157.その頃ゼクスで2
後書きにスーザンのイメージイラスト載せてます…
呼び方、アイルは「リア」呼びだったのを間違えて「ウル」としてたので修正しました
アイルがいなくなって、宿が寂しくなった気がする。無意識に周りを巻き込んでいたアイルだ。
あれだけ盛大にやらかしていたんだ、それが決して嫌ではなかったから尚更だ。
ウルも時々ぼーっとしている。
それでも屋台のメニューを持ち帰り専門の宿の一角で店をすることにして、少し目に力が戻った。
その準備を始めた頃、それは届いた。
すぐ分かった。アイルだと…。
イザークたち宛とレオたち宛、バージニア宛、そして俺たち宛だ。
レオたちは店の準備手伝いに宿にいたから渡した。
イザークとジニーには後で俺が持っていこう。
一息ついて、ウルと厨房の奥から自分たちの居住スペースに入って行った。
ウルはすでに目に涙を溜めている。
包みを開けると中に手紙が入っていた。
まずは手紙を読む。
読み進めていくうち、ついにウルは俺にしがみついて泣き出した。
全く…アイルはやっぱりどこまでのアイルだった優しくてお人よしで…どこまで純粋。
不覚にも俺まで涙が出て来た。
包みはきれいな、そしてとても滑らかな白い布で、その中には白と黒のローブ、手袋、これはマフラーか?が入っていた。
ローブは大きさからみて黒が俺で白がウル。
着てみるととフードに何か付いてる?
ウルがフードを被る。するとそこにはうさぎの耳が付いていた。
俺は思わず口に手を当てて堪えた。か、可愛い。俺のウルがとんでもなく可愛いぞ。
俺がフードを被るとウルも見て震えている。
ウルは目に涙を溜めて俺を見て目を瞑る。
俺ははその唇にそっとキスをした。
見つめ合って頬を染めて…。
次は手袋を取り出す。可愛い模様のそれは内側が毛皮になっている。
ウルが嵌めるとそれはもう可愛くて思わずまた理性を総動員することになった。
そしてマフラーと思ったものは輪になっていて、頭から被るのか?
ウルが付けるとそれはもうふわふわの首元から白い顔が除いてもう可愛くて可愛くて…。
何度目かの理性崩壊の危機をなんとか乗り切った。
おい、可愛すぎるだろう。
俺がそのマフラーを付けるとウルが震えながら
「スージー、凄くカッコいいよ…。どうしよう、今すぐスージーに抱きしめて欲しい」
上目遣いで言うウル。
なんとか均衡を保っていた俺の理性が崩壊した瞬間だった。
そのままベットに2人して倒れ込んだのは仕方ないと思う。俺のウルが可愛すぎるからな…。
「僕のスージーがカッコよくて可愛くてもうどうしていいか分からない…」
「俺のウルだって最高に可愛いぞ。誰にも見せたくない」
本当にアイルはやっぱり予想に違わず、やらかしやがった。そしてそれが何とも心地良かった。
アイルの手紙
スーザン、リア
突然、ゼクスの町を出て驚かせたよな?
元々、感謝祭の後に町を出る予定だったんだ。それが少し早まっただけで、俺としては予定通り。
俺も、そしてイーリスも訳ありで人に知られたくない理由がある。
実は俺が連れている犬は、犬じゃ無くて狼。それも銀狼という狼だ。分かるよな?そう、聖獣だ。
いつも肩に乗せていた鳥の雛は、白大鷲でこちらも聖獣だ。
それが広く知られることの危険性は言わなくても分かってくれると思う。
イーリスは俺とは違う理由だが、やはり人に知られたくない。彼は今までも何度も誘拐されて来たから。
そんな訳で2人とも人に知られることは避けたかった。だから、俺たちの名前も含めて感謝祭では頼らないでくれ、とお願いしたんだ。
あの時は俺も色々と余裕がなかった。
だからリアが屋台の近くで俺の名前を読んだのが許せなかった。
今思えば、そこまで怒ることではなかったかもと思うが、あの時はいっぱいいっぱいだった。
少し前に俺は事件に巻き込まれて、凄く嫌な思いをした。しばらくはイーリスとも触れ合えないくらいの。
立て続けに色々あって、本当に余裕がなかったんだ。
だからその、リア…本気で嫌いになったりしてないぞ?
