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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
13/313

13.その夜

盛大に脱線中

もう少しイザークの話が続きます。

 そんな風に和やかな夕食を終えて、片付けてから皆んなにシャワーを勧める。浴びたいと言うので一緒に下に降りる。

 フェリクス様は俺が抱えて風魔法で軽くして飛び降りた。首にしがみついていたフェリクス様は嬉しそうに笑うとイズ凄い!と笑った。

 子供の笑顔は可愛いもんだな、とまだ自分も子供なのにそう思った。実際にフェリクス様は可愛らしい子供だ。くりくりの大きな青い目と淡い金髪。あどけなさと高貴さが同居するその顔はとても惹きつけられる。


 やがてダナン様、グリードさんとマーカスさんも降りて来たのでシャワーのある小屋に案内する。

 ここで問題があった。水をお湯に出来るのが俺とグリードさんだけだったのだ。ポンプから組み上げた水を一度タンクに貯めて、そこで火魔法使いお湯にする。

 シャワーにはたくさんお湯が必要だから浴びながら火魔法を使い続けなくてはならない。自分なら簡単に出来るから失念していた。


 するとダナン様が

「イザークが一緒にはいればいいんだよね?」

 と言い出した。ちなみにイザーク君と呼ばれていたが、流石に困るので呼び捨てにしてもらったのだ。

 いや、え?貴族と一緒にシャワーっとか無理だよ…

 焦っているとグリードさんとマーカスさんもそれがいいと言ってからお先にどうぞと外に出てしまった。

 ダナンさんはそのまま服を脱ぎ始める。いやいや、きょう会ったばかりの人と裸でシャワー浴びるとか普通しないだろ!しかもこちらは子供とはいえ怪しさ満点だ。本当にいいのか?

 そう思うけどお湯を作らないといけないし外に出るわけにもいかない。まごまごしているうちにフェリクス様も裸になっていた。

 あーもう考えても仕方ない。急いで俺も服を脱ぐとポンプを押して水を吸い上げ、タンクに溜まった水を魔法でお湯にする。レバーをひねれば上からお湯が降ってくる。

 ダナン様はフェリクス様を抱えてお湯を頭からかぶっている。一度ポンプを動かせば止めるまで水はタンクに貯まるので、貯まった水をお湯に順次変えながら自分もお湯をかぶる。


 薬草と水草から作った液体を渡す。不思議そうに見ているダナン様に屈んで貰うとその液体を手で泡立ててダナン様の髪につける。そのまま地肌に揉み込むようにして髪の毛を洗う。同じようにフェリクス様の髪の毛も洗ってから、自分の髪も洗う。一緒にお湯で流すとダナン様がほぉと言った。

「これは気持ちいいな」

 その後は別の液体を渡す。やはり不思議そうに見ているのでダナン様の体に液体を塗って擦るように洗う。全く抵抗なく俺に体を洗われている。本当に警戒心どこに置いてきた、と思うけどもちろん何かする気はない。ダナン様の体の隅々まで洗うと今度はフェリクス様だ。こちらも潔いくらいに無抵抗だ。くすぐったそうにしながらも大人しい。身体が小さいのですぐに洗い終わる。


 自分も洗うかと思ったらやったげる!とフェリクス様が言う。それを聞いてダナン様もじゃあ私も手伝うよと液体を手に取って俺の体を洗い始める。人に体を触られるのは、特に普段服で隠れている場所を触られるのは恥ずかしい。洗うということは見ることでもあるし、俺の体には重症を負った時の傷跡もある。


 いかにも貴族なダナン様やフェリクス様のように白くて綺麗な体ではない。縮こまるように洗われていると、ダナン様が細いのにいい筋肉がついている、と言いながら体を撫で回す。流石に我慢できずに流しましょうとその手から逃げた。

 ダナン様は逃げられちゃったと笑っている。ダナン様はまだお若い感じだけど、優しそうでいてしっかりしている。自分の父親と比べてなんて素敵なん(なの)だろう。

 ダナン様のその白くて傷のない綺麗な体を見て少し複雑な気持ちになったのだった。


 体を洗い終わるとレバーを戻す。水魔法で綺麗にした布でダナン様とフェリクス様の体を拭いて、自分の体も手早く拭く。

 着替えは例の貰い物からサイズの合いそうなものを見繕って渡した。何でそんな服を持っているのかは聞かれなかった。おおよそ見当はついているのだろう。


 グリードさんとマーカスさんに入れ替わりシャワー小屋を出た。交代でトイレを済ませて木にもたれる。フェリクス様はもう眠そうだ。

 少ししてからグリードさん達が出て来たのでトイレの使い方を教えてから先にツリーハウスに戻った。もちろん、フェリクス様は俺が抱っこして。


 部屋に入ると水を渡す。2人ともこくこくと飲むと俺の寝室に案内した。ベットは一つしかないからダナン様親子に使ってもらう。そう言うとフェリクス様がイズも一緒と言って服を掴んできた。

