17.ハクの首輪
ギルドを出たアイルは探索者用と普段用に服を買いに行った。探索者用はこの間のお店にあったから、そこに向かう。
相変わらずの品揃えだ。つい他のものに目が行きそうになるけどまだ資金に余裕がある訳ではない。見たい気持ちを抑えて服の置いてある一角へ行く。
初期装備は良くあるタイプの服だ。しかし色を変えたとはいえ、全く同じデザインでは同じ転移者にバレてしまうかも知れない。この町には後4人いるはずで、どんな人か分からない以上はこちらが転移者と分からない方がいい。
なので形が違う服を買うことにする。今着ている服はゆったりとしたシャツにダボっとした太ももの横にポケットのあるカーゴパンツだ。
太もものポケットは案外使わないから、普通のパンツでいいだろう。眺めながら良さそうな服を探す。
そして選んだのは生成りの胸に蓋つきポケットの付いたシャツと濃いグレーのスッキリとした細身のパンツだ。ポケットが大きいのが気に入った。同じものを2着ずつ選んで、合わせて皮のベルトも一つ。
合わせて銀貨17枚。痛い出費だけど仕方ない。その店で普段着を売っているお店を教えて貰う。今の店の3軒隣だ。
そちらの店は完全に一般向けで男女用ともに取り扱っていた。入って右側が男性用だったのでそちらに行く。探索者用と比べると色の種類が多いし、形も選べる。最もそんなに着る機会もないので2着程度でいいだろう。
体にフィットするようなシャツとパンツ、寝る時用の頭から被るシャツと緩めのズボン。後は下履きをいくつか。こちらはファスナーもゴムもないらしく、パンツはボタンフライだし、下履きは紐だ。そう、紐パン。違う意味のだけど。
心の中で1人突っ込みをしながら買い物を済ませた。ちなみにお値段は合わせて銀貨12枚。これで服はしばらく買わなくていいだろう。初期投資だと思って諦めた。
ちなみに一緒に連れているハクはご機嫌でしっぽを振っている。こちらではテイマーがいるからか、動物を連れて入っても大丈夫みたいだ。昨日の夜は留守番だったから一緒にいられて嬉しいのだろう。ブンブン揺れるしっぽに目をやりながらお店を出た。
そういえばハクは首輪しなくていいんだろうか…イザークさんにも登録の時、何も言われなかったけど?まだ子犬だから大丈夫とかかな?
でも野良だと思われないようにちゃんと首輪をつけた方がいいだろう。
西門の方に工房があったし、革製品のお店があれば首輪も売っているかもしれない。陽はまだ高いから行ってみよう。
前にここを通った時は素通りしてしまったが、見てみるとなかなか興味深い。
防具の専門工房とか、野営道具の工房とかがある。どこの工房もお店を構えているので既製品を買えるみたいだ。
探している革工房は通りから数軒行ったところにあった。雑多な品が店先に置いてある。何に使うのか分からないようなものもあった。
ひとまず店に入ることにする。間口はそこそこだけど、奥行きがあって思ったよりも広い。
手前は小物関係。小袋とかポーチ、お財布らしきものある。あれは水筒かな?携帯用のウイスキー入れみたいな扁平で少しカーブをしている。色々気になるけど探し物は首輪だ。進んでいくと見つけた。
おぉこれは凄い!各サイズ各色ずらりと並んでいる。それだけで壮観だ。
ハクを見ると
『もしかして僕の?』
しっぽがぶんぶんして、風が起こる。
『そうだよ。私のハクだって皆に知らせるために首輪を付けようと思うんだ』
期待に満ちた目で並んでいる首輪を見る。
『やったーご主人ありがとう!』
『どの色がいいかな?えっと…ハクは雄でいいの?』
『聖獣に性別はないよ!』
え?そうなの??知らなかった。僕って言ってるしてっきり雄だと思ってた。
『性別って概念がないからね。雄でもあるし雌でもあるし。ご主人の好きに思ってくれたらそれでいいよ』
