148-2.その頃のアイル
148がふたつあったので…
目が覚めると淡い金に黒…。イリィとナビィか。うん、怠いな。イリィは細いのに体力ある…。もっと体を作らないと。
私は目の前の金と黒をそっと撫でる。ナビィは大丈夫かな?まだこんなに小さいのに…。いや、そのな。私が言うことでもないけど…。ナビィはきっと凄く寂しかったんだと思う。こちらで再会出来たけど、やっぱりあちらで看取ってあげたかったよ。ナビィ。寂しい思いをさせてごめんね…。その黒い髪を何度も撫でてキスする。ナビィの匂いがする…大好きな匂い。お日様みたいに温かくて優しい。
ナビィ…ナビィ…。来てくれてありがとう。
「アイリ…?」
「ナビィ…教えて欲しい。あちらのこと」
「アイリがいなくなってカズハもパパもママも泣いてた…。アイリがいないあの家はとても静かで。アイリ…寂しかったよ。なんで急にいなくなったの?なんで私を置いていったの?私がもうおばぁちゃんだから嫌になったの?アイリの腕の中で…逝きたかった」
「ナビィ…ナビィ、ごめんね。私にも分からない。突然飛ばされて、帰れなかった。ナビィ、帰りたかったよずっと。本当は今でも帰りたいよ…。でも、ナビィが来てくれたから…ハクやブランと出会えたから。何より最愛のイリィと出会えたから…ごめんねナビィ」
ナビィは私に抱きついて泣いている。その細い肩を抱きしめてキスをする。ナビィは泣きながら顔をあげてわたしにキスする。人型になってもナビィのキスは優しくて懐かしい匂いがした。
後ろからイリィが私を抱きしめる。
「アイ、ここで生きて。僕の隣で…アイ…」
「イリィ…うん。私はここで生きて行くよ」
「アイ…帰れるって言われたら?」
「…帰らないよ。私はもうここに大切な人たちがたくさんいるから。イリィを置いて戻らないよ」
さらにぎゅっと抱きしめられる。私は振り返ってその頬にキスをする。
「帰りたいと思うけど…帰らない。それが私の選択」
イリィはそのまま静かに私を抱きしめていた。
さて、起きよう。体を起こして服を着る。ナビィは犬に戻りその柔らかくて大きな体で私にのしかかる。あぁ、ナビィだ。柔らかお腹もお尻も…嗅ぎ慣れたナビィの匂いで。その胸に顔を埋めて思い切りスーハーする。ふふっナビィがうずうずしてる。離してあげるから…。私から開放されるとプルプルと体を震わせる。
私のことが大好きなのに、犬の本能なのか…抱きしめられるのは嫌いなんだよね…。可愛い。
今日はファル兄様たちは先に白の森へ出発する。わたしたちはロリィと合流する為に彼の実家である隣の領都フィフスまで移動だ。そこではマルクスとも再会する。
簡単にスープとサンドパンと野菜の朝食を食べる。ブランちゃんは少しふらふらしながら飛んで来て私の肩に止まると小さな頭ですりすりして来た。
「ブランおはよう。体は大丈夫?」
「アルおはよう…大丈夫。少し眠いだけ」
「そっか。ミストと一緒にポーチで寝たらいいよ」
「うん」
いそいそとミストの隣に潜り込んで丸まって寝始めた。ミストは甲斐甲斐しくそのブランを舐めてあげている。私はミストの眉間を撫でてから温室でオカリナを演奏する。
(素敵な音楽)
(ありがとう)
(また聞かせて)
(遠くても聞こえるから)
(また聞かせて)
精霊たちのその声を聞いて私は
「またどこかで…」
そう呟いてイリィとファル兄様たちと死の森を出た。
そこでファル兄様たちとは一旦お別れだ。
「イーリス、森で待ってる」
「はい、お父様」
「アイル君も…待ってるよ」
「はい」
「「「ブランちゃんありがとう」」」
そう言って馬車で街道を走って行った。私たちも街で馬車を買わなければならないな。お金は多分、問題ない。
「イリィ、馬車を買わないとだね」
「マルクスが目星を付けてくれているから、そのお金は2人で払うのでもいい?」
「えっ?私が払うよ。それくらいは大丈夫だよ」
「僕もそれなりにお金を貯められていると思うから」
「分かった」
