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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第3章 白の森と生命樹

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156.その頃ゼクスで

後書にレオとルドのイメージイラスト載せてます

 時間は少し遡る。


 感謝祭を終えたゼクスの町では…




 感謝祭の初日に兄ちゃんがいなくなった。というか、この町を出て行った。

 急なことだったが、俺たちは感謝祭の後に町を出ると聞いていたからそこまで驚きはない。

 でも挨拶をしたかったな、とは思う。俺たちがまともに食べられるようになったのは兄ちゃんのお陰だ。


 兄ちゃん会わなかったら…今ごろはもうあの世で父ちゃんたちと再会していたかもしれない。

 でも、出会えた。寝る場所を整えてくれた。シャワーを浴びられるようにしてくれた。


 今までも町に行っておつかいが無いか聞いて、ごくたまに伝言を頼まれてパンを貰ったりしていた。

 時間が経って、薄汚れてくると小汚いなりの小さな子供に頼む人はさらに減っていった。

 そして2日もご飯を食べられず、雨水だけを飲んでしのいでいたあの日。

 中央広場近くで屋台の手伝いでもないかと声を掛け、嫌そうに断られて困り果てていた時だった。

 細くて優しい顔立ちをした少年、兄ちゃんが声を掛けて来た。

 

 怪しい。話を聞くだけでご飯を奢るなんて怪しすぎる。

 昔、父ちゃんが言ってた人攫いかも。

「お前たちはまだ小さいし可愛いからな、知らない人に声を掛けられても答えちゃだめだぞ」

 だから

「そんなこと言って俺らを捕まえて売るんだろ!」

 って言ったら

「え?そんなことしないよ。ここで話をすればいいだろ」

 

 そう言って俺たちの返事を聞かずに串焼きを買って来る。

 自分用に1本取ると、残りを渡してくれる。怪しすぎる、ダメだ。

 頭ではそう思っているのに体は勝手に串焼きを貰ってしまった。

 空腹に耐えられなかったんだ。

 ルドと分け合って2本ずつ、すぐになくなった。

 美味しい・・・。

 

 兄ちゃんは俺たちが食べ終わるのを待ってから

「話を聞いていいか?」

 俺が頷くと、そんなこと知らないのか?ってことを聞いてきた。

 子供の俺でも知ってることを兄ちゃんは知らない。

 田舎から出て来たってどれだけだよ、って思ったけど悪意の欠片も感じないその顔から、きっと本当なんだろうと思った。

 一通り聞きたいことは聞けたのか

 

「ありがとう」

 また聞きたいことが出来たら教えて欲しい。だから住んでる場所を教えて、と言われた。

 ありがとうなんて、この町に来て初めて言われた。でも俺らに家なんてない。貧民街の突き当り近くの廃墟が住処だ。風の吹き抜けるような家とも言えない住処。

 兄ちゃんは貧民街と聞いても嫌な顔をせずに場所が分からないか、案内してくれという。

 驚いたが嫌な気はせず、案内する。

 

 ぼろくて窓も扉もない廃墟、そこが今の住処だ。

 兄ちゃんはさすがに驚いたのか、動きを止めて中を見回している。やっぱり兄ちゃんも俺らを軽蔑するのか?と思ったら、少ししてから手を加えても良いかと聞かれた。

 意味が分からなかったが、これ以上ひどく成りようがない。頷いた。

 

 そしたら兄ちゃんは部屋の入り口に扉を付けてくれた。

 それからももう驚き過ぎて。

 だって、洗面台とトイレとシャワー室が出来たんだぞ?

 あんぐりと口を開けて見て、ハっとする。

「兄ちゃんバカなのか?」

 ついさっき会ったばかりで、たいしたことを教えたわけでもない。それなのに…。何の見返りもない俺たちの為に。思わず酷い言葉が口をついて出た。

 

 ルドが水を飲んで美味しい!と言う。俺も水を飲む。

 それは今まで飲んだどの水よりも美味しかった。

 俺は涙が溢れて止まらなくなった。隣でルドも泣いている。

 こんな風に俺たちを見て、俺たちのために行動してくれる人がいる。

 それがこんなにも嬉しいなんて…。

 すると背中に温かな手が添えられ、俺はまた涙が溢れてしまった。

 

 明らかにぎごちないその手は優しく背中を撫でてくれる。

 その度に凍り付いた気持ちがゆっくりと溶け出すような気がした。

 しばらくして泣き止むとごめんと謝る。そしてここに来るまでのことを初めて人に話した。

 兄ちゃんは何を言わずにただ最後まで静かに聞いてくれた。

 

 この町についてから

「大変だったね」「可哀そうに」

 そんな言葉はたくさん聞いたけど、兄ちゃんは何も言わなかった。

 ただ、背中に置かれた手が労わるように優しく背中を撫でてくれていた。それが兄ちゃんの優しさで、上っ面じゃない気持ちだと分かってなんだかうずうずしたんだ。

 

 俺たちが落ち着いた頃に、兄ちゃんが宿を探すから、と帰ろうとした。

 これでお別れなんて嫌だ、どうしよう。そうだ!

「いい宿を知ってる」

 案内するといえば、ありがとうと言ってくれる。

 それなら先にね、と言われてシャワーを浴びることになった。確かに少し匂うか?

 なんか筒状のものををつなげて簡単に作ってたぞ。

 それで石けんで髪と体を何度も洗われて、すっきりさっぱりした。

 

 でも服が汚れてるし…と思ったらなんかきれいになってる!いつの間に?俺たちがさっきまで着てた服だよな…。

 そしたら兄ちゃんが洗っておいたよ、だって。いつの間に?

