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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第3章 白の森と生命樹

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183.新しい甘味2

 僕はアイとナビィが出て行った扉を見つめていた。

 ロルフは自分の部屋で作業すると言って、繋がった扉から自室に行ってしまった。

 朝のこともあって少し気まずい。

 手持ち無沙汰になってしまったな。ハクがこちらを見ている。

『イーリスはロルフが好きなのか?』

 えっ…?

『交わろうとしてたよね』

 知ってたのか?ロルフのこと、それは…どうなんだろう。好意はあるけど。

『アルは受け入れると思うよ』

 そうなのかな…でも、それはそれで悲しいかも。自分の気持ちが良く分からない。




 イーリスはこの時、ハクの真意を、その言葉の本当の意味を…知らなかった。




 そのままソファに座って…そうだ、さっきアイは紅茶のカップを見てた。僕は陶器を作れないけど、金属なら作れるかも。

 せっかく思いついたので机に材料を出して魔法を併用しながら金属を加工していく。

 アイが褒めてくれた滑らかな曲線を意識して。気に入ってくれるかな。

 アイの細い指に合わせて持ち手も少し華奢にして…いい感じ。彫金で表に少し模様を。

 繊細に、ポイントだけ。

 集中していたらいつの間にかロルフが部屋に戻って来ていた。

 そこにアイが帰って来た。ソファの端に座る。僕もアイの隣に座ってその髪を撫でる。ハクとナビィがアイに膝に飛び乗った。


 アイが机の上のカップを見て、僕に声をかけようとしたてやめた。静かな時間が過ぎて

「昼食の準備を手伝って来るよ」

 と言って部屋を出た。

 僕はそのまま、部屋で1人ボーッとしていた。


 扉の部屋が叩かれて

「昼食の用意が整いました」

 リベラが告げる。僕は道具を片付けて、隣の部屋が出て来たロルフと食堂に向かう。

 アイはソマリと一緒に厨房から出て来た。

 ワゴンの上には見たことのない料理がある。何だろう?凄くいい匂いだ。

 ルシアーナ様も来て食事が給仕される。チーズかな?凄い伸びてる。

 その献立はアイの提案で、どれも凄く美味しかった。不思議は柔らかい食感の麺…は食べ応えがあって、細かなお肉とチーズが絡んで。


 食事が終わると甘味が出て来た。

 焼き菓子は前にも食べたことがある。優しい甘みが美味しかった。

 こういう一つ一つの料理に、アイの人柄が見えるようだ。みんな大いに食べて、大満足だった。

 ルシアーナ様も甘味というが、甘過ぎないその味に感動していたよ。さすが、アイだ。


 お昼を食べ終わって部屋に戻る。

 アイがソファに座って僕も座る。

 ロルフが話しがあると。そこでロルフが爵位の話をした。侯爵家がいいか、伯爵家がいいか。

 ロルフには選択肢があるんだな。

 アイはロルフの意志で決めたらいいとそう言った。突き放してはいないけど、どこかアイらしくない言い方だ。だから僕も、アイを爵位の問題に巻き込んだ欲しくなくて、そう言った。

 ロルフは少し寂しそうだ。でも、僕たちには責任が取れないから。ロルフが自分で決めないと。


「それで、出発はいつになりそう?」

 アイは淡々とそう問いかけた。

「明日には…」

「分かった。ハク、ブラン、ナビィ、ミスト、ベビーズにミア、出かけよう。散歩してくるよ!」

 ロルフに手を出して、リツを受け取るアイ。アイリーンを撫でてからリツを受け取って、みんなで部屋を出て行ってしまった。


 今朝から僕はアイにほとんど触れてない。今まではこんなこと無かったのに…。

 自分がロルフにキスをねだったり裸で抱き合ったこともあるけど、僕の想いとは別に、何かが昨日までとは違う気がする。

 気のせい…?ならいいんだけど。

 ロルフとも今朝のことがあって少し気まずい。ロルフは出発のことも含めて、ルシアーナ様と話をしてくると言って部屋を出て行った。


 ポツン…。


 アイと知り合ってからこんな風に1人でいる時間は殆どなくて、それがかえって落ち着かない。

 人の目に触れるのが嫌だったのに、アイには僕を見て欲しい。

 たくさん見て欲しい。なのに、今は1人だ。ロルフとのことを知って許さないと言った時はナビィがそばにいてくれた。

 今はこの部屋に1人きり。凄く広く感じる。

 すると扉が叩かれる。

「マルクス様が来られました」


 マルクスたちは同じ屋敷の別の区画にいる。明日の出発についてもう知ってるのかな。出発前の確認だろうか?

