123.感謝祭は楽しい
よし、腹が減っては戦は出来ぬ。食べるぞ!
皆んなで食べ物の屋台に向かう。お馴染みの串焼きにスープ、お菓子?などがある。その一角にあまり人がいない屋台があった。何だろう?人混みを避けるようにその屋台に辿り着く。
そこは珍しいことに魚専門の屋台だ。焼き魚と蒸し魚。シンプルだな。小麦粉付けてソテーにしてパンに挟んだら美味しいだろうな。
取り敢えず蒸し魚を5個買おう。
屋台のお兄さんに
「蒸したの5個」
「ありがとな…売れなくてよ…」
「味付けは?」
「塩だぞ?」
「パンに挟んだらお昼にちょうどいい」
「パンにか?」
頷くと受け取った魚を保存してたキビパンに挟む。ついでにバジルをちょこっと振りかけてパクリ。
おっ、美味しい!魚はふわふわだ。ヤバい、もっと食べたい。横を見ればイリィはすでに完食。早!
ハクたちもペロリだ。
見ていたお兄さんが
「なぁ、俺にもそのパンくれないか?魚オマケするからさ。後それ、何かけた?」
あーバジルはロルフ様に聞かないと分からない。するとイザークさんとフェリクス様、ロルフ様とラルフ様がやって来た。
フェリクス様は教会から戻ったみたいだ。
「やぁ、何を食べてる?」
「蒸し魚をパンに挟んで例の調味料を振って」
フェリクス様が
「蒸し魚10個くれ。その子が振りかけたヤツは販売品だ。小瓶で銀貨1枚。キビパンならあちらの屋台から売ってやれるが?」
お兄さんは素早く10個包むと
「頼みます」
と言う。すかさずシグナスさんが来てバジルとキビパンを30ほど持って来た。
なぜか10枚は私に渡すので仕方なくイリィと蒸し魚のキビパンサンドを作る。バジルは横からシグナスさんが振って、出来た順にフェリクス様たちに渡していく。
まずはフェリクス様。
「!」
目をくわっとして上品なのに凄い早さで食べ切った。えっ?いつ食べ終わったの?早い…。
まだ行き渡ってないけどまたフェリクス様に渡す。今度は目を瞑って味わって食べてる。
ん?ロルフ様の手が差し出された。完食か、早いな…。次々に10個使ってあっという間になくなった。
店の兄さんも食べて目を見張っている。
「う、うめえ…えっ、マジか…」
固まった。
そっとその場を離れようとするとフェリクス様が目の前に…。ニッコリ微笑まれる。何もしてませんよ?
「名前は?」
んっ?
「この食べ物の名前だよ」
知らないよ…。
「さ、魚はサバって言うぜ…いや、言います」
フェリクス様の圧が強まる。
「サバサンド…?」
「イザーク、商標登録だ」
私は知らない…。後退しようとしたらロルフ様に当たった。そのままふわりと抱き止められ耳元で
「この領地と私の実家の名産だよ…サバは」
おうふっ…ナンテコッタ。
見上げれば透明感のある美形が優しく私を見ている…。離して貰えます?頭に軽くキスされた。
イリィに救出された私は開き直って
「焼いたのと蒸したの10個ずつ」
やけ食いしてやる…ってのは冗談。たぶん明日から行列が出来そうだから今のうちに青田買い。
同じことを思ったのかフェリクス様が20個ずつ買ってた。
ピアスに時間遅延付いてるからな。
商標登録はお任せします!と宣言して逃げた。
ちょうどお昼時、パンに挟んだサバ、サバサンドは飛ぶように売れていて1人で頑張ってたよ。兄ちゃんファイト!って思ったら可哀想に思ったのか、イザークさんが手伝いの依頼を出すかって聞いてた。
泣きながら頼むって言ったよ。そしたらいかにも軍人な若者がやって来て手伝ってた。
あと2日、がんばれ!
なんかサバサンドのお陰で立ち直れた。やっぱり美味しい食べ物は偉大だな。
例の机に戻る。どうやら一連のやり取りを見ていたらしいファル兄様たちが目をキラキラさせて私を見る。あ、はい。ただ今…。
自分たちの分も含めて焼きと蒸しのサンドを作って食べたよ。うん、焼きも香ばしくて美味しい。
ふぁぁ、なんか緊張して焦ってからの美味しいもの食べて皆んなに癒されて…安心して眠くなった…。
目を擦っていたら耳元で寝ていいよって、イリィが。でも寝ちゃうと起きられないよ…。
そう思ったのに、寝てたみたい。あれ、なんか太陽が真上にある?
