15.貴族の暮らし
イザーク視点終わり、長々と脱線にお付き合いありがとうございました。
後2年待つよ→4年に変えました
ダナン様に拾われて貴族の屋敷で暮らし始めた。俺は人としてまともな暮らしをしたことがなかったから戸惑うことも多かったが、フェルと一緒に家庭教師について勉強を始めた。
座学は2才下のフェルと同じ程度で、全く同じ内容を学んでいった。思いの外楽しくて、隣のフェルは可愛くて、俺は順調に知識を吸収していった。
剣技もフェルと一緒にグリードさんから指導して貰った。元々我流とはいえ実戦で使っていたし、森暮らしで体力もある。結局、正しい型だけ習えばこちらは問題なかった。
魔法に関しては言わずもがな。実戦レベルで使いこなせていたので全く問題ない。新たに教えて貰うことも無かったので、こちらは勘が鈍らないようにするだけで大丈夫だった。
魔法がかなり使えるのを知っているフェルは魔法を教えて欲しいと言ってきた。魔法の使い方は父親をはじめ、他の盗賊達が使っているのを見て覚えた。
だから教えてもらってないし、教え方も分からない。そこで俺が出す魔法をそのまま頭の中でイメージして使うよう言った。
魔力を魔法に変換する方法なんて分からない。やったら使えた。ならフェルも出来るだろう。そんな程度に思っていたが、フェルは魔法をなかなか使えなかった。
どうしたもんか…。思いついてフェルの手を握りゆっくりとフェルの手に向けて風魔法を使うようイメージする。するとフェルが
「うわぁこれイズの魔力?凄い!」
はしゃいだ声を上げる。イメージを止め手を離すと
「こんな感じだけど分かる?」
「やってみる!」
フェルは目を瞑って指を軽く振る。するとその指からそよっと風が吹いた。
「やったー!」
飛び上がって喜ぶとそのまま抱きついてきた。
そこからは早かった。
あっという間に全ての魔法が使えるようになった。
1年後には全ての属性が中級まで使えるようになる。
魔力量が多いのだろう。
そして夜はフェルと一緒に寝た。時々はダナン様も一緒に寝た。
フェルが1人で寝るのを怖がったからだ。
目の前で父親と騎士たちが傷つき、自分も死ぬかもしれない状況だったのだ。無意識に1人になるのが怖いと感じたのだろう。
俺自身は1人で寝たかったが可愛いフェルの潤んだ目に見つめられて嫌とは言えなかった。
そんな風に穏やかに日々は過ぎていき、やがて3年が経った。
俺は10才になった。
その日の夜、ダナン様に部屋へ来るように呼ばれた。
夜、部屋に呼ばれるなんて何だろう。
緊張しながらノックすると侍従が扉を開けて俺を招き入れ、入れ替わりに出て行った。
部屋の中にはソファで寛いでいるダナン様がいた。いつも整えている髪の毛を降ろしガウンの胸元を緩めている。
なんだかドギマギして視線を床に落とした。
ダナン様がおいでと手をふる。
少し近づくともっとと言う。
触れるほど近寄るとふいに腕を掴まれて抱えられる。
「ずっと聞こうと思って聞けなかったんだけどね。君のご両親について、教えてくれない?」
どうしてこのタイミングで?頭の中が真っ白になる。
本当のことなど言えるはずがない。
父親は盗賊の首領で母親は産まれたばかりの俺を殺そうとして父親に殺されたなんて。
言えるはずがない。
震えながら黙っていると耳元でダナン様が囁く。
「君の父親は盗賊の首領だね、母親は奴が襲って持ち帰った少女。違うかい?」
…どうして頷けようか。
「私にはね、1つ下に妹がいたんだよ。素直な可愛い子でね。とても愛していたんだ。でもある日、彼女が乗った馬車が盗賊に襲われた。彼女は戻らなかったよ。一生懸命探したけどね、見つけられなかった。それから3年後に、妹がどんなことにかなったのか。偶然知ったんだ…」
