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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動

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133.スキルの使い過ぎは命の危険

 私はうつらうつらとしながらアイルの温もりを感じていた。アーシャ様は彼を助けてと言った。でも、これは間違い無く私の意志だ。


 スキルを使うのはいつもの事で、こんなに体調が整わないのは何かおかしい。彼の魔力に包まれているのに、熱が下がらない。なんとなくその理由にも見当がつく。私が無意識のうちに治りたくないと思っているのだろう。

 迷惑をかけたくない気持ちともっと()()()()()()()()()()。意識では早く治りたい。でも無意識では治りたくない。


 スキルは感情に左右される。余裕のある時や緊急の時は確実に発動する。でも余裕が無くて感情が揺れ動いていると発動しないか、しても効果が薄い。

 今がまさにその状態なのだろう。

 そんな私をアイルは甲斐甲斐しく世話してくれる。熱はあるのに体が冷える時はその体で包み込んでくれる。体全体が熱い時は魔法で冷やしてくれる。

 彼が側にいるこの時間が愛おしくて…。

 でも何故()()()()()()()()


『ここは水晶の鉱窟で魔力を反射する。だから魔力を追っての場所が特定しにくい。ブランも魔力が乱されるから飛行が安定しないんだよ。ユーグ様は2人が無事であることを知っている。彼らはただ待つように言われているからね…』


 アーシャさまが教えてくれる。

 そうなのか…。ハク様なら鉱山を削ってでも突入しそうなのにと思ったらそう言うことか。

 アイルは不思議そうにアーシャ様を見る。

「出口が分かれば私がロリィを抱えて行くのに?早くお医者様にロリィを見て欲しい。私の治癒ではなかなか治らない…」

 そう言って俯く。


 違うよ…ごめんね、アイル。僕がそれを望まないから…。

『アイル、今はただ待って…ロルフが治ることだけを考えて』

 アイルは目に涙を溜めて頷く。私が彼に手を伸ばすと近づいて来て私の手を優しく握ってくれる。そして私の目を心配そうに覗き込む。私は甘えるようにその肩に体を預ける。

 髪に彼の頬が当たり優しく額にキスを落とされる。もう少しだけ…。彼の側にいさせて。



 その夜、私は夢を見た。白いふわっとした服を着た神様が私に声を掛ける。


ー『私はアリステラ…ロルフリート、良く聴きなさい。アイルと君の子をユーグに授ける。君の想いをアイルと重ね合わせなさい。彼は…()()()()()()()。この世界にたくさんの楔を必要とする。君もその楔の一つ。どうか彼をこちらに繋ぎ止めて。与えられた命を完う出来るように…。私が引き受けた大切な子、アイルを…ロルフリート、必ず彼を…』ー



 私は目を覚ます。側にはアイルが寝ている。私はその夢を思い出す。楔?繋ぎ止める…。意味は分からない。でもなんとなく、彼の希薄なその存在が気になっていた。私が彼との子を?それで彼が繋ぎ止められるなら…。

 私はアイルのまぶたにキスをする。頬に、そして唇に…。アイルのまぶたが震え、目を覚ます。

「ロリィ…?」

「アイル、君との子を望んでいい?」

「…?」

 戸惑った顔で私を見る。

「私の想いを受け止めて…()()

 彼はわたしをジッと見た後に目を閉じた。そのまつ毛は震えている。

 完全に力を抜いて私に身を委ねてくれた。ありがとう、愛してるよ…イル。


 神の意思が何かは分からないけれど、この想いは確かで…だから君をたくさん感じさせて。

 その夜、私の熱は下がり彼と共にその夜を過ごした。


 翌朝目覚めると隣にくすんだ銀髪が見えた。彼の髪…いつの間にか大好きになった銀色。その目も、髪も…全てが愛おしい。その瞼に鼻に頬に唇に…何度もキスをする。そのまつ毛が震えて彼が目を開ける。

 透き通るようなにぶい銀色の虹彩の縁に青。とてもきれいな色。まつ毛にそっとキスをして体を起こす。

 アイルは驚いて体を起こすと


「ロリィ、体は?」

「もう大丈夫…」


 イルの目から透明な宝石みたいな涙が落ちる。その涙を指で拭う。彼は私を抱きしめて良かった…と呟いた。しばらく抱き合ってから体を離す。照れたような顔のイルにキスして立ち上がる。少し伸びをしてから服を着た。

 イルも服を着てテントを出ていく。料理を作ってくれているのだろう。こんな状況なのに、新鮮な野菜や果物、温かいスープにパン。魚や肉まで出てくる。

 本当に何でも出来る。世話になったな…。


 いい匂いが漂って来てイルがテントに入ってくる。手を差し出すのでその手に捕まりテントを出た。

 外には椅子と机まである。土魔法か?机の上にはすでに料理が並んでいる。

 今日は温かいスープにパン、オムレツと魚に野菜。どれもとても美味しかった。相変わらずイルは少ししか食べない。

 食べ終わってイルが片付けを終える頃、それは起こった。


 何処からか音が聞こえる。イルは素早く私の側に来て体を抱きしめてくれた。すると何か黒くて大きなものがこちらに突進して来た。危ない!イルを庇おうとしたら…次の瞬間にはすごい力で押し倒されていた。



 *******



 僕はハクたちとアイが流されたダイヤモンド鉱山から退避した。温泉まで戻ると温室にいた精霊たちが

(ユーグ様が呼んでる)

(愛し子のこと)(伝えたいことがある)

(愛し子のこと)(大事なこと)

(すぐに来て)(彼は無事)

(アリステラ様の意志)

