168.やっと着いた
目が覚めるといつもの淡い金髪、イリィだ。そして濃い金髪…はロリィ。お腹にはハクのもふもふで、首元はベビースのふわふわ。
うん、よく寝たな。
両側から視線を感じる。イリィを見てロリィを見る。ロリィの長い腕は私ごとイリィ背中に回されている。
珍しいな…イリィは家族以外の人に触れられるのが苦手なのに。
ロリィだって自分から触れることは無さそうだし。
あれ?でも2人とも私には積極的に触りに来てたような…。
人畜無害なオーラでも出てるのかな?
「「くすっ…」」
両側から笑われた。なぜだ…。
ハクが起き上がって体をプルプルする。そして前脚で私の顔を挟むと口元をペロペロする…長いな、まだかな?そろそろ私の唇が腫れそうだよ?
ようやく離れたハク。と思ったら次はナビィのペロペロ攻撃…はぁ長かった。そして皆も起き上がる。
魔法で顔を洗って着替えをしてテントを出る。アイリーンはしっかりとロリィがポーチに収めていた。
すでにリベラとソマリは朝食の準備を終えていた。早い!
椅子に座ると速やかに朝食が出て来た。
オムレツにスープにキビ練り込みパン。どれも美味しい。量もちょうどいいし、やっぱりプロは違うね。
昨日はパンがゆだったから固形物が嬉しい。
ハクたちは足元で同じ食事を食べていた。子供たちには柔らかな食べ物になってる。流石だな。
「ここからフィフスへの分岐まで約1時間…」
「そこでサリーたちを待つんだね?」
ロリィが頷く。
そして、テントを撤収して(一瞬で小さくなる)馬車に乗り込む。
夜通し見張をしていたマルクスは休ませて貰い
「昔取った杵柄ですな…ほっほ」
と言ってリベラさんが御者をした…その背筋の伸びた姿は本職にも負けないくらい堂に入っていた。
馬車は進み始める。フィフスまで後2時間…行きは一瞬だったからな…。私は遠い目をした。
ナビィは馬車の中だ。小さくなれるよーと言って。今までも小さくなれたの?バレないように隠蔽かけて、必死に隠してたのに…って言ったら
『大きい方がアイリにいつでもキス出来るからね!』
だって。その為?なんかやっぱりナビィだなって思ったよ。可愛い。
ロリィの馬車にはロリィとその膝には小さくなったナビィがデンと乗っている。ハクはあごをロリィの太ももに乗せて座席に乗って寛いでいる。
向かいにイリィと私。ベビーズは私の膝でもしょもしょしている。可愛い。
今はリツも一緒になって5頭で体に登ったり甘噛みしたり取っ組み合いしたり…見てても飽きないな。
やがて疲れたのか寝始めた。口を開けて固まって寝てるベビーズ。うん、可愛いぞ。そのお腹を撫でる。
イリィは私の手を握りしめて離さない。その横顔を見る。どの角度から見ても完璧できれいな顔だ。なのに…また泣かせちゃったな。
視線に気がついてイリィがこちらを向く。何?というふうに首を傾げる。
私は何も、という意味で首を振る。イリィはふわりと微笑んで握っている私の手をさらに強く握る。
私は大丈夫というようにその手を握り返す。
「甘いな…」
ロリィの声だ。その顔はとても優しい。イリィが
「その、ロルフは悔しいとか感じないの?」
ロリィは躊躇なく
「それはない…イルの気持ちだから」
イリィは少し驚いて顔を赤らめた。ロリィはそんなイリィを見て
「イーリスの気持ちは当然…だから」
少しの間の後、イリィが
「ロルフ…アイとの子の実…を授かっておめでとう」
「…ありがとう…やっぱりイルの目は確か…」
と言ってとてもとても優しく笑った。
「撫でても?」
「もちろん…アイリーンだよ」
「アイリーン…温かい…」
イリィのその目から涙が溢れる。そして…その涙を拭う役目は私じゃない。ロリィが腕を伸ばしてその頬に触れる。優しく涙を拭うと頬を撫でる。
「大丈夫…イルは君だけを見てる…」
イリィはしっかりと頷く。
「ロルフ、一緒にアイを見てて…色々とやらかすから」
「私が表に立てることは、出来る限り…石もダイヤモンドも…」
「うん…貴族であるロリィに頼むしか…」
「君は表には出さないよ…ただ、イルはもう手遅れ…」
「「えっ?」」
「すでに国から問い合わせが…調べたらすぐ分かるし…隠せない。そう判断した…近いうちに父上とダナン様が王都に行く。あ、バージニアも…」
「…」
「あれだけ新規の登録が続いて…全てが画期的。キビの活用法も…さらに黒糖まで。ゼクスを中心に…隠せない、よ」
私は青ざめた。どうしよう…最悪、私だけならまだいい。でもイリィは?イリィはダメだ。
「イル…大丈夫。両侯爵家はそれなりの地位にある。言いなりにはならない…こちらにはハク様やブラン様、ナビィもいる。ダイヤモンドだって…」
ロリィがキッパリと言い切る。
そうなのか…?
『アル、大丈夫ー!僕がいるから。何か無理を言って来たら…潰せばいい』
ハクはしっぽを緩く降っている。良かった…。いや、良くないけど。そうだよね、こちらにはハクがいるんだ。
「ありがとう。ロリィにも迷惑を」
「迷惑じゃない…イルの為に出来ることがある。それはとても…嬉しいよ…私たちはアイリーンの親だから」
そうだった。結婚はしていないけど私たちはある意味、家族だ。
私はロリィに向かって微笑んだ。
『ロルフーもっと子ども欲しいならナビィが相手をするよ!』
パチパチと瞬きをしてロリィがナビィを見る。
『えっとね…』
(待ってナビィ…ロリィはあの事を知らない)
(転移する前のこと?)
