表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

139/434

138.再会の夜

 アイ…()()()()()()


 アイから語られたロルフ様との話。

 アイが岩庇を踏み抜き、川に流されたこと。アイの記憶はそこから無くて、次に気が付いたのはロルフ様に抱かれた後だったこと。

 その時のことは朧げに夢のように覚えていて、寒くて凍えそうで…それを誰かが温めてくれたこと。やがて寒さが薄らいだこと。

 目を覚ましたらロルフ様がスキルの使い過ぎで命の危険にあったこと。助ける為には癒しの魔力を直接届ける必要があるとアーシャ様に言われたこと。


 アイを助ける為に体の中から温めることにロルフ様は悩み、アーシャ様に背中を押されたこと。

 ロルフ様を助ける為に交わることを悩み、アーシャさまにすでに交わっていると聞かされたこと。

 スキルで体を強化し過ぎると、反動で体調を崩した時に命に関わること。

 ロルフ様に子を望まれたこと。悩んだこと…僕のこと、ロルフ様の想い。

 その全てを語ってくれた。


 僕は途中から涙が止まらなかった。ロルフ様の想いが痛いほど分かる。()()、僕以外を抱いて欲しくなかった。僕以外の人の子をもうけて欲しくなかった。だから…言ってしまった。

「アイ、僕は君のことがこんなにも好きだから…だからやっぱり()()()()()


「…ごめん」

 アイはただ静かにそう言った。

「あ…」

 違う、そんなことが言いたかったんじゃない。ただ…僕だけを見て欲しかっただけなんだ。誰にも渡したくないから。僕だけのアイでいて欲しいから。

 だから…そんな顔しないで。


 そんな顔をさせたのは僕。許せないだなんて。でももう言葉は戻らない。アイ…。お願いだから、嫌わないで。こんな僕を…嫌わないで。


 アイは悲しそうな顔をしてそっと僕の腕から離れて行ってしまった。アイ…。

 僕はそのまま踞って泣いた。アイの後をハクとブランが追いかけた。もちろんミストと子供たちも。皆んなアイの所に行ってしまう。僕にはアイしかいないのに…。


 しばらく泣いて、ふと気が付く。背中に温かいものがあることに。手を伸ばすと柔らかくて長い毛に触れる。振り向くとナビィがお尻を僕の背中に付けて横倒して寝転んでいる。目が合うとしっぽが緩く振られる。ぐっーと伸びをして起き上がると僕の頬に肉球を当てて口を長い舌で舐め始めた。


