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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第3章 白の森と生命樹

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160.森の中で

 アイル達が転移した国、バナパルト王国、そこから遥か北に位置するところに、かつてイグニシアという名の国があった。

 そう、少し前に滅びたのだ。


 それは突然だった。

 国のあらゆる機能が停止した。

 少し前から内部紛争が起こり、国民は疲弊し、逃げられるものは近隣国へと逃れていた。

 残ったのは逃れるだけの資金がない者、移動に耐えられない年寄りや子供たちだ。


 それでも細々と暮らしていたが、内部紛争は激化し、やがて王は倒された。なのに()()()()()者が暫定政権を打ち立て実権を握ることもなく。

 国民は他国に逃れて、国としての体裁は保てずに瓦解した。


 それからは坂道を転がるがごとく、元国であった彼の地は荒廃していった。

 かつての王族がどうなったのか、王を倒した筈の軍部の人間がどうなったのか。

 国民は知らされることもなく、ただ国がなくなり放置された。


 しかし、痩せた土地で主産業もなく、うま味の無いその土地を近隣諸国も放置し、そしてただの荒れ地となっていったのだ。


 その元国の地下で数人の、明らかにヤバそうな男たちが話をしていた。

「首尾は?」

 まずまず、か。ロレンシアは混乱している。バナパルトは苦戦していたが、例のヤツを投入した」

「魔道具は?」

「ダメだな、何故だか突然爆発した」

「動ける人間だけで、やれることをやるしか」

「今は仕方ない」

「……」


 そんな、不穏な会話が繰り広げられていた。




 その頃、バナパルト王国のとある場所では…



 早く、もっと早く。

 身も心もすでに限界を超えているが、それでもボロボロになりながらも、まだ走り続ける。愛馬にも無理をさせているが、なんとか、後少し耐えて欲しい。

 そうして気力を振り絞り3日3晩、走り続け…ついに馬がどう、と倒れた。

 乗っていた自分も投げ出され、動けない。

 もうダメなのか…、ここまで来たのに…。

「…、…」

 声にならない声で、名前を呼んだ…どうか無事で。



 目が覚めるとそこは暗かった。私は…不意に起き上がろうとする。

 痛っ…。

「まだダメだよ」

 声がした方を見るとそこにはフードを被った男性?がいた。

「ここは…?馬は?連れは…?」

 その人は俺の肩を軽く押してベットに横たえる。

「安静に…」

 それだけを告げて、何か食べ物を置いて部屋を出て行く。そのまま少し眠ったようだ。


 くぅぅ…とお腹が鳴った音で目が覚める。そういえば、もうずいぶんと何も口にしていない。

 机の上にはいつの間にか、温かいスープとパンが置いてあった。

 私は空腹に耐えきれず食べることにする。傷む体を押してなんとか起き上がる。

 そして念のため、鑑定をかける。ここがどこか分からない。味方なのか、敵なのかも。慎重にならざるを得ないのだ。


(野菜たっぷりのスープと普通のパン)


 大丈夫か、ふうと息を吐く。途端に空腹が加速した。そっとスプーンですくってスープを飲む。

 んっ、美味しい。なんて美味しいんだ!夢中で食べた。パンを浸してそちらも。

 ホッと一息ついて、改めて部屋を見回す。

 窓の無いその部屋は簡素で、でもシーツは清潔で居心地のいい空間だった。

 私は助かった、のか?


 キリウスは大丈夫だろうか。パルメは?無理をさせてしまった。

 骨折などしていないだろうか。

 心配は尽きないが、今はとにかく体を休めよう。

 油断はできないが、この体では例え敵であっても抵抗すら出来ない。


 部屋に面して出入口以外の扉がある。ゆっくりと立ち上がろうとしてふらついた。

 足をケガしているようだ。手当がされているが、傷が熱を持っている。

 ゆっくりと足を引きずりながらその扉を開ける。

 そこはトイレだった。びっくりしたが有難い。見た途端に尿意を催したのだ。入って用を足す。

 ふう、すっきりしてトイレを出た。

 またゆっくりと歩いてベットに横になる。


 ここはどこだろう?自分はどこまで来れたのだろうか?

