128.ロルフと温泉と
彼は瞬きをすると私を見た。目が合う…。頬を染めたまま、そっと私のオデコにキスをする。
「ロルフ様…とてもきれいです」
そう恥ずかしそうに言った。
「だから、その…人の前で簡単に服を脱いでは危険です」
「君なら大丈夫…」
彼は困ったように淡く微笑む。
「ロルフ様は自分の美貌に無自覚なんですね…」
「?考えたことない」
「そのお顔ももちろんだけど…か、体も凄くきれいで…」
「ラルフが良く言ってる…兄様はきれいだと」
「その白い肌も細い体も…簡単に人に見せてはダメです」
「簡単には見せない…君なら見ていいし触っていい。私の体…さっきたくさん触った…」
「そ、それは体を洗うのに」
「全身、触って撫でた…よ?」
「…」
戸惑っているのは分かるけど、見られても別に困らないし、アイルになら好きなだけ触られてもいい。なぜそんなに気にするのだろう。
「俺もその…一応、年頃なので…」
「君なら抱かれてもいいけど…?」
「いえ、そのそういう意味ではなく…いや、抱かれるのも…」
私は彼に近づき至近距離で見つめ合う。ねぇ、いいかな?キスしても…。その顎に手を添えて唇にキスをした。なんて柔らかくて、気持ちの良い唇なんだろう。
そのまま何度もキスをした。
アイルは固まっていたけど逃げなかった。頬をさらに赤く染めて私を見る。
「そろそろ上がらないと…」
確かに、だいぶ体も温まった。私は湯から上がった。すかさずアイルが乾いた布で私の体を覆うと、手を引いて脱衣室に入った。
私の体を拭いてくれる。水気がなくなると魔法で乾かしてくれた。私はポーチから服を取り出すとそれを着る。脱ぎっぱなしだった服はアイルが洗浄して畳んでくれていた。
アイル、君は…そういう所だよ?周りが君を離したく無くなるのは。ごく当たり前にしてしまうんだから。
さっきだって…逃げなかった。
君にはイーリスがいて、私にはラルフがいる。それでも想いは隠せない。私は君が好きだよ、アイル。
でも君をこの腕に…その気持ちは抑えないと。私は君たちに誠実でありたいから。
脱衣室の扉が開く音がする。そこにはイーリスとハク様がいた。
「ロルフ様は湯に?」
「見たら入りたくなって…」
アイルはまだ頬を染めている。イーリスが彼の側に寄ってその赤い頬に手を触れる。
アイルは淡く微笑む。なんて優しい顔…。
イーリスは彼にキスして
「ユーグ様に会って来たよ」
「何の用事だったの?」
「ユウリ様の若木の事…根付く為に必要な事をね…」
ユウリ様…ユーグ様に呼ばれて…?彼は守り人なのか?
イーリスが私を見て
「そうです、僕は守り人の一族。白の森の管理者。ユウリ様は亡くなり、若木を残された。その若木を根付かせる為にロルフ様の力が必要です」
「…私の…」
「無垢なる魂が多く必要だとユーグ様が。僕とアイだけでは少し足りない。生命樹を根付かせるのはとても大変だから…その為にロルフ様の協力を仰ぐようにと」
「すぐに答えられない…父上にも、母上にも…ラルフにも…」
「はい、来られるのなら合流地点はカルヴァン侯爵の領都で」
私も頷く。
アイルの大切な人であるイーリス。彼の為なら私は協力したい。ラルフ以外は反対はしないだろう。ラルフは…嫌がるだろうな。
でも今度は自分の意思を通すよ…?
少しでもアイルの役に立ちたいし、彼の側にいられる僅かな時間を許して欲しい。
きっとイーリスは私の気持ちに気が付いている。だから本当は…嫌なのかも。
それでも彼は自分の感情より一族としての誇りを取った。彼もまた定めに縛られているのかもしれない。私が貴族として生きることしか出来ないように…。
その後、私は彼たちの住居に招かれた。
そこは広い居間で床には柔らかなラグが敷かれている。これはハク様たち用なんだろう。
それに来ても精霊や妖精はここにもいる。凄いな。
すると何処からかアーシャ様が現れた。
『ふむふむ、君もまた透明な心をしているね。ユーグ様が指名する訳か…では僕の祝福も授けよう』
そう言って私の唇にキスをした。
『創造神アリステラ様の眷属…精霊主アーシャの祝福を与える。この無垢なる魂に…アイルと共鳴せよ』
ふわりと光が私を包む。
そして
『えっ…私と共鳴?』
アイルの声が聞こえた。アイルの声…どうやって?
