150.ゼクスの町 転移者たち
うっかり2日目投稿を飛ばしてしまいましたm(_ _)m
後書にウールリアのイラスト載せてます
アイルがイーリスと結ばれてこの世界に定着した頃。ゼクスの町では…。
そこは教会の敷地の一角。子供達に囲まれて笑う女性がいた。治癒魔法に習得の為、孤児院で働きはじめた。子供達は小さなケガをたくさんするので、練習にちょうどいい。
子供たちは治るし、彼女は練習になる。ウィンウィンだ。
そう、彼女はネロア。感謝祭で教会の手伝いをしてから同郷の2人を治癒出来ずに落ち込み、前を向いて進もうと決心したあのネロアだ。
アイルが唯一、ちゃんと接触した女性。年の離れた弟がいたので小さな子の相手は得意で、プライドが高くて探索者ギルドの職員には無理かと思われたが予想以上に馴染んだ。
口は悪いが面倒見が良いので、子供たちも懐いて一緒に遊んでいた。感謝祭が終わればまた別の仕事を探す予定だったネロアに神父様から声がかかり、そのまま住み込みで働くことになったのだ。
賃金はほんの少しだけ、でも寝るところがあって食事が食べられる。それだけで良かった。
こうして彼女は新しい道を進み始めたのだった。
魔法師のカミラと剣豪のテレスはあの時の大怪我でカミラは左足の膝から下を、テレスは右腕の膝から先を失った。
それでもカミラは魔法の腕を磨きながら、片足でも戦えるよう風魔法を頑張って習得した。
テレスは片手でも戦えるよう剣技を磨き、また魔法にも力を入れた。片手で出来ないことをなくす為、ひたすら努力を重ねた。
2人はお互いを補い合いながら、前を向いて進んで行く。それも感謝祭で認められたことが大きい。治療費は周りの人がくれたり、貸してくれた。商店の人もケガが治って動けるようになったら店を手伝うという約束でお金を貸してくれた。
感謝祭で頑張ったことが認められたのだ。それが嬉しかった。自分たちにも出来ることがある。
それで頑張ろうとした矢先に人を庇って大ケガをして死にかけたのだ。でも後悔はしなかった。それが自分たちの生き方だから。彼らは胸を張って進む。もう
その顔に迷いや苛立ちはなかった。
そして、パシリをしていたフィードは…1番成功していた。彼は絵師。まさにアイルの判を書き起こすという仕事が舞い込んで、さらにデザイン性の高い簡易紋章がアイルとイーリスによって広められた。絵師としての仕事がまた増えた。まさに彼のための仕事。
だからカミラとテレスのケガの治療費も出せる範囲で、出したし、知り合いにお金を借りたりもした。
そうして彼らとも和解して、今は3人で暮らしている。出来ないことは補い合い、生計を経てている。突然の転移で浮かれ、たくさんケンカもしたが今はお互いに必要な仲間として日々、高め合っている。
時々、ネロアとも会っている。元気にしているようだ。まだジョブはフィードしか使えていないが。
それでも前を向いて、新しい世界に根ざそうと必死に暮らしている。この世界に転移した彼らにはたくさんの試練が待ち構えている。それでも彼らはこの世界にしがみついて必死に生きていた。
「なぁ、そう言えばよ…あと1人いるはずだよな?」
「それなぁ。見かけてないよな?似たような装備ならすぐ分かるはずなのに」
「この町を出たんじゃ無いか?」
男たち3人でそう話をしていた。それを聞いていたネロアはなんと無く、感謝祭が近いから人手が足りないはずと言ったフードの少年が気になっていた。
周りから煙たがられて誰も話かけようとしなかったあの頃。可愛い犬を見かけて思わず声を掛けた。まあ1人は明らかに関わり合うなというそぶりだったのに、彼は仕事は見つかったかと聞いて来た。
単なるお人好しかも知れないけど、なんと無く違う気がする。その彼の言葉でもう1人も仕方なく教会の話をしてくれた。それが自分の転機だった。あの、私のために掛けられたあの言葉が無ければ…私はこうして笑えなかった。
いつか見かけたらお礼だけでも言いたい、そう思った。いまだに会えてないが。
カミラは感謝祭の屋台のコーンスープが忘れられなかった。懐かしい故郷の味だ。あの時、あの味と出会わなかったら…。あの時、手伝えって声を掛けてもらえなかったら。もしかしたら生きていなかったかもしれない。
魔獣に襲われている人を助けて、でも大ケガをして。そんな自分たちをあの感謝祭に来ていた商人が気がついて運んでくれた。たくさんの人ががんばれ、死ぬな、ギルドに着くぞ、と声を掛け続けてくれた。手持ちの薬を掛けてくれた人、手持ちの布で傷を縛ってくれた人。たくさんの人たちに救われた。
屋台の兄ちゃんか?任せろ!運んでやる。そんな言葉を何度も聞いた。
あの時、なぜか上級探索者なのに屋台で調理していたブラッドとサリナスは動けるようになってから鍛えてやる!と言って色々と教えてくれた。
同じ釜の飯を食った仲間だからな、と。それがとても嬉しかった。あの時、なけなしのお金を払って屋台で買って良かった。そう思った。
テレスは振り返って不思議な縁を感じていた。あのコーンスープやポップコーン。あの屋台が自分たちの運命を変えたのだと。
屋台に並ばなければサリナスに声を掛けられることもなかった。あの時の報酬と屋台の食事が自分たちをここに繋いでくれたと思っている。
心を入れ替えて探索者として進みながら、時に商店を手伝って…なんて考えていた矢先の大ケガ。なのにあの屋台の味を宿屋で持ち帰り専門でまたお店をするからとやたらと顔のいい男性が手伝いに、と声をかけて貰えた。
あの屋台が無ければ…。その不思議な縁に感謝したのだった。
フィードはあの判はもう1人の知られざる転移者の功績だろうと思っている。登録者は情報開示されていないから詳細は不明だが、絵や図形が描ける人募集という探索者ギルドの紹介で商店に行けばまさに印鑑?のような判というのが新登録されたという。
それがきっかけで安定した仕事が入るようになった。その縁に感謝して今日も判を作っている。少しずつ知り合いも増え、やっとここが自分の居場所だと思えるようになった。
いつか、残りの1人と会えたらいいな…。そう思うフィードだった。
結局、アイルの存在が他の4人を間接的に救うことになったことをこの時のアイルはまだ知らない。