 分からない、分からないが…とにかく体を…。

 そこで睡魔が襲ってきて目をつむった。





 そこは鬱蒼とした森の中、かなり奥深いところだ。大きな木が林立するその付近は人里からも離れ、訪れる人はいない。

 一度森に入ると、迷い、道を見失い、やがて森に呑まれる。そんな森の深い場所に人がいた。

 大きな木のウロから、人が出て来る。そして、森に分け入っていく。迷いなく。

 彼らは植物との相性が良く、木々と会話をする。そうやって、森の中でも迷わず進むことが出来る。


 そうして狩りをしたり、薬草などを採取して暮らしている。しかし、もう朝晩はかなり冷える。

 森の恵も減り、厳しい冬が近い。暮らしも厳しく、細々と暮らしていた。


 そんなある日、木のウロから2人が出て来た。

「森が騒がしい」

「ざわざわしているな…あちらか。見に行こう」

 そうして連れ立って、ざわめきの大きい方へと進んで行く。

 一際、大きく木々が騒つく。

 そこには、人と馬が倒れていた。馬は脚を折ったのか、苦しそうにもがいている。


「あちらにも、何か…」

 少し進むと、もう1人倒れている。そして側には先ほどと同じように馬が倒れていた。

 私たちに気がつくと、倒れたままで威嚇する。さぞかし大切にされていたのだろう。手負いで主を守ろうとするなど、余程だ。

 私は怖がらせないように、その馬の(たてがみ)を横から撫でる。

 よしよし、そう、いい子だね…もう大丈夫。


 私は薬草を出して、折れた脚に当てる。近くの枝で添木を作ると、脚に当てて布で固定した。

「さぁ、私も手伝うから…起きてごらん」

 馬は嘶くと前脚を踏ん張って起きようとする。私は土魔法で体の下の土を隆起させ、補助する。

 よし、起き上がれた。


 馬は横たわった状態では内臓が圧迫されて、すぐに死んでしまう。早く起こしてやらなければ命を落とすのだ。

 もう1頭の馬にも同じ処置をする。そしてなんとか、起き上がれた。痛そうではあるが、歩ける。


「おい、人より馬かよ?」

「人は専門外」

「チッ」

「死んでないでしょ?」

「あぁ、衰弱してケガをしてるがな」

「ならいいじゃない」

「よくないだろ。どうやって運ぶんだよ?」

「2往復すればいいでしょ?」

「手伝おうとは思わないのか?」


 すると

「ケンカしてる場合なの?森が落ち着かないわ。早く連れて帰りましょう」

 もう1人、この場に合流した。その一声に

「「はーい」」

 結局、2人で背負って木のウロを目指す。馬は後から合流した1人が風魔法で体を軽くして、補助しながらゆっくりと進んで行く。


「本当に拠点に入れるんですか?危険では?」

 眉間にシワを寄せて1人が言う。

「馬だけでも…」

「おい、馬はいいのかよ」

 またケンカが始まる。

「森が受け入れた。なら、大丈夫」

「でも…」

 分かっている。それなら何故?

 人の命が掛かっている。馬が手負で威嚇してまで助けたいと思う主人ならば、さぞかし大切にされていたのだろう。だから助けてやりたい。

 それに、今ここで放置すれば人も馬も命はない。そんなことは出来ない。だってあの子ならきっと助けてって言うから。

 私は愛しい子のことを思い出す。過酷な運命を背負いながら、どこまでも優しい子。だから見捨てない。見捨てられない。


 こうして、ケガ人と馬は木のウロから拠点へと入って行った。





 ネーシアは目を覚ました。あれ?俺は寝てたのか…。

 昨日の夜はテントの外で、ポーチから温かいスープとキビサンドを出して食べた。

 その後、ポーチにあった


(きれい玉)


 を見つけた。ブランに聞くと


『えっとねー、きれいになる』


 ごめん、分からないよ?


『うーんと、入れば分かる!魔石に魔力を流してー』


 言われた通りに魔法を流すと、体全体が暖かい物で包まれた。えっ?これはお湯?お湯に包まれてる!

 い、息が…。口を手で抑える。あれ?息が苦しくない。


『大丈夫だよー』

「ブラン、これは?」

『髪とか、体とか、服がきれいになるー』

「…えっ…」

『もう大丈夫だよ!』


 すると、体の周りにあった膜のようなものが消えて、手には元の丸い玉が乗っていた。


『どう?』

 あ、確かに…うわ、髪がさらさらだ。しかも、なんかいい匂いがする。

「ブラン、これはとんでもないぞ!」

『そう?だって、ご主人だから…』

 そうだった…。本当に、アイル君。君は…。


 その後、テントに横になって…そこから記憶がない。

「ブラン、もしかして見張ってくれてた?」

『ううん、寝てたよ!だってご主人の守護結界に守られてるしー、隠蔽もかかってるからとっても安全。だから見張りは要らない』

 おうふ、流石だ。見張の要らない野営なんで、天国じゃないか。


『ご主人だからね!』

 本当に、それだな。私はブランの胸毛を撫でると、朝ごはんを食べる。


(スープの素)


 ん?何だ、これ。


「ブラン、スープの素って?」

『お湯をかけるとスープになるよ』

「…えっ?」

『温泉でご主人が作ってなかった?』

 そうだったか?覚えてない。試しにカップにそのスープの素を入れ、魔法でお湯を出してカップに注ぐ。

 スプーンでかき混ぜればいい匂いがする。

 これはキビかな?


