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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第3章 白の森と生命樹

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178.公爵家

 そして馬車は静かに侯爵家を出発した。伯爵家の紋章を掲げて。

 馬車の中ではルシアーナ様とロルフが隣り合って座り、向かいにアイを膝に抱いた僕とアイの背中を支えるように座るハク、アイの足元に座る小さくなったナビィがいた。

 ルシアーナ様が静かに語り始めた。



 ―イーリス、アイル君のことは本当にごめんなさいね。

 システィアはアイル君を試すために、何かを仕掛けようとしたの。それは間違いないわ。

 でも決して毒なんて指示はしていない。それは色々なことが重なって起きた事なの。

 えぇ、言い訳にしかならないけど。

 ロルフがあなたたちを守ろうとするのであれば、事情だけは知っていなくてはならないの。

 少し長くなるけど。


 ラルフはロルフの従弟、システィアの妹の子よ。

 結婚せずに子を成したわ。相手は公爵家の奥様よ。

 知っていると思うけど、公爵家は王族が継承権を放棄して民間人となる際に賜る一代限りの爵位。子供は継げないわ。

 でも偶然のいたずらというのかしら、公爵の地位を賜った2人が婚姻してしまったの。

 先代の王の年の離れた弟と娘よ。

 どちらも継承権を放棄して公爵位を賜った後に結婚したの。

 爵位を持った者同士が結婚すると、もう一つの爵位は保留となって例外的に直系の子が継げるわ。

 本来は一代限りの公爵位が子に継げることになった。

 そしてラルフの母はこの先代の王の娘。現王の姉で、ラルフはその人の子なのよ。


 分かるかしら?ラルフは生まれながらに公爵位を継げる立場になったの。

 もっともラルフよりもかなり年上の子がすでにいたのよ。だからその子たちのいずれかが公爵位を継ぐと思っていたの。

 でも、現公爵様、ラルフのお母様の旦那様ね、はまだご健在で。

 公爵家にいれば貴族でいられる。だから急いでいなかったのね、もう一つの公爵位については保留のまま奥様は亡くなられたの。

 すると問題が起きたわ。後継を指名できる唯一の人が亡くなった。するとその指名権は旦那様に移る。

 公爵様はその指名をまだしていないのよ。

 奥様には子が4人いて、ラルフ以外の3人はすでに子がいる。そう孫ね。

 でも継げるのは子どもだけ。


 ラルフは公爵になる可能性がまだ残っているの。

 えっ?あぁそうね…。貴族法に詳しくないあなたには分かりにくいわね。

 そもそもなぜラルフが公爵家の息子だと分かったのか、よね。

 それは貴族院に届け出る時に、両方の貴族家を記入するからよ。両親がどの家なのか。

 ラルフはもしかしたら…私たちの子供として届出をしたら、ごく普通に侯爵家の子で通せたかも知れないわ。

 でも、システィアと話をしてあくまでも妹の子として届けたの。もちろん、虚偽申告は処罰の対象よ。それだけでなく、将来その子たちが結婚出来る道を残したかったの。


 当然だけど親子や兄弟姉妹は結婚できないわ。でも特例があって、5才以下で養子となった子は後に養い親や養い先の兄弟姉妹と結婚出来るの。

 その可能性を残そうって。

 そしてラルフの強い思いで、2人は結婚したのよ。それが良かったのか、今となってはなんとも言えないわ。

 ロリィには望まない形で…。


 えぇそうね…話を戻すわね。

 届出をしたのよ、侯爵家と公爵家の息子と。その後、私たちの養子にしたの。だからラルフが公爵家の子であることはきちんと貴族名簿に登録されているわ。当事者の貴族家は名簿を閲覧出来るから、あちらも把握していたのね。


 今までは何も連絡すらなかったわ。でも…。

 公爵様もそろそろお歳だし、奥様の保有してしていた公爵位の後継を近いうちに指名すると宣言したそうよ。

 その後、立て続けに3人の子どもが亡くなったの。1人は事故で、1人は病で、1人は…分からないわ。


 直系の子がラルフだけになったの。でもラルフは次期侯爵として届出されている。爵位を継いだ子には新たな爵位は継げないから、ラルフが次期侯爵となるなら、継承権はまた保留となって孫に引き継がれる。

