182.新しい甘味
皆は残さずパウンドケーキをたべてくれたよ。特に珍しくも無いんだけどね。パウンド型が売ってるか分からなくて自作したんだ。
それだけ。ソマリは凄いって驚いてたから一つ進呈したよ。
食堂から居間へ。
お母様が
「イル、とても美味しい焼き菓子だったわ。甘過ぎなくて」
「うん、私でも食べられた…」
「ロリィは甘いものが苦手?」
頷く。あれ?私が作ったものは食べてなかったか。
「イルの作るものは別…美味しい」
そうなのか、知らなかった。
「僕も甘いのはそんなに…」
イリィも?もしかしてこちらのお菓子はあれかな。ザッハトルテみたいにとにかく甘いのか?
日本のお菓子は甘さも控えめなのも多いからな。
私も甘すぎるのは苦手だし。
「それに、あのお昼に食べたパスタかしら?初めて食べたけどとても美味しかったわ」
「チーズが乗ってる…とろけてた」
「あの茶色のソースが味わい深くて」
ラザニアが人気かな?ならパスタマシン作ろうか。
そしたら細めのパスタもラザニア用のパスタも作れる。
ペンネも作れるようにしたら料理の幅が広がるし。
「とても美味しかった」
うん、良かった。
少し休んで部屋に戻る。
「ここはいつ出る?」
ロリィがその話の前に2人に話があると言って話し始めた。
「イル、君はこれからどうしたい?公爵家の介入を拒むなら…ラルフを侯爵に」
ラルフ様は兄弟が亡くなり、公爵を引き継ぐことが出来る立場にある。でも先に侯爵を継げば公爵はラルフ様の保留ではなく、亡くなった奥様が保留しているままとなり、次の世代の誰かへ引き継がれる。
ラルフ様は公爵家ではなく侯爵家から届出をされているから引き継ぐにしても、確認の手続きに時間がかかるらしい。
貴族って難しい。引き継いだって所詮は一代限りなのに。
ロリィは続ける。私がお母様の爵位を継ぐとラルフは暫定侯爵となる。直系の私に子が出来ればやがてその子が正式に侯爵となるから。
貴族は直系が重要なんだよ…と。
「イルとそしてアイリーンと…穏やかに過ごすためにどうしたい?」
「ロリィは?」
「えっ…?」
「ロリィの望みは?」
「私はどうでも…」
「どうして?自分のことなのに」
「私は貴族だから…当事者だし」
「ロリィ…ロリィが望むように…」
「イル…私は」
「私に責任を負わせたいの?」
「…」
「ロルフ、自分の人生だよ。自分で選んで…アイを理由にせず」
イリィが珍しくキッパリとロリィに言う。
「…分かった…」
「ロリィ」
真っ直ぐにこちらを見るロリィ。
「自分で掴み取って…自分の為に」
しっかりと頷いてくれた。良かった。私はやがて消えてしまうから。
「それで、出発はいつになりそう?」
「明日には…」
「分かった。ハク、ブラン、ミスト、ナビィ、ベビーズ、ミアも出かけよう。リツもね、散歩してくるよ!」
ロリィが胸元のポーチからリツを渡してくれる。私はアイリーンを撫でるとリツを受け取った。
そして皆を連れて部屋を出た。
森を進み川へ。天気が良くて気持ちいい。ハクが走る。ブランは飛ぶ。ナビィは小さくなって私の腕の中。ミストも大きくなって走り回っている。
ベビーズはハクの背中にしがみ付いて、ミアは私の腕ポーチの中だ。
皆は元気だ。
うん、私も少し走りたい気分だな。よし、走ろう!
「ナビィ走ろう!」
『うん!』
大きくなったナビィと風を切って走る。気持ちがいいな…走って走って足がもつれるまで走って転んだ。なんだか凄く可笑しかった。
ハクが仰向けになった私の上にのしかかる。ブランが頭の上に座る。ナビィとミストは小さくなってハクと私の間に入り込む。
ちなみにベビーズはハクの首元にしがみついてるよ?ミアは腕の中でスヤスヤだ。
みんな一緒だ!
楽しくて、でも悲しくて…それが生きてるってことなんだな。
『アル、どんな理由でもいいから生きて!一緒に子の成長を見守ろう。少しでも長く…』
『ご主人ー、一緒にいて!ブランはご主人のそばにいたいよ。大好きなご主人のそばに…』
『アイリ!絶対に離れないよ。地の果てでも海の底でも追いかけて行くから。世界だって渡ったんだから!それがあの世でも、追いかけるよー』
『ご主様ー僕も!僕もいるよぅ』
『わふぅん(パパ)』『わふわふ(パパン)』
『わぅわう(お父ちゃん)』
『わおん(アル)』
『ぴぃ(眠い)』
ハク、ブラン、ナビィ、ミストにベビーズ、そして…最後のはリツだな?
