136.ナビィ
後書にイーリスのイメージイラスト載せてます
本当に可愛いな、ナビィは。
「こ、こほん…そのナビィ様、私の息子ロルフを?」
システィア様が声を掛ける。
『ロリィはアイリの恩人だよ。もう私の家族だね、アイリの子がいるからー』
「使徒様の家族…なんと恐れおおい」
『ナビィって呼んで?様は要らない』
「ナビィ様…ロルフの母です。あの、宜しければ撫でさせて下さいませんか?」
小柄な美人さんがナビィに声をかける。
『ロリィのママさん?いいよー』
しっぽを振って飛んで行く。あ、ナビィだから大きさ!すかさずロリィがその美人さんに駆け寄って後ろから支える。こうして見ると似てるなぁ。ロリィとお母様は。どうりできれいな訳だ。
ナビィは首の辺りを撫でられてご満悦だ。その辺りを撫でられるの好きだもんなぁ。
あ、システィア様も撫でてる。あれ?上を向いて震えてるよ。うん、分かるよ…気持ちいいよね。
ラルフ様も恐々撫でてる。ロルフ様はお母様の後ろから一緒に撫でてる。うん、絵になるね!
イリィが後ろから抱きついて来た。ん?振り返ると
「アイ、今日はもう離さないから…たくさん抱かせて…」
そうだね、心配かけたし寂しい思いをさせたから。私はキスをして抱きしめる。そしてイリィの耳元で
「優しくしてね…」
「無理…かも?だって何日も鍛錬してないでしょう?」
えっイリィ、鍛錬なの?
ふふふっとイリィが笑った。私も笑って抱きしめる。
「が、頑張るよ?」
私は引き攣った顔で答えた。
「ねぇ、でもどうしてロルフ様の子が?」
『川に落ちた日にアイルが16になったからだよ』
えっアーシャ様、そうなの?
『そう、誕生日おめでとう。成人を迎えられたね』
「アーシャ様ありがとう」
「それなら僕たちの子も?」
『すぐに、ね』
イリィが私の手を引いて走り出そうとする。いや、あの今すぐはちょっと無理かな?
『イーリス、大丈夫だから』
ほら、アーシャ様まで出てきて笑ってるよ?
イリィは真っ赤になって俯いた。可愛い。話がもう直ぐ終わるからね、そしたら温泉に戻ろう。ファル兄様たちを待つまではね、2人で。
ナビィと触れ合いが終わったシスティア様は私に
「アイル君、例の機械や砂糖茎の件は本当にありがとう。ロルフに託してくれた子も、大事にするよ。あぁ、紹介しよう。ロルフの母でルシア―ナだ」
そう言って隣の小柄な美人さんを紹介してくれる。
「アイル君、はじめまして。私のロリィを助けてくれてありがとう。この子があなたとの子を自ら望むなんて…わたし嬉しくて。ねぇ、抱きしめても?」
わたしは驚いてイリィを見ると、肩をすくめる。ロリィを見ると同じく、だ。これは逃げられないってことだね?
頷くと静々と近寄ってきて私を見上げ、首に手を回して思いっきり抱きついて来た。その華奢なのに柔らかな肌に動揺する。ふにゃりとするその感触はお胸だろう。少し前まで自分にもあったけど、男として抱きしめられると本能的にドキッとする。
しかも遠慮なくギュウギュウと、えっと…私はどうしたら?
しばらくするとやっと離してもらえた。でも離れる時に唇にキスされた…はい?
固まっているとロリィが後ろからお母様を抱き止めて
「母上…イルが驚いてる」
「だって私の息子の子供の親なのよ?もう家族なんだから…いいでしょ?」
…もしやお母様はそっちの方?理屈より感情で進む系の?ロリィは少し考えて
「それもそうだね…」
いやいや、ロリィ。まぁでもそうか?結婚してないけど子供の親同志だよな。あれ?本当に…?
「ロリィ、なんかややこしい」
私はロリィを見る。
「子供の親だから私とイルは家族…だから母上も家族」
なんだか良く分からないな。
「それはまた、嬉しいな。聖獣様の契約者で生命樹の愛し子様で伝説の存在の家族…の家族とはな」
システィア様、謎かけみたいです。
後ろからまたイリィが抱きついてくる。私は今日、ちゃんと伝えるからね、イリィ。私の大切な人。
大丈夫だよ?その手を優しく撫でる。
さわりと風が吹き、ユーグ様の声がした。
『ロルフとその家族よ、私からお願いがある』
あ、ユウリ様の件か。システィア様たちが膝をつく。
『白の森の生命樹が絶えた。若木を残して…ロルフの力が必要だ』
システィア様はロリィを見つめる。頷いたその顔を見て
「はっ、喜ばしき事。ロルフをお役立て下さい」
『ありがとう。愛し子そしてハク…こちらに』
私はハクと顔を見合わせてユーグ様の宿る生命樹に近づく。するとユーグ様が現れた。その手には銀色の何かを抱えている。
『もうすぐ産まれる…其方たちの子だよ』
私とハクの前に精霊たちが手を繋いで集まってくる。そこに子の実が5個置かれる。白銀色の実だ。淡い水色に光に包まれて僅かに揺れ動く。ピシッ…そんな音が数回響くと実が一斉に割れた。
『みゃうん』『みぃ』『みゃむみゃむ』『みゃうみゃう』『ぴぃ』
…ん?最後に何か違う鳴き声が聞こえたような…?
