172.秘密の話2
部屋に帰ってから気がついた。私のことを詳しく話すつもりだったんだって。
イリィに言うと
「時間があるか聞いてみたら?」
夕食は午後6時からで今は8時。まだ大丈夫かな。
(ロリィ聞こえる?)
(…聞こえるよ)
(話したいことがあったんだ)
(私の部屋に来て)
(いいの?)
(リベラに、案内させるから)
(分かった)
「ロリィの部屋に来てって」
「分かった」
「イリィはもう大丈夫なの?」
昨日は貴族の私室なんて無理って。
「ロルフだから…」
分かるかな。でもラルフさんは尋ねてこないのかな?
とそんなことを考えながら、夕食はお留守番だったハクたちにご飯をあげながらモフっていた。
食べてる時は動けないからな…背後からお尻の匂いを。うん、しっぽも良きもふもふだね。撫でり撫でり。
部屋の扉が叩かれる。イリィが開けると
「ご案内します」
行き先を言わないあたりが流石だな。多分、色々な配慮だ。
貴族の家は応接間、客間や食堂、執務室などが1階。家族の空間である部屋、居間とか寝室、書斎は2階というのが一般的らしい。
ちなみに私たちの客間と言われた部屋は家族用の客間だ。親類とか近しい人が来る時用。
1階の客間は完全な他人用らしい。
リベラが部屋の前で止まり、扉を軽く叩く。ロリィが開けて招き入れてくれる。
リベラはサッと紅茶を入れて退室した。
「個人の時間なのにごめん…」
「何も…それにお風呂も、一緒に入りたかったし」
「ラルフ様は?」
「父上の名代としてダナン様の所に」
「王都行きの打ち合わせ?」
頷く。それでお風呂か…。
「それなら良かった」
「イルの話の前に…私から」
なんだろ?
「私たち以外の人がいる前で…ジョブやスキルは今後、使わないで…」
「僕たちだけなら構わない。でも」
「でも、例え父上と母上であっても…」
どういう事?2人の顔を交互に見る。真剣な顔だ。
「私とイーリスは何よりも…イルの味方だ。でも父上は親である前に、侯爵。分かる?」
それは、人としての判断と侯爵としての判断が一致するとは限らない?
「気持ちはどうであれ…非情な判断を迫られる時がある」
「僕たちは違う。アイの為に他を犠牲に出来る。でも…」
「立場があるということは…責任を伴う。最もイルの能力は我が侯爵家には利点しかない。でも、なるべく危険に晒したくない…」
「僕もカルヴァン侯爵家が敵対するとは考えてない。でも知る人が増えると、危険もそれだけ増えるということだよ」
「そう…父上たちもイルを全力で守ろうとしてる、けど…イルに自覚がない。分かって…イルを守りたい…」
「僕たちは責めてるんじゃない。ただ心配なんだ」
そう言う場面で、私はやっぱり異物なんだと思ってしまう。銃だって、そう。私はあちらの知識もあるし、色々と実現出来る力もある。当たり前に出来てしまうから加減が分からない。
何が普通で何がやり過ぎか。
やっぱり私1人ではダメなんだな…どうしたらいいの?普通が分からないよ。途方に暮れる。異質な存在であることをまざまざも見せつけられる。馴染みたいと思うのに、誰かのためにって思うのに…。
物思いに耽っていたら両側から抱きつかれた。
「もっと頼って…」
「何でも聞いて…」
「「守らせて…アイを」イルを…」
イリィ、ロリィ…。それでいいの?
でも…自分が分からないなら…そうか、そうだね。律の言う通りだ。頼ってるようで頼ってない。1人でダメなら2人で、2人でダメなら3人で…そうだね。
顔を上げてイリィとロリィを見る。
「守って…頼りにしてるから」
イリィとロリィはとても優しく微笑んだ。そして両側からキスされた。恥ずかしい…。
「イルの話は…?」
イリィと顔を見合わせる。
「アイのやり過ぎの原因というか、根源というか…」
私はロリィの目を見て話始める。
転移のこと、ジョブやスキルについては話をしていたけど。遠くの故郷がどういう国かまでは言ってなかった。
聞き終えてロリィは
「やっぱり…」
と呟く。やっぱり?