 だから、ラルフに子をもうけるな、と連絡がつい最近あったのよ。争う人間は少ない方がいい。

 そして確かにラルフが侯爵を継ぐようにと。


 ラルフにはロルフとの子を成さないよう話をして了承させたわ。きっと泣いてたでしょうね。大好きなロルフと自分の子を諦めなくてはならなくて。でも、公爵家の後継争いに巻き込まれたくなかったのよ。子どもが可哀想だわ。

 奥様の子どもみたいになるかもしれないから。

 それに、我が家にはロルフの子が成ったわ。ラルフには悪いけどもう侯爵家は安泰なの。


 でもあちらは心配だったのね、ラルフが侯爵となるのを確認する為かしら?公爵家から使用人を雇うよう要請があったわ。

 どこで聞いたのかしらね?ロルフが次期侯爵になると。もしくは可能性だけか、そもそもそれすら知らずにロルフが居なくなればラルフが侯爵になると思ったのかしら?

 ロルフの子、直系の子がいるのだからラルフが侯爵になることは無いのに。

 でも流石に子どもが成ったことは知らなかったのでしょうね?


 ふぅ、長い話になったわね。

 今回の事は公爵家のお家騒動で、私たちも巻き込まれたのよ。

 アイル君が侯爵家にいたのはロルフがいるから。偶然でもあるし、必然でもあるの。

 だから本当にごめんなさいね。

 ただ、これでもう公爵家は我が家に強く出られない。こちらは証拠も犯人も握っているから。


 アイル君がどこまで分かっていて、わざと毒入りの食事を食べたのかは分からないわ。でも、ロルフは守られた。だから、本当にありがとう。

 その公爵家の騒動に乗ってあなたたちを試そうとしたシスティアを私は許さないわ。


 でもどうかロルフを嫌いにならないで…この子はただ純粋に、アイル君を想っているだけなの。

 私たちの選択が間違っていたとは思わないけれど、あなたたちをこんな風に巻き込んでしまって…。

 苦しかったでしょう。そうまでして、アイル君はロリィを守ってくれたのね。

 私はその想いに応えたいわ。アイル君が望むなら、ロリィは侯爵家を出て伯爵を継がせる。

 私の領地はもっと南にあるの。温暖でいい所よ。少し田舎だけど、そこでロリィとあなたたちと静かに暮らしてもいいわ。

 だから安心して。私はいつでもあなたたちの味方。ロリィとともに守るわ。―



 ルシアーナ様は語り終えた。僕は何と言っていいか分からなかった。ラルフ様も生まれながらに過酷な運命を背負っているのだと感じた。

 それでも生きられる保証があり、そばにロルフのような兄がいたのは充分に幸せだ。

 18までという命の期限を設けられた僕や、1人で違う世界に飛ばされた孤独なアイとは違う。彼には兄も両親もいて、貴族で食べることにも困らなかった。


 アイ、君はどこまで気が付いていたの?僕が解毒剤を君に飲ませることはもちろん、計算に入れてたよな?

