表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
16/331

16.採取依頼

アイル視点に戻ります。

 ようやく採取地に近くに着いた。

 馬車が入れるのは採取地の手前までで、そこからさらに30分ほど歩くという。体力には自信がないが30分なら大丈夫だろう。

 馬車から降りて、フェリクス様を先頭に歩き始める。

 フェリクス様は振り返りながらすぐ後ろを歩くイザークさんと楽しそうに会話をしている。けっこうな速度で歩いているのに2人とも平気で話をしている。

 私は着いていくのに精一杯で必死に足を動かした。そして予定通り30分ほどで採取地と思われる場所に着いた。

 そこは一面のお花畑で、月に照らされて咲く白い花が幻想的だった。

 思わずうわぁと感嘆の声をあげる。


「綺麗だろ?」

 フェリクス様が振り返って言う。

「はい!」

「私もここに来るのは久しぶりだ。最後に来たのは2年前かな。イズと一緒に」

「あぁ、俺もそれ以来だ」

「懐かしいね…」


 しばらく皆んな無言でその光景を見つめていた。なんだかフェリクス様もイザークさんも話かけてはいけないような雰囲気があって、2人が動き出すのを静かに待っていた。

「さて、採取の準備をしようか」

 そうフェリクス様が言って各々準備を始める。と言っても採取用のビンを用意して待機するだけだ。


 今回は私の依頼だが、フェリクス様もイザークさんも自分の分を採取するらしい。場所が被らないよう少し離れる。

 2人は思い出でもあるのだろう。比較的近い場所に採取場所を決めていた。これから夜明けまで少し時間があるから話をするのかな。

 私は敢えて2人から離れて見えない位置に決めた。2人の邪魔をしたくなかったのと、1人になりたかったからだ。


 少しひんやりとする地面に腰を降ろす。空には三日月が出ていて淡い光がとても綺麗だった。夜明け前の空気はシンとしていて肌に心地良く感じる。

 こんな風に空を見上げたのはいつ振りだろう?前の世界でものんびり夜空を見た記憶は子供の頃だけだ。

 綺麗…

 今は自分のことでいっぱいいっぱいでこの景色を誰かと見たいと思うほどの余裕は無い。でももう少しこちらの世界に馴染んで、心を許せる友達が出来たら…こういう景色を一緒に見たいと思うのだろうか。

 いつかそんな日が来たらいいな、とそう思った。こちらの世界の人には言えないことが多過ぎて…

 そんな風に黄昏ていると空が白み始めてきた。夜明けが近い。


 よし、初依頼頑張ろう!


 はい、舐めてました…まさか一輪の花から一雫しか取れないなんて…しかも一瞬で落ちてしまう。

 必要量を集めるのに必死だった。お陰で一瓶がいっぱいになった頃には涼しいくらいの気温なのに汗だくになってしまった。

 2人はさっさと摂り終わってまったり寛いでいた。うぅなんか悔しい。


「おっ必要な量取れたんだね?頑張ったな」

 こっちは汗だくなのに爽やかにフェリクス様が言う。

「はい、お陰様で?」

 そう言うと、くすくす笑いながら少し休んでから帰ろうと言った。

 疲れ切っていたので、その提案を有難く受ける。


「それにしても貴重な薬草なのに、他の人は採取に来ないんですか?」

 と聞くとフェリクス様とイザークさんは目を見合わせて

「イズ、言ってないの?」と聞く。イザークさんがわざとらしく目を逸らすとフェリクス様はため息をついて

「ここはね私の所有している土地なんだ。許可なく普通の人は入れないんだよ」

 …何て?今なんて言いました?私の所有?まさかのお貴族様の所有地だったよ。マヂかい!