ダナン様はそこで息を吐き、続けた。
「子の実を授かっていたことまでは分からなかったけど、君の色は妹にそっくりなんだよ。イザーク、いや、イズ。妹はイザベルと言ってね、私と同じ髪と目の色をしていた。イズも同じ色だね…君を見た時に他人とは思えなかったんだけど、まさか甥だったなんてね。そうそう妹はね、家族にイズと呼ばれていたんだよ。イズ」
腕に抱かれたまま返事をする事も出来ずにいると、そっと腕を解いて正面から目を見つめてくる。
その目はとても悲しそうで、慌てて目を逸らすことしか出来なかった。
「君は5年前に死にかけたね?そしてその時に父親は死んだ。私の憎むべき相手は死んでしまった。一緒に死んだ女性は妹ではないね?隣の領主に聞いたよ。髪の色が違った。ねぇイザベルは死んだの?」
俯いた俺の顎に手をかけてダナン様は目を合わせてくる。
なので頷いた。
ダナン様は震える声でそう、と呟く。なぜ?続けて聞かれる。
俺は後から父親に聞いた話をした。産まれたばかりの俺の首を臍のをでしめて殺そうとしたと。それに気がついた父親に殺されたと。
ダナン様は目を閉じた。そのまつ毛は震えていて、とても頼りなげに見えた。
ゆっくりと目を開けると静かに口を開く。
「君も私も被害者なんだよ」
俺は物心ついてから初めて泣いた。その俺をダナン様は抱きしめてそっと髪の毛を撫でてくれる。
「わ、私は…ここにいる資格なんて…」
「そんな事はないよ。決してそんなことはない。イザークは私の大切な甥だよ。ここにいていいんだよ」
俺はダナン様にしがみ付いてまた泣いた。
どれくらい経っただろう。ようやく泣き止んで顔を上げるとダナン様はやさしく笑って頬にキスをしてくれた。頬のあとは唇に…
ダナン様はその青い目でまっすぐに俺を見て…片手で俺の腰を抱き、もう片方の手で俺の頬を撫でる。
そしてまた唇にキスをする。少しずつ大胆に深く深く。
体が痺れたようで力が入らない。そんな俺の体を軽々と抱き上げてダナン様はベットに運ぶ。
俺をベットに降ろして上から覆い被さるようにするとそのまま唇にキスをされる。そのままシャツを脱がされ、ダナン様もガウンを脱ぐ。相変わらず白くて綺麗な体だ。
下履きだけの姿のまま抱きしめられ、心臓がバクバクした。頬が上気して呼吸が熱い。
ダナン様の体温を感じて安心感に包まれる。それが凄くふわふわした気持ちで心地良かった。
そのままダナン様に優しく抱きしめられて眠った。触れ合う素肌に、優しい声に、柔らかな唇に…戸惑いと嬉しさで気持ちが整理出来ないけど、それでもとても幸せだった。
朝、目が覚めると間近にダナン様の綺麗な顔があって焦った。昨日は…思い出して一人で赤面する。あんな風にキスをされて抱きしめられるなんて夢のようだ。
でも目の前にダナン様は確かにいて…それを確かめたくてそっと頬を撫でる。すると瞼がふるっとしてダナン様が目を覚ました。
何度か瞬きをすると優しくおはようと言って唇にキスをされる。自分の頬が赤くなるのが分かる。
小さな声でおはようございますと言うと優しく笑った。そしておでこを合わせると
「後4年、待つよ。だからその時はイズを私に…」
それが何を意味するのか、父親たちを見ていたから知っている。恥ずかしさで真っ赤になりながらコクコクと頷く。ダナン様になら…自分の全てを…
「それから2人の時は私のことはダナと呼んで、イズ」
「はい」
この日、初めて本当の意味で自分の居場所が出来たとそう思った。
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