153.呼んだ?
撫でながら首輪を付ける。
よし、皆とても可愛い。すると
『くぅん(パパ)』
『うぉん(パパ)』
『わぅん(パパ)』
えっ?私…?パパだって。ドヤ顔をしてハクを振り返ろうとしたら
『わうわう(アル)』
ずっこけた。誰だ?
そしてさらにショックな光景が。ルイ以外はハクに短いしっぽを振ってる。
こっちにもパパいるよ…ハル、ナツ、リリ…。
名前呼びしたのはルイ。なぜだ?
あぁ、ルイ以外はハクに鼻鼻キスしてるし…。でもルイたんは私のとこに来てくれるんだね。ルイ…。そのほわほわな頭に頬ずりする。
ん?イリィが震えてる…?そちらを見るとお腹を抱えて笑いを堪えるイリィがいた。
むぅ…笑わなくても。
「ごめんごめん…アイの顔が…ぷくっ…くふ」
だから笑い過ぎ。
横からイリィが
「拗ねた顔も可愛いね」
だって。もう…だから怒れないんだよ。
ベビたんたちに首輪も付けたし、お出かけしよう。
ベビたんたちはいつも通りハクの背中にもしゃもしゃと張り付いてる。
ブランは肩に、ミストは腕のポーチに収まった。うん、皆は今日も可愛いね。
イリィと連れ立って宿を出る。
季節は9月になって、朝晩は少し冷えるようになって来た。でもいい天気だ。まさにお出かけ日和。
北門から町を出て更に北に向かう。少し行けばフィフス川がある。まずは川を目指して歩く。
私は一昨日届いたロリィの手紙を思い出していた。その手紙は伝書鳥で私の元に届いた。
ロリィの手紙はその性格を表すように几帳面な、そして流れるようにきれいな字で綴られていた。
石とダイヤモンドの鑑定をしたこと、石の名前。そして旅に使用人を同行させたいと言う話。
ロリィは生まれながらの貴族だ。着替えなどは1人で出来るけどその他のことは手伝いがいる。
お風呂だって1人だと手探りみたいで上手く入れない。食事も適量が分からないって。私といる時も確かにあまり食べてなかった。
どうやら優秀な執事が食事の量を見極めているらしい。さらに料理人はロリィがたくさん食べられる料理を研究してるとか。
だからその執事と料理人を連れて行きたいという相談だった。
イリィに聞くとロリィが加わる時点で人が増えることは想定してたとのこと。まぁ貴族だから身一つって訳にはいかないもんな。
ってことで石の名前は候補を、使用人の同行は問題ないことを伝える手紙を書いた。
加えてリツとアイリーンをよろしくとも。こちらで書く初めての手紙に緊張したけど、何とか書いて。
そこで思い至る。家出みたいにゼクスを出てしまったことを。
今思えば大人気ないなって思うけど、あの時は色々あり過ぎて余裕が無かったんだよな…。
レオやルドを置き去りにしてしまったみたいで心が痛い。
ロリィへの返事は急ぐから伝書鳥にして、他の皆には手紙と荷物を送ろう。
森から帰ったら何を作ろうか?レオとルドには冬に向けて暖かいローブやセーターかな。後は手袋も。
そうそう、暖房器具も何か作ろう。
イザークさんとフェリクス様、ダナン様にも何か…やっぱり手袋かな?マフラーよりスヌードみたいな?外出するならふわもこがいいしね。
お揃いでオシャレなヤツ。イリィは自分が着飾ることには無頓着だけど、デザインは洗練されてる。相談しよう。
スーザンとリアにも…。きっとリアは落ち込んでるよな?なんか申し訳ない気持ちになる。どれだけ余裕がなかったんだって今なら思うけど。あの時はなんていうか、やさぐれ?てたんだと思う。
2人にも暖かいローブと暖房器具。リアはフード被るからフードからふわもこがはみ出るような…あっ、いいこと思いついた。ふふふっ、喜んでくれるかな?
短い間だけど色んな人と出会ったなぁ。しみじみそう思う。
考えてたからか、黙ってしまった私にイリィが
「アイ…どうしたの?」
心配そうに見てくる。だから
「あぁ、昨日のロリィの手紙でゼクスのことを思い出して。何も言わずに出て来ちゃったなって」
「それはでも…」
「分かってるんだけど、やっぱりなんて言うか…ケジメ?ちゃんと自分の言葉で伝えたいなって。特にレオとルドには。リアもね…きっと落ち込んだと思うし」
イリィは優しい顔で
「くすっ、やっぱりアイはアイだね。そんなことだろうと思って…先に連絡しておいたよ。後でアイから連絡行くと思うけど、アイは元気だよって」
えっ?どういうこと…?