「ユーグ様が…こちらに根付く必要があるからと。こちら、は多分ここ。ならあちらがある…そのあちらは違う世界…しかもこことはかなり、水準が違うね?」
やっぱりロリィは賢いな。その言葉だけであちらの世界を思い浮かべるなんて。
「…なぜ選ばれたかは?」
「分からない…でも多分」
イリィが不安そうに抱きついてくる。
「私を生かすため…かな」
ロリィは凪いだ湖面のような穏やかな目で静かに私を見る。
「ナビィはあちらから?」
頷く。
「あちらで天寿を全うして…私に会いたくて…神様にお願いして、試練を超えてこちらに」
「愛されているんだね…」
「私もとてもとても大事にしてて…馬車で小さくなってたあの大きさだったんだよ、あちらでは。小さくて柔らかくて本当に可愛い子だった」
「大きくなったんだね?」
「うん。アリステラ様の使徒として…試練を超えて、あの地下洞窟で、あの時に私を見つけたんだ。違う国に落とされて、危険な目に遭ったりもして。それでも精霊や妖精たちが助けて、私の元へ導いてくれたんだ」
ロリィはもう驚かない。
「だからイルは…柔らかな印象なのかな…きっと平和な世界で育って」
ロリィは少し考えてから話し出す。
「世界渡りという現象が時々起こる、と古い文献にある。行った者はなく、来るだけ…。そして来た者たちは産業の発展に寄与したと言われる、と。かなり昔の本で…研究者の中でも意見が割れていた…。事実ではない、とか御伽話だ、とかね」
やっぱり過去にもいたのかな。
「本当の話だと思う。やっぱり過去にもあったんだ」
「帰りたい?」
少し考えて、首を振る。
「今はもうこちらが私のいる世界だから…帰りたくない、とは思わないけど。帰れても戻れないなら…帰らなくていい」
ロリィは優しく微笑んだ。そして
「お風呂…」
「…」
やっぱりなんていうか、ロリィはロリィだな。
そして、今日のお風呂もなかなか刺激的だったよ。何が、とは言わないけどな。
お風呂から出たら客間でお留守番しているはずのもふもふたちが集合していた。
なんで?
『転移したよー』
「…ハク。そこに座って…」
『座ってるよー』
「この間も言ったよね?なんでまた…いい?やり過ぎはダメって言ったよ。転移とか簡単に言ったらダメでしょ?ハクの為なんだよ。また狙われたらどうするの…あれは確実に私たちを狙っていたんだよ?」
『でも便利だよ!ナビィが空を翔けるより早かった』
「めっ!便利なだけで使わないの!」
「「くふっ…」ふっはっ…」
笑い声?後ろを見ればイリィとロリィが口を開けて笑っていた。
何か笑うことあった?首を傾げる。
「だからアイ…ぐふっ…アイがやり過ぎを語るなんて…」
目に涙を溜めてまで笑うこと?イリィ。
「イル…くふぅ…ちょっと無理」
崩れ落ちてまで笑うこと?ロリィ。
ひとしきり笑ってから2人とも立ち上がった。イリィも笑いながら崩れ落ちてたからな。
「さっき僕たちがアイに言ったことと同じだしね」
ぐっ…確かに。でもそれはそれ、これはこれ!
ハクにお説教の続きと思って振り返ったら人型になってた。服は来てくれてるな、良かった。裸は困るからね。いや、良くはないか?
なぜかブランとナビィまで人型だけど。
「アルの秘密を話したのならもういいよね?」
何がどういいの、ハク?
「僕もロルフに抱っこして欲しい…」
ブランちゃん、美少年の上目遣いやめて?
「仲良くしたい!」
誰とどう仲良くなのかな、ナビィ?