 流石にそれは勘弁して欲しい。断ろうとしたら子供2人と私なら何とかなるだろうとまさかの提案。

 無理だと断ろうとしたらフェリクス様が目に涙を溜めて嫌なの?と聞いてきた。

 ここで嫌なんて言ったら泣くよと言外に言っている。これはもう決定事項だな。諦めてそんなことないよ、と言うとニッコリ笑う。

 あざとい。先ほど教えてもらったフェリクス様の年は5才、俺の2つ下だった。潤んだ目で嫌なの?なんて聞かれて嫌と言える奴はいないだろう。何といっても可愛いのだ。


 結局、フェリクス様を挟むように3人でベットに入る。ちなみにグリードさん達はソファに毛布で寝ることになった。ベットに入ると正面からフェリクス様が抱きついてきた。

「フェリクス様」と呼ぶと

「フェル…イズ兄たん、僕はフェルだよ」

 大きな目でこちらを見ながら言う。

 ダナン様を見ると俺に手を伸ばしてフェリクス様ごと抱き寄せて

「フェルと呼んであげて」と言う。

 フェリクス様を見てそっとフェルと呟くと嬉しそうにさらに抱きついてきた。その柔らかい髪の毛を撫でると手に頭を押し付けてくる。フェリクスさま改めフェルは暖かくていい匂いがした。


 その様子を見ていたダナン様が抱いていた手で俺の髪の毛を軽く梳かす。

「フェルもイザークももう寝なさい。おやすみ」

 そう言ってフェルと俺のおでこにキスをした。俺は何だかふわふわした気分で目を閉じた。そしてあっけなく睡魔に襲われる。腕の中のフェルの温もりと髪の梳く手の感触を感じながら。



*******


 

 その日は隣の領主と打ち合わせがあり、隣領を5才になる息子と騎士4人と訪れていた。その帰り、黒狼の群れに襲われた。騎士2人が奇襲を受けて負傷し、やむ無く横倒しになった馬車を捨てて森に入った。

 追われるままに森の奥深くへと入って行く。今思えばわざと襲わずに森の奥まで誘導されたのだと分かる。

 イザークに聞けばこの辺りは街道から3時間ほどかかるそうだ。それだけの時間、逃げられるわけがない。しかし、結果的にそのお陰で助かったとも思う。


 4匹の狼に囲まれた時は死を覚悟した。グリードたちも足に噛みつかれ肩や脇腹を噛まれた段階で同じことを思ったはずだ。

 しかしどこからか短剣が飛んできて狼2匹が死んだ。ところが隠れていた狼に後ろから襲われて自分も倒れてしまった。

 何とか息子だけでもと必死に腕に庇ったが、3匹に獲物認定されてもうどうにもならない、と22年の過去を振り返ったものだ。


 するときゃうんと言う狼の鳴き声がした、と思ったら近くにドサリと何かが倒れる気配がした。そのまま固まっているとグリードとマーカスの呼ぶ声が聞こえる。

 ゆっくりと体を起こすとそこには首に短剣が刺さって絶命している他より大きな狼と、目にナイフが刺さって首を切られて死んでいる2匹の狼がいた。

 何が起きたんだ、そう思っていると腕の中の息子が後ろの木の上を指差して「ありあとー」と言った。


 振り返るとストッと軽い音がして…見ればそこにはまだ小さな子供が立っていた。息子よりは少し上。でもまだ充分に幼い男の子。

「君が…?」

 と聞けば無言で短剣やナイフを回収して頷く。

 驚いた。短剣もナイフも的確に急所をついていた。しかも木の上から軽く飛び降りる、その身のこなしも目を見張るものがある。

 それから薬を分けてもらって馬車まで送ってくれるように頼んだが、陽が落ちるまでに着くのは難しいと言われて断念した。


 しかし森の奥でこの子は何をしていたんだろう。聞いても黙って考えている。言いたくないのかと思い質問を変えた。この辺りで野営出来る場所はあるかと。

 これには迷わず頷いたので彼について歩いていった。警戒していないわけではなかったが、何故か大丈夫だと思った。私の勘は当たるのだ。

 ほどなくして着いたその場所を見て驚いた。まさか木の上に家があるとは。

 しかもトイレとシャワー小屋まである。ポンプで汲み上げる工夫とか、もう驚き過ぎて何と言っていいのか分からなかった。


 ご馳走になった食事もとても美味しくて、まさか森の奥でこんなにちゃんとした食事が取れるなんて。偏食気味の息子ですら完食するほど美味しかった。

 

 さらにはシャワーだ。まさかのお湯。汲み上げた水をタンクに溜めてお湯にする。はじめにタンクにいれてお湯にした分はすぐになくなるから汲み上がってくる水をシャワーを使いながら火魔法でお湯にしていくのだ。しかも髪の毛と体を洗う自作の薬草石鹸まである。

 勧められてもどう使うか分からずにいると、自分で洗えないと思ったのか屈むように言われた。地肌を指圧しながら髪の毛を洗い、体用の別の石鹸で体も洗ってくれる。その手つきは優しくて何だか恥ずかしかった。まさかこんなに小さな子に体を洗ってもらうなんてね。


 でもそんな事をしながらも火魔法でお湯を作り続けていることが本当に驚きだ。後でグリードに聞いたが、いかに慣れてるとはいえ普通はそんな器用なことは出来ないと言う。

 しかも人の髪や体を洗いながらだ。どれだけ過酷な状況で生きてきたら、そんなことが出来るようになるのだろう。そう思うと切なくなった。

 

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