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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動

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閑話 強奪

 私はその時、何が起きたのか分からなかった。隣町へ友人に会いに行き、その帰りの馬車。

 突然、喧騒に包まれた。

 何?何が…?

 隣に座っていた侍女のネリスが私の手をギュッと握りしめる。

 向かいに座る護衛騎士のベルガモットは腰の剣に手を掛け

「しばらく様子を見ます」

 そう言って馬車の外に耳を傾ける。



 私は侯爵家の長女で一つ上にお兄様がいる。お父様とお母様が氾濫した領内の川に避難の応援に行き、溢れる水に呑まれて死んでから1年。

 お兄様は学院を休学して領地の運営に邁進していた。そのお兄様を支えるべく、私も学院を休学して家に戻っていたのだ。


 お兄様が侯爵家を継いだのは若干15才。その重圧に苦しんでいたお兄様を私なりに必死に励ました。

 お兄様は真面目で頑張り過ぎる。だから私がそんなお兄様を支えなくては。

 淡い金髪に青い目。私と同じ色のお兄様は優しくて、いつだって私を大切にしてくれた。

 2人きりの兄妹だから、私もお兄様をとても大事に思っていた。


 お兄様の婚約が整うかもしれない、と聞いて驚いたが嬉しかった。それが、よりによってあの人だなんて…。

 あの意地悪な人がこの家に住むのは嫌。お兄様に言っても笑って取り合って貰えなかった。

 そんな時に隣町の友人からお茶会の誘いが来たので、気晴らしに訪ねたその帰りだった。


 ネリスは私の侍女で私より2つ年上の17才、護衛騎士のベルガモットは我が領に5人しかいない女性騎士で私の護衛だ。年は20才。

 外の喧騒が止む。

 ベルは唇を噛み、何があっても外には出ないようにと告げて馬車の扉を開けて外に出た。

 その服を掴もうとしたが、少し早くベルは外へと飛び出してしまった。


 ぐっ…ドタ…。


 ベル…ケガをしたのかしか?まさか…。震えながらネリスと手を取り合っていると馬車の扉が開いた。

 馬車を開けたのは粗野な顔に傷のある男だ。私たちを上から下まで眺め回してニヤリと笑った。

 私は怖くてネリスにしがみつく。

 男は馬車に入って来ると私とネリスを軽々と両腕に抱えて外に出た。


 馬車の外には護衛の騎士4人とベルが横たわっていた。

 男はネリスを他の男に渡すと私を肩に担ぎ

「撤収だ」

 そう言って森に入って行った。

 担がれながら後ろを見ればネリスとベルも他の男に担がれていた。

 ケガはしているようだが、ベルは生きている。ひとまず良かった。


 他の騎士たちがどうなったのか…倒れていることしか分からない。生きててくれることを願うばかりだ。

 ただ怖くて仕方ない。

 男たちの風体から盗賊だと思う。私たちや荷物は戦利品なのだろうか…。怖い。私はどうなってしまうの?


 しばらく進むとボロい建物に着いた。私はその建物の奥の部屋に、ネリスは他の部屋に入れられた。

 私を降ろす男は意外なほど優しく体はふわりと床に立った。

 男は私の顔を正面から見ると頬をその手で撫でた。節くれだったゴツい手だった。

「動くなよ?」

 そう言って部屋を出る。外から鍵をかける音。私は監禁されたようだ。


 放心していた後、改めて部屋を見回してそして震えが止まらなくなる。

 これから何が起きるのか、何をされるのか…。私が戦利品ならば、売られるにしろ、囚われるにしろそれはもう一つしか無い。自分で自分の体を抱く。怖い。

 お兄様…助けて。

 その優しい笑顔を思って泣いた。


 しばらくすると鍵が空けられ扉が開いた。先ほどの男が立っている。

 その手にはスープとパン。それを差し出してくる。

「食べろ」

 私は首を振る。食欲などない。

「食べならば生きていけないぞ」

 それでも私は首を振った。

 男は諦めたのか、机の上にそれを乗せると私を抱き上げてベットに降ろした。

 そして私の唇にキスをしてベットに押し倒す。

 少し困惑した顔で、でも「俺の女になれ」そう言って。

 私は怖くて首を必死に振る。それでも男はそのまま私を抱いた。


 いつの間に寝ていたのか、隣には男が眠っている。私は行為の在中もずっと泣いていた。嫌だ、痛い、怖い…。

 でも男は止めてくれなかった。初めの経験はただ怖くて痛かった。

 男に背を向けて丸くなると後ろから抱きしめられた。

 怖くて涙が溢れる。またなの?