あれ?しかも目の前にスーザンの顔がある…。気のせい?
「おい、起きろ。キビパンの出来たやつないか?」
えっ…。ボーッとスーザンの顔を見てたらガシッと顔を両手で掴まれた。
「起きろ!」
つッ…。顔近いよ…強面なんだから迫力が…。
イリィが横から私の手を握って
「アイ、起きて…」
耳元で言う。空気が甘い…。うん、目が覚めたよ。えっとキビパンの出来てるヤツだっけ?んーあるよ?
フェリクス様とかダナン様も持ってるけど?
「全部放出済みだ。もう少しで無くなる」
ふーん。どれくらいあるかな?んーっと…ポーチを見てたら
(現在のキビパン在庫52枚。ポーチの中で生産可能)
ふーん。
「どれくらいいる?」
「今日の分でも200は欲しい」
仕方ない。でも材料足りる?
(キビと小麦粉が足りない。30本と小麦粉10キロルあれば作れる)
んーどうするかな。ジョブのことは言えないし。
今の材料でどれだけ作れる?
(頑張って75枚)
じゃあ120枚出すか。後はそっちで頑張って。
さくっと追加で作るとポーチから120枚出す。
「これしか出せない」
スーザンはキビパンを抱えて
「残りは何とかする!助かった」
と言って戻って行った。
キビと小麦粉買っとかないと。特産品売り場に行くか。と思っていたらイザークさんが大量のキビと小麦粉に塩を持って来た。
「現物で申し訳ないが…」
…。キビは何本あるのこれ?小麦粉は30キロルの袋が5個。私のポーチの容量バレてる?大量なんだけど?
と思ったらそれをスルリと近くのポーチに収納。
近寄って来ると小さな声で
「君なら時間遅延出来るだろ?あと2日の為に…」
あ、やっぱり?作れってことね。まぁ実は簡単に作れるからね…でも能力バレたくないんだよな…。
後でスーザンと相談だな。
屋台を見ると仕込みに大忙しだ。結果的に同郷の彼らが計算も出来るから商品の受け渡しと会計も手伝ってる。基本スキルが違うからね、そこそこ使えるはず。
後ろではキビを焼いたり大変そう。あ、デザートが出始めた。逃げようかな。嫌な予感がする。私はイリィの手を引いて素早く席を立った。
少し離れてから見たらイザークさんが探しに来ていた。危ない危ない。私は同郷の彼らと関わりたくないから発案者だとバレる訳にはいかない。
もう今日はこの広場から離れよう。そうイリィに言えば、ファル兄様たちに伝えないとと言う。ブランが
『僕が代わりに伝える』
そう言ってくれたのでお願いすることに。
ブランがシア兄様の肩に止まり頬に顔を擦り付けている。ブランちゃん…もしかしてシア兄様が?
小さな頭まですりすりしてから戻って来た。私の肩に止まると胸毛で頬を撫でるとその嘴で軽く私の唇をつつく。その嘴にキスしてその場を後にした。
広場を出ると人が少ない。そのまま教会に向かう。初めての教会だ。ブランを手に乗せて歩いて行く。
おっ、教会はそこそこ人出があるな。農業関係者はこっちか。
すると声をかけられる。ロルフ様だ。こっちに来てたんだ。
「アイル…少しいいか?」
ロルフ様を見る。その手にはサトウキビがあった。
「これ…」
私はロルフ様に近付き
「場所を変えましょう」
と囁く。頷くとサトウキビをポーチにしまい、歩き出す。着いていくとそこはシスティア様たちのテント。その奥は区切られている。
そこに招かれた。入るとシスティア様とラルフ様がいた。
「済まないな…この間、聞きそびれて」
首を振る。言い出したのは私だ。
ロルフ様がまたサトウキビを取り出す。渡されるので手に持って確認する。
鑑定で見れないのかな?
(サトウキビとして認識されていないので鑑定では単に固くて繁殖力が旺盛とし分からない)
なるほど…。ビクトル、サラッとサトウキビって言ったね?