 僕は驚いて涙が止まって、ただ呆然とされるままになっていた。顔中ベタベタになるくらい舐めたら満足したのか、僕の胸に顎を乗せてペタリと伏せた。

 お、重い。その垂れた耳が僕の頬に当たって柔らかくてくすぐったい。何故かその温もりが嬉しくて、その柔らかな毛が愛おしくてゆっくりと撫でた。

 気持ちいいのか、更に体重を僕に預けて目を閉じる。何て可愛いんだろう。重いけど。


 そこにアイが帰って来た。僕とナビィを見ると

「だからナビィ、イリィが潰れちゃうよ!大きさ、大きさ考えて!!」

 そう言って僕の側に来た。そして僕の顔を見て

「ナビィ、顔中舐めないの!」

 すぐに僕の顔に洗浄の魔法をかけてくれる。これは僕には出来ない。僕だと水で濡らして風で乾かすから周りが濡れてしまう。

 アイはそれらをまとめてやってしまうんだ。

 そしてナビィを僕から退けようとする。でもナビィは僕にしがみ付いて離さない。

「イリィ、重くない?重いよな…ナビィ降りなさい」


 僕は思わず笑ってしまった。だってアイの焦った顔とナビィの知らないよって顔があまりにも可笑しくって。アイは驚いた顔で僕を見ると

「イリィ…?怒ってるよね…」

 泣きそうな顔でそう言う。

「怒ってるよ。だから…もう僕を離さないで…僕だけのアイでいて」

「イリィ…」


『それはダメ!アイリは皆んなのアイリだから。それにアイリは私と子供作るの。独り占めはメッだよ』

「…」

 ナビィ、君って子は…アイに似て天然だな。


「ふふふっ、人以外は構わない。でもナビィとアイに子が出来るの?」

『出来る!人としか子が出来ない。だからイリィとの子も作れるの。人型で交わればね』

「そ、それは…」

 ナビィはメスかな?えっ…。ブワッと顔が赤くなる。

『ふふっ楽しみにしてて!お胸バーンってお姉さんになるよー』

「お胸バーン…」

 想像したらちょっと…アレで。いや、アイの薄い胸も細い腰も好きだけどね。たわわなお胸…。


「ナビィ、人型になれるのか?」

『まだ少し先だけどね、成長すれば』

『僕はアイともイリィと交わりたいな、アイ。いいよね?』

 えっ、ブラン?人型になれるのか?まだ雛みたいな大きさなのに。

「ブランちゃん、人型になれるの…?」

『なれるよー。ハクみたいにカッコよくないけど…』

 産毛に覆われた羽をもじもじと合わせて言うブラン。

「僕も?えっブランはオス?」

『聖獣には性別がないから男型だよ』

「ナビィは聖獣じゃないからメスなの?」

 アイが聞く。

『ナビィはナビィだよー。イリィはお胸バーンがいいの?』

 …うん…。恥ずかしい…。


 僕はアイを見る。なんかびっくりした顔だけど大丈夫かな。

「アイ…」

 ビクリとして僕を見る。その目は少し潤んでいる。

「僕を…これからたくさんたくさん僕を愛して」

「いつか…いつか許してくれる…?」

 最後は涙で消えそうな声だった。僕は頷く。

「でも、許しても許さなくても、変わらず側にいて…」


「…イリィは()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 ぼくは驚いた。アイは…僕が許さないと言ったから、僕の側にいない方がいいと思ったの?

 あぁ、そうだね…アイはそういう子だ。どうしたって優しくて。

 僕が側に来ないでと言ってしまったら、アイはきっといなくなる。自分の感情より僕の感情を優先して…。それなら僕は側にいてって言い続けるよ?


「側にいて、僕を離さないで…」

 アイは泣きながら頷いた。僕はアイの震える肩を抱きしめる。僕はこんなにも君が好きで、だから本音は許せなかったんだな…。そんな僕の気持ちさえ、君は受け止めてくれるんだ。

 僕はアイにキスをする。ねぇ、アイ…これから何度もキスをしよう。たくさんたくさん抱き合おう。

 アイのことは僕の方が知ってるよって言えるくらい。ずっと側にいるからね。


 その後はまた2人で抱き合いながらソファに横たわる。僕はアイの柔らかい髪を撫でて。アイは僕の胸に頬を当てている。時々、その顎に手を当てて上を向かせキスをする。アイとは何回したって飽きないよ。

 何度でもしたい。





 イリィに全部、話をした後に言われた言葉…。

「だからやっぱり許せないよ…」

「…」

 そうだよな、ごく自然と納得してしまった。想いが強ければそれだけ…当たり前だ。

 私が側にいるとイリィを傷付けてしまう。側にいたいけど、私は離れた方がいいの?そっとイリィの腕から抜けて居間を出る。

 後ろからハクやブラン、ミストとベビたんたちが付いてくる。

 さっき演奏した切り株に座ると


(音楽聴かせて)(聴かせて)

(きれいな音色)(新しい曲)

(素敵な旋律)(故郷の曲)


 そうだな、頭に思い浮かんだからあの曲しよう。

 私はオカリナを構えて吹く。その旋律は応援歌…でも、確か中身は失恋の歌。新しい出発へと自分を鼓舞するような…。


(君を忘れない〜曲がりくねった道をゆく〜)