 でも男は私の頭にキスを落とすとベットから離れて部屋を出て行った。

 私は痛む体を起こして服を着る。

 私は…私はもう。

 お兄様…。もう会えない、私はもう家族の女性として欠陥品になってしまった。


 それから男は1日に1回は顔を見せた。その度に身構えたけど最初の日以降は手を出されることなくただ夜には同じベットで寝た。

 そんな日が続いたある日、鍵を開けて知らない男が入って来た。

 ニヤリと笑うと部屋に入って来て私をベットに押し倒す。いや、何…?

「やっとだな、ずっとこの時を待ってたんだぜ」

 そう言って私の服を脱がしにかかる。私は抵抗する。

 止めて…お願い。


 その時、バァンと音がしていつもの男が入って来た。そして私に覆い被さる男を後ろから躊躇なく切った。

 私は唖然としてはだけた服を直すことも忘れて男を見る。

 男は怒った顔で切った男を担ぐと部屋を出て行った。もちろん、鍵を掛けて。


 部屋に立ちこめる濃厚な血の匂いに吐きそうになり、涙が止まらなかった。なんでこんな事に、どうして私が…。何度したか分からない問いを、答えのない問いをする。疲れた…。


 しばらくするといつもの男がやって来て私を担いで部屋を出た。そのまま別の部屋のベットに私を横たえると私を抱いた。

 私は何故だか、嫌だと思わなかった。男の手は優しくでも時に荒々しく…情熱的に私を求めて来た。

 そして満足したのか、私を抱きしめながらポツリポツリと話を始めた。


 貧しい農村の出であったこと、口減しで森に捨てられたこと、盗賊に拾われて育てられたこと、その盗賊が死んで盗賊の頭になったこと。

「俺はな、碌でもないヤツだ。それでも女子供を殺したことはない。もちろん、襲ったことも」

 ならどうして私を?


「ここに女が来たんだ。着飾った若い女だ。俺は女や子供を襲わないが、部下の中にはそれに不満を持つものも多い。お尋ね者だからな、女や男を抱く機会も少ない。溜まるからな…不満もだいぶ燻ってたんだ」

 そう言って言葉を切る。

「だから若い女がやって来て色めきたった。もっともその女は護衛を連れていて、しかもこう言ったんだ「襲ってほしい女がいるの。成功したらその子も、そばにいる女性2人も好きにしたらいいわ。報酬も弾むわよ」ってな」


 目の前にいい女がいて、でも手を出せない。部下たちは我慢の限界で、もう止められなかった。

 そして、その女の指示であの馬車を襲った。

 部下たちは暫くぶりの女にいつ抱かせてくれるのか、と騒ぎ立てていた。

 だからお前は俺の女にした。それしかお前をヤツらから守る方法がなかったんだ。

 お前と一緒にいた女もな。護衛?の女は仕方なく部下にくれてやった。


 それでも不満は解消されず、やむ無く訳ありの女や少年を連れて来て部下の相手をさせていたんだ。

 だから油断していた。

 お前に俺の魔力を感じないと騒ぎ立てる輩がいてな。それなら抱かせろと。

 言い合いをしている間にお前が襲われた。だからお前を定期的に抱くぞ。俺の魔力をお前の体に記憶させないとまた騒ぐ奴がいる。表面だけでは誤魔化せないんだ。


 そう言って私を抱きしめてキスをする。私は初めてその男の顔をマジマジと見る。

 左目の下と顎、頬に傷がある。髪は少し汚れているが薄い金髪。それを無造作に背中で括っている。

 目は鮮やかな青でギョロリと大きく、高い鼻に大きな口のイカつい顔だった。

 大きな体は日に焼けて、逞しい肩に胸が見える。鍛えられた体はガッチリとしていて、傷もたくさんあった。

 なのに私に触れる手はとても優しい。

 この人は私とネリイを守ってくれたの?


 私は激しく混乱した。

 この男は盗賊の頭で、悪いことをたくさんして来たはず。なのに、何で…?

 なんで彼の目はそんなに澄んでいるの?


 それから男は定期的に私を抱くようになった。いつしか男がそうするのを待っている自分がいて、その温もりを心地よい感じる自分がいて、混乱した。

 そんなある日、いつものように男が私を抱いて寝ていると部屋の扉が開いた。身構えるが入って来たのはベルだった。


 ベルは口に手を当ててシッと小さく言って私のそばに来た。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「ベル、あなたは…」

 私は俯く。ベルは首を振ると

「自分で選んだのです。そうすることでお嬢様を守れるのなら、と。あの男に」

 私を目を見開く。どういう事?


