161.夢のようなホントの話
すみません、予約忘れました…
「夢じゃないよ」
「…」
しばらく無言で考えていたお母様。そして私を見て泣きながらふわり、と笑った。
「シア…良かっ…うっく…良かっ…うわぁぁん」
私にしがみついて、声をあげて泣いた。私はその細い体を抱きしめて、背中をさする。
家族と離れ、1人でこの森に残ったお母様。最愛のお父様とも今生の別れになるかもしれない。それでもイーリスを探しに行くと言ったお父様を、笑顔で送り出したお母様。
辛かっただろう、寂しかっただろう。イーリスの無事も分からず、この森で、1人で耐えて…。もう大丈夫だから。
屋敷が襲撃され、敵の目的が分からない中で屋敷には帰れず、負傷したお父様を看病した。いくつもある森の中の拠点を動きながら。
旅に出てからはそんな理由で連絡をする手段もなかったから、さぞ心配したことだろう。
もう大丈夫。
やっと泣き止んだお母様は、それでも俺から離れなかった。私もお母様を抱きしめたまま、話をした。
落ち着いたお母様は、良かった。イーリス、まだ生きられるのね…。
末の子であるイーリスが産まれた時はきっと普通に嬉しかったんだろう。それが…目が開くと、途端に絶望に落とされた。
たったの18才までしか生きられない。しかも、その子はあまりにも可愛らしかった。
俺たちは末の子、イーリスを慈しみながらもその成長を喜べなかった。
終わりが近くなる…家族に取って、それはひたすら悲しく辛いことだったから。
そのイーリスが、生きることを諦めて、どこか達観したようだったあのイーリスが、誰かを本気で想う。
その人の側に在りたいと願い、その想いを成就させた。
もう、終わりを気にすることなく…笑える。イーリスの知らない顔をたくさん、本当にたくさん見た。それも全部、アイル君のお陰だ。
お母様はその話を聞いて
「早く会いたいわ」
そうきれいな笑顔で言った。
俺はイーリスとお父様の話が終わったところで、俺が気になって先行したことについて理由を聞く。
「森に何か、異変が?」
「シアも気が付いたの?」
「お父様も、ベルも」
「そう、実は…」
お母様から聞いた話は衝撃的だった。この森が森人以外を受け入れたこと、そして…。
「危険では?」
「本当にそう思ってる?」
「いや…」
アイルが過剰に付けた防御が沈黙している。なら大丈夫だろう。
「会える?」
「今日はつかれてるでしょうから、ゆっくりしなさい。明日、会えるわ」
俺は頷く。
その後も、サナたちは遠ざけた。せっかく再会したのだからと。俺も同じ気持ちだ。
それに、アイル君のことは知られたくない。
「食材が無くて…申し訳ないけど」
お母様が寂しそうに言う。だから
「俺が用意するよ」
驚いている。俺はポーチからアイル君が入れてくれた食事を出す。
アイル君は「少しだけ、入れておきます」って言ったけど…少しの意味、分かってるよな?
1ヶ月分は間違いなくある。すぐに食べられるものが、だよ?それ以外にも魔獣の肉とか魚とか、小麦粉とか、キビ粉とか…。
花の蜜まである。キノコに芋、山菜…。
このまま田舎暮らしを即、始められるってくらい。
机の上にキビ挟みパン、サバサンド、芋を揚げたもの、具沢山のスープ、果物を出した。
お母様は驚いて
「こんなにたくさん?でも勿体無いから…」
私は笑って
「まだまだほんの一部だよ?」
「なんですって?」
くふふっ…。
「アイル君はそういう子なんだよ。少しだけだってさ。これの50倍くらいの量があるよ」
お母様はポカンとしてから、机を見て私を見て…ついに笑い出した。
「くふっ、あははっ…いやだ、お腹が痛いわ…」
「それが、アイル君だよ?」
「くすっ、イーリスは少し…いえ、かなり個性的な子を選んだのね」
「見た目は優しげな可愛い子なんだけどな…」
「まぁ、益々早く会いたいわ」
2人で笑い合ってから、食べ始める。お母様は最初は見たこともない料理に恐々と食べ始めて、途中からガツガツ食べてた。その細い体のどこに入ってるのかね?
「あー食べたわぁ、もう入らない」
そりゃそうだろ?3人前は食べたぞ。
「粗食だったのよ…」
恥ずかしそうに言う。
「お腹いっぱいになって良かった」
その後も、色々な話をお互いにして…そろそろ寝ようかとなった。
今、いるのは家族用の寝室だ。
「あ、お母様。シャワーとかは?」
「お湯を簡単に浴びるだけよ」
「ならいいのがある。一緒に…」
「まぁ、息子とシャワーなんて恥ずかしいわ…」
頬を染めるお母様。見た目はまだ20台前半くらいにしか見えない母だ。流石に俺もお母様の裸は…。
「ち、違うよ…またアイル君が作ったんだけど…」
そう言ってきれい玉を出してお母様を腕に抱く。魔石に触れて…温かなお湯に包まれる。
「わぁ気持ちいい。何これ?お湯…」
驚いてるけどそれより無邪気に楽しんでる。お湯の膜に包まれてるのにね?
