144.その頃のロルフ
ロルフ視点です
私たちはイルと別れて死の森近くの宿を出発する。父上たちは領地に向かい私はゼクスへ向かう。
ゼクスに着いたらフェリクスにダイヤモンド鉱山の話をする。新種登録は商業ギルドにも連絡して。
イルに指名依頼を後追いで出して、すぐに依頼達成にする。
あのダイヤモンド鉱山の取り決めは私に一任されている。本来なら占領したラルフが全部取れるが、そもそも鉱山の入り口はハク様が占領している。それも含めての交渉だ。
ハク様の縄張りには勝手に入れない。そうするとこちらの取り分を多めにして…。あちらの出方次第か。
すでにラルフが占領した森の西側をフェリクスが占領したらしい。ハク様の縄張りとは接していないが、色々と資源はありそうだ。
ただ、本格的な調査は私が出発してしまうから、白の森から帰ってきてその後となる。
私の胸元には小さな実と寄り添うように白い子がいる。名前はリツという。
白銀狼の子だが、まだ真っ白で特徴的な背中と胸元の銀はまだ分からない。しかし小さくて可愛い。
何よりイルの子だ。可愛くないわけがない。時々眉間を指で撫でるとふにゃふにゃして頭を擦り付けてくる。
なんて可愛いんだ…。この子も登録しないとな…。ペットの犬でいいか?イザークに相談だな。
そんなことを考えていたらゼクスが見えて来た。なんだか久しぶりな気がする。
そのまま探索者ギルドに向かう。入ると何やら騒然としている。
私に気が付いたギルマスが近くに来て小声で
「ちょうどいいところにロルフ、薬ないか?傷薬だ」
ある…とんでもない効果のあるヤツ。でもあれはイルが私にくれたものだし、外に出すのは無理だろう。
「普通のならある」
「お前のなら普通で充分だ!出してくれ、買い取る」
「分かった」
私はある分を出した。
「何があった?」
「魔獣にやられた。旅人を庇って探索者がな。全く実力もないのによ…」
言い方は厳しいがその行動を責める言葉ではない。ギルマスが顎を向けた先には血だらけの2人の探索者がいた。
「彼らは屋台の?」
「あぁ手伝ってたヤツだ」
そこには黒髪の探索者たちとその前に泣きながら手をかざす女性がいた。
「なんで発動しないの?何のためのジョブなのよ!お願い、発動して!治癒!!」
「彼女は?」
「んー多分同郷だな。治癒は発動条件が厳しい。イザークによると登録から1ヶ月と少しか…まだ無理だろうな」
「いや…ごくわずかに発動してる」
「マジか?」
「血の量がほんの少し減っている」
「お前の薬を飲ませればあるいは…」
職員が2人の体を起こしてその口に薬を流し込む。むせながらもなんとか飲みこんだ。すると浅かった呼吸が落ち着いて血が止まり始める。
職員がもう一度薬を飲ませる。今度はこぼさず飲むことが出来た。すると赤かった顔が落ち着き、目に力が戻る。
「ふう、相変わらず良く効くな…」
あれはイルがくれた薬草で作ったものだ。今までの私の薬ではあそこまでの効果は出ない。多分、彼の手によって採取された薬草には自動的に治癒の効果が上乗せされてるのだろう。
彼はきっと常に誰かを癒したいと思っているから。本当に君は…愛おしい気持ちが募る。
落ち着いたらしい彼らは併設されている治癒院に運ばれて行った。そして彼らの近くに座っていた女性が職員に
「あの、その薬は?」
職員はギルマスを見る。首を振ったのを見て
「ギルドの備蓄分だ。多数から仕入れてるから製作者は分からない」
「そう…ただの薬にも負けるのね…」
「ただの薬じゃない。長い時間かけて研究者たちがその効果を高めたものだ。同じ薬でも薬草の質一つで効果は変わる。だから探索者の薬草採取はとても大切なんだ」
女性は目を開き
「そうなのね…私はそんなことさえ知らない」
「知らないことは恥ずかしいことじゃない。知らないでいるよりずっといい。気がついたなら学べ。まだ若いんだから遅くないだろ。それにごく僅かだが治癒の効果はあった。そのごく僅かが無ければ、あるいは薬が間に合わなかったか…飲み込めなかったかもしれない。積み重ねれば効果は上がる」
女性は目に涙を溜めて
「…そうなのね…少しは私も…今からでも遅くない、そうよね」
女性は何かを決心したような顔で職員に頭を下げてギルドを出て行った。
「なんとかなったな。で、あの薬は?」
ギルマスがまた小声で会議室に移動しながら聞く。
「元の薬草はアイルが…」
「そんなことだと思った。元からお前の薬は効果が高いがあれはまたなかなかだぞ」
「多分、彼の力が宿った…?」
「もう驚かないぞ!で、会えたんだな?」
私は頷く。
「元気だったか?」
会議室に入ると私は答える代わりにローブを胸元を開いて見せる。
ギルマスの目がまん丸になって固まった。
「お前それ…」
言葉が出ないようだ。
入って来た会議室を出ながら
「イザークを呼ぶぞ?」
頷くと足早に会議室を出て行った。