落ち込んでスーザンに甘えているリアが想像出来るからな、伝えておく。
これから寒くなる。だから新婚の2人が暖かく過ごせるように、贈り物だ。
きっと喜んでくれると思うぞ?
俺はしばらくゼクスを離れるが、俺にとってあの町は、ゼクスの宿は第二の故郷だと思っている。
親不孝な息子が家出したと思って、帰りを待って欲しい。
俺はまたきっと、あそこに帰るから。
それまで仲良く元気でな。あ、仲良くはいらないな。どうせイチャイチャしてるだろうから。
アイル
そうそう、イーリスと結婚した。一応、まぁ家族みたいなもんだしな、報告だ。
またな!
親ってお前な、俺はまだ32だぞ?お前は結婚したなら16だろ?息子って、それはないだろ?
いや、16で結婚したら有りなのか…。
何にせよ、聖獣2体を連れてる息子なんて無いだろ、本当に。
でもな、家族みたいななんて、嬉しいじゃねーか。
本当に、息子ならとんでもないぞ?
全く、寿命がいくらあっても足りない。第二の故郷なんて言われたら…まぁな、あの部屋はもうお前の部屋だ。
新婚旅行に行ったと思って待ってるさ。早く帰って来い。待ってるぞ?
その日の夕方に、探索者ギルドに行った。
窓口にいたイザークが俺を見つけて出て来る。
「珍しいな、どうした?」
「お前とジニーに用だ。アイル…」
イザークは口元を引き締めると、歩き出す。会議室だな。
「ギルマスを呼んだから来る!」
会議室に座ったタイミングで扉が勢い良く開く。
「アイルがどうしたって?」
俺は無言で2人に包みを渡す。2人はその包みを見て固まっている。
「アイルからお前たちにだ」
2人は顔を見合わせて包みを手に取る。
ジニーはその場で開けた。そして手紙を読んでから上を向く。その目が潤んでいるのを俺は見逃さなかった。
そして、中身を取り出した。
手袋と輪のマフラーだ。それを優しく撫でるように触って
「俺たち家族にだってよ…まったくアイルらしいな」
イザークも手紙を読んで、珍しく動揺していた。その目が潤んでいるのも見逃さなかったぞ?
それから
「贈り物は家族の分もあるから、帰ってから開ける」
と言って、その包みを愛おしそうに撫でた。
大の大人がやっと成人したばかりの少年に泣かされるとはな…。
俺たちは顔を見合わせて苦笑した。それが全く嫌じゃないから。
「渡したからな」
俺が帰ろうとすると
「待て、スージー。伝えておく。ロルフがアイルと会って、この先、旅をする。しばらくゼクスを離れるんだが、心配だろ?だからな、ダナン様と相談して、護衛のヤツを同行させる事にした」
「ブラッドとサリナスか?」
「アフロシア軍からも2人」
イザークが答える。
「アイルはね…引き寄せるだろ?危なっかしい。ロルフも天然だしな。守る意味もあってだな」
「そうか…なら安心だな」
「あぁ、定期的に連絡が来る」
そう言ってニヤリと笑った。
「可愛い息子のことは気になるだろ?」
チッ…全くよ…。そっぽを向くと、
「ふはっ」
吐き出しやがった。おい、イザーク。その生暖かい目を止めろ!