 私はハクを見た。頷くと大きくなって伏せたので、その背に乗ってユーグ様の元に向かった。


 ユーグ様の元に辿り着くとハクから降りる。その前に跪くと

「ユーグ様、アイとロルフ様は…」


『良く来たね。神獣ハク、上位聖獣ブラン、雷獣の王ミストそして愛し子の番の守り人よ…愛し子は無事だよ。ロルフが命を掛けてあの子を守った。そして、彼もまた我が愛し子に救われた。それは決められた定め。愛し子の楔となるよう定められたロルフの宿命』


「無事…なのですね。しかし楔とは?」

『それは言えぬ…この世界に落とされた者の定め』

『アルは…アリステラ様に…』

『ハクは感じられたかい?薄々は勘づいていただろう?』

『うん…』

『様々な制約がある、分かるな…ハク』

『うん、それだけのことを必要とする…』

『アリステラ様と彼の国の神による温情だ』


 私は何故か寒気がした。考えてはいけないと警告を鳴らしている。アイルは何故異世界に来た?なぜ()()()()

 私は一つの可能性に気が付き、愕然とした。ダメだ、考えるな。今は…。アイ、早く会って君を抱きしめたいよ。その体温を感じたいよ…アイ。

 君は()()()()()()()()()()()




 その頃ラルフリートは…

 

 僕たちはアイルが教えてくれた黒糖を生産する為に、感謝祭の2日目には早々に領地へ戻った。あの茎の名前は砂糖茎とでもするか。

 領地に帰ってからは例の円外分離機と砂糖茎から黒糖の生産だ。刈り取りの依頼と機械の生産、やることは沢山ある。酪農家も茎を刈り取った農家も一緒に領地に戻った。


 商業ギルドへの黒砂糖を潰す機械の登録からだ。その後にそれを作れる者を探してから機械の生産。

 円外分離機はギルドから製作図も取り寄せているから、そちらもすぐに技師を手配しなければ。


 この領地は元々豊かだが、冬は気温が下がり生産活動が止まる。その間は食料も保存食で生活は決して楽ではない。

 だからそこ、この黒糖とあのクリームは生活の質を変える。早く領民に還元してやらねば。

 その気持ちで指示を出し、一息付いた時だ。その知らせが飛び込んで来たのは。


 伝書鳥が来た。緊急を知らせる赤い旗を足に巻いて。

 慌てて執事が鳥を迎え入れる。その腕に止まった鳥の胸元に結ばれた紙を執事がお父様に渡してくる。お母様もそばに来ている。


 一緒にお父様とその紙を見ると、お母様は青ざめてよろけた。

「お父様…?」

 声を掛けると無言でその紙を渡される。


(ロルフ様が鉱山からアイルと川に落下

ユーグ様から生存はしてる待てと指示あり イーリス)


 目の前が真っ白になった。生存はしてる?どういう意味だ?ケガは?意識は…?

 誰かの声が聞こえる。何を言ってるの?兄様…。


「ラ…フ、ラルフ!おい!」

 ふと意識が戻る。目の前には厳しい顔をしたお父様がいる。

「迎えに行く!ジル!後は頼む」

 お父様は執事に声を掛けると私の腕を掴み、お母様を抱えて馬車に向かった。

 普段使う紋章付きの馬車では無く、装甲馬車だ。

 速さが出る分、直線的に進むので多少のオウトツや木などは薙ぎ倒して行く軍用の馬車だ。


 凄い勢いで進んで行く。ユーグ様という事はあの死の森近くの宿だろう。ユーグ様に合えば状況は分かるはずだ。兄様…。ただ祈ることしか出来ない。


 領を出てから僅か3時間でユーグ様の生命樹がある宿までたどり着いた。

 宿の前でハク様とイーリスが待っていた。イーリスの顔は相変わらず見えないが疲れ切っているのが分かる。

「ユーグ様の元へ…」

 そう言って歩き出した。私たちも後を追う。


(愛し子の番が来た)(ラルフが来た)

(ハクも来たよ)(ロルフは無事)

(アイルも無事)

(ロルフが助けた)

(アイルも助けた)

(助け合って生きた)


 精霊たちがざわめく。


『良く来た。ロルフの家族よ…私は生命樹の精霊王ユーグ』


 私たち家族は跪く。

「お初にお目にかかります。カルヴァン侯爵家のシスティアと申します。ユーグ様。隣は伴侶のルシアーナ、ロルフの母です」


『ロルフは我が愛し子の為に命を掛けた。立派な魂だね。彼は神の運命により我が愛し子の元に導かれた。彼はそれを受け入れ…子の実が成った』


「…なんと…」

 私たちは絶句した。いや、私たちだけでは無くイーリスもだ。

「アイの子が…?」


「息子と愛し子様の…?」

『そうだよ。愛し子は死にかけ、ロルフがそれを救った。そして愛し子を助けたロルフが、今度はスキルの使い過ぎで死にかけた。そして愛し子が救った。その結果…だ。神に導かれたが、彼らの意志だ』


 兄様の意志…やはり兄様はアイルを…?


『イーリス、愛し子は過酷な運命を背負っている。ロルフはその楔となることを選んだ。イーリスと同じように。運命に従い、我が愛し子を守って…あの子は儚い』


「はい、私はアイの為なら楔にも目印にもなりましょう」

 イーリスの声が聞こえる。


『イーリスとの間にもやがて子が実る。どうか愛し子を守って…』


「ユーグ様…誓います。アイは必ず生かします」

 ふわりと優しい風が吹き抜けた。

『ラルフよ、ロルフは誠実であった…案ずるな』

 ユーグ様はそう言って気配が消えた。


 まだ呆然としていた私にお父様が

「ラルフ、受け入れなさい。ロリィは私たちの誇りだ」

 私は泣きながら頷いた。兄様が無事で良かった。産まれた子は大切に育てよう。兄様が望んだのだから…。




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