「きっと落ち着いたらアイは何も言わずに出て来たことを悔やむだろうから。僕が先に手紙を送っておいたんだ。スーザンに。置いてきたお祝いのことも、アイの気持ちも」
私はとても驚いた。イリィは本当に。本当にいつも私のことをこんなにも考えてくれる。
なのに私は…ロリィと子供を成してしまった。例え命の危険があってやむを得なかったとしても。それはイリィに取っては単なる裏切りでしかない。ラルフ様にとっても…。
動揺していると
「アイ?ロルフ様のことは言ったよね?許さないって。だからアイは僕からもう、離れちゃダメなんだよ?一生そばで…償って…」
イリィは寂しそうに言う。
「それでもアイがぼく以外を本気で好きになるのなら、許してあげる。解放してあげるよ?僕から」
私は泣きそうになりながらイリィを思い切り抱きしめた。
「それなら許さないで…そばにいたいから。ずっとそばにいたいから。許されたらそばにいられないのなら、許さなくていい」
「アイ…ごめんね。そんなことをしてでも、君を離したくない」
「大丈夫」
イリィにとっての許さないは最大限の愛情表現だ。分かってる、分かってるから。だから泣かないで。
大好きなイリィ。しばらくそのまま抱きしめていた。
顔を上げたイリィは淡く微笑むと
「で、さっきの話。レオやルドにももちろん連絡済み。きっとアイからの連絡を心待ちにしてるよ」
私はこの大切な人を守りたいとそう改めて思った。
私がイリィの側にいたらまた私のせいで傷つけるかもしれない。
でも私にとってイリィは自分以上に大切な存在で、だからどうか側にいさせて。どんな悪意からも守ると誓うから。
私は様々な思いを込めて…その唇にキスをした。
イリィを悲しませるのも私。でも笑顔にできるのもきっと私。だから…。なんて不器用な愛なんだろうね、私たちは。
でもそれが私たちの愛の形なら、それでもいいと思う。いつかイリィが私を許してもいいと思って、でも側にいていいというのなら。一緒に穏やかな老後を過ごしたいと思う。
多分、私がこの世界に飛ばされたこと。この世界で生きる為の試練。その理由が分かった気がする。これは神の温情。
そしてイリィが契約から解き放たれて私の前にいること。その全てが必然ならば…。
それこそが大いなる神の意志なのだろう。
運命という言葉で全てを片付けたくない。私がイリィを選んで、イリィが私を選んでくれた。
私に出来ることはただ愚直に与えられた生を生きること。生き抜くこと。
それこそが私に与えられた本当の試練だと思う。
だからイリィ、私と共にこれからもずっと…。
「アイ、やっと安定した」
『うん、もう大丈夫だね』
ハクが応える。気が付いていたの?イリィもハクも…あぁこんなにも私は愛されている。
私はイリィをまた腕にギュと抱きしめる。大好きな森の匂いがするイリィ。温かくて柔らかなその体を。
そしてハクとブラン、ベビーズにミストを撫でる。
側にいてくれてありがとう。皆、大好きだよ…。
なんだかしんみりしてしまった。
私はイリィと手を繋いでまた川に向かって皆で歩き出した。
やっと川に着いた。途中で立ち止まっていたからね。イリィも少し潤んだ目で私を見ている。
可愛い。本当に大好きだよ。
「アイ、僕はね…アイがすることを全部受け止めているよ。ロルフ様とのことだって、本当はとっくに許してる。でも、どうしてもアイを形のある何かで縛りたくて…僕の側にいて欲しくて。結婚してもどこか不安なんだ。アイがいなくなってしまいそうで。素直じゃないって思うけど、どうかアイも僕の気持ちを受け止めて」
「イリィ、私はイリィの気持ちを完全に理解はしてあげられない。当事者である私がその気持ちを理解できるなんて自惚れていない。でもね、感じたいと思うんだ。受け止めたいと思うんだ。どんな気持でも。だってそれはイリィが今、確かに生きている証で、全力でぶつかって来ているってことだから。決して失望したりしない。ただひたすら愛おしい存在だから。どうか信じて…イリィ」
イリィはとてもきれいな笑顔でしっかりと頷いてくれた。信じてるよ…そう呟いて。
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