「どうせお前らだって心配何だろ?可愛くて仕方ないんだろ?」
2人は目を逸らす。ふん、分かってるぞ。
お前らだって俺と同じだ。
なぁ、アイル。早く帰って来い。皆、待ってるぞ。
ギルドでの仕事を終えて歩いて家に帰る。そう、ダナとフェルのいる屋敷だ。
玄関の扉を開けるとフェルが駆け寄って来て抱きつく。
「お帰り、イズ」
「ただいま、フェル」
フェルのおでこにキスをしてふわりと片手で抱きしめる。
フェルは俺の抱えている包みを見ている。
「それって」
頷く。フェルは苦笑して
「全く、らしいね」
2人でダナのいる執務室に行く。扉を開けるとダナが手を広げて迎えてくれる。
俺は頬を染めてその胸にそっと寄り添う。
「お帰り、イズ」
そう言って、頭にキスをされる。
「ただいま、ダナ」
頬にキスを返す。
「その包みはもしかして?」
俺は頷く。
3人で並んでソファに座る。
そしてまず、手紙を読んだ。隣のフェルが俺に抱きついて来た。そして、ダナも。
しばらくしてフェルのすすり泣く声が聞こえる。
「本当に、アイル君は…」
俺のフェルを泣かせるなんてな、さすがアイルだ。
俺は包みを開けて、中から手袋と輪っかのマフラー?あとはガラスの置物?を取り出した。
手袋は鹿革かな?可愛らしい模様の手袋だ。フェルが嵌めると
「うわっ」
大きさが変わった。
鑑定で見ると
(鹿革の手袋。中は角うさぎの毛皮を使用。とても暖かい
最高級品
大きさは自動調整される機能付き)
「…」
おい、アイル!何してるんだよ。たかだか手袋に自動調整とか…全く。やらかしやがって。期待を裏切らないな、もう。
「大きさは自動調整だね」
「「…」」
3人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「本当に彼は期待を裏切らないな」
ダナも同じことを考えたようだ。
同感だ。
次はマフラー?でも繋がってる。
フェルが頭から被るってみるとスポンとはまった。これは…キョトンとした顔のフェルがとんでもなく可愛い。ダナも震えている。
「フェル、私のフェル…なんて可愛い」
ダナの言葉にえっという顔をするフェル。そして俺にも頭から被せてくる。その俺を見てフェルが驚いた顔をした後に真っ赤になる。
「か、可愛い…」
ダナはまた震えている。
「私のイズが…くっ…可愛すぎる」
俺はダナにも付けさせる。
ぐわっ…これはまた、カッコ良すぎだろ!ダンディーなダナがもこもこを首に…これがギャップ萌えなのか?ヤバいだろ。
カッコイイのに可愛いって…くはっ。耐えられない。撃沈だ。アイルよ、いい仕事をしたな!
「お父さんが凄く素敵だ…」
フェルは目をパチパチさせてダナを見る。
これはいったん外そう。ふぅ、なんか色々と危なかったぞ。
で、ガラスのヤツは何だ?
女神か?
「これは…イズに似てないか?」
「あ、本当だ。イズの女神だ」
「もしかして、母さん?」
「「…」」
マジマジと見る…それは確かに俺に似ていて、でも明らかに女性だ。母さんをアイルが?
不意に涙が溢れて来た。会うことすら出来なかった母親、ダナの妹。この姿が…?
これはあまりにも不意打ちだろ?本当にアイルは…。溢れた涙はなかなか止まらなかった。
隣でダナはその女神を優しく撫でながらやはり泣いていた。愛おしさと寂しさの混ざった眼差し、今何を思うのだろうか?
そしてダナの手が頭にある魔石をそっと撫でると、口から暖かい風が出て来た。
はっ?これは、暖房なのか…。
おい、アイルまたお前は!
俺たちは泣きながら、でも笑った。アイル、帰ってこいよ、ここに。またやらかしたな!ってたくさん説教してやるからな。
アイルの手紙
ダナン様 フェリクス様 イザークさん
挨拶もせずにゼクスを出ることになって驚かせたと思います。感謝祭終わりで、旅に出る予定だったので、少し早まっただけ。
私はイーリスの故郷である、白の森に行きます。ユウリ様の若木を根付かせる為に。
生命樹の愛し子は生命樹との親和性が高いそうです。だから、大切なイーリスの為に。
それでも若木を根付かせるのはとても難しいので、ロルフ様にも同行して貰います。
澄みやかな魂が必要だとか。
旅に出る、と言う言葉でもうお分かりですね?私にとって、ここは第二の故郷です。
だからまた、いつか…戻って来ます。その時はまた、お会いするかも知れないので。その時は優しく迎えて欲しいです。
冬に必要かと思って、結婚祝いに手袋と、輪のマフラーを贈ります。あと一つ、ガラスのは、見てのお楽しみです。
そうそう、イザークさんのお母さんのこと。
アーシャ様から少し聞きました。イザークさんのお母さんはちゃんと、お父さんを愛していたのだと。
子供を望んだのか、それは分からないけど。確かに2人の愛の結晶なんだと。
だからイザークさんはたくさん笑って、たくさん泣いて。精一杯、生きて下さい。一緒に生きることを諦めたお母さんのために。
私が旅から帰ったら、イザークさんがダナン様たちと出会った森に行きましょう。アーシャ様が…お母さんのところに案内してくれるそうです。
でも、イザークさんがちゃんと幸せになってることが条件ですよ?
それまでせいぜい、ダナン様とフェリクス様とイチャイチャしてて下さいね。
アイル
追伸 イーリスと結婚しました。一応、ご報告まで。




