171.秘密の話
「だから、ロルフの家なら信用出来る。彼にはアイとの子がいるから」
そうだった。私を家族だと言ってくれたロリィ。そしてシスティア様とルシアーナ様。ラルフ様はまだ信用出来ないけど2人なら。
「そうだね、分かったよ。私は黒糖のことで少し助言をしようかな」
イリィは頷くと私の頬を撫で
「アイが僕を守ってくれるし、僕もアイを隣で守るからね」
だから大丈夫、そう耳元で囁いてキスをされる。髪を愛おしそうに撫でてふわりと笑った。あぁきれいだ…。
ハクが体を起こして窓を見つめる。
『帰って来た』
私は慌てて窓を開ける。ヒュンと風が吹いて肩にブランが止まった。ほわほわの胸毛を頬にすり寄せてくる。
「ブラン、どこへ?」
イリィもそばに来て聞く。
『シア兄と森にー』
えっ森って白の?遠いよね…。
「疲れてる?」
『うん…ご主人、(魔力循環)して!』
えっ今なの?それと、言い方ね!
『かなり疲れてる…休みなく帰って来たようだし』
ハクがニヤニヤと言う。
『だって…ご主人の魔力が乱れたから』
私の魔力暴走か…それは申し訳ない。
『ご主人ー』
そのまま肩で蹲ってしまう。私はブランを抱えてベットに上がると、ブランが人型になって抱きついて来た。その細い体を抱きしめる。体を触れ合わせるだけでも充分だろう。
いや、ブラン…服は…素肌が触れ合わないとダメ?分かったよ、それなら、あぁ下履きはそのままで…。
えっ、より密着しないと?でも…あぁ泣かないで。分かったよ、ほら脱いだからね。これでより密着出来るよ。
ん?疲れてるんだしそれは…待ってだから…全身隙間なくぴったりとくっつかないと立てない?
それなら仕方ない、あっだからそれは、待って待って…んんっ…ブラン…。
仰向けの私の上にピタリとその体を乗せて、隙間なく密着するブラン。色々と当たってるのに、なぜか下半身を揺するから。
しかも
「ご主人は相変わらず、下手だね?もっと細く緩く長く…だよ、そう。う…ん、はぁ、気持ちいい…。あ、まだ早いよ、もっと頑張って…」
翻弄された私だった。いやね、言葉がさ…ナニしてるのって感じだよね?魔力循環してるだけなんだけど。
そしてブランは…元気いっぱいになったのだった。
服を着てブランもいつものサイズに収まってホッとした頃にシスティア様たちに呼ばれた。
また皆でゾロゾロと移動する。案内はリベラさんがしてくれた。
居間にはシスティア様とルシアーナ様が座っていた。
「疲れているのに悪いね」
「座ってちょうだい」
イリィと並んでソファに座る。ハクとナビィはそれぞれソファの上に顎だけイリィと私のお膝、ベビーズは私とイリィの膝の上だ。
「さて、何から話そうか…まずはイーリスかな」
少し間を置いてルシアーナ様が言った。
「ねぇ、多分なんだけど…あなたがフードを取らない理由はあなたの顔ね?かなり前だけど…フィーヤの貴族が捕まったのよ。その頃、風の噂でとんでもなく可愛い子が白の森にいるって…」
イリィは頷くとフードを外して認識阻害も解除した。2人は驚いている。
「「なんとまぁ」」
でもまだだ。
「アイ、君のも外して…」
2人はえっと言う顔をした。そう、私しか解除出来ないもう一つの認識阻害がかけてある。普通の森人より少しだけきれいに見えるよう。
本当のイリィは比較にならないからね。
「いいの?」
多分、私がかけたこの認識阻害は外したことがない。ロリィも見たことがない。
イリィは頷く。渋々解除した。
すると
「「「…!」」」
声にならないようだ。まぁそうだろうな。だって次元の違う美形だから。
森人は容姿に優れた人が多いと言う。ファル兄様たちも大変な美形だ。だからファル兄様たちより少し美形にするだけでも充分なのだ。
そもそも森人は森からほとんど外には出ない。さらに、生まれ付き認識阻害のスキルを持っている。
たいていの人はその本当の姿を知らない。だから、私の認識阻害は敢えて外さなかった。
だってバレないし。
なのにイリィが外してって言うから…私だけのイリィでいて欲しいのに。
「これはまた…凄まじいな…」
「絵画のようだわ」
「本物…?」
その気持ちも分からなくはない。精巧な作り物のようにも見えるほどの美形だからな。
最も私の目にはありのままのイリィがいつも見えてるんだけど。ドヤッ。
「これが、フードを取らずにいる理由です」
その声も本来のなんとも心地よい音として聞こえるだろう。普段は少しだけくぐもったもうな声に聞こえてる筈。私にはいつもこの声素敵なだけどな。再ドヤッ。
「重ねがけ…出来るんだね」
ポツリとロルフが呟く。ん?隣でイリィが笑う。
「ロルフもブレないね…僕の顔を見て本物って…。その次にはスキルの話とか…」
まぁロリィだし。
「昨日だって、僕の裸を見て究極の人体見本に出来そうだなんて…」
くすくす笑う。システィア様たちはため息を付いている。
「まぁロリィだから」
「僕の体をじっくりと見てるのに、イヤラシさが無い人は2人目だよ?大抵は舐めるように見てくる」
「1人目は?」
「もちろん、アイ。そもそも見ようとすらしなかった」
それはね、だって男性の裸は…少し前まで女性だったし。
「アイ、お願い」
そしてまた私の認識阻害をかける。イリィのはすぐに掛け直されてたからね。
「ん、アイル…君は知っててやってるのか?」
何を?