(そうだよ)
(分かったー今はやめとく!)
ナビィに念話で伝えた。
『ナビィは妖精みたいなのだから、人型になれるのーだから子どもも作れるよ!』
「ナビィと?でも私は…」
『妖精は人とは違うからねー』
ロリィはナビィを撫でると
「そうだね…覚えておくよ?」
うん、ロリィの対応は大人だな…。ナビィをうまく丸め…こほん、かわして?いる。
やがて馬車が停止する。
扉が叩かれ、シグナスが
「分岐に着きました。サリナスたちがすでに着いています」
「分かった、降りるよ…」
扉が外から開かれて、ロリィが降りる。ロリィの手が差し出されたので私、イリィと続く。
こんな風に流れるようなエスコートが出来るのな…ロリィは生粋の貴族なんだ、と感心した。
先に着いていた荷馬車の近くにサリナスとブラッドが立っていた。
そして知らない人たちが馬とともにいる。軍人かな?
「「おはようございます」」
「おはよう、首尾は…」
サリナスが昨日のことを話す。夕方にはアレ・フィフスに到着し、すぐに探索者ギルドに襲撃者を引き渡したこと。すぐに衛兵隊も呼ばれ、事態を共有したこと。
治癒院に連れて行ったが、処置が出来なかったこと。薬湯を飲ませて現状維持をしていること。私が起きたら何かしらの対応が取れるかもしれないとゼクスのギルマスから言われて、この馬車で連れて来たことなどだ。
私はロリィと顔を見合わせて、荷馬車に向かう。もちろん、イリィとハクにナビィも一緒だ。
すると
「「ロルフリート様、おはようございます!フィフスの町まで護衛いたします!」」
「皆、朝早くからご苦労…助かるよ」
「「ロルフリート様のお役に立てるのなら、これしきのこと!お任せ下さい!!」」
やっぱり軍人だな。
「カルヴァン侯爵家の領軍だよ…隊長自ら来たね」
「…」
それでいいのか?防衛は大丈夫なの?
「指揮系統はしっかりしてるから…」
大丈夫なんだ、凄いな…。
私たちは人払いをしてステップから荷馬車に乗り込む。薬の匂いがした。
症状が重い御者から見ていく。やっぱりまだ体にアレが残ってるな…取り出さないと。
「少し痛いから我慢して」
青白い顔で、でもしっかりと頷く。
「口に布を噛ませて…」
イリィが御者の口に布を押し込む。
私は指先を消毒してから太ももの傷に指を入れる。痛くて暴れる御者をハクとナビィが抑える。そして体内のそれを掴むとイヤーカフに収納した。
指を抜いて浄化すると傷を治るように、と撫でる。全て治すと不自然だからほどほどに。
よし、これでもう大丈夫。口から布を外した御者の顔には赤みがさしている。
「ありがとよ…それからロルフ様、昨日の薬で…俺のかかっていた呪いが、石化の呪いが完全に解けました。ありがとうございます…」
そう言って涙を流した。
「私じゃない…きっと精霊の導き…君の馬も立派だ」
「あぁ…精霊の導き…ですか。俺を庇って…アイツも救って貰って、何とお礼を」
精霊の導き、とは奇跡などの総称の比喩として使われる言葉なんだって。後でイリィが教えてくれた。
私はそのやり取りを聞きながら、ダーナムの治療をしていた。同じことだ。傷に指を入れてアレを取り出す。それで傷をほどほどに治す。傷口の消毒も忘れない。
最後に傷に清潔な布を当てて包帯で縛り、終わり。
「体が…軽い?凄い…」
ダーナムは体を動かしながら呟く。
「まだ無理はダメだよ」
「でも、しかしこれなら…アイル様…ありがとうございます」
深々と頭を下げる。
「様はいらないし敬語も不要だから」
「分かった。助かったよアイル」
そう言うが早いかさっと跪く。肩に手を当てて首を垂れる。正式な軍人の、最大限の礼だ。もっともそれを知ったのはその日の夜だけど。
「頭を上げてダーナム。恩を感じているのなら、少しでも早く元気に…それで充分」
「はっ!」
答えたけどまだ頭を上げないその目に、涙が光っていたことをアイルは知らなかった。
荷馬車から全員で出る。ケガ人の2人には休むよう言ったけど、体が鈍るとか言ってきかず外に出た。
歓声が上がる。
ロザーナと名乗った御者に黒馬が頭突きする。ヨロけることなく抱き止めて、その体を叩いていた。
同じくダーナムの馬も駆け寄り前脚をかいて撫でろと要求。撫でられて鼻面を付けてご満悦だ。
「馬を組み替えて…出発するが、御者は…」
「もう大丈夫ですぜ、コイツもウズウズしてまさぁ」
とロザーナが言えば
「乗っているだけなら大丈夫です。当初の形で行きましょう」
とダーナム。と言うことで、馬車が取り替えられて最初の組み合わせで馬車に乗り隊列を組んで進む。
先頭と最後尾はカルヴァン侯爵家の騎兵、各馬車の横にも付いて物々しくなった。
私たちが乗る馬車には、町を出てから外していた侯爵家の簡易紋章(感謝祭で作ったアイルとイーリスの合作)が取り付けられ、威風堂々としていた。
そこからは順調に進み、ようやくフィフスの町が見えたのだった。
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