
ナビィとブランが迎えに行ってくれたから、私はイリィとロリィと居間で話をした。
ブランと魔力を交わらせたこととか、ツリーハウスのこととか。
今、ミアはなぜかシア兄様のお膝に乗っている。
気に入ったのかな?ころんころんしてて可愛いぞ?
やがて
『着いたー』
ナビィの声が聞こえた。
扉の外に出ると下からファル兄様、ベル兄様、キャロライン様が上を見てぽかんとしている。
うん、少し前にも見たね、この光景…。
手を振るとベル兄様がいち早く復活して手を振り返してくれる。
「おはようございます。上がって来て」
ベル兄様は手を挙げると階段を登って来た。早いね?
そして
「アイルん、おはよう」
抱きついて来た。あれかな、ガチかな?細いのに力が強いね。
イリィが引き離してくれて助かったよ。
ベル兄様の後からファル兄様とキャロライン様も上がって来た。
家に案内する。ベル兄様の目はキラッキラだ。居間をみて、奥の部屋に突入。待って待って、そっちは寝室…。
追いかけて部屋に入るとベットにうつ伏せて匂いを嗅いでいた。
えっ恥ずかしいよ。
「ベル兄様、恥ずかしいから…」
「ベル兄、僕のアイなんだからね…僕より先に匂い嗅ぐのはダメだよ!」
そっちなの?嗅ぐのはいいの?いやいや、良くないから。だから並んでクンクンとかやめて?
布団触って撫でない、頬ずりしない…もう。
なんとかベットから起こしたよ。
ファル兄様たちは寝室の入り口で笑ってた。もう恥ずかしい。
「相変わらず凄いな」
「アイルんだからね」
ベル兄様なぜドヤ顔?
一通り案内を終えて居間に座る。急遽、ソファを増やしたよ。
「アイル君、昨日は済まなかったね…私が気がつくべきだった」
「いいえ…久しぶりの故郷で色々な気持ちもあったでしょうから」
「本当に君は…ありがとう、イーリスをここに帰してくれて」
「私の力じゃ。イリィが自分で掴み取った。必死に足掻いて悩んで…イリィ自身の力です」
「アイル君、あなたはそういう子なのね…昨日は突然ごめんなさい。シアからもファルからもたくさん話を聞いてて、よく知ってる気持ちでいたから。つい」
「いえ、嫌とかではなく…すみません」
「謝らないで…嫌われてなければいいの」
嫌いとかではない。ただ、見透かされそうで。
ロリィが
「少し話をしても…」
ファル兄様たちが頷く。
ロリィは私たちやハクたちが森の空気に当てられて息苦しく感じていること、森がざわついていること、若木のことを話す。
「ふぅ、我々には気が付かない変化だな…」
「そうね、私もよ」
「そう言えば…彼らが」
「シア?」
「落ち着いてた例の…少しまた」
「そうなの?」
「何か関係が?」
話が見えない。
シア兄様が
「話をしましょう」
そして会ったことを話してくれる。
森で人が倒れていたこと、助けたがケガと呪いに犯されていること。
止まっていた呪いがまた進行し始めた事。
そしてファル兄様も途中で子供を拾ったこと。
私はイリィと顔を見合わせる。
「イリィ、話した?」
首を振る。
私がブランが見つけた人たちの事を話する。
そして、同行した人たちは彼らを町に送りに行ったことも。
「それがさっきシアが話をしてたことだよ」
なるほど。呪いが進行を始めた。生命樹のことと言い、襲撃のことといい、何かおかしい。
「その人に会えますか?」
「会って欲しい」
頷いた。
「今すぐは難しい。少し伏せっている」
「落ち着いたら」
真面目な話は終わり、お母様(そう呼んでと言われた)にイリィとの出会いを聞かれたり、食事が美味しいと褒められたり和やかに過ごせた。
お父様(そう呼んでと涙目で懇願された)は新たに保護したロリィのお膝が定位置のミアにメロメロだった。
その日はツリーハウスでたくさん話をして小さな頃の可愛いイリィの話に悶絶したらした。
ミニイリィを想像したらね、可愛いが大渋滞だろうな…。
その夜、イリィはツリーハウスで一緒に寝ることにした。ロリィはナビィと寝るとか。
モテモテだね?まぁ純粋培養天然美形だからね…さもありなん。
その日の夜は少しだけイリィが、ほんの少しね。情熱的だったよ…
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