「…そうだったんですね、どおりで…」遠い目をした私は悪くないと思う。


「さて、そろそろ帰ろうか?アイル君大丈夫?」

「はい、大丈夫です。あの、ありがとうございました」

「いいのいいの、私も来たかったしね」

 相変わらず軽くフェリクス様は返してくる。

 こうして私の初採取依頼は無事に?終わったのだった。


*******


「イズ、覚えてる?前にここに来たこと?」

「もちろん覚えているよ」

 フェルが俺の手を握る。少し冷たい手だった。

「イズが屋敷を出てもう3年だね。長かったなぁ。ずっと一緒だと思っていたのにね」

 俯きながらポツリと言う。

「新婚の家にいられないだろ?」

「別にいても良かったんだよ。甘さなんて欠片もなかったし。そもそも3年間で顔を合わせたのなんて数えるほどだし」

「でも3人も子供がいるんだ。その…なんだ」

「してないよ、全く」

「え?…」

「不思議だよね、なんで子供ができたんだろ?」

「え??」


「せっかくここに来れたし、この話はもうやめよう。今はイズといる時間を楽しみたい」

 フェルはそう言うと強引に話を終わらせた。気にならないわけではない。いや、もう凄く気になる。でも話すのは今じゃないとフェルが言うのであれば。待つだけだ。


「イズはその…いい人いないの?」 首を横にしてこちらを上目遣いで見る。

「いないよ。必要ない」

「そう?良かった。相手がいたら教育的指導をしに行かないとって思ってたから。良かったよ」

「なんだそれ」

 目を合わせて笑いあう。

「僕は本気でそう思ってるんだけどな。イズは誰にも渡さないよ。()()()ね」

 手を伸ばしてフェルの頭を軽く突く。

 フェルは笑ってその手にじゃれついて来た。そんな風にフェルと過ごすのは久しぶりだなと思いながら。昔に戻ったようで嬉しかった。



 帰りも行と同じでそれなりの速度で歩いた。違うのはフェリクス様が静かだったことだろうか。

 馬車に乗り町へと帰っていく。流石に眠い。遠慮せずに寝て、と言われたのでお言葉に甘えて目を瞑った。結果、即落ちした。

 話し声に目を覚ますと、向かいのイザークさんが起こそうと思ってたと言う。もう西門は目の前だ。なんと約2時間も寝ていたようだ。


 恥ずかしさで頬が赤くなる。目の前の2人は見ないふりをしてくれている。空気読まなそうで優しい人たちだななんて失礼なことを考えていると、門を通過した。さすが貴族馬車。入門さえもフリーパスらしい。

 門を入ったところで馬車を降りる。最後にもう一度お礼を言って解散。依頼の報告は後でいいらしい。


眠いのでそのまま宿へ帰って、相変わらずの筋肉に迎えられて部屋に入った。部屋ではハクがしっぽぶんぶんで迎えてくれる。そのもふもふな首元に顔を埋めてしばしハクを堪能する。あぁハクは癒しだ。その匂いをスンスンして満足した。顔を離すとハクは体をプルプルさせる。

 あぁもう限界。そのままベットに倒れこんだ。かろうじて意識が落ちる前に体と服の汚れだけは落として。そして毛布の上にハクの重みを感じた。


 目が覚めるともう陽が高い位置にある。宿についたのが朝の9時前だったから3時間ほど爆睡していたようだ。宿の筋肉、もとい主人にシャワーが浴びられるか聞くと大丈夫と言われたので汗を流す。

 寝る前に汚れだけは取っていたけどやっぱりお湯で体を流したい。さっぱりとするとお腹が空いてきた。

 朝ご飯を抜いたから宿の主人が代わりにと昼食を出してくれた。有難い!筋肉は裏切らない。


 食べ終わるとお礼を言って宿を出てギルドへ向かう。今日は依頼終了報告だから左のカウンターだ。勇んで進んでいくと右のカウンターにいたはずのイザークさんが素早く動いて依頼完了窓口で待機している。いや、何で?

 待ち構えて手を出すので、そのまま採取した瓶を取り出して渡す。

「採取量の規定を満たしているな。合格だ。カードを」

 と言われたので渡す。

 何か操作をするとカードを返してくれた。

「あと一つ依頼を完了したら見習い卒業だ。頑張れよ」

 おぉそうだった。よし、次も頑張ろう。はい!と返事をして報酬を貰う。

 なんと銀貨5枚だった。あれ?でも移動費はフェリクス様持ちだよね?慌てて

「あの、馬車代は…」


 イザークさんは驚いた顔をしていらないと言う。でも乗せてもらって領地に入れてもらってお金も払わないなんて申し訳ない。そう言うと困ったようにフェルは自分が行きたかったし本当にいらないよ、と。

 申し訳ないと思ったけど正直助かるから、フェリクス様にお礼を伝えてもらうように言ってギルドを出た。

 採取はけっこう大変だったけど銀貨5枚は正直おいしい。まぁ特殊なケースだろうし次からはもっと報酬も安いと思うけど夢のスローライフ目指して頑張ろう。そう思った。



*******



 その夜、イザークの家にフェルがいた。

「ねぇ、アイル君の妖精の涙、見た?」

「あぁ」

「凄いね、あの子。あんなに質の高い雫ばかり集めるなんて普通は出来ないよ。特殊な目を持っているのかも?」

「それは俺も思った。だから依頼完了も俺が担当した。銀貨5枚。それだけ価値のある物だ」

「それはまた大盤振る舞いだね。でもまぁ季節ものだし、あそこの花は質も高いし…あの質なら納得かな」

「俺たちが採取したものと同じ質で初めての採取だ。規格外だな」

「やっぱり何か隠してそう?」

「間違いない。ただ本当に悪意を全く感じない。彼、報酬貰って何て言ったと思う?」

「こんなにたくさんやった!とか?」

「フェリクス様に馬車代払わなくていい?だ」

 …フェルが唖然としている。


「は?本当に??貴族の馬車に乗った平民の子が???」

「本当だ」

「うわぁ。何ていうか危ういね…」

「あぁ気を付けないと」

「うん。でもいい子だよね」

「そうだな。自然と目をかけてやりたくなる」

「僕以外にあんまり目をかけちゃダメだよ?」

 笑いながらこちらを見てフェルが言った。そのままフェルの髪の毛をくしゃっとする。こうして幼馴染同士の夜は過ぎていった。


 アイルはそんな会話がされていることを知らずにすやすやと眠っていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