137.イリィと2人の時間
ロリィはゼクスへ、システィア様たちは領地へ。そしてイリィと私たちはファル兄様が来るまで温泉へとそれぞれ別れた。
別れ際、システィア様に手をガシリと握られ
「アイル君、ロリィを頼むよ。そして本当にありがとう。我が家にロリィの子と聖獣様が来て下さる。とても嬉しいよ」
ルシアーナ様には抱きつかれ
「アイル君、白の森に行く前に私たちの領地に来るのでしょう?待っているわ!夜通し仲良くしましょうね…」
言い方…変な誤解を招くから。ほら、後ろでシスティア様が睨んでるし…。ロリィが「それは私の役目」とか言ってるし。
そんなことがありつつも無事に再会を約束してそれぞれの行先に向かった。
馬車が出る間際に
「ダイヤモンド鉱山の件はロルフからダナンに伝えてもらうよ。その後の権利関係は私たちで決める。君には相応の報酬を支払うからな」
そうだった。ダイヤモンド鉱山の話からで、今回の遭難だった。ロリィは優しく微笑んで
「任せて。悪いようにはしないよ…」
お願いね、ロリィ。なんだか不安だけど…。純粋で無垢だからなぁ。
そしてイリィと私は温泉に向かった。
温泉に着くと精霊や妖精たちが迎えてくれる。今日もにぎやかだ。
(使途様が)(使途様が来た)
(私の糸と布を)(使途様使って)
(白蜘蛛の糸)(使って)
白蜘蛛の糸は柔らかくて光沢があり、蜘蛛絹と呼ばれている。それが国王に献上されるような最高級品であることはかなり後で知ったけど。
もふもふのナビィの胸毛に蜘蛛絹…似合うね!ナビィは赤が似合うから赤かな?女の子だしね。
「後で好きな色に染めてから作るよ」
『アイリの色がいい』
私の色はくすんだ銀だよ?地味だけどいいの?
『お揃いがいい』
くすっ可愛いなぁ。大きくなっても甘えん坊なままだ。
「分かったよ」
その頭にキスする。屈まなくてもいいからキスし放題だね。
(音楽聴かせて)(音楽聴かせて)
(約束したの)(約束したよ)
(きれいな音色)(また聴かせて)
(聴かせて)(初めてだから)
(聴かせて)
私はポーチから前に作ったオカリナを取り出す。何がいいかな?童謡だとやっぱり赤トンボ。物悲しい旋律がいいな、うん。
近くの椅子用切り株に腰を下ろしてオカリナを構える。
「〜〜〜…」
(夕焼けこやけの赤トンボ 負われた見たのはいつの日か…)
まだ昼前だけどな…。
(パチパチパチ)(きれいな音色)
(澄んだ音色)(素敵な旋律)
(聞いたことない)(とても素敵)
(懐かしい)(優しい音…)
突然イリィが抱きついて来る。私にヒシッとしがみ付きながら泣いている。
「イリィ…?」
「アイが…僕の所に帰って来たんだと…ぐすっ」
私もイリィをギュッと抱きしめて
「心配させてごめん」
しがみついたままで泣いている。その細い肩を撫でながら背中をトントンする。
顔を上げたイリィのまつ毛に涙が光って、こんな時ですら圧倒的にきれいだ。
「イリィ、きれいだよ…」
「ぐすっ…こんな顔の時に言うのがそれ?」
「どんな顔だって、イリィはいつだってきれいさ」
「だ、だから…そういう所だよ?もう…」
泣きながら拗ねて、私の頬に手を添えてキスをする。とても情熱的で…イリィ…息が苦しい…。
ぷはっふうふう。危なかった。
「僕を泣かせた罰ね…夜の鍛錬が楽しみだよ?」
う、うん。私も楽しみ…かな。
ハクに助けを求めるとハクも目を輝かせて…。
まさか、ハクたん…。一緒に鍛錬とか言わないよね?
『ふふっ魔力を循環させて体の調子を整えないとね。まだ少し不安定だよ?』
いや、でもベビたんたちもいるしね…?
『安心してーアイリ!私が見てるから』
ナビィ…空気呼んで?今はやっぱり親が側にいないとって言う場面だよ?
『みゃうん』
…こんな時だけ鳴き声揃ってるし。ベビたんもパパいないと寂しいよね?
『みゃみゃ…(別に!)』
えぇ、初めて聞こえた我が子の声が別に!なの。パパ落ち込んでいい?