 扉を開けるとマルクスが立っていた。

「皆はいないから入って」

「イーリス 町に行かないか?キャロライン様にお土産買ったり、森に買っていきたいものがあれば。ここの町は小さいけど品はいいものが揃ってる。南の領地の飛び地だから珍しいものが多いんだ。アイルにも、珍しい香辛料とか買ったらきっと喜ぶ」

 さすがマルクスだな。僕とアイに何かあったと感じているのか…?


 でもお母様にお土産は買いたい。マルクスと出かけることにした。

 ここから町までは少し距離があるとかで、馬車で行く。ロザーナが馬車を出してくれるって。

「旦那、町まで案内するぜ!」

「もう体調はいい?」

「あぁ、ケガする前よりもな。絶好調だ」

 豪快に笑った。

 さすがはアイの薬だ。ロルフが使った分は即補充用を渡してたし。自分以外には本当に手厚い。


 馬車に乗って10分で町中に着いた。護衛としてロザーナも馬車止めに馬車と馬を置いてついて来てくれるという。助かる。

 街中はそれなりに賑わっている。お土産になりそうなもの…ふと、食料品を扱っている店を見つける。

「俺も仕入れた店だ。見るか?」

 頷く。マルクスは店に入り

「よお!」

 店主に声を掛けた。

「おう!来てくれたのか。ちょうど南から品物が届いたぞ」

 マルクスは店長と話し出した。僕はお店を見る。食材のことは詳しくないけど、見たことの無いものはアイに買って行こうかな。


 流し見していると不思議なものを見つけた。乾燥してる?なんだ、これ。黄色い粒だ?アイは好きそうだな。

 一袋単位?悩んでいると

「おっそれならその黄色い皮を向いて炒めて食べるんだぞ」

 ロザーナが言う。

「見たことない」

「もっと東の国で食べられてて、南の領地で少し作ってる筈だ」

 だからか。でも面白そう。アイならジョブでなんとかするだろうし。


「うん、それはライセと言うんだ。一袋で銀貨2枚」

 高いのか安いのか分からない。でもアイのおかげでお金には余裕がある。なんとなくたくさんあったらアイが喜ぶ気がする。

「どれくらいある?」

「売れなくてよ…たくさんあんだよ。食べ方が独特だからかな。えーと、12袋だな」

 アイの収納なら余裕で入るけど、秘密だからな。でも12袋なら買っても馬車に積める。

「必要なら全部買えばいい。馬車ならのせられる」


 マルクスの言葉にそうか、馬車だなと思い、

「うん、じゃあ全部買うよ」

「マジか!助かる。2袋はまけとくぞ」

「えっ、悪いよ」

「構わない。困ってたからな。同じ所から仕入れた海藻もオマケで持ってけ!いや、助かる」


 店主はホクホクでまたオマケをくれた。

「他にも珍しい香辛料ないか?」

「おう、あるぞ」

 そう言って持って来たのは赤い干からびたもの。えっ香辛料?

「細かくして料理に入れるんだってよ」

「どれくらい細かく?」

 使い方くらい聞いておかないと。

「粉になるまで」

 そんなに?まぁでもアイなら出来るか。

「じゃあそれも」

「こっちの野菜と食べると美味いらしいぞ?」

 大きな白い野菜を勧めてくる。商売上手だな。でもせっかくだし買ってみよう。

「それも貰うよ」

「いやー助かるぞ!」

 そんな感じでアイの為に買い物をした。憂鬱な気分が吹き飛んで、凄く楽しい。


 店を出て歩いて行く。あっなんだろうこの店?

