132.アイルがいない
僕はその煌めくダイヤに創作意欲が刺激され、夢中で採掘していた。ハクやブランはドゴンとかバコンとか凄い音をさせながら豪快に採掘している。それをまた一瞬で収納しているのだから凄い。
亜空間に収納出来るスキルらしい。小さなミストですら前脚でちょんちょんして収納している。
流石にグレイは…と思ったらやはり何処かに収納してたよ。凄いな。
ふぅ、少し息を吐いて周りを見るとロルフ様とアイの姿が見えない。進んだのかな?
『この先にいる』
ハクが言うので進んで行くと
『マズイ!』
ハクが走り出す…のと同時に凄い音がして水に何かが落ちた?少ししてまた水に落ちるような音。
アイ!僕は走り出す。
そこには崩れ落ちた岩盤の近くで唸るハクの姿があった。
アイもロルフ様もいない。
『岩庇だ』
まさか…。壁に捕まりながら崩れた岩盤近くににじり寄る。下を覗けばかなり深い場所に川?なぜこんな所に?
『自然窟だ。雨水が流れ込んで地下に空間を作っていたんだ。地底湖に繋がっていたら…』
アイ…どうしよう。今すぐ助けに行くよ。飛び込もうとした僕を咥えてハクが戻る。
「離して!アイが…」
『大丈夫。アイには防御が何重にも重ねがけしてある。それに多分、ロルフが後から飛び込んだ』
ロルフ様が?あの高さを飛び込んだ?さっきの音は最初がアイが落ちた音?後の音はほんのすぐ後。まるで躊躇わずに…ここから?
私は違焦りにも似た気持ちになった。ロルフ様は…。
『ここは危険だ。一旦外に出てから気配を探る。精霊や妖精たちにも協力して貰おう。アルにはアーシャ様も付いてるから』
そうだ、そうだった。森のことなら精霊たちにお願いすれば居場所が分かるかもしれない。
ハクに咥えられたまま洞窟を出た。
アイ…必ず迎えに行くから、どうか無事でいて。
アイルは床を踏み抜いて遥か下の川へと落ちて流されて行った。私は直ぐに飛び込む。彼を助けなければ…流されながらアイルを見つけて必死に手を伸ばす。何度か掴み損ねてようやく彼の手を捉えた。
素早くその体を抱きしめて腕に抱える。
意識は無いが息はしている。急流を超えて激しく水に叩き付けられる。
ぐはっ…。身体が痛いが、今は水から出なくては。なんとか流れの緩くなった所で浅い方へと泳ぎ、力を振り絞って彼を抱えて水から出た。
ふうふう…、身体が痛む。そう言えば洞窟に入る前、彼が耳飾りを付けてくれた。耳にかけるタイプで自動で大きさを調整するから外れないと言っていた。
耳に触るとあれだけの流れにもちゃんと取れずにある。
ー「念の為です。これには何か起きても3日は過ごせるような物を収納してあります」
「収納?」
「はい、身に付ける物がいいと思って」
私はそっと触って見る。
(テント、毛布×4、清潔な布×6、傷薬、鎮痛剤、解毒剤、食料、服×3、石鹸、消毒剤)
ちょっと…なのか?これは。彼は笑って
「念の為です。使わない方がいいけど、安心だから」
そう笑って言った。ー
私は彼の服を脱がせてケガの確認をする。擦り傷はあるけど大怪我はして無さそうだ。しかし、ここはとても寒い。
私は傷薬を口に含むと彼に口移しで飲ませた。ほんの一口なのに彼の傷はすぐに消えた。私も一口飲むと無数にあった傷も痛みも一瞬で消えた。
君はこんな時ですら私を守ってくれるんだね。
急いで彼の体に脱がしたローブを掛けるとテントを組み立てる。と言っても袋から出したら組み上がった。これもまた…彼らしい。
自分も服を脱いで体を布で拭くと、彼の体も拭いてから水分を魔法で飛ばし抱いてテントに入る。
床は自動で平になっており、しかも厚みのある床でふかふかしている。毛布を敷いて彼の体をそっと横たえる。その体はとても冷たかった。
私は全ての魔法が使えるが、制御は風と水、土以外苦手だ。そもそも火魔法は中級までしか使えない。
テントの下と周囲の土を上げて壁を作る。少しでも寒さを和らげるように。
