164.拠点作り
昨日の夜に投稿する予定だった分です
夜にも一話投稿します
森に着いた2日後、新しい拠点を作るための場所を確認しにお母様と森に出た。
騒めきは少し落ち着いたようだ。やはりエリアスたちだったのか?
「屋敷からもかつてのユウリ様からもほどほどに離れた辺りがいいかと思って」
そう言いながら進んで行く。森の入り口からは遠ざかるのだが、危険性は深く行けば行くほど下がる。
「そうね、この辺りなら。うん、いいと思うわ」
「やはり、地下だよね?」
「ええ、地上はまだ危険だわ」
そこは大木が何本かあって、その間に中木がまばらにある。さらに、下草も生えていていい感じだ。
大木の中の、一際大きな巨木。ここを入口とする。
地下に大きめの空間を作って、各自の部屋に居間と食堂。お風呂も欲しいし、訓練場もあるといい。どうしても体が鈍るからな。
他には、家族用の部屋もいくつか欲しいかな。ロルフ様の客間もいるし、多分だが従者なりを連れてくるはずだ。マルクスもいるし、従者用の部屋もいるな。
しかし、同じ所に住むのは危険だ。入口を分けて、中で限定的に行き来できるようにするか。
その話をお母様にする。
「いい案だけど、魔力が持つかしら?かなり大掛かりよ」
と眉を顰める。お父様たちが着くのはまだ少し時間がかかるはず。なら3日は掛けられると思う。
「3日に分けて作ろう」
お母様は考えて
「それでも難しいわ」
普通なら、そうだほうな。実はアイル君が、魔力が枯渇してどうしようもなくなった時用にと渡してくれたものがある。
水晶のペンダントだ。その水晶にはアイル君を通して自分の魔力を込めてある。
―「念の為なので…全魔力を込めて、倍増させて放出するようにしてある」
「それは全魔力の倍の魔力を収めてるのと同じ意味?」
「はい、あったら安心だから…」―
だから、俺は自身の魔力の3倍までは使える。その為に数日に分けて魔力を貯めたのだから。しかし使い切ってしまうと補充はアイル君にしか出来ないのな、そう言ったら
「あぁ、全魔力の半分を切ると自動でいっぱいまで増やすようにしてあります。だから一度込めたら無限?です」
ふわふわと笑いながらとんでも無いことを言っている。俺たちはペンダントとアイル君を何度も見る。彼は心なしか、嬉しそうに…でもやっぱり恥ずかしそうに笑っていた。
だから、無自覚すぎるだろ!
俺たちの心の声は一致したはずだ。
そんな訳で、俺はたくさん魔力が使える。
「お母様、実はアイル君が…」
「もう何があっても驚かないわよ?」
自信満々なお母様。
「魔力が自動で補充されるペンダントを…」
「…さあ、始めましょう」
流したな?驚かないって言って驚いたな…お母様。
俺は笑いを堪えながら屈んで、土に手を当てる。隣でお母様も俺の魔力をなぞる様に魔力を流す。
「…」
「…終わったわね?」
「…終わったね…」
顔を見合わせて笑う。
「本当にアイル君は…そんなにも彼に助けられてるのね。早く会いたいわ」
そう、俺の魔力によるゴリ押しで…1日で出来上がってしまった。
そうとなればもう移ろう。オークリフにもこの場所は知らせない。これも何となくだ。信用していないとかではない。念のため。
まずはお母様の荷物を運ぶ。アイル君がくれたポーチはかなりの収納力がある。少ない荷物だから、簡単に収納出来た。
次は自分たちの馬を移す。久しぶりの森だからか、嬉しそうに鳴いて草を食んでいる。しばらく好きにさせてから馬房に移す。
そして、エリアスたちだ。それは俺が担当する。オークリフはすでに拠点から離した。
だから俺が彼の部屋を訪ねる。
ベットに腰掛けたエリアスはだいぶ穏やかな顔をしている。
「ここを出る。馬に乗って移動するからな」
頷く。手を貸して一緒に歩いて行く。
「体の調子は?」
「あぁ、食事が美味しいからか…だいぶいい」
「それなら良かった」
アイル君の癒しが効いてるんだろう。話をしていると馬房に着いた。
「パメラ…」
呼びかけられた馬は前脚をかく。早く早くと、呼びかけるように首を上下に振って。
エリアスはよろけながら、1人で歩き馬に近寄る。馬は悪気なく、嬉しそうに頭をエリアスにぶつける。
俺はよろけたエリアスを後から支えた。
「パメラ…くすぐったい…」
馬の鼻息がエリアスの顔に当たる。自然と笑顔になり、馬の首を優しく叩く。
ひひぃぃぃぃーーーん!