こうして街道から街の方へ向けて少し歩いてからハクの背中に乗って、ナビィは空中を駆けて…馬車だと6時間ほどの距離を途中で休憩しながら2時間で走り抜けた。さすが神獣。
街に近づいてからはハクから降りて徒歩だ。西門から入ると封筒を渡される。ロリィからだ。そのまままずは探索者ギルドに向かう。ロリィの手紙で依頼達成の手続きをするよう書いてあったからだ。
そこの探索者ギルドは西門から近く、入って依頼達成の窓口で手続きをした。報酬も貰い、次は商業ギルドだ。そこではギルド職員に声を掛けて口座の残高紹介をして貰った。
目が点になるってこういうことなのか…凄まじい金額が入っていた。金貨1000枚超えってえっ?…。
よし、見なかったことにしよう。
イリィも予想以上の金額が入っていたようだ。金貨…って呟いてたから。
動物も泊まれるお風呂付きの宿に泊まることにした。主に中級冒険者が泊まる宿らしい。1泊銀貨8枚だから決して安くはない。でも安すぎても不安だから。
ひとまず部屋に着いてホッとする。私もイリィもフードを被ってるから少し奇異な目で見られたのは仕方ない。ここには2泊することにした。
少し外を歩いて、必要なパンとか肉、魚を購入して帰るとちょうど夕食だった。
席について食べていると
「ん?なんか弱々しい子たちがいるな?」
「ここはお子さまが泊まる宿じゃないぞ?」
絡まれているようだけど、多分大したことはない。なので黙っていると
「聞いてんのかよ?ガキが!」
そう言うなり食べていたスープが放り投げられる。少し頭に来たので裏拳で鼻でも折ってやろうかと思ったら、ボコッと音がして
「いい加減にしろ!」
横を見たら男が蹲っていた。私はその男を踏んで立ち上がるとぐえっと聞こえたが無視する。
「大丈夫か?」
声を掛けてきたのは背が高くてガッチリした見目麗しい男性だった。きれいな少しクセのある金髪に緑の目。歳の頃は20代前半くらいか。
「あぁ、助かった」
「コイツらは自分より弱そうだと思うとすぐに絡んで」
男性の後ろから出て来たのは筋肉の塊のような男性で、エプロンをしている。
「うちの客に何してるんだお前は?」
「ぐえっ」
軽々と私が踏んでいた男の首を掴むと
「くっ、苦しい…」
そのまま宿の扉を開けて男を通りに放り投げた。さらに素早く荷物もまとめて放り投げていた。
「すまない…」
すぐに新しいスープが出された。あまりの早技に驚いてイリィと2人でポカンとしていた。
「続けて食べて?おやっさん俺にも」
「おう」
びっくりするくらい山盛りのスープとパンが出てきた。私は席に座り夕食を再会する。
男性は当たり前みたいに隣に座って食べ始めた。
イリィは黙々と食べていたから早めに食べ終わり、私は少し遅れて食べ終わると横で男性が
「少食だな」
と声をかける。見ればもう食べ終わっていた。あれ?あの山盛りのスープとパンは?
「ん?食べたぞ?身体が資本だからな」
凄いなぁ。
「普通だろ…?いや、君は線が細いから。改めて俺は探索者のヤンダルだ」
手を出されたので私もそっと手を差し出し
「同じく探索者のアイルだ。さっきはありがとう」
「勝手にしたまでだ。本当は1人でもなんとか出来ただろ?でも目立っていいことはない」
最後は小声で言った。
そしていつの間にか私の後ろにいたイリィを見て
「連れかい?」
「あぁ、訳ありで」
詳しくは話さない。イリィは極力人目に付かないようにしたいから。
「なるほど。まぁ気をつけろよ?」
それだけ言うと食堂を出て行った。私たちも部屋に帰る。
「彼は森人だ」
「えっ?確かに美形だったけどガタイも良かったし森人っぽく無いよね?」
「確かに森人っぽくは無いけど間違いない。彼も僕に気が付いた」
「気をつけた方がいい?」
「いや、純粋に気にしてるだけだ。悪意はなかった」
「なら良かった。明日は町に出ようね」
そう話をして早めに休んだ。
※読んでくださる皆さんにお願い※
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価ををよろしくお願いします♪




