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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第3章 白の森と生命樹

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188.流浪の民

 ブランに導かれ、草原で襲撃されていた人たちを助けたアイルたち。


 さて、どうしようかね。

 野営地からはだいぶ離れてそうだ。彼らを連れて戻るのはやめた方がいいだろう。それに覆面たちだ。

 転がされているが死んではいない。


『アル、ブランに乗ってラドとサリナス連れて来て。マルクスの荷馬車も』

「どうするの?」

『サリナスたちには荷馬車でコイツらを昨日の町に運んで貰う。夜には馬車は走らせないからコイツらもどこかに転がしておいて、明日出発だね。』

「でもケガ人たちは?」

『ヤンダルとロザーナに来て貰ってここでやっぱりここで野営してから馬車で町に運ぶ』

 それしかないか…森には連れて行けないし。


「それしかないね」

 でも森を目の前にして足踏みは…

『アル、イーリスとロルフは先行して森に行こう』

『僕がこっちに残るよ!』

 ブランが言う。

「分かった。イリィ、野営地に戻ろう。ハク、ナビィお願いするよ」


 私はケガ人の中で私を庇おうとした人、多分リーダーかな?に声を掛ける。

「人を呼んでくる。このまま待っててな」

「いや、しかし…」

「ケガをしてて衰弱もしてる。食べ物もないだろ?」

 男性は唇を噛む。

「大丈夫、日が暮れるまでには戻る」


 私は彼らからある程度離れてからイリィとブランに乗る。隠蔽を掛けて。

 野営地ではみんなが警戒していたが、私を見て少し安心したみたいだ。

 ブランから降りると

「イル…何が?」

「流浪の民?が覆面の男たちに襲われてた」

「無事?」

「衰弱してるけどな。で、マルクスの荷馬車で覆面を昨日の町までラドとサリーに運んで欲しい」

「分かった、任せろ」

「マルクスは残って」

 頷く。森が近いからマルクスはイリィのそばにいて欲しい。


「ロザーナとヤン、シグはケガ人を迎えに行って欲しい」

 テントは一人に一つと、さらに二人につき4人用の1つを渡してある。4人用はロザーナとシグが持てばを少し狭いけどテントで眠れるだろう。毛布も多めに渡そう。

 ロザーナとヤンとシグが行けばそれで大丈夫だ。動けるようになったら馬車に人を乗せ、馬にも乗せれば明日には町に向かえるだろう。野営をしてもなんとか翌日には町に着く。荷馬車は先に町に向かうから、折り返した荷馬車と合流出来たら全員が馬車に乗れる。

 町に全員を送り届けたら、それから彼らにはまた森に向かって貰う。


 私たちはこの野営地で過ごして明日には白の森へ入る。

 ソマリが馬車に乗り、リベラが御者台に、マルクスはダナの馬に乗せて貰えば速度は落ちないだろう。


 こうして馬車2台がブランの案内で進んで行く。森を迂回するけど距離はそこまで遠くなかったようだ。1時間くらいで着くらしい。ギリギリ日没に間に合う。

 ソマリは出来立てのスープをそのまま彼らに託した。保温の魔法を私がかけて。

 私はパンと果物を渡す。無事に町まで辿り着きますように…。


 さぁ、私たちの食事もまた作らないとな。

 ソマリと一緒に作る。人数が減ったから楽だな。スープストックベースのスープは燻製機(アイル作new)

 で作ったオーク肉のベーコンをたっぷり入れた。芋もふんだんに入れて具沢山の食べるスープだ。

 うん、美味しい。

 えっもう?早いね…ロリィ。スープだけどかなり具沢山だよ?飲んでる、飲んでるのかな…。

 えっイリィも?早いな…ちゃんと噛んでる?えっ私が食べるの遅いだけ?

 みんな良く食べるね。あっという間に完食したよ。


 食事も終わりお風呂に入って(相変わらずロリィの観察攻撃は激しかった)寝よう。

 明日はいよいよイリィの故郷だ。

 イリィはいつも以上に甘えて、私を離さなかった。きっと契約は断たれ真名を貰っても、自分の目で見るまで不安なんだろう。

 大丈夫だよ、イリィはここにいる。生きて私の隣にいるから…。大丈夫、大丈夫。大好きなイリィ、私がいるよ、今はまだね。





 追われて走り続け、隠れて休み。撒いたか…そう思ったがまた追われて、隠れる場所もない草原に出てしまった。ダメだ。逃げきれない。

 なんとかここで食い止めて…しかし体に力が入らない。長い逃亡とケガの影響で魔法の威力も出しきれない。

 1人2人と戦闘不能になり、こちらは後2人で闘う。あちらは10人、勝ち目はない。しかし最後まで…

 ぐはっ…ダメか…意識が、しかし立たないと。必死で目を開けると、えっ?