「凄い!聖獣や精霊が人型になってる…!文献で読んだよ…」
ロリィはものすごく興奮してた。
素早くハクのそばに行ってその髪を触り顔を撫で体を触る。しっかりと観察しながら形を確かめるように…。側から見てると凄いエロいんだけど、どこまでも真剣だ。
「脱ぐか?」
「あぁ頼む」
やめてやめて…ハクも服を脱がない。ロリィも残念そうにしないの。
「僕はアイとしか交わらないから…」
頬を染めてそれを言うの!
「裸を見るだけならいい?」
ロリィもなぜ裸を見たいの?
「アルがいいって言えばね」
ロリィが凄い勢いで振り返ったよ。まぁハクが良ければ?
「今日はアルと交わるから…横で見てもいいよ」
ハクが宣言する。えっ?皆いるから無理だよ。横で見てってダメダメダメ…恥ずかしいよ。
「いても僕は平気」
ロリィ、私が平気じゃ無いから。
「じゃあ僕がロルフと交わろうかな」
ブランちゃん…なんでそうなるの?まぁ交わるのは魔力だけど。
「なら私はイーリスと…」
ナビィ…だからなんで皆で交わる話なの?魔力だけどさ。
「交代すればいいんじゃない?」
ハク、何言ってんの?(心からの叫び)。いやまあ、交わるのは魔力だよね…。
「ならイーリスとロルフも交われば?」
え…それはちょっと見てみたいかも。美形×美形。きっと眼福な筈。
「ご主人がいいって…」
ブラン、まだ言葉にはしてないよ!
イリィもロリィも驚いた顔で見つめ合ってからイリィが頬を染める。んっ?有り?有りなのか…。ロリィは困った顔をする。
「僕らは、森人は子が残しにくい種族で…だからその、ロルフが嫌じゃなければ…兄様たちと…」
あ…兄様たちね。
「…考えておくよ…」
でもそのさ、ラルフ様は?ロリィが私の目線に気が付いて
「ラルフの話はまた、明日にでも」
と言われた。
結局、その日はロリィの部屋(ベットは何人寝れるのってくらい大きい)でくっついて寝るだけにした。皆の前でハクと交わるとか無理だからね。
夜中にイリィが耳元で、アイ…我慢できないと呟いて、触れて…と消えそうな声で言う。イリィの手に導かれるままにその体に触れる。
あぁ、これは辛いだろうな…私は淡白なのか、変わらず朝も沈黙してる。けど、イリィは普通にね…だからこれは、ね。いいよ…楽にしてあげる。
気が付いてあげられなくてごめんね…優しく触れていくと耳元で
「ア…イ…んっ…」
私にしがみついて…体を震わせた。
「アイ…僕は、重い?」
「そんなことないよ」
その髪を撫でる…好きな人に求められて重いはずない。
「好き過ぎて…」
そう言って、私の胸に顔を埋めて…やがて寝息が聞こえて来た。
その頭にキスして小さくおやすみイリィと囁いた。 私も目を瞑っていつの間にか眠っていた。
目が覚めると淡い金髪と濃い金髪。ロリィはすでに目を開けて私を見ていた。
「ロリィおはよう」
「おはよう…」
そして私の唇を細くて長い指でなぞる。
「昨日はイーリスを…」
えっ…頬が染まる。何で?
ロリィの手が私の頬を撫でる。
「私にも…性欲はある、よ」
そっと頬にキスされる。イーリスがもし認めてくれたら…その時は。と耳元で呟いた。
ロリィはやっぱりどこまでも誠実なんだな…するといつの間にか目を覚ましていたイリィが
「ロルフなら…。不思議なんだ。アイを取り合うとかではなくて、同志みたいな感じ。だから、いいよ?アイが受け入れるなら…でも先に僕と…ね?アイ」
そして朝から2人の愛を受け止めたのだった。なぜこうなった…?
何故こうなった
全然話が進まない
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