「お湯だけど、ただのお湯じゃないよ」
「確かにふんわりといい匂いがするわ」
膜が消えて、お母様を見る。頬が上気していっそう若く見える。
その髪を触るとサラサラだ。
お母様も自分で触って驚いている。
「サラサラだわ。肌もなんだか滑らかな」
「アイル君だからな」
「それにいい匂いよ?」
頷く。拠点は地下だから空気が籠りやすい。なんとなく淀んだような感じなのだ。
それがこの部屋がまるで芳香剤を置いてるみたいにいい匂いがする。
「その、アイル君は凄いのね!」
「うん、無自覚なんだけど」
「そうなの?優しくて、清らかで、無自覚にやり過ぎ?想像出来ないわ」
「会えば分かるよ」
楽しみね…そう呟いて俺の手を握ってベットに行く。
「一緒に寝ましょう」
驚いたけど、嫌ではない。きっと寂しいんだ。お父様たちが戻るで、お母様が望めば側で寝よう。
一緒にベットに入り、並んで横たわる。お母様は横から抱きついて来た。
その柔らかな体を抱きしめて、目を瞑る。お母様の寝息が聞こえた気がした…。
目が覚める。ここは…あぁ、森に帰って来たんだ。懐かしい木々の騒めきに耳を傾ける。
「シア、おはよう。よく眠れた?」
隣を見る。お母様が優しい顔で私を見ている。
「とても」
「私もよ、こんなにしっかり寝れたのは…あの時以来かしら」
この森で、お父様を看病して見送って、帰るかも分からない家族を待ち続けた。眠れなかったのだろうな。
「これからは、安心して寝れるよ」
微笑んで俺の頬にキスをする。俺もキスを返す。
「起きましょう。お腹空いたわ」
笑い合って起き上がる。
昨日に引き続き、アイル君の持たせてくれスープだ。
「本当に美味しいわ」
お母様は朝からモリモリ食べた。少し落ち着いてから
「彼らに、会えるかな?」
頷いて、部屋を出る。手には朝食を持って。
ある部屋の前で、お母様が小さく頷く。
扉を軽く叩いて部屋に俺だけ入る。部屋の中にはベットに座ったまだ若い男性がいた。
俺を静かに見る。俺はベット横の机に朝食を置く。
「体の具合は?」
「……あぁ、それなりに、かな」
「まずは食べろ、その後に話を聞く」
静かに頷いて食べ始める。
スープを飲んで、少し驚いている。実はアイル君のスープを少し入れた。そのまま食べるとやり過ぎだからな。
食べ終えると
「とても美味しかった。特にこのスープが…コクがあるのに、爽やかで」
「なら良かった」
やっぱりアイル君のスープは味付けが絶妙だ。薄めたのにな…?
「そういえば、着替えは?」
首を振る。それは気持ち悪いだろう。
男はベットから立ち上がろうとしてよろけた。私は駆け寄って支える。
「トイレに…」
あぁ、なるほど。手を貸して誘導する。
しばらくしてトイレから出て来たので、またベットまで手を貸す。
「すぐ戻る」
そう言って、部屋に戻る。体格は私と変わらない。なら、自分の着替えを渡そう。
ポーチから出して、着替えを手に持って、桶も持ってあの部屋に戻る。
扉を開けると、置き物のようにベットに座っている。
「着替えと、体を拭く布だ」
ベットに着替えを置き、桶にお湯を入れる。男は桶と俺を交互に見て、それから脱ぎ始めた。
ぎこちない手つきで、シャツのボタンを外していく。
あまりにもぎこちないので、手伝おうと手を出すとビクッとして体を引いた。
「1人で、脱げる」
離れて見ていると、シャツを脱ぐ。大丈夫そうか。なら、と部屋を出ようとすると
「拭いて、くれないのか?」
はっ…?しばらく見つめ合ってから
「手伝いが必要か?」
頷くので、部屋に留まる。
彼は軽く腰を浮かせて下履きごとズボンを降ろす。裸で足首にズボンが引っかかった状態で俺を見る。
俺は混乱しながらも、布を湯に浸して絞りその体を拭いていく。
彼の体には肩から首元にかけて紫色のアザのようなものがあった。それ以外にもたくさんのキズ跡があった。
紫のアザなようなものは少し前までお父様にもあった…そう、多分呪いだ。まるで生きてるかなように、蠢いている。
俺はそこから目を外し、まずは顔を拭く。顎から首、そして耳の後ろからうなじへ。
また湯につけて絞ると、肩から胸、腹へと拭いていく。次は背中。
そうされるのが当然、という顔で大人しく拭かれている。
危機感はどこに置いてきた?というくらい潔く、されるがままだ。
足を拭き終わり、後はお尻と下腹部だ。流石にそれは、と思うのだが、当然のように立ち上がる。
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