 大きな犬?

 追手を容易く打ちのめしている。しっぽの攻撃がエゲツない。そしてスラリとしたフードの青年が斬りかかる。早くて強い。そしてどこからか魔法?ヒュンと聞こえた気がする。

 今のうちに、オーリは…ぐはっ、体が。

 するとふわりと風が凪いだ?体が動く…。

 オーリを見るとフードを被った少年?がオーリを優しく撫でている。

 弱々しかった魔力の流れが正常に戻り、顔に血の気がさす。


 何が?

 少年は明らかに弱っているものから撫でて治癒をしていく。間違いない、彼の力だ。スキルか?

 そして私の元にも来て手をかざしそっと肩と足を撫でる。ふわりと包まれるような。魔力ではないが確かに治癒の効果があり、顔を上げて礼を言う前に殺気に気がつく。

 咄嗟に後ろと言って彼を庇おうとして、逆に彼の腕に庇われる。ダメだ、君が…ザシュ。

 えっ?男が腕と足から血を流して倒れた。そこに大きな犬がしっぽで顔面を叩く。


「えっ?」

 俺は絶句する。

 ん?少年は首を傾げる。俺はハッとすると体を起こそうとして

「痛っ…」

 倒れ込んだ。少年が慌てて支えてくれる。

「まだ動かない方がいい、衰弱している」

 分かっているが、なんて情けない。


 それから少年は私を起き上がらせて、もう1人の青年の所に行く。彼のそばには立派な狼が、離れた所には銀色に輝く犬とそして大きな黒い犬がいる。

 何か小声で話をしてから私に向き直る。

 そばまで来て膝をつくと

「人を呼んでくる。このまま待っててな」

「いや、しかし…」

 そこまでして貰う訳には。

「ケガをしてて衰弱もしてる。食べ物もないだろ?」

 俺は唇を噛む。

「大丈夫、日が暮れるまでには戻る」

 空を見ながらそう言う。


 そして銀色の犬と黒い犬を残して走って行った。彼は一体何者なんだろう。

 フードの奥の目はとても澄んでいた。穢れのない無垢な魂。それにあの銀色の犬は…

 私はゆっくりと立ち上がり、オーリのそばに行く。抱きついて来たその顔は頬に赤みが指している。


 きゅる、きゅるる…


 顔を真っ赤にして俯く。キズが癒えて体が動き出したのだろう。急速な空腹を感じる。

 すると黒い犬が近づいて来て、オーリの匂いを嗅ぐ。オーリは目を開いて驚いてるが怖がらない。

 ふんふんと匂いを嗅いで満足したのか、耳を後ろ足で掻いてから首を振った。

 するとそこに果物があった。えっ?何が…。

 その犬は鼻で果物をグイグイ押してからオーリを見てしっぽを振る。


「くれるのか?」

 さらにしっぽをふりふり。オーリが手を伸ばすので取ってやる。腰のナイフを取って皮を剥く。甘い匂いが漂ってオーリの目が輝く。

 小さく切ってオーリに渡す。果汁が溢れ出してとても美味しそうだ。

 オーリは夢中で1個を食べ切った。

 背中をツンツンされたので振り向くと大きな犬は果物をまた鼻と前脚で押す。そこには5個の果物があった。しっぽを振ると他の者たちにも果物を渡している。


 どこから出してるんだ?戸惑いながらも空腹に負けて皆が食べ始める。夢中で食べている。私も皮を向いて食べる。なんと甘くて瑞々しい。オーリにも渡しながら全部食べた。

 泣き声が聞こえた。そう、緊張の糸が切れてやっと泣く余裕が出来たのだ。

 私は皆の元に歩いて行く。ゆっくりと、オーリを抱えて。

 何人か欠けてしまったが、それでも8人残った。俺たちは助かったのか…?熱いものが込み上げてくる。

 俺はあの日以来、初めて泣いた。


 そしていつの間にかあの黒い犬が背中に寄り添っていた。その体は温かくてとても落ち着く。そっと手を伸ばして撫でると頭を背中に押し付けて来た。

 なんとも不思議だ。ぐりぐりと背中に押し付けていた頭を今度は肩に載せる。舌で顔をペロリと撫でられる。

 その丸くて大きな目はとても優しく俺を見つめている。

 きゅぅん…甘えるような鳴き声にその首元を撫でれば目を閉じる。そうして俺に凭れているのに重くない。

 なんて…

 その柔らかな頭に頬を寄せる。

 風がふわりと吹き抜けて行った。


 そのまま皆で呆然と、または安堵して座り込んでいると

「馬車が…」

 少し前から確かに聞こえていた、馬が地を蹴る音が。

 本当に助かったのか…。





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