私はスキルもあって体は丈夫だ。アイルの冷たい体に自分の体を重ねて抱きしめる。その体が少しでも早く温まりますように…。
その紫色の唇にキスをする。冷たい…口の中まで冷たい。自分の舌で温めるように。
そのまま耳から首へとキスをする。彼と自分の髪は風魔法で乾かしたけどその冷たい頭を手で撫でて、もう片方の手で体をさする。肩から腰へとさすり、背中へ手を伸ばす。冷たい…。
アイルをうつ伏せにしてその体にピタリと重なる。氷のように冷たいお尻を手でさする。柔らかでとても冷たい。背中にキスをして彼の体をさすり続ける。
また彼を仰向けにしてその体に自分の体を重ねる。太ももを絡めて温めながらまたキスをする。その唇は少し色付いて来たが震え始めた。体の芯が冷えてるのか…。どうしたら。
そして思い付く。
でも…逡巡する。いいのだろうか…彼を助ける為と言って私は一方的に思いを遂げようとしているだけでは?迷った。誠実で有りたいが故に。その時、アーシャ様の声がした。
『迷うのもお主の静謐な魂が故。どうかアイルを助けて…』
私はアイルを見る。その青白い顔を。許して…アイル。君を助けたい。
運命はアイルに試練を与える。求め合う魂との絆を試すがごとく。何度も…。
私は彼の唇にまたキスをする。先ほどよりも少し温かい。その柔らかい唇を感じる。顔を離し頬を撫でる。手はその体を撫でながら腰へと進み、彼の内ももを撫で…ゆっくりと繋がって行く。そこも冷たくて、やがて繋がるとそこから熱が奪われていく。
温めないと…。体を動かして熱を生み出したそれを伝えていく。
少しずつ彼の頬に赤みが戻る。私は彼と一つになれたその感動と彼の体に熱が戻るのが嬉しくて…。そのまま彼と一緒に…。
良かった。体の震えが止まってだいぶ温まった。でももう少し君を感じさせて…。もう気持ちを止められないよ。
アイルをうつ伏せにしてその身体を後ろから抱きしめる。まだ冷たいその体を撫で、お尻を触る。少し温かくなってきた。でもまだ冷たい。そこにキスをして、またゆっくりと、早く温まって…。
その細い腰を抱いて…また一緒に…。君はなんて可愛いんだろうね。
抱きしめて夢中でキスをした。自分にこんな感情があるなんて知らなかった。
時々うとうとしながらまた彼の様子を確認して…気が付けばかなり時間が経っていたようだ。
私にとっては生涯忘れられない時間となるだろう。私はそのまま安心して眠った。
体が冷たくて凍えそうだ。誰か助けて…イリィ、ハク、ブラン…誰か。
誰?私を呼ぶのは…温かい。とても温かい何かが私を包む。でもまだ寒いよ。体が震える、寒い…。何かは私を包み込んで温めてくれる。でもまだ体の芯が寒いよ。
柔らかいものが唇に、体に触れる。もっと温めて…もっと、もっと。
やがて体に熱が差し込まれる。温かい…とても。あぁ、温かいよ…。
そんな夢を見ていた…私は目を覚ます。
ん?温かい?いや、むしろ熱い?目の前には濃い金髪…えっ?その顔はロルフ様だった。何でロルフ様がここに…?そして思い出した。
私は川に落ちた?そこからの記憶が無い。誰かが名前を呼んでいた事と、凍えるような寒さを温めて貰ったような記憶が…。あれは夢じゃない?
私はロルフ様を見る。その顔が赤い?そういえば熱いくらいって…!ロルフ様?
慌ててロルフ様のおでこに手を当てる…熱い。熱が高い…。
(川の水で冷えた後、アイルを全身で温めた
その反動で高熱が出ている とても危険)
そんな!どうしたら…?
(治癒の力でなら治せる)
魔力で包めばいいのか?
(治癒の魔力で包み、さらに直接彼にその魔力を流せばいい
スキルで強化された体が耐えきれなくなると死に直結する)
なんてこと…ロルフ様は川に落ちた私を助ける為に自分も飛び込んだ?更に私を温める為に無理をして…。
(そうしないとアイルが危なかった)
私は泣きながら治癒の魔力でロルフ様を包む。直接魔力を流すって…どうしたら?
