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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第3章 白の森と生命樹

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192.アイがいない

昨日夜投稿予定だった分です

 やっと帰って来た。懐かしくて切なくて言葉に出来ない故郷。

 18までしか生きられないと知って絶望したのは何才の頃か。もう忘れてしまったな。僕はまだ子供で、だからお父様の為なの?と聞いた。それを聞いてお父様もお母様と泣いてたけど、僕はそれならいいよって言ったんだ。

 お母様は僕を抱きしめて泣いていた。


 その意味を、末の子が辿る運命を本当の意味で理解したのは12才だった。僕の誕生日はいつも賑やかででもなぜか寂しそうに祝われる。

 それが命の終わりを認識させるのだと気が付いたのが12才。

 お母様が泣きながら後たったの6回しか、と言って言葉を継ぐんだのを聞いてしまった。

 そうか、僕の誕生日は生まれを祝うものではなく、終わりを数える儀式なのだと唐突に理解した。


 その頃からか、僕はなるべく周りと関わらないようにした。消えてしまう僕はいい。でもみんなの記憶に残ったら、残された人が悲しむだろうから。

 どうせ僕はきえる。記憶も自我さえなく、体すら残らず。ならば憂はない方がいい。

 その日から、気持ちよく生命樹と融合する為に僕は生きることを諦めた。


 そんな僕にも唯一の楽しみがあった。金属の加工だ。薄く削り出して叩いて形を整えて、曲げてまた削って。その作業に没頭している時間だけは自分でいれらた。

 死ぬ運命を背負った末の子ではなく、ただの僕として。

 イーリスという名は末の子に付けられる名前。僕の名前であって僕の名前じゃない。だから僕はこの名前が嫌いだった。


 そして、僕はアイと出会い…生命樹との契約が終わり、自由に生きられることを知った。そして運命を背負わされたこの名前も、アイがイリィと呼んでくれる度にどんどん好きになっていった。

 ようやくお母様に会える。僕が生まれて、その目の色を見てお母様は倒れたそうだ。

 お父様もお母様も自分を責めていたのだろう。誰もせいでもないのに…。

 だから早くお母様を紹介して、喜んで欲しかった。ルシアーナ様みたいにアイを受け入れてくれたら、家族のいないアイの家族になってくれたら。

 そう思っていたのに、アイはお母様を拒絶した。どうして?ルシアーナ様はお母様と呼んだのに?義理の母となる僕のお母様はダメなの?

 アイに僕のお母様だよと言ってもアイは俯くばかりだ。


 僕はアイから離れてお母様と歩く。

「急に抱きしめても、なんて言ったから。驚いたのね」

 違う、それは違う。アイはそんなことで拒否したりしない。

「大丈夫よイーリス。まだ時間はあるんだから。たくさん話をして…ね?」

 分かっている。アイは自分の感情だけでお母様を拒否して僕を悲しませたりしない。

 意味があると分かっているから余計に…どうして?


 拠点に着いた。凄いな、良く出来ている。僕はやっぱり浮かれていたのかもしれない。

 ()()()()にアイが拒否反応を示すことなんて、考えなくても分かるはずだったのに。お父様もお兄様も、なぜかそのことを忘れていた。

 地下拠点でアイがどんな目にあったのかを。


 木のウロからは空間魔法で地下に転移する。

 凄いな!シア兄様が1人で?そんな会話をしていて、だから気が付かなかった。

 ロルフの声を聴くまでは。

「イル…」

 振り向いたらアイがいなかった。ハクもいない。えっ?

「イルが…青ざめて蹲りそうに…そしていなくなった」

 ()()()()()()()()