くすくすっ…お見通しか。本当に敵わないよ。
「もう大丈夫。与えられたこの生を全力で楽しむよ!邪魔なものは排除すればいい…」
『排除はぼくの役目!アルはただ楽しんで』
「ハクだけにはやらせないよ?魂で繋がってるんだからな…一緒に、だよ」
『アル…うん、そうだね』
ハクのしっぽが高速パタパタ、可愛い。
「大丈夫だよ…目標が出来たから」
起き上がってハクをもふり、そこ首元にいるハル、ナツ、リリ、ルイ、リツを撫でる。
大きなブランに抱きつくとその翼の中に包み込んでくれる。凄い!なんて温かい。その体に抱きつく。
そして解放されるとナビィが正面から抱きついて来た。押し倒される。おう、胸毛が柔らかいな。頬擦りして匂いをかいだ。懐かしくて変わらない落ち着く匂い。
その後はミストが大きくなって抱きついて来た。
おおう、ミストの毛もなかなかだね。ふわもふではないか…撫で回したよ。うん良きだね。
「もう少し進んであの森まで行ったら戻ろうか」
『分かったー』
また走り出すハク。私も走る。全く追いつけないけどね。
森に着くと鼻をひくつかせたハクが
『ちょっと離れる!』
走り去って行った。
私は薬草とかあれば採取かな?
あ、あれは?
(よもぎ 防腐剤になる お餅に混ぜると美味しい)
ビクトルはあちらの知識があるのかな?
(主の知識が蓄えられているので)
なるほど。
よし、取るぞ!よもぎもちだ。芋からでんぷんを分離したら餅粉になるかな?片栗粉だっけ。
食べたいよな、和菓子。
突然バタンッと音がした。そこにはそれなりの大きさのビックバードがいた。
(お肉が濃厚で美味 羽は装飾品として、羽毛は寝具に加工するといいよ)
なんで落ちてるの?首ちょんぱで。
(主の無自覚に展開された風結界により瞬殺 エゲツナイ攻撃)
ビクトル、解説の仕方!誰に習ったのかね、無自覚とか、エゲツないとか…まぁいいか。そっとポーチにしまう。
もう今は生き物の死体を見ても大丈夫だ。あちらの世界だって食肉にするために動物を育てていたのだから。殺して肉にする行程は誰かがやってくれてた。それを今、目の前で見てるだけ。
だからもう大丈夫。まぁ、積極的に殺しはしないけど。
大きくなっているミストが
『主ー取ってくる!』
木に登っていく。えっ、えっ…凄いな。
その木には実がたくさんなっていた。上から落ちてくる。
これって…あれ?臭くない。まだ青いから?
時間促進の部屋に保管しとこ。蒸してお塩をかけて食べると絶品だよね。あ、茶碗蒸しが食べたくなった…。出汁があれば作れるかな?要検討だ。
すると
『あっちにもー』
ん?あれは…おおう。
たくさん落としてくれたから下に落ちる前にポーチに移動させる。今はジョブも色々と使いこなせてるんだ。便利だね。
ふふふっこれは胡桃。煎って塩で食べてもいいし、黒糖まぶしててもいいし、キャラメルに絡めても…ふふふっミストちゃんナイスだよ!
あ、パウンドケーキに入れてもいいか。殻が硬いけど、それはポーチに入れて殻を不要認定したらいい。
殻と中身に分かれるから。
ふふふっ、便利だね!
その頃イーリスたちは…。
アイが出て行ったその部屋で僕はその扉を見ていた。
今朝、かなり時間が経ってから帰って来たアイはベットに戻らずソファに横になった。
扉が開く音で僕はロルフから離れる。どうしよう、服を着ないと。
アイが動く気配がないから毛布の中で服を着る。何故か心臓がバクバクする。僕がロリィと裸で抱き合ってるのを見たら、アイは何て思うだろう。
ロルフも僕が脱がせた服を着る。その目は僕を映していない。ただアイの気配を探ってる。
服を着たロルフはベットから起き上がってアイが眠るソファに行った。僕はどうしていいか分からなくて、そのまま毛布にくるまっていた。
「ん?…ロリィ」
「イル、ここは少し寒いから…ベットに」
「…」
「運ぶよ」
「寒くないから大丈夫。ハクもナビィもいるし」
アイは結局ベットに戻らず、ロルフも戻らなかった。
僕はベットから起き上がってソファを見る。アイはロルフの膝枕で目を瞑っていた。
扉を叩く音の後
「おはようございます。朝食の準備が整いました」
アイもロルフも起き上がって支度を整え、食堂に向かう。
「イリィおはよう」
アイはいつも通りで穏やかな顔をしていた。いつもみたいに、アイを抱きしめたいのに。何となく気まずくて…。
アイはご飯も今朝はちゃんと食べてたし、いつも通り。良かった。なのになんで不安なんだろう。
アイを見ればハクを見つめている。僕を視線に気がつくと何って顔をする。ごく自然に。気にし過ぎかな?
首を振ると安心したように微笑む。
食後に居間で話をしているとルシアーナ様がイルに甘味を作って欲しいと言った。それでアイは材料を頼んでから部屋に戻る。
するとナビィが2人で出掛けようとアイに言って、ハクも行っておいでって。珍しいな、いつものハクなら一緒に行くって言いそうなのに。
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