私は胸元のポーチを撫でるとそこから子の実とリツをそっと出す。快適に作られてはいるが窮屈だろう。
リツはふにゃふにゃしながら子の実に寄り添い私を呼ぶ。
「ぴぃ」
狼の鳴き声にしては個性的だ。その眉間から首、背中へと撫でていく。まだ開かない目で必死に私を探して鳴くこの子はイルから託された大切な子だ。
扉が叩かれてギルマスとイザークが入って来る。
そして机の上を見て固まった。扉を開けた状態で動かなくなるイザークを後ろからギルマスが押して部屋に入る。
「なっえっ、いや…はぁぁ?」
「…」
「あーロルフ、その…誰の子だ?」
私はリツを指して
「ハク様とアイルの子」
「…待て待て、どういう事だ?」
イザークを見ると
「ギルマス、ハク様は銀狼の特殊個体で白銀狼です」
「…はぁ?白銀狼?あの白銀王の物語のか…?」
私は頷く。
「待て、お前ら知ってたのか?」
私とイザークは頷く。
ギルマスは大きな溜め息を吐くと
「で、そのハク様とアイルとの子がその白いのか」
「白銀狼と魂の契約者である人との子は白銀狼として産まれる。その中の1頭がこの子、名前はリツ」
「…で、隣の子の実は?誰の子だ?」
「私とアイルの…」
「はぁぁ?」
「えっ?」
「待て、アイルにはイーリスがいるだろ?」
「私が願って、彼が受け入れた。アーシャ様に後押しされて…」
「良くイーリスが許したな」
「…事故でアイルと私が地下洞窟の川に流されて…アイルも私も危なかった…」
「命を繋ぐための…か」
私は頷く。ギルマスは頭をガシガシすると
「分かんないが分かった…で、話は?登録か?」
「それもある。後はダイヤモンド鉱山の件…フェリクスも」
「あぁもう犬でしか登録出来ないだろうよ。分かった、イザーク頼む。で、鉱山の件はフェリクスを交えてだな。権利関係を明確にしないとだ」
「新種の登録もある」
「マジかよ?」
「色付きが…」
「お前、拠点はどうするんだ?」
「しばらくはここにそのまま。ただ、色々あってしばらく離れる」
「どれくらいだ?」
「正確にはまだ…最低4ヶ月…かな?」
「…鉱山の件と新種の登録まではいてくれ。最低でも3日はいる」
私は頷く。するとイザークが
「その…リツ様を撫でても?」
イザークの目がとても優しい。私は頷く。そっと手を伸ばして背中を指で撫でる。
「ぴぃ」
「…本当に白銀狼、なのか?」
「鳴き声が個性的」
「アイルがお前に?」
「ユーグ様が子供を守るためにと…この子が自分で子の実に寄り添ったから」
「他のもその…ハク様たちの子は?」
「あと4頭…」
想像したのか2人して体を震わせている。ふわふわで小さなものが集まったら可愛いよ…?
それからリツの登録を済ませ、フェリクスとの会合は日を改めてとなった。私はひとまず屋敷に帰ることにする。
アイルは移れ?って言えばそのまま屋敷ごと収納出来るって言うけど…人は?大丈夫だよな。
屋敷と研究や生活に必要な自分のものだけ収納しよう。彼のことだから、大丈夫だろう。
アイルの言葉をそのまま受け止める純粋なロルフだった。そのぶっ飛んだ力を不思議に思わずに…。
屋敷には執事がいて迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま…」
「旦那さまから聞いております。子を授かったと…」
その老いた目に涙を浮かべる。次期領主でなくなった私に付いてきてくれた執事だ。華やかな世界から一転、地味な生活へ。
それを分かって来てくれた、生まれた時から我が家に務める老執事。
私はローブを開いて子の実とリツを見せる。執事は驚きながらもそっと近寄り
「なんと清々しい…そしてこちらの子はなんと愛らしい。お坊ちゃまらしいですな」
「私もそう思うよ?リベラ…長らく仕えてくれてありがとう。私と私の大切な人との子だよ」
リベラは涙を流しながら頷く。
「触ってくれる…?」
子の実、侯爵家の長子の子なのだ。仕えている人間が触るなと普通はあり得ない。でもロルフにとってリベラは家族に近しい存在だ。それが分かったリベラも頷きそっと子の実とリツを撫でる。
その手つきは限りなく優しかった。そのままリベラは何度も撫でた後に
「ロルフ様…ありがとうございます。これで憂なくあの世へ参れます」
「まだダメだよ…私にはリベラがいないと」
「ほっほっほっ…では頑張らねばなりませんな」
爽やかに笑うと私を部屋まで案内して下がって行った。
私は大切な人たちに囲まれているのだな。そう改めて思えた。それもイルと出会えたから。
私は死の森にいるであろうイルを思った。
「星なし転移者と仲間たち〜逃亡中〜」も連載してしてます
明日の投稿でレイキのイメージイラストを載せてます!
よろしければそちらも…お読みください
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