よほど大切にされていたんだな…。俺は後ろからエリアスを支えながら、馬の手綱を引く。
外に出るとエリアスと自分を土魔法で持ち上げ、風魔法で体を軽くして馬に跨る。
そうしてゆっくりと新しい拠点に進む。
もちろん、隠蔽と魔力を散らす錯乱をしながら。追えないように…。
拠点に着くと、馬から降ろして馬房に馬を入れる。エリアスは名残惜しそうにパメラを撫でると、俺が支えながら馬房を後にした。
新しいエリアスの部屋は俺たち家族の部屋から離してある。
部屋は小さいが、ベット(アイル作)に柔らかい毛布(アイル作)、魔法の灯(アイル作)に机と椅子(アイル作)。
トイレにシャワー付きの浴槽(どちらもアイル作)だ。洗面台(もちろんアイル作)まである快適空間が出来上がっていた。
「ここが?」
頷く。エリアスは驚いて
「なんて快適な…」
だろだろ…全てアイル君の作品だ。
「本当にいいのか?」
「他の部屋も同じ仕様だから大丈夫だ」
エリアスは真顔で
「本当に、なんとお礼を言っていいのか」
「…俺たちじゃない。全部な」
「?」
「いずれ会うことになるだろう」
それで察したのか
「早く会いたいものだな…その人に」
俺もだ、早く会いたいよ…アイル。
同じようにキリウスも馬と一緒に移した。ワッツ…泣きながら馬の首に抱きついていたな。
馬は賢いから…倒れながら庇ったと聞いた。本当に大切にしていたのだろう。
こうして拠点の整備と引越しは1日で終わった。
その頃、ファーブルたちは…
ヨナは食べ終わると、ご馳走様でしたと言ってペコリと頭を下げた。
しばらく黙っていたが、やがてポツポツと話を始めた。
僕はここよりかなり遠い所から来ました。家族と一緒に。でも離れ離れになって…。僕ともう1人で一緒に旅を続けて、でも魔獣に襲われて…とうとう僕1人に。
それからも1人でなんとか旅を続けて、食料ももう無くて…動けなくなった所をブラックベアに襲われて。
助けて貰って、食事まで…ありがとう…ごさいまし…うっく、ぐずっ…うぅ。
最後に小さくお兄様…と聞こえた。
私たちはそのまま静かに待った。彼をどうするのか、いや、彼がどうしたいのか。
泣き声がやんで、ヨナは顔を上げる。まだ目は潤んでいるが決心した顔だ。
「お願いがあります。あなたたちの目的地まで、僕を連れて行って貰えませんか?」
「私たちは悪い人間かも知れないよ?」
ヨナは首を振る。
「それは違う。僕は人の悪意が見える。あなたたちは違う…それに助けてくれて、こんなに美味しい食事まで…」
「目的地は聞かないのか?」
また首を振る。
「もう、僕には1人で旅をすることは無理だから。どこでも…」
私はそのか細い体を見る。旅の間は満足に食べられなかったのだろう。服は汚れ、髪も汚れすぎて固まっている。
私は
「条件がある。これから君が知り得たことを、決して外に漏らさないこと」
ヨナは驚いて
「それだけ?」
「それが何より重要なんだ」
彼はしっかりと頷く。
「なら決まりだ。よろしくな、ヨナ」
「よろしくお願いします」
深々とまた頭を下げた。
私はその体を抱き上げると
「まずは体を洗って、服を着替えよう」
しかし気まずそうに
「荷物はない…です。その、着替えも」
俯いてしまう。
「大丈夫だ、予備の服がある」
―「ファル兄様、これ…妖精の蜘蛛がくれた糸を使って、他に綿を混ぜて混紡にした布で作った服で。えっと、大きさは自動調整するので。自分たちなら着れば勝手にちょうど良くなって、他の人ならその人に合わせるようにって考えたら調整されます。もしかしたら、困ってる人がいるかもしれないし…」―
そうふわふわと笑いながら渡してくれた服が何着かある。全く、アイル…君って子は。さっそく役にたつよ。
―「あ、それからきれい玉を使えないような場面ではその簡易シャワーを使って貰えたら」―
そう言って取り出したのは(渡してくれた空間拡張ポーチから)扉の付いた箱だった。人が4人くらい入れる程度の大きさの。箱?
―「水を魔法とかでタンクに貯めて、火魔法でお湯にしたら使えます。一度でもお湯にしたら、後は自動で俺湯するので。あると便利だから…中にある扉を開けたらトイレです」―
ベルは私が森に入ったタイミングで念のため、その箱を出していたのだ。
そこにヨナを連れて入る。さすがに1人では使えないだろう。腕まくりをしてヨナの服を脱がす。抵抗なくされるがままだ。
お湯を貯めるとシャワーを出してヨナの体にかける。気持ちよさそうに目を瞑る。
お湯を止め、髪に石けんを付ける。もちろん、アイル作だ。ん、泡立たないな。何度も洗って流して…やっと泡だった。
髪の次は体だ。まだ小さく細い体を石けんで洗って行く。体洗い用の布で優しく擦っていくと、汚れがきれいに落ちた。
きれいになったヨナはパッチリとした目の特徴的な色合いを持った子だった。
これは…つくづく助けたのが私たちで良かったと、そう思った。
アイル作の服を着せると驚いている。
「なんて柔らかかなか肌触り…」
そうだろそうだろ。妖精の蜘蛛の糸で織った布だ。それを人のための服に使ってしまうなんて…。国宝級の物なんだけどな…。知らないんだろうか?いや、知ってても彼ならきっと
「たくさんあるから…」
とか言いそうだ。考えるほどに気持ちが温かくなる。
さて、後は寝るだけだが、どうやって寝るかな。私たちは3人用のテントで一緒に寝ている。
「私たちはこのテントで寝ているが、ヨナはどうする?」
どう勘違いしたのか
「僕は外でも…」
「そうじゃない。子どもを1人で外に寝かしたりしない。1人用のテントもあるんだ。一緒が嫌なら「嫌じゃない」」
即、被せてきた。
ならば、と一緒にテントに入る。毛布は余分があるから(アイルが1人につき4枚も持たせてくれたふわふわの毛布)
それを出して渡す。私とベルが横になると当たり前みたいに2人の間に収まった。
そして毛布をかけると、うわぁふわふわだ、と子どもらしい笑顔で言って目を瞑る。やがて寝息が聞こえて来た。疲れていたんだな。私はその髪にそっと触れた。
さてと、疲れたな。私とベルも目を瞑る。今日は色々あったな。そして明日はいよいよ森に着く。キャル、ネーシア…早く会いたい。
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