「知らない筈」
とロリィ。
「スキルの重ねがけはね、出来ないのよ」
ルシアーナさまが真剣な顔で言う。
えっ?出来るよ…今だって普通に重ねたし。
「自分がかけたスキルを重ねがけは出来るわ。でも人
がかけたスキルには重ねがけが出来ないのよ、普通は」
「母上…アイだから」
「分かってるわ、でもとても危険よ」
「そうだな、知らないことが危険なんだ」
そう、なのか…?イリィを見るとそっと目を伏せた。知ってたの?また私だけ知らない…。
「アイ、ごめん。知らなくてもいいと思って言わなかった」
泣きたいよ、もう。やっぱり私はこの世界の人間じゃ無いから?なんか、やりきれない思いが苦しい。
「ごめんね…アイはやることを否定されたくないと…」
するとロリィが私ごとイリィを抱きしめる。
「これからは私もいる。泣かないで…2人とも。侯爵家は安全…私が領地を継ぐから。守るよ…」
ロリィが継ぐの?涙目でロリィを見ると、その話はまた今度…と言われた。
「んんっ…その、アイル。少しずつ、知っていけばいい。我が侯爵家を上手く使いなさい。攻撃ならいつでも受けて立つさ。我が領地は簡単に揺らいだりしないよ」
「そうよ、ここは国の食糧庫と言われてるの。簡単に敵に回したりは出来ないわ。安心して…歯向かうなら潰せばいいから」
2人とも優しいお顔で凄いこと言うね?でも凄く有り難い。
「お父様、お母様…ありがとう。守って下さい…」
涙目で、震える声でそう言ったアイル。
お父様…守って…ぐぅ、可愛い。
お母様…守って下さい、はぅ…可愛い。
その言葉で2人が密かに悶絶したことをアイルは知らない。
「さぁ、イーリスの話は終わりだ。アイル、あの甘味なんだが」
雰囲気を変えるようにシスティア様が明るく言う。
「あれは私が作った道具が必要で…後でこちらの料理人とソマリに渡します」
「そうか、その道具も意匠登録だな。作り方は使用登録にしよう」
そういえば黒糖があるなら黒蜜も作れるか。寒天は確か天草がいるから、ならゼラチンでプリンとかは?黒糖掛けて食べる。後は牛乳寒天かな、使うのはゼラチンだけど。食べる時に黒蜜をかけたら美味しい。
ここは乳牛の産地だし。
ここにいるのは後、丸2日だから、その間に色々と伝えよう。
鱒の保存も出来るなら旅に持って行きたいし。
「他にも教えておきたい甘味があるので、良ければ明日にでも料理人の皆さんと厨房をお借りできれば」
「もちろんだよ」
「商業ギルドの登録員が来たら呼ぶから」
「イリィは?」
「イーリスは私と…石とダイヤモンドの加工について相談に乗って」
「加工は僕ではなくアイじゃないと…」
ダイヤモンドは硬いからな。ん、でも炭素が密接に結合してるから硬いなら、隙間を作ればいいのでは?
結合を部分的に解くというか、そんな感じで。
ポーチからブラックダイヤモンドをだす。原石だから形はいびつだ。これを宝石でよく使うブリリアントカットにしてみる。内接する最大の大きさで、残りは要らないからそこの炭素結合を壊して…炭素同士の結びつきが緩まったらカットすれば、出来た!
ちょっとドヤ顔でロリィを見ると、長いまつ毛を揺らして驚いている。
「…イル…一体何を?」
「組成の結合を緩めた?」
「ごめん、分からない…」
「うんと…ダイヤモンドが硬いのはその組織?主成分が固く結合しているからで、だからいらないところにあるその結合を緩めて、カットした」
「…ダイヤモンドも結晶?」
「主成分が炭素って言うんだけど…それが単一で構成されてるから結びつきが強いんだ。同じ太さの縄を結ぶのと、太さの違う縄同士を結ぶのの違い、かな」
「それは分かりやすいな。単一だから強い。それを切りたいところだけ緩めるんだね?」
「はい、お父様」
「でも、原理は分かっても普通は出来ないよ…」
「そうね、どうやって緩めるのかしら?」
「炭素に隙間を作るように、その部分を壊すだけ」
「…」
「アイ…」
ん?あぁ、洞察力が無ければ分からないか…。あ、それなら。私はいそいそとポーチからピックを取り出す。
(ビクトル、これでダイヤモンドを切れるかな?)
問いかける。
(ピックに炭素を壊す機能を付ければ切れる
使用者の制限をお勧めする)
なるほど…?ピックを握って
炭素を壊して思い通りの形にするような機能を想像して…切った面は滑らかに。ケガしたら危ないからな。後は私が自ら渡した人にしか使えないように。
後は、指に刺さらないように防御かな。
出来た!2つ作ってイリィとロリィに渡す。
「これで切れるよ」
「…」
ロリィがポーチからダイヤモンドを出してピックを当てる。スッ…。おっ、成功だね。良かったよかった。心の中でビクトルとハイタッチをしたのだった。
「アイ…」
「イル…」
えっ?何かな。首を傾げて2人を見る。
「アイル…いや、凄いな」
「そ、そうね…でも誰でも使えるの?」
「私が使っていいと思って渡した人だけ」
なぜかホッとした様子で
「ならまぁ…」
「大丈夫、かしら」
「それを使えばすぐ形に出来るよ」
「そうだね、ありがとう」
良かった。ふふふっどんな作品が出来るのか楽しみ。
こうして明日の予定は決まった。そのまま少し話をしてから部屋に戻った。
ロリィと別れる時にイリィと何か話をしていた。珍しいな?
さて、今日も疲れたから早く寝よう。
※読んでくださる皆さんにお願い※
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