 それで久しぶりにきれいになって、3人で歩いてその名も「ゼクスの宿」に案内した。

 宿でパンを貰って、兄ちゃんに手を振って家に帰る。貧民街の廃墟、あそこはもう俺たちの家だ。

 兄ちゃんが家にしてくれた。

 隙間風が抜けないその家で、ルドと体を寄せ合って眠る。

 ここを出るときにないと不便だろうと兄ちゃんが作ってくれたベットだ。

 柔らかな毛布もある。

 こも町に来て、初めて熟睡出来た気がする。


 それからはびっくりするくらい周りの反応が変わった。

 薄汚れていたから気が付かなかったようだが、俺とルドの髪の毛は明るい金色だ。

 ルドはご飯を食べられなくて痩せてしまい、ふっくらした頬がこけて赤かったほっぺも汚れていた。

 それがシャワーを浴びてご飯を食べ、そのほっぺがまた少し色づいた。

 服だって、着まわしてたボロイ古着を兄ちゃんが洗ってきれいにしてくれていた。


 こざっぱりとしたルドは普通に可愛らしい。

 それまでお使いないか?と聞いてもそっぽを向いていたり憐みの目を向けていたババアたちがこぞってルドを撫で、可愛いといってお使いを頼み始める。

 現金なもんだなと思うが、自分だったらと考えると仕方ないとも思う。

 お使いなんてただの使いっぱしりで、せいぜいが銅貨1枚だ。

 それがだんだんと荷物を持って行ったり、手伝いをするようになって、銅貨が2枚になり、3枚になり…。 


 徐々に貰えるお金も増えて言った。

 ババアたちに人気のルドはおやつを貰ったり、パンを貰ったり余り物の食事を貰ったり。

 こうして俺たちの生活は激変した。もちろんいい方向に、だ。


 好きなだけお水が飲める。

 シャワーが浴びられて清潔でいられる。ベットがあって柔らかい毛布がある。

 こんなにも幸せな生活が送れる。全部兄ちゃんのお陰だ。

 そんな兄ちゃんは時々訪ねて来ては、色々と家をきれいにしてくれる。

 台所を作ったり、食事をする机や椅子を作ったり。

 ちゃっかり自分の部屋も作っていたぞ?工房だってさ。


 それで、一緒に森に採取に行こうだって。依頼を出すからって。

 どう考えても自分で出来そうなのに、きっと兄ちゃんはお金をそうやって渡そうとしてくれている。

 嬉しくて頷いた。 


 だって、初めてのお出かけだ。

 大きな犬とと一緒に出掛ける。

 楽しかった。甘い蜜の花とか、色々集めて。

 帰ってきたら兄ちゃんが何かを作ってる。甘い匂いがしてわくわくする。

 それは花の蜜を駆けた薄いパン?みたいなものだ。でも甘くて美味しい。

 夢中で食べた。兄ちゃんが連れて来たもう一人の兄ちゃんもバクバク食べてた。

 兄ちゃんは焼くだけであまり食べてないけど。


 その後も感謝祭の屋台の手伝いとして推薦してくれた。

 試食もあるし、お使いをしなくても美味しい食事が食べられる。

 ルドもだんだん元のようなふっくらした赤いほっぺになって凄く可愛い。


 ある時、兄ちゃんが工房に来て服は足りてるかと聞いてくれた。

 それで大人用の服を俺たちが着られるようにしてくれた。それは父ちゃんの服だ。

 懐かしいその服を見て、涙が止まらなくなった。

 会った初日と同じように不器用に背中を撫でる手が優しい。

 もっと頼っていい、もっと泣いていい。その言葉に涙がなかなか止まらなかった。

 俺も兄ちゃんみたいにかっこいい、カッコ良くはないか、優しい大人になりたいな。


 感謝祭の後、俺はスーザンの旦那でリアっていう兄ちゃんに宿で持ち帰り専門の店を時間限定で開くっていう話を聞いた。

 そこで、働かないかって。

 良かったら近くに引っ越してって言われたけどそれは断った。

 俺たちの家は貧民街の廃墟だ。兄ちゃんが整えてくれた家が俺たちの家。

 兄ちゃんの工房だってそのままある。


 新しい店の準備を始めた頃、スーザンが包みを渡して来た。

 俺とルドはそれを見てあぁ、兄ちゃんからだって分かったぞ。

 理由なんてない、だって兄ちゃんだからな。


 2人で家に帰ってから開けてみる。

 中にはローブと手袋、それにガラスの何かが入っていた。

 文字は読めないけど、絵手紙?があって、イラストが色々と書いてあった。

 それを読むと冬は寒いから冬用のローブと手袋を作ったってことみたいだ。

 そしてガラスのは温かくてほっとしてる絵だ。これは部屋を暖める何か?

 それがドラゴンが口を開けたようになっていて、絵によると頭にある石に触れるってある。

 試しに触れてみる。

 ふわっと温かい風がドラゴンの口から出て来た。


 スゲー!やっぱり兄ちゃんは最高にお人よしで最高にカッコいいぞ。

 ちなみにローブのフードにはルドには猫耳が、俺には犬耳が付いていた。

 ルドの猫耳が最高に可愛かったぞ。




銅貨1枚100円ぐらい


レオナルドとルドルフのイメージ

挿絵(By みてみん)

生成AIで作成


※読んでくださる皆さんにお願い※


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