 そんな役割を僕にさせるなんて酷いよ。

 信頼の証であっても…。

 まだ目を瞑っているアイの頬を撫でる。君は自分以外には過保護なのにね。


『それがアルだから…』

 ハクが言う。分かってるよ、でも。


 馬車は静かに進んで行く。




 やがて馬車が止まる。

「皆様、到着しました」

 リベラが馬車の扉を開ける。

 ルシアーナ様に続きロルフ、そして僕が降りる。

 目の前には離れというには立派なお屋敷が建っていた。


「ルシィ!」

 女性がルシアーナ様を抱きしめる。

「ノエル、久しぶり!」

「本当に、ちっとも会いに来てくれないから」

「息子とその友人たちよ」

「ノエル叔母様、ロルフです。ご無沙汰して…」

「まぁ、ロルフ?立派になって」

「そちらは友人のイーリスとアイル」

「寝てしまったのかしら?」

 アイルを抱いているイーリスを見て言う。

「体調が優れなくて」

「まぁ、大変。すぐ屋敷に。お医者様は?」

「大丈夫よ、ありがとう」


 朗らかなその女性が従姉妹なのだろう。

「ルシィ落ち着いたら本館に来てちょうだい?皆さんはゆっくり休んで」

「えぇ後で行くわ」

「ありがとうございます」

 さっそくリベラの案内で離れに入る。中も立派だ。

 エントランスから階段を上がりリベラに案内されて客間に入る。

「ここは、隣が私の部屋で…扉で繋がっている。いつでも行き来出来るよ」

「疲れたでしょ?イーリス。ゆっくり休んで。昼食は部屋に運ばせるわ」

「はい、ありがとうございます」


 ロルフは自分の部屋には行かず、ベットに寝かせたアイのそばに座る。その髪を撫でジッと顔を見つめている。

「顔色…良くなった」

「体は大丈夫な筈。アイ…早く起きて」

 そっとおでこにキスをする。

 僕はロルフを見る。

「少し話をしても?」

「もちろん…」

「ロルフは、ラルフ様のことをどう思ってるの?」

「…弟」

「どうしたい?爵位とかアイのこと、ラルフ様のことも」

「まだ…何とも。侯爵を継ぐことは、アイリーンがいるから決まった。ラルフとの子を設けない話は、公爵家から打診が無くても…そうしたほうがいいと…考えていた」

 

 少し考えてまた言葉を繋ぐ。

「ハク様の子と、兄弟になるアイリーンは…リツが守護している。だから…」

「ラルフ様とはどうしたい?」

「ラルフは弟で、それ以上ではない。でもラルフの思いは、受け止めたいと思った、あの時は。今は…お母様が言った通り、伯爵でもいいと思うよ。公爵家との後継争いに、アイリーンを…巻き込みたく、ない」

 ロルフは、ラルフよりアイとアイリーンを取るという宣言でもある今の言葉。

 アイはどう思うのかな?



 アイのまつ毛が震える。ゆっくりとその目が開く。何度か瞬きをして僕を見てロルフを見る。

 ハクとナビィが走ってベットに飛び乗る。

「ぐふっ…お腹に乗らないで…」

『ごめん』

「もう…いつも言ってるのに…」

『でもアルが悪いよ』

『そうよ、自分で毒入りの食事を食べるなんて…』

「…」

「アイ」「イル…」

 アイはサッと目を逸らした。


「アイ?」

 そっとこちらを見ると目を伏せて

「ごめんなさい」

「何で僕が怒ってるか分かる?」

 上目遣いで見てもダメだよ?可愛いけど。

「多分…」

「言って」

「分かってて毒入りの食事を食べたから?」

「それだけ?」

「1人で解決しようとしたから?」

「それだけ?」

「…」

「アイが()()()()()()()()()()()、そのことを怒ってる」


「そんなつもりじゃ…」

「無意識?どうしてアイは…」

 僕は涙が溢れて来た。アイはいつもそうだ。自分が我慢するのも、自分が傷付くのも気にしない。それが守りたい誰かのためなら。

 でもそれじゃダメなんだよ。

 どうしたら分かってくれる?アイは自分の命を軽く見ている。多分、無意識に…。

 アイが一緒じゃないとダメなのに。僕だけじゃダメなのに。


「イル…君が私たちを守りたいと、思っているのと同じくらい、私たちもイルを…守りたいと思っている。イルが傷付くなら、自分が代わりたいと…」

 そこで言葉を切る。

「君が君自身を大切にしていないのは、何故?自分なら傷付いてもいい、と思ってるから?傷付いても、治せると思っているから?」

「…」

「イルが自分たちの為に傷付いて、僕たちが何も感じないと思っているの?()()()()()()()()()


 ロルフはアイをジッと見る。

「私が君の為に傷付いて、君は平気なの?」

 アイが青ざめる。

「そんなつもりじゃ…」

「同じこと…同じことなんだよ…」

「…」

 アイは涙を流す。

 ロルフはその涙を拭いながら

「泣かせたくない…()()()()()()

 優しく頬を撫でる。とても優しく、まるで壊れ物を扱うみたいにそっと。

 アイは涙を流しながら俯く。涙はしばらく止まらなかった。


 そしてロルフの目から涙が零れ落ちた。




ロルフは子爵位待ちですが、個人で叙爵された爵位

だから親の爵位を継ぐことが可能



※読んでくださる皆さんにお願い※


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