『みゃうん』『みぃ』『みゃむみゃむ』『みゃうみゃう』『ぴぃ』
やっぱりぴぃって言ってないかな?
もにょもにょと実から小さな白い子が這い出てくる。ヨタヨタと覚束ない脚で、でもハクと私を目指して。私はその光景を静かに眺めていた。辿り着くまで応援しながら。
やっと5頭が私たちの元に辿り着く。私とハクは魔力を絡めながら水魔法で体をきれいにし、風魔法で水分を飛ばす。ほわほわの毛をした子がハクの顔に、私の手に寄り添う。
ハクと私の子が…。
『白銀狼は人としか交われない。その子もまた白銀狼だよ』
「なんと…我らはフェンリル様の誕生に居合わせたと」
私の右にハク、左にイリィ、その更に左にナビィ。
ハクの右にロリィでその右にシスティア様とルシアーな様、さらにラルフ様。円を描くように子供たちを見ている。
するとそのうちの1頭がヨロヨロとロリィの手にある実に近寄って匂いを嗅いだ。そしてまるで守るみたいに寄り添った。
『あぁ、アイリーンの守護はその子だね。愛し子よ、彼に名を…』
私はすぐに答えた。決めていたから。
「リツ。アイリーンを守るのはいつだってリツです」
『あぁ、いい名だね。リツ、アイリーンを頼むよ』
『ぴぃ』
お前か!リツ…。私はくすりと笑ってしまった。なんだか律らしいな。
『アイリーンと共にリツを託すよ、ロルフ。最もしばらくは一緒だけどね』
「はい、大切に育てます」
子の実ごとリツを抱き上げるロリィ。リツはその手に頭を擦り付けていた。もう懐いたのかな、良かった。
残りの子供たちはハクの背にしがみついた。
『愛し子よ、イーリスにロルフ…ユウリの若木を頼んだ。どうか根付かせてくれ』
白い髪をふわりとなびかせてユーグ様の気配が消えた。
私はロリィに近づくと
「ロリィ、ベストを脱いで?」
「ん…」
子の実とリツを待ち構えていたシスティア様ルシアーナ様に渡すとベストを脱ぐ。
私はポーチから魔獣の革を出してロリィの肩から腰に斜めにかけて、背中に手を回す。その後は胸の下辺りを背中までぐるりとして。
よし!ポーチから金具に使うアルミも出して斜めがけのポーチ、実とリツを入れられる大きさを確認して想像っと。出来た!
出来立てのポーチをロリィの肩から掛けて背中で留める。更に胸の下で背中側に回して固定。これで安定する。ポーチは横長で実とリツが並んで入れる。
「ベスト着て」
ロリィがベストを着ると前のボタンをいくつか開けてちょうどポーチが顔を出す。そこに実とリツを大切に受け取った私とロリィでそっと入れた。実は中で安定するように綿が詰めてある。
ロリィが実を撫でてからリツの眉間を撫でると短いしっぽがパタパタした。可愛い。蓋は開けて固定が出来る。うん、良く出来た。
「相変わらずの技だね、アイル君は…」
「イルだからね…」
何故そこでハクまでドヤ顔?可愛い。
「ありがとう、イル」
私は頷いて
「この子たちをよろしくね」
「私は一度、ゼクスに戻る。荷物に色々ね…白の森に馬車はたくさん行ける?」
イリィを見て問う。
「たくさんは難しいかと」
「ロリィの荷物?」
「研究の道具が。空間拡張ポーチにはとても入らない」
「そのポーチはどれくらい入るの?」
「ん…荷馬車の半分かな?」
「荷馬車何個分いる?」
「30台くらいかな…」
おう、さすが貴族。んーそれなら屋敷ごと移すか?
「屋敷ごと移す?」
「屋敷が消えたら皆が驚く」
「それは大丈夫。屋敷は器として同じ物を作って中身はそのまま移動すればいい」
「なるほど…いいな、それ」
「うん、それ貸して…ちょっと待ってて」
私は前にプレゼントしたシザーケース風のポーチを受け取るとやり方を考えた。
荷馬車30台分を屋敷ごと移すことに疑問を持たないロルフも、また屋敷を器として移すと平然と言って荷馬車30台分のポーチを作るアイルも、どちらもちょっとアレなことに本人たちは気がついていない。
「ん…はい、出来たよ。ロリィ。屋敷に手を当てて…移れって唱えて」
「うん、それで…?」
「それだけで屋敷ごとこのポーチに移るから」
「さすがだな…イル。ありがとう」
ロリィがふわりと抱きしめて頬にキスをする。
私はやり切った満足感でいっぱいだった。その私をため息をついて見ているイリィとハクには気が付かなかった。
無表情で微笑み合う2人を半ば呆然と眺めるシスティアとルシアーナ。
ん、うちのロルフは純真ないい子なんだが…少し世間知らずかな。で、アイル君は少しその、ぶっ飛んでないかな?なんて思うシスティアたちだった。