『ロルフ様に聞こえてる?えっ…』
『共鳴させたから…閉じれば聞こえない』
『アイル…君と繋がってる…?嬉しいよ…』
『ロルフ様…なんか恥ずかしいです』
『どうして?』
『考えてることが伝わるから…』
『伝えて…たくさん』
そう、彼からは驚きと恥ずかしさと喜びと色々な感情が伝わって来る。その中に私の裸を見た時のなんてきれいな肌、とか長い手足とか、滑らかな肌とか…。
私は恥ずかしくて嬉しかった。
頬を染めて目を伏せている彼をイーリスが心配している。
「アイ、共鳴って?」
「考えてることがそのまま伝わるみたいで…」
恥ずかしさからか、イーリスに涙目でしがみついている。
僕の気持ちも伝わるかな?
『アイル、君が好きだよ…私は君の為ならなんでもしたい…君の大切なイーリスの為にも…』
伝わったのだろう。私が君を大切に思ってることが。私が君を抱きたいと思っていることが。そしてその気持ちを抑えようとしていることも…。
こちらを見て困ったような顔をする。安心して…君たちを傷付けるようなことはしないよ?
アイルからは敬愛の感情が流れて来る。それでいい。私たちはそれでいいよ。
彼の感情が感じ取れなくなった。閉じたのだろう。
私は開いておくよ。伝えたいから…。
その日はそのままアイルが消えた後の話しをして、休憩室のベットで眠った。
久しぶりに食べる彼の食事は相変わらず森の中とは思えないくらい美味しかった。
そして彼が作ったあの黒砂糖も…。冷たいクリームにのせて食べさせてくれた。お湯上がりのほてった体にとても美味しかった。
この間、それなりの量を彼に渡してきたけどいつ作ったんだろ?
彼の匂いを…体を撫でる(洗う)手の感触を思い出しながら…唇の柔らかさを…いつの間にか寝ていた。
翌朝目覚めると、側の机にタライにはった湯と清潔な布があった。この布は昨日、体を拭いてくれたもの…ふわふわと手触りがとても良い。
顔を洗い着替えると部屋を出る。そこにはフードを被っていないイーリスがいた。
そして私は息を呑む。こんなに美しい人がいるのか…。
淡い金髪に銀の目。虹彩の縁は全周薄い青。高くて少し上を向いた細い鼻、引き締まった薄い唇はほんのり赤く…透き通った肌は白く滑らかで。美しいのに女性的ではなく、男性特有の頬の引き締まった線が精悍さと色っぽさを醸し出す。
圧倒的な美形だった…。
「イーリス…君はとても美しいんだね…」
彼は少し困ったような顔をして
「そのようです。自分では良く分からなくて」
あぁ、彼もまた自分の美貌に無頓着なのか…。しかしこんな美形が側にいてもアイルの態度は何も変わらないな。
「アイは僕の顔より名前に興味を持った初めての人で…。顔を見てもそんなことよりって…」
私は何故か納得してしまった。彼らしい。私もそれなりに整った顔立ちらしい。なのに、彼は私を見て面倒そうに無視した…何度か声をかけてやっと仕方なくって感じで返事をしたくらいだ。
顔とか見た目で人を判断しないのだろう。本当に彼らしい。
温室に通じる扉が開いてアイルが入って来た。
「ロルフ様おはようございます。イリィ、取ってきたよ」
「アイル、おはよう。何を取ってきた?」
「アイ、お帰り…早かったね」
「魔鳥の卵です。ハクが親鳥の気を引いてる間にね。1番弱ってる子を…多分もうもたない」
「ハクの言った通りだね」
「うん、有り難く頂くよ」
そう言ってその場で調理を始める。私はそれを間近で見た。魔鳥の卵は大きくて腕に抱えるくらいある。
それを割ってから塩とか何かの調味料を加えてかき混ぜる。
底の浅い鍋に油を引いてから卵を入れてかき混ぜる。もう一つの鍋では暖かいスープを、もう一つの鍋では肉の塊を切って焼いている。
お腹が空いた。とてもいい匂いがするのだ。
部屋の奥からハク様ブラン様にミストがやって来る。ミストの父も一緒だ。
出来上がったスープ、パン、焼いた卵とお肉に、新鮮な野菜。なんとも豪華だ。
机に3人で座り、聖獣様たちには低い台が用意されてそれぞれお皿によそわれる。
スープは温かくてなめらかなミルク味。卵は塩とレモン風味のあっさりした味付け。でも卵の味が濃くて美味しい。肉は香ばしくて野菜はしゃきしゃきで青臭さがない。
普段からからあまり食べないが、完食してしまった。彼の側にいたら太りそうだ。
イーリスはその見かけによらずたくさん食べる。食べている時もきれいだ。
アイルは静かに少量食べた。少ないな…。細いしもっと食べた方がいいのに。人のことは言えないけど。
ハク様たちは凄く食べる。そもそも食事はいらない筈だけど…美味しいからかな。僅かにアイルの魔力を感じるし。
彼らにはアイルの関わるものはきっとご馳走様なんだろう。
明日、ロルフリートのイメージイラスト載せます…
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