『ほら、大丈夫だ。親は仲がいい方が子供たちも喜ぶ』
『みゃうん(そうだよ)』
うぅ、夜の鍛錬は…明け方までコースだね、これは。
(ありがとう)(ありがとう)
(また聴かせて)
(またお願い)
賑やかな精霊たちを後に住居に入る。あぁ、帰って来たよ…。嬉しいな。また後ろからイリィが抱きついて来る。振り返って抱きしめる。
うん、温かくて柔らかくて…イリィの匂いがする。あ、こらこら。首とか頭の匂いを嗅がない。
あ、だから腰を押し付け…。イリィ、あの…。
私を離すと真剣な目をして見る。そしてキスをすると手を引っ張って脱衣室に入る。
そのまま早業で脱がされて、イリィも脱いで手を引かれて洗い場の椅子へ座らされる。
そのまま体に石鹸を擦り付けて…丁寧に、とても丁寧に…恥ずかしくなるくらいしっかりと洗われた。
私もイリィを洗うよ。優しく丁寧にね?
うん、何かな?えっ…どうしたの。顔を赤くして。
ここ?気持ちいいの…?ふふっ可愛い。チュッとキスをして泡を流す。
涙目とか可愛いね…。うん、えっ。いやその…ごめんなさい。鍛錬は朝まではちょっと…寝たいかな。
手を引かれてお湯に入る。あの、イリィ…なんでイリィのお膝に座らされてるのかな?しかも向かい合うように。
イリィの濡れた髪とか隠されてないそのきれいなお顔とか…見えてて恥ずかしいよ?
下半身が密着してるし…。あ、待って。まだお昼前だし。ん、ん…。
いつもより激しい?
「僕だけを見て」
イリィ、たくさんごめんね…。心配させて、他の人と交わって。嫌だよね…神の意志とか言われてもそんなの納得出来ないよね?
なのにイリィは私を責めない。何で他の人を抱いたの、とか聞かない。不安にさせてしまってごめんね。
こんなに大切なのに…。
だからイリィが思うようにしていいよ。うん、ん、ん…。
2人の息が荒くなり混ざり合って溶け合って。激しくて優しくて、どこまでも愛おしい時間が過ぎて行った。
イリィと私は居間のソファで抱き合って微睡んでいた。
あの後、お昼ご飯を食べて、お昼寝時間。可愛いベビたんたちもハクと一緒にお昼寝中。イリィに抱きしめられて、背中にはハクがいて胸元にはベビたんとブランとミストがいて…。幸せな時間だなぁ。
もうダイヤモンドとかどうでもいいって言えたら楽なのにね。
まぁ手続き丸投げしてて言うことじゃないけど。
ベヒたんのふわっふわな産毛に顔を寄せて…。この子たちも私の子なんだなぁ。ハクと私はパパなんだよ?
びっくりだよね。
健やかに育ってね。名前も考えなくちゃ…。
ー「そういえば律のお兄さんは何て名前?」
「節」
「い、妹は?」
「夏」
「…」
「黙らないで感想言ってよ?」
「方針が分かりやすい?」
「ブハッ、何それ。相変わらず斜め上ね」
「他に言いようある?ツが付けば良かったの、とか聞けないよ?」
「言ってるし…」
「あ…」
「くすっ相変わらず変なところで気を違うのね」
「だって、律のご両親は律たちを凄く大切にしてるから…」
「愛理のそういう所、好きよ!」
無邪気にそんな会話をしたのはいつだったか。ー
目を覚ます。イリィが私の髪を梳いている。その手が温かくて心地よい。その手にキスしてイリィを見る。
優しい顔で見ているイリィ。でも僅かに寂しそうな顔をしている。その頬に手を伸ばして
「イリィ?」
「アイ…何があったか教えて。ロルフ様とのこと…」
最後は掠れるような声だった。
私は頷き語り始める。
アイが帰って来た。元から細いけど、さらに少し細くなったかな。いや、やつれた?
駆け寄って抱きしめる。アイの匂いがする。アイの温もりがする。確かにここにいるよね?アイ…。不安で、考えてしまったあのことが頭を離れなくて…怖くて。アイを失うんじゃないかと、とても怖くて。
でも帰って来た。僕の所に。
アイ…もう何処にも行かないで。僕を置いて行かないで、アイ。
泣き出した僕を優しく撫でてくれる。いるよね、そこにちゃんと。まだ怖くて離れたくない。その体温を感じたいんだ。確かに存在することを。
でもロルフ様との子が実って、何で僕じゃないの?どうして他の人と交わったの?
そうしなければ危なかったと、命の危険があったと聞いても気持ちが納得出来なくて。
子の実を2人で抱えて寄り添うその姿が眩しくて…。
アイは皆んなに必要とされている。僕と違って。皆んなに愛されてる。
ロルフ様だってお父様も兄様たちも皆アイが好きだ。僕の大好きなアイは素敵だから、皆が好きになる。
僕を見て、僕だけを見て…。お願い、アイ。
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