 ベルが語り始めた。


 ケガをして運ばれた部屋であの男に手当をして貰ったと。そこで俺の女になるか、アイツらに抱かれるか選べと言われたこと。

 俺の女になったらアイツらが暴走するかもしれないから私やネリイが危険であること。それでもお前の決めたようにする。出来る限り私を守ると言ってくれたのだそうだ。

 それなら私はアイツらに差し出して下さいとベル自ら願ったこと。

 男は本当にいいのか?と聞いてくれたこと。

 代わりに必ず私を守って欲しいと言ったこと。男が頷いたこと。


 私はベルが無理やり男たちに好きなようにされたのだと思っていた。でも違ったの?


「あの男はお嬢様を守ると言いました。それが全てです。だからどうか生きて!生きていれば、転機が訪れるかもしれない。それを伝えたくて」

 私は声を殺して泣きながらベルを抱きしめた。ベルも私を抱きしめて、そっと頭にキスをして名残惜しそうに部屋を出て行った。


 私はベルに今でも守って貰っているのね…。


 そのまま少し眠って目が覚めた。そして横で眠る男を見る。その目の下の傷に触れ、頬の傷をなぞる。

 不意に手を掴まれて…

「おい、そんなことしたら我慢出来なくなるだろ」

 やっぱり我慢してるんだわ。

 私は構わずもう片方の手で男の顎をなぞる。

「おい、お前…」

 私は男を見る。そして初めて自分から男にキスをした。

「イザベルよ…」

「…」

「名前を呼んで?」

「イザベル…」

「あなたは?」

 今度は頬を撫でながら聞く。

「ザークリス」

「ザグって呼んでも?」

 男は苦い顔をした。

「俺を育てたジジイと同じ呼び方だ」

 私は笑って

「私のことはイズ、と」

「イズ」

「ザグ」


 私はザグの逞しい腕に抱かれて目を閉じる。唇にザグの少し荒れた唇を感じ、そして…ザグを受け入れた。

 ここに連れ去られて2ヶ月が過ぎようとしていた。


 それから程なくして私たちは子を授かった。私はそのことに衝撃を受けた。

 子を授かるということは、私たちが愛し合ったと生命樹に認められたということ。


 愕然とした。自分を襲った男との子ども。私はどうしたら…?

 それでも子の実はどんどん大きくなり、もう少しで産まれる。

 私はこの子を愛せるの?私たちはこれからどうなるの?

 ザグは30才だ。若手が台頭して来て纏めるのに苦労している。ザグがいつか誰かに殺されたら?

 このまま頭として生きていても、そんなのはずっと続かない。

 いつか捕まるか、殺されるか。

 その時私は?

 もう家には帰れない。また別の男に?嫌、そんなのは絶対に嫌…。


 ぐるぐるとして思考が纏まらない。分かるのは…この先は今まで以上に苦労するということ。それだけ。

 私は…私は、この子のために何が出来るの?


 ある満月の夜、その子は産まれた。男の子だ。

 私はその子に向かって手を伸ばす。私の命と引き合えに発動する祝福を授ける為に。

 ごめんね、育ててあげられなくて…どうか私を許さないで。

 あなたのその生が健やかで優しいものになりますように…。

 私たちの家に伝わる女性にしか出来ない祝福。私の寿命をあなたに捧げるわ…だからどうか…。

 その子に伸ばした手が触れる直前

「止めろ!」

 ザグの声が聞こえた。私は彼に微笑んでその子の首に触れた。

 その子は淡く光って、透明なものに包まれた。良かった無事に発動した。

 私は血を吐いた。ザグは子供を抱いたまま私を抱きしめる。

「イズ、逝くな!」

 私は最後の力を振り絞ってザグの頬に手を添える。あぁ目が霞んで来た。ザグの顔が良く見えないわ…でもこれだけは伝えないと。


「この子はイザークよ…ザグ、この子をお願い…愛してるわ…さような…ら…」

 私は目を閉じた。そう、これでいい。どうか幸せになって…。

 イズ!そうザグの声が聞こえた気がする。

 さようなら…ザグ、さようなら…イザーク…さようなら…お兄…



イザベルとイザークの父親の真実でした


この後、章設定をしようかと思っています

少し時間空きますが、まだ続きます


「星なし転移者と仲間たち」も連載中です!



※読んでくださる皆さんにお願い※


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