 アイ…ごめん、ここにアイを連れて来ては行けなかった。どうして忘れていたんだろう…。

 僕は意識を失った。


 目が覚めるとベットに寝かされていた。そばにお母様がいる。

「イーリス…知らなくて…」

 ごめんなさいと消えそうな声で呟いた。

 僕は首を振る。お母様は何も知らなかったんだ。シア兄様だって皆の為にここを作った。

 気が付かなきゃいけなかったのは僕だ。涙が溢れてくる。お母様は優しく抱きしめてくれた。


 部屋の扉が開いてシア兄様が入って来た。

「イーリス、その気が付かなくて…」

 僕は首を振る。

「入る前に僕が気が付くべきだった。地下だって知ってたんだから」

「ブランちゃんがさっき戻ってきて教えてくれた。ロルフリート様もナビィちゃんと一緒にアイル君の所にいるそうだよ」

「何処に?」

「他の場所だ」

 そうか。

「イーリス、疲れもあるだろうしここは色々な思い出があるだろう。きっと気持ちが疲れているんだ、ゆっくり休めばいい」

 僕は頷くことしか出来ない。

 隣にアイがいない。そのことが酷く寂しかった。


 すでに夜で皆は先に夕食を食べたと聞いた。僕もアイが持たせてくれたスープを食べる。

 側にアイがいないだけでこんなにも寂しいなんて。

 僕は夕食を食べ終わると部屋に備え付けのシャワーを浴びてお風呂には入らずにベットに横になった。

 1人のベットはとても広く感じてやっぱりアイを想って泣いた。




 ツリーハウスで快適に目を覚ました。隣にはナビィとハク。ロリィは向かいの部屋で寝ている。

 昨日はブランが人型になってロルフと寝る!って。

 聖獣と人との交わりは体と触れ合わせ、魔力を循環させる。人みたいな繋がりは要らない。

 ハクにじゃあなんで私とは?って聞いたらより深く交わるためだって。

 白銀狼の魂の契約には必要な行為で、だから交わりたかったって。


 白銀狼が特別な聖獣で、魂の契約はとても強い縛りとなる。ハクはそれでも私を選んでくれた。

 だからハクと私はお互いに呼び合い求めあうらしい。


 だからブランとは肌を触れ合わせれば良かったんだけどな、ハクは少し事情が違いみたいだ。

 それはナビィも同じで、体を触れ合わせれば良かった。もっともナビィは私のことが大好きだからハクとかブランとは違う感情だと思う。


 そんな訳でブランはロリィと夜を過ごした。

 私はハクももふもふとナビィもふわんふわんに挟まれて幸せに眠ったよ。

 この森に着いて、気持ちがかなり疲れていたみたいだ。


 あの若木のことも…。根付いてほしい。どうか…。祈るような気持ちで若木を想った。



 *******



 サナはあの夜、何が起きたのか翌日知った。

 あの夜は心配するシュリを抱きしめていた。まんじりともせずに夜が明け、とにかくシュリを森の外まで送った。

 そして家に戻る。誰もいない?

 慌ててお屋敷に行ってみれば、そこは酷い有様だった。

 入り口からは分からなかったけど、屋敷の中は燃えたり壊されたり。


 シア兄様は?


 お父様が走って来る。

「何処に行っていた?こんな大事な時に!」

 怒鳴られた。知らなかった。大きな音がしたのは分かっていたけど、まさか屋敷が襲撃されるなんて。

 だって、普通は森には入れない。

 ここまで辿り着くことだって出来ない。

 なのにどうして?


「サナ、どこにいた?」

 答えられない。まさかこんな近くにいて何もしていないなんて…。

「森に手引きした人間がいる」

 どういうこと?そして気が付く。

 どうして襲撃犯は屋敷まで辿り着けた?道案内をしたのは…青ざめる。


 シュリはとても怯えていた。そして私を離さなかった。知っていたの?何が起きているか。

 私を心配していたシュリの気持ちは嘘じゃない。

 ならどうして…?


 それからお屋敷は放棄され、守護一族も隠れた。詳しい話は教えて貰えなかった。

 あの夜どこにいたのか話さない私を両親は信用しなかったのだ。

 次に町に出た時、シュリに会った。

 いつも通りで何も変わらない。シュリ、あなたは何を知っているの?

 それでも2人の時間は楽しくて、シュリから離れることなんて出来なかった。


 キャロライン様から拠点を出されて家に戻った。

 守護一族が外に出た。理由は分からない。そしてお世話をするということで拠点につい最近までいたのに。


 久しぶりに町に出る。シュリは薬草を煎じる仕事をしていた。だから薬草を売りに行けば会えた。

 一緒にお茶をする。

「どうしたの?心配事?」

「ううん、何でもないよ」

「ねぇ、凄いものを手に入れたのよ!」

 そう言って小瓶に入ったものを見せてくれる。

「これは?」

 シュリは声を潜めて

「世界樹の樹液…」

 えっ?神聖国の世界樹?生命樹を司るという…。

 私はゴクリと唾を飲んだ。世界樹の樹液は植物にとって最高の栄養だ。根枯れをおこした木でさえも再生すると言われている。


「一粒単位で販売するのよ?サナも必要なら三滴なら分けられるわ」

「でもお金が…」

「極秘の経路で仕入れたみたいで、公には世界樹の樹液とは言えないの。だからそこまで高くないのよ。三滴だし」

 値段を聞いて驚いた。でも極秘ならあり得るかも?

 私は逸る気持ちをなだめて三滴分を買った。


 小瓶に入ったそれを大切に胸にしまう。

「シュリ、ありがとう」

「いいのよ、私はサナの為になるならそれで充分」

 優しく笑ってくれるシュリ。ありがとう、そう呟いて私は足早に森に帰った。


 ー「使い方はね、満月の夜に三滴を垂らせばいいのよ。直接葉にかけてね?」ー


 若木の位置はこの樹液が教えてくれるという。世界樹の樹液なら若木へ案内するのも容易いだろう。

 守護の一族が守るユウリ様の若木。

 根付けば守護の一族に認められてシア兄様と結ばれるかもしれない。


 私はその夜、密かに家を抜け出して若木を探し当てた。やはりこれは本物だ。

 偽物では若木の位置が分かるはずないのだから。

 銀の寝床に生えた頼りない若木。私は屈んでその葉に触れる。待っててね、すぐだから。

 満月まで後1週間…もうすぐ根付かせてあげる。




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