 コクン…美味い。流石だよ。野営の辛さはテントでの窮屈さと夜の見張り、そして食事だ。

 携帯食は美味しくないし、テントは窮屈で硬くて体はバキバキになるし寒いし。

 それが広くて快適で温かな寝床、温かい食事、見張も不要なんてもう、楽しいだけだろ。

 本当にアイル君は…。涼しい顔でこんなにも尽くしてくれる。

 参ったな…。イーリスの番なのに、どんどん惹かれていく。はぁ、切ない。


『シア兄、どうしたの?』

「あぁ、君のご主人は最高だなって思って」

『でしょ?最高に優しくて最高に清らかでとにかく、最高なんだ!』

 ブラン、本当にな…。


 私はテントを畳んで(自動でシュッと小さくなった)ポーチに仕舞うと

「ブラン、お願いするよ」

『任せて!』


 こうして、また空を飛ぶ。ブランはどこか焦っているような、そんな気がした。

 太陽が真上に来る頃、ブランが地上に降りた。

『休憩ー。お腹空いたでしょ?』

「ありがとう。ブランも食べてな」

『うん、ご主人の魔力があるから僕は食べなくても平気だけど、でも嬉しい』

 そう言って、一緒にサバサンドとスープ、果物を食べる。もちろん、全てアイル君のポーチに入っていたものだ。


 食後は少し休み、また空を飛ぶ。どれくらい経ったろうか…。ブランが高度を落とし、速度もおちた。

 風景が見える。えっ…?

『そろそろ着くよ!』


 まさか、いやでも…確かに白の森にほど近い町が見えて来た。

 10日の距離を1日半で?

『どこに降りる?』

「森の中に、少し開けたところがある。そこに降りられるかな?」

『んーと、あそこ?この大きさでは無理かな。近くでホバリングしたら、風魔法で飛べる?』

「木の少し上まで寄れたら大丈夫だ」

『やってみる』


 さらに高度を落として、木の上スレスレまで寄ってくれた。

「降りるよ!」

 そう声をかけて、飛び降りる。風魔法で体を浮かせて、落下速度を調整しながら地面に降りた。

 すぐに小さくなったブランが肩に止まる。


『シア兄、ここでいい?』

「あぁ、ありがとう」

『僕はもう行くよ!またね』

 言うが早いか…もう豆粒くらいの大きさだ。速い!

 ブラン、きっとアイル君の側にいたかっただろうに…ありがとう。

 私はブランが去った方向に向かって深々と頭を下げた。


 さて、皆はどこにいるだろうか?うっすらと魔力を感じる。辿ろう。

 森の奥へと続く、良く知った魔力を追う。

 近いな…ここは。あぁ、皆いる。


 私は巨木のウロに入って行った。ウロの先は広い空間だ。そこを抜けると階段を降りて行く。

 バタバタと走る音がして

「兄様!」

 ドンとぶつかって来る。

「こら、サナ。危ないだろ?」

「兄様、お帰り」

 相変わらずだな。

「皆、元気か?」

「うん!」


 奥から人々が出てくる。

「シア?」

「お母様…」

「シアなのね、ファルは?どうしたの…」

 駆け寄って来て聞く。真剣な顔だ。だから俺は笑顔で

「大丈夫、皆、無事だ」

「ファルの体は?」

 私の肩を揺すって聞く。私はお母様の肩を抱き寄せ

「体はもう大丈夫。魔力も戻ったよ」

 お母様は目を目を見開く。

「呪いも…?」

 大きく頷けば目に涙を溜めて、良かった…と呟いた。


 そのまま、私に抱きついて泣いていた。この細い肩で、耐えてたんだな。私もお母様もギュッと抱きしめる。

 しばらくすると、お母様が顔を上げ

「シアも、何か変わったわ。なんて言うか、自信が付いた、かしら」

 さすが、お母様だ。

「そうかも、しれない」

 優しく微笑むと私にキスをする。会えない時間を埋めるかのような、長くて温かいキスだった。


 私は拠点の奥に案内される。サナも着いて来たがったが、お母様が拒否した。

「家族の話だから、あなたは控えなさい」

 不満そうにしながらも離れて行った。


 そう、サナは私の妹ではない。親戚ですらない、近所の子だ。森人はそこまで数が多くない。この森に住む森人は更に少ない。

 生命樹の守人は限られた者しか出来ないから。サナは私たち一族の補佐をする者たちだ。

 距離は近いが、線引きはきちんとしている。サナはイーリスに会ったことすら無いのだから。


 私はお母様と2人だけになった。

「何があったの?ファルの呪いは…解呪出来るような呪いじゃなかったわ」

「うん、本来なら。お父様もここにはもう戻れない覚悟でイーリスを探しに行ったんだ。お母様ともお別れをしてただろ?でも、そう奇跡。奇跡が起きたんだよ」


 そして、私はアイルとイーリスのこと、ハク様のことを話始めた。

 お母様は途中から目を開いて固まった。

「お母様?」

 呼びかけるとハッとして私を見る。


「気のせいかしら?聖獣とか、精霊王とか、愛し子とか聞こえたんだけど…」

 そう思うよな?だから私は笑いながら

「驚くのも無理はないけど、全部、本当だよ」

「えっ?私のイーリスは番を見つけて、その人は聖獣の契約者で精霊王の愛し子…その子がファルの呪いを解いてくれた…?」

「そうだよ」

「私、夢を見てるのかしら?白昼夢?」

「夢じゃないよ…すべて現実だ」




※読んでくださる皆さんにお願い※


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