(愛してるの響きだけで〜生きていける気がしたよ〜いつかまたこの場所で君と巡り会いたい〜)


 吹きながら目に涙が溢れてくる。私はそのまま蹲って泣いた。こんなに好きなのに…。

 でもロリィとのことは仕方なくとか、そんなことではない。自分で決めたこと。それは私の意志。例えイリィが許してくれなくても、それは自分のしたことだから。その想いを受け止めたい。

 だからイリィ、1人で泣かないで。泣かせた私が言うことではないけど。

 背中にハクが寄りそう。肩にブランが止まる。


(泣かないで)(泣かないで)

(神は優しい)(神は見てる)

(大切な子)(ここで生きて)

(命を守って)(あなたはここで生きて)


 精霊たちの声も聞こえる。ありがとう。そうだね、私にはハクたちがいる。例え離れることになってもイリィへの想いは変わらない。ずっと大好きだから。

 だから大丈夫。



 この精霊たちの言葉にも何故愛理がこの世界に来たのか…そのヒントが隠されていた。でも私はまたそれを見逃してしまったのだった。



 あれ?こんな時一番側にいるはずのナビィがいない?もしかして…慌てて涙を拭うと居間に戻る。

 そこにはソファに仰向けで横たわるイリィとやはり、その上にデンと乗っかるナビィ。


「ナビィ、イリィが潰れちゃうよ。だから大きさ!」

 思わずイリィの側に駆け寄る。ナビィ離れなさい、と思うものの大きくなったナビィは重くて全く動かない。むしろイリィにしがみついてるよ。イリィが潰れちゃう、ナビィってば…。

 するとイリィの笑い声が響く。えっ…?


「イリィ…?怒ってるよね…」

 泣きそうな顔でそう言う。

「怒ってるよ。だから…もう僕を離さないで…僕だけのアイでいて」

「イリィ…」


『それはダメ!アイリは皆んなのアイリだから。それにアイリは私と子供作るの。独り占めはメッだよ』

「…」

 ナビィ、だから空気呼んで!そこは静かに2人が見つめ合って…って流れだから。


 その後はナビィのお胸バーンにイリィが真っ赤になったり、実はブランも人型になれたりと新しい事実に驚いて涙も悲しい気持ちも飛んでしまった。

 ナビィ、空気は読まないけど。やっぱり最高の相棒だよ…。素でそれをするからな、敵わないな。

 イリィを笑顔に出来たのは私じゃない。イリィの側にいてくれたのもナビィだ。


 犬は飼い主の気持ちに敏感で、悲しいことがあって落ち込んだ時にはそっと寄り添ってくれる。嬉しい時にはご機嫌にしっぽを振ってくれる。体調が悪い時は側に来て寄り添いながら様子を見てくれる。

 イリィの様子を見て、ナビィはその背中に寄り添ってくれたのだろう。

 ありがとうナビィ。昔から私の側でそんな風にお尻を付けて…近くにいてくれたよね。お尻を見せるのは犬にとって信頼の証。


 私はナビィを抱きしめる。あぁ、ナビィの匂い。実は視覚以外の嗅覚とか聴覚の方がより確かに記憶に残るらしい。

 ナビィのその匂いは私があちらの世界で確かに生きていた証で、幼い頃から親しんだ大好きなナビィの匂いだった。


 イリィは許さない、と言った。でもそれは側にいることを許さない、ではなかった。イリィは優しい。ありがとう、大好きだよ。


 その夜はイリィとハクに大変鍛えられたのは…仕方ないよな。でも本当に朝まで一睡もさせて貰えなかったよ…。私、かなり弱ってたとは思うんだけどな?イリィ、ハク。そこは容赦ないんだね…。




面白いと思って貰えましたらいいね、やブックマークをよろしくお願いします!

励みになりますので^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