「川から取れる石を使ったアクセサリーだってよ。キャロライン様に買うか?」

 マルクスが教えてくれる。僕はアイのことを考えてた。でも確かにお母様にもいいかな。

 店に入る。可愛らしいお店だけど店主はイカつい男性だ。凄いな、この可愛い作品があのゴツい手から作られるのか。

「い、いらっしゃい…」

 おどおどと言う店主。こんなに可愛い作品を作るんだから自身待てばいいのに。


 イーリスはそれこそアイルと出会った時のイーリスに対して思ったアイルと同じことを考えていた。

 本人は気が付いていないが。


 僕はさっそく商品を見る。ガラスみたいにキラキラしてる。艶消しっぽいのもあって可愛いな。

 色も豊富だ。

 僕は無意識にアイの銀色を探していた。でも銀色の石はやっぱりない。金具の色と同じになるし。

 悩んでいたら前にアイがしていた水色の石に似た石を見つけた。

 特別な石って言ってた。ならこれにしよう。

 片方ずつ付けたらお揃いだ。


 お母様にはネックレスかな?青い色の。可愛らしいお花のネックレスを見つけたのでこれ。

 後は…お兄様たちも欲しがるかな?

 ピアスにしよう。2組買えば片方ずつ付けられる。やっぱり青かな。少しずつ色の違うものを選ぶ。

 銀貨2枚って安いな。かなり手がこんでるのに。

 ロザーナは馬の耳に付けられるか聞いてる。人に贈らないんだ?笑ってしまった。

 マルクスは可愛らしい指輪を買っていた。


 店主は僕たちが選び終わってカウンターに持っていくと商品と僕たちを交互に見て

「こんなに買ってくれるのか?」

「いい物だからな。贈り物にしたら喜ばれる」

 店主は固まった後、目に涙をためて

「あえりがてぇ」

 泣いてしまった。泣きながら可愛らしく包んでいく。あ、なんか既視感。アイもこんな気分だったのかな。


「俺みたいなのがこんな可愛い店なんてってバカにされて…一旗あげてくるって故郷を出てきて…でも全然売れなくて…ぐすっ」

 隣でマルクスが笑いを堪えて震えている。鳩尾に軽く拳を入れた。

「グハッ…いやだってよ…ブフッ」

 失礼な。

「まんまどこかで見た光景」

 僕だってそう思ったよ。でも笑うなんて失礼な…店主が困ってるだろ。


「あぁ、悪いな。店主を笑ったんじゃなくてな。まったく同じ光景を見たことがあって」

 マルクスが釈明する。

「同じ?」

「おう、いい作品なんだが売れなくてな。悩んでいた時に認めてくれる人と出会って。結局、2人は結ばれたぞ?もうな、熱いのなんの…」

 マルクス、言い方!間違ってはいないけど。僕は頬が赤くなる。


「そ、それは素敵だな。俺も頑張って幼馴染の子に結婚を申し込むんだ…」

「そうか、頑張れよ!」

「ぐすっ…ありがとよ。これ、包んだぞ」

 その包みは柄の入った紙を上でまとめて紐で括ってある。可愛らしい見た目だ。

「こんなに可愛いく包んでくれるのか?凄いな」

「俺、可愛いものが好きで…細かい作業も得意なんだ」

 そのイカつい顔を綻ばせた。

「頑張れよ」

 僕の言葉に嬉しそうに笑うと袋に入れて渡してくれる。


 いい買い物が出来たな。その後も食料品のお店で色々買って帰った。

 馬車に乗るとマルクスが頭をくしゃっと撫でる。幼馴染の気やすさで

「何するんだよ」

 口を尖らせると

「お前、本当にアイルのことが好きなんだな」

 えっ?そうだけどなんで…そうなるの?


「買ったものは全部アイルの為のじゃないか」

 そういえば…アイが好きそうとか喜ぶかなって思って。頬が赤くなる。

「無自覚か?」

「そうかも…」

「いいじゃないか。所詮は他人だ。分かり合えることが凄いんだ。育った場所も種族も違う他人だぞ。すれ違ったり、分かり合えなくて当然。好きなら分かり合えるなんて幻想だよ。確かなことだけを見ろ。お前の想い、アイルの想い。それさえ確かなら2人で乗り越えられる。お前は隠されて隠されて…しかも短い命で終わる運命だった。だから人との関わり方を知らない。思い詰めるな、お前の想いとアイルの想いが確かなら必ず寄り添い合える。信じろ…自分とアイルの想い

を」




銀貨1枚約1000円

この世界の水準だと、庶民にはお高いです…


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