(アルの知識が元だから分かる。
サトウキビ キビ砂糖の原料で、黒糖の材料でもある)
だよな…。私はナイフを取り出すと幾つかに切って、外側の固い皮を剥いてその内側を齧る。ガシガシと。
ハク、ブラン、ミストにも同じようにして渡す。
うん、甘い。味わった後にイリィに渡す。もちろんイリィは躊躇なく齧る。そして驚いている。フードを被ってても分かるくらいの衝撃みたいだ。
私を見て甘い…と呟く。
ハク、ブラン、ミストは必死に齧っている。いや、ハクとミストはそのまま食べてるよ。さすが肉食?ブランは嘴でつついてからカパッと丸呑み。皆んな豪快だね…。
ロルフ様が新しいサトウキビを渡してくるので、いくつかに切って同じように固い皮を剥いて渡す。
3人で齧る…。そして固まった。それからシスティア様はガシガシ齧り、ラルフ様は品よく齧り、ラルフ様はしげしげと観察している。性格出るな…。
イリィは夢中で、でも可愛らしく齧っている。うわぁ、なんかヤラシイかも…。
ジッと見てるとイリィがフードの奥からこちらを見て…サトウキビを舌で舐めた…。やめて、イリィ。ドキドキするから。
近づいて来て
「何を考えたの?」
うわぁ、妄想がバレてる?焦っていると
「ふふふっ舐めて欲しいのかな…」
…。いや、その…。
「夜の鍛錬でね…?」
はい。いや、えっ…?
システィア様がほぼ完食?してから
「これは、どうしたら…しかし。甘味だぞ。あのじゃまな廃棄茎が…化けるか?」
呟く。ロルフ様は冷静に
「アイル、君は知ってたの?」
頷く。
「どうしたら?」
私も詳しくないけど
「絞る」
「どうやって?」
「力をかけて…潰すように」
「…汁を出す?」
「そんな感じで絞れたら、それを固めて。固まったものを細かくしたら砂糖になる」
「「「!!!」」」
「白くなるのか?」
「濃い茶色かな?」
「茶色い砂糖…」
「黒に近い茶色だから黒い砂糖とか?白との対比で」
「黒い砂糖…黒砂糖とか…?」
やはりロルフ様は頭がいい。私の誘導に乗ってくれた。
「しかし、どうやって絞る?」
私はみかん絞り機のイメージで簡単に木で作る。
「これは果物を絞る機械で、これのもっと大きくて力に耐えられるものとか…?」
ロルフ様はその絞り機を掴むと近くにあったキビの粒を乗せて力を込めた。
当然、キビの汁が出て来る。
…。皆んな静かだけど?
ロルフ様から絞り機を取って眺めるラルフ様。ロルフ様は私の手を握ると正面から私を見つめ
「また君に助けられた…ありがとう」
そう言うと私を包むようにふわりと抱きしめた。
「私たちはどれだけ君から…恩恵を受けただろう。ラルフの母上のことも…本当にありがとう。私に出来ることは…何でも言って。君が望むなら…私の全てを君に捧げるよ…?」
えっ全て?全てって何ですか?
「心とか…か、体…とか」
頬を染めてどもりながら言わないで。長いまつ毛が美しいその顔で…。
しかも、結婚してる人が何を言ってるんですか!私にはイリィもハクもいるので間に合ってます。
「ふふっ、抱いてって言ってるんじゃないよ…?それくらい感謝してるってこと…もちろん、アイルが望むなら抱いてもいい…」
…。やめて下さい。その真っ直ぐで透明な瞳で顔を傾げながら、長いまつ毛を伏せて言うのは…。
その気がなくてもドキドキしますから。
「うふっ…頬が赤いよ…?」
ロルフ様がなぜか妖しい魅力を醸し出してる…うわぁ。普段が清々しいからギャップが…。くらっとした。後ろからイリィが支えてくれる。ロルフ様は私を離してくれたが、その際にさり気なく唇にキスして…。えっえっ…。その形の良い唇を見る。柔らかな感触が残っていて…。顔に熱が集まる。
後ろを向いてイリィに抱きついた。イリィ…。その優しい温もりに安堵する。
イリィに抱きついたまま振り向くとシスティア様が
「アイル君、この絞り機だが…」
「登録はロルフ様で…私は何も関与していません」
目を見張ると頷く。
「あぁ、ありがとう」
そこで軽く挨拶をしてテントを出た。
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