『そうそう、ハク。呼び方なんだけど…ご主人じゃなくて名前で呼んでほしんだけど』
『名前?アイル?』
『そうだよ』
『うーん、どうしようかな?アイル、アイル、イル、アル…じゃあアルって呼ぶね!』
『うん。お願いするよ』
そんな風に首輪を前に黙って犬と見つめあっていたからか、店員が話しかけてきた。
「気に入ったのがないのか?」
ハクとの念話に集中していてお店の中だってことを一瞬忘れてた。慌てて店員の男性を見る。
見た感じは20代前半か、若い。汚れた革のエプロンを付けていて濃い金髪の髪の毛を後ろで束ねている。体も顔つきもしっかりとした精悍な青年だった。
「いえ、たくさんあって迷ってて」
「あぁ、その色を出すのに苦労したんだ。迷ってくれるなら作った甲斐がある」
厳つい顔でそう笑った。黙っていると鋭い目つきのせいで強面だけど笑うと印象がぐっと柔らかくなる。
ってえ?作ったって?こんなに若いのに店主なのか。驚いているのが分かったのか
「俺が店主だよ。ハンスだ」
「探索者のアイルだ」
「その子犬の首輪だな。まずはサイズを確認するぞ」
そう言っていくつかの首輪を持ってハクの首に合わせていく。
ある程度はサイズ調整できるみたいだ。
「まだ大きくなるだろうから、大き目のを選んでおこう。調整できるから脱げることはない。色はどうする?テイマーなら付けるやつの目の色か、もしくは主人の色を付ける」
私はツヤなしの銀髪銀目。ハクは白に少し銀と青い目。私に合わせると毛皮の色と同化してしまう。やっぱりハクの目に合わせる方がいいだろう。
ハクの鮮やかな青い目。それに近い色を探すといい感じのきれいな青い首輪が見つかる。
止まった目線に気が付いたハンスがそれを取ってくれる。
「なかなかいいセンスをしているな、この色は俺の自信作だ」
そう笑って渡してくれた。かがんでハクの首に付けてみる。ハク目の色と同じ鮮やかな青でもふもふな毛に埋もれてほんの少し見えるのがなんとも可愛らしい。
間違いなくどや顔でこっちを見る。うん、可愛い。
「これはアイアンリザードの革を使っているからちょいと高いがお勧めだ。銀貨5枚」
う、確かにお高い。でも可愛いハクのためだ。問題ないと頷く。すると
「実は主人とお揃いになるように剣帯も売ってるんだ」
なんて商売上手な…でもさすがに剣帯は高いだろうし今はいらないかな。
食いつきが悪いと見るとピアスもあるぞと言ってそそくさと奥に入って行く。
唖然として見ているとすぐに手に何かを持って戻ってきた。手にはあの首輪と同じ青い革で作ったピアスとブレスレットだった。
ピアスは片耳だけの吊り下げるタイプで、縦長の不正形な三角で裏面は銀色になっている。
ハクと私の色だ。そしてブレスレットは途中で色が斜めに切り替わっていて、首輪と同じデザインの留め具が付いている。
これは…欲しくなるなぁ。困った。絶対お高い。
うんうん悩んでいると
「まとめて買ってくれるなら少しまけるぞ。そうだな、ピアスはオマケしとくから合わせて銀貨10枚でどうだ?」
うぅまた買えないほど高くないのが憎い。
「じゃぁそれで」
そう言うと店主はにんまりと笑って毎度あり!と元気に応えた。
ちなみにピアスは元の世界で開けていて今もごくシンプルな輪っかのピアスをしている。左耳だけはもう一つ穴を開けていてそこにはシンプルなポストピアス。
店主はそれを目ざとく見ていたらしい。
せっかくなのでその場でピアスもブレスレットも付けてみる。
「そうそう、全部に耐魔法と防汚加工が施されているから」
そう言ってニカっと笑う。まさかの高性能だったよ。
「坊主、また何か入用があったら来な!」
「アイルだよ」
「アイルだな。待ってるぞ」
笑顔で見送られる。
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