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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動

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122.屋台は?

 そして、いよいよ感謝祭の始まりを伝える教会の鐘が鳴らされた。さあ、始まったぞ。


 中央広場に人が入って来た。屋台は全部で50。食べ物の他には特産品や衣料品、雑貨などもある。 感謝祭でしか手に入らない迷宮品などの店もある。

 そして、今回の目玉は何といっても領主が後援した屋台だ。

 そう、スーザンたちの屋台。出店代表者がスーザンだからな。


 ダナン様とフェリクス様は教会に向かった。カルヴァン侯爵家の3人は中央広場の中ほどに設けられた来賓席にいる。ダナン様たちも教会の祈りが終わればここに来る。

 探索者ギルドのマスターであるバージニアも主催者テントで待機。こちらは運営として、だ。


 私たちはイリィの家族と合流して広場に設けられた机と椅子に座って周りを見回している。

 ベル兄様とシア兄様は屋台を見に行った。ちなみにこの机と椅子は有料席だったりする。イリィと私の居場所を特定するために、ダナン様が確保してくれた。


 何か起きたら呼ばれるみたい…。でも混雑からは離れてるし、イリィも私もフード被ってるし問題ない。

 そしてやっぱり、キビの店が見える場所。屋台の机には新鮮なキビの山。それは私の提案。仕込みの分を使い切ればそこから調理する。過程が見えたら楽しいな、と。

 それにも全員が食いついた。なんかもうアイディアの入れ食いだよ…。


 最初はもの珍しさと貴族家の紋章を見てる人が多かったかな?でも牛から乳を搾り、機械で分離。カラメルを作る頃には匂いに惹かれて人が集まり始める。

 そこで弾けるキビの実演。


 それ、客寄せもあるけど異世界人を見つけるのにも使えるかと思って密かに観察している。反応を見たら分かる気がするから。

 今の所は動きなしかな。

 いや、屋台は大変なことになってるけどね。行列がヤバい。それでも先に注文聞いてるから案外捌けてるかな?


 そんな時

「キャラメルポップコーンじゃねーか」

 声が聞こえた。そちらをそっと見ると黒髪の男が2人いた。

 私は無意識にイリィの手を握る。イリィは私を庇うように体を動かして彼らを分からないように観察する。

 彼らは列に並び始める。見覚えのある初期装備だ。しかも彼らはなぜか黒髪。私のように異世界仕様ではない。顔立ちは日本人離れしてるから、そこは異世界仕様?


「アイ、彼らは何て言ってる?」

 えっ?日本語…?じっと見る。



(ゼクスに飛ばされた異世界人1と2)


 ビクトル…雑すぎだろ。


(関わらない方がいい)


 そうだな。確かに…。


(剣豪と魔法師のジョブも斬新と火魔法のスキルも発動条件を満たさず困窮している)


 だろうなぁ。確かめちゃくちゃ大変な発動条件だったよな…。


(他の転移者2人とは別行動となった)


 最初は一緒だったのか。


(1人はあの女、もう1人男がいる)


 頑張る気持ちで依頼を受けてるならいいけど。


(依頼は受けていない。近くの森で動物を殺して食べつないでいる。その内、魔獣に接敵する)


 魔獣に会ったら逃げられなければ死ぬな。だとしても私に出来ることはない。

 彼らは大人しく並んでいる。屋台で食事をする余裕があるのか?