(体を繋げれば確実に魔力も交わる)
えっそれは…流石に。
(すでに交わっている アイルを助ける為に )
体に熱が差し込まれるあれは…そういう事だったのか。それなら私もロルフ様の為に…出来ることを。
その熱い体を冷やすようにおでこと首に魔法を当てる。そして唇から冷たい水を口移しで飲ませる。そのいつもより赤くほてった頬を撫でる。苦しそうな息をしているロルフ様は不謹慎だけどとても色っぽい。
ほてった体を冷やすように風魔法を優しく当てながらその細くて白いきれいな肌を撫でる。日に当たったことなどないだろう真っ白な肌。常に上質な服に守られて…大切にされてきたのだろう。私が触れていいのかと、戸惑いはあるけれど…魔力を交わらせるのには必要な事だ。
唇に吸い付くような滑らかな肌にキスをして魔力を渡すように身体を繋げる。その折れそうに細い腰を抱えて魔力を循環させる。淡い光が私たちを包み、やがてその魔力は混ざり合い溶けていく。ロルフ様の熱が私に移り、空気に消えていく。少しずつ顔色が元に戻っていく。魔力は循環させたまま、ロルフ様を呼ぶとその長いまつ毛が揺らいで…目を開けた。
その瞳は透明な青。透き通った海のような深い青だ。吸い込まれそうなほど美しい。
「アイル…?」
「ロルフ様、体は大丈夫ですか?」
私は泣きながら聞いた。
「繋がっている…?君の魔力を感じるよ」
「命の危険があって…こうすれば治癒の魔力を届けられると」
「アイル…君を愛してるよ…」
「ロルフ様…」
「ロリィって呼んで?」
「ロリィ様?」
「様もいらない…私たちは一つになったんだよ。今だって…」
「…ロリィ」
ロリィは優しく微笑むとキスをして
「もう少しこのまま…」
私はどうしていいか分からなかった。戸惑っているとアーシャ様の声が聞こえた。
『まだ彼は安定していないから…』
私はそのまま魔力を交わらせた。ゆっくりと離れるとロリィがキスをする。そして
「まだダルいよ…」
確かに熱い息はかなりおさまったけどまだ熱はありそうだ。甘えるように私を抱きしめて見上げてくる。年上美形のおねだりって…。
そうしてロリィの体調が安定するまで繋がり魔力を交わらせて…。お腹空いたな。まだ起き上がれないロリィをテントに残して私は温かいスープを作る。服はポーチから着替えを出して着た。
材料はかなり保管されてるから大丈夫。身体が温まるようにジンジャー(密かに採取していた生姜new)を使って作った野菜たっぷりのお豆入りスープだ。
それを皿によそってテントに入る。ロリィの体を後ろから支え、肩にローブをかけて口元にスープのお皿を持っていく。しかし力が入らないのか、手が上がらない。私は冷ましながらロリィの口にスプーンを持っていく。躊躇せず食べる。こんな時でも上品なんだな、生粋の貴族って凄いや。
変なことに感心しながら食べさせる。
「まだ食べられそう?」
頷くので一度、ロリィの体を横たえてからテントを出る。
また後ろから抱えると振り向いて
「アイルも食べて…」
首を傾げて言う弱った美形の破壊力。首こてんとか可愛い過ぎる。1人で悶絶してしまった。不思議そうに私を見て瞬きする。
気を取り直してまたスプーンでスープをすくって口元に運ぶ。食べさせながら私も食べる。
時々振り向いて確認するロリィがなんだか小さな子供みたいで可愛い。
また完食できた。食欲があって良かったよ。
テントを出て片付けを終えるとまたテントに入る。まだ熱は下がらない。
(スキルの使い過ぎによる衰弱 まだしばらく動けない)
私のせいで…その頬を撫でる。
「側にいて…」
私が毛布に入ろうとすると
「服…脱いで」
「ロリィも服を着たら?」
「苦しいから嫌だ」
ラフな服装とはいえ貴族の服は注文だから体にピッタリな分、苦しいか。
私は服を脱いでロリィの側に横たわる。ロリィは甘えるように私にしがみついてくる。まだ体が怠いんだろうな。
私はロリィを抱きしめて目を瞑った。
悩みながら書いたので…長めです
後の展開にも影響するので大きな変更はしませんでした
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