「最後の銀貨だ…でもどうしてもあれを食べたい」

「俺も後少しの銀貨しかないが、あれを…どうしても」


 声が聞こえた。2人はポップコーンとキビスープを買った。お釣りは銅貨数枚。あれが全財産?…

 2人は震える手で受け取ると端に寄って食べ始める。一口食べて、1人の男が震え出した。もう1人も食べて同じく震え出した。いや、泣いているのか…。


「ポップコーンだな、キャラメル味の…くっ…帰りてーよ…ぐすっ」

「美味いな…こっちにもあるんだな…コーンスープも。懐かしい…ぐっ…うぅ…何でこんな事に…」


 お金をたくさん使ってしまって途方にくれているのだろう。優秀なジョブやスキルだからと。確認もせずにお金を使って…。

 その気持ちも分からなくはない。転移させるのだから、チートなんだろうって。そう思う気持ちは理解出来る。

 私と彼らとの違いはほんの少し。私の方がほんの少し慎重で用心深かっただけ。でも、そのほんの少しがこうして大きな差を生んでいる。

 なんて悪意のある転移だろうか。日本にいれば気のいい兄ちゃんだったかもしれないのに。


 食べ終わって魂が抜けたみたいになった2人に人がぶつかる。慌てていたらしいサリナスだ。

「おっ悪りいな。ん?お前ら探索者か?」

 2人は頷く。

「お前ら暇なら手伝え!ギルドから正式に依頼が出る。頭はいらないから体を動かせ。食べ物は支給だ。どうだ?」

 2人は顔を見合わせて

「でも…怪しくねぇか?」

「話がうま過ぎる」


「言いてぇことは分かるがな、ギルドも関わってる店だ。あそこ、イザーク知らねえか?登録担当の」

「あ…」

「おい、イザーク!ちょっとこっち来い」

「何だ?」

「人手が足りねぇ、コイツらに依頼出したい」

 イザークさんは2人を見て

「カード見せろ」

 2人はカードを取り出して見せる。

「やる気があるなら依頼する。領主も関わっているから安心しろ」


 2人は真顔で頷く。

「お願いする!」

「よし、来い。緊急だから報酬弾んでやれよ!」

「あぁ、任せろ」


 良かった。少なくとも3日間は彼らの生活も安心だ。ただ、私の危険度が上がった。と思ったらイリィが素早く動いてイザークさんに声をかける。

 多分、イリィと私のことは彼らの前で話題に出さないよう言ってくれてる筈。

 すぐ戻ったイリィは頷くと優しく手を握ってくれた。

 ホッとする。ありがとう、イリィ。


 混雑はしつつも、彼らが加わったことで余裕が出来たようだ。順番に休憩にやってくる。

 まずはレオとルドだ。

「お疲れ。凄い人気だな」

「兄ちゃん、おう凄いな。キビサンドと弾けるキビのカラメルが大人気だ」

「でも満遍なく出てるだろ?」

「今は軽めのが出るよな。キビサンドとキビパンはこれからだな。でキビデザートはその後か…。食べないと味が想像出来ないからな…」

「だろうな。デザートが出始めたらレオが大変だろ?」

「それがな、兄ちゃん。俺スキル生えたらしい」

 えっマジで?何のスキルだろ?身体強化的な?

「多分、高速手回しだな」


 なんだそりゃ。もうホイップ専門じゃないか…。

「それがさ、遠投とかでも使えるんだよ」

 おぉ、それなら狩りとか?

「飛ぶ鳥を落とせる」

 それは凄いな…。まさに飛ぶ鳥を落とす勢い…。

 頑張れ、レオ。

 2人は休憩を終えると戻って行った。もう落ち着いたようだし、ちょうどシア兄様とベル兄様が戻って来たので交代でイリィと出かけることに。


 どこの屋台もそれなりに賑わっている。

「凄いな」

「うん、僕は森の外に出るのが初めてだし凄く楽しいよ」

 そっか…ずっと森に匿われるように過ごしてたんだよな…イリィは。そのきれい過ぎる容姿のせいで。

 私はイリィの手を握る。

「これから2人でたくさんの初めてを経験しよう」

「…だからアイは…そういう所だよ?」

 えっ、何が?

 端に避けると私の頬に手を当てて

「無意識の煽り…()()()()()()()()()()()()だなんて…。今すぐ押し倒したくなるよ?」


「…ち、違…」

 口を塞ぐようにキスされる。

「色々我慢してるんだから…煽ったお仕置きは夜の鍛錬だからね…」

 ふぇぇ…。甘過ぎるヤツ…何気にキツいし。口は災いの素か。


 イリィが離してくれてまた一緒に屋台を見て回る。ん?何のお店だ?…えっ、何でここにあんなものが…。

「おっ、気になるか?それは迷宮品だな。使い方が分からなくてよ…捨て値だ。形はカッコいいだろ?安いしお勧めだぞ。買わないか?」

「いくら?」

「大銀貨5枚だ」

「一緒に見つかったものある?」

「ん?あぁこれか」

 指したものは…

「それは何…?」

「分かんねえんだ…あとこれな、これは入れもんだろ?それからこれ。まとめて買ってくれるんなら大銀貨10枚だ」


「付属が高い」

 横からイリィが言う。

「うっ、なら大銀貨8枚」

「もう一声」

「ぐぅ…ならこれも付けるぞ!」

「買う」

「おぉ、助かる。不良在庫だったからよ」

 私はお金を払って紙に包まれた品物を受け取ると足早にその場を離れた。心臓がバクバク言ってる。


 広場の端まで歩いた。イリィが握ってくれる手が震える。人目につかない所まで来たら息を吐いた。

 何でこの世界にこんなものが…。

 迷宮品と言われた物は…拳銃だった。一緒に見つかったのは弾とホルスターに弾入れ。一式が拳銃装備となる。でもなぜ鑑定で見破られなかった?


(鑑定は知らない知識を見れない。異世界人が上位の鑑定スキルで見たら分かる)


 なるほど、こちらの人にはそもそも知識がないから。

 イリィが心配そうに見ている。

「イリィ、後で話を…」

 握ってくれている私の手はまだ震えていた。こんなもの…使ってはダメだ。震えはなかなか収まらなかった。イリィが抱きしめてくれ、ハクとブランが寄り添い…ミストは腕のポーチから顔を出して心配そうに私を見ている。

 大丈夫、私が回収した。大丈夫、大丈夫…。ようやく震えが止まった。


 誰が何の為に?こちらとあちらは繋がっている?迷宮はあちらの世界と…。

 帰りたい…そう思う心を押さえ込む。ダメだ。考えるな!()()()()


 イリィの温かい体を抱きしめる。その森のような清々しい匂いを嗅ぐ。そしてその胸に耳を付ける。

 トクン…トクン…規則正しいそのリズムは私を安心させる。足元のハクの熱を感じる。ブランのほわほわな胸毛も…ミストのつぶらな瞳も。

 大丈夫…大丈夫…。


 ふぅぅ。息を吐いた。イリィを離し屈んでハクの首に抱きつく。ハク…温かくて柔らかいその毛に顔を埋める。すんすん…ハクからは草原の匂いがする。あぁ…落ち着く。肩のブランの胸毛に鼻を埋める。少し甘くて優しい匂い。ミストが腕のポーチから伸びをしている。その鼻先に鼻を寄せる。少し湿っていて柔らかい。そのままふわふわな頭に頬ずり。目を閉じてしっぽを振っている。可愛い。

 こんなにも大切で可愛いものに囲まれているんだ。弱気になっちゃダメ。大丈夫…。


 顔を上げる。イリィに頷いてハク、ブラン、ミストに軽く微笑む。

「お腹空いたな。何か食べよう?」

 安心したようにイリィが頷く。

 例のものはポーチではなく、ピアスに収納した。何かあればピアスごと破壊しよう。

 よし、腹が減っては戦は出来ぬ。食べるぞ!




※読んでくださる皆さんにお願い※


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