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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動

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121.そして感謝祭

 中央広場の屋台で私は串焼きとスープ、イリィはお魚を焼いたのと野菜、ハク、ブラン、ミストはお肉の串焼きをそれぞれ食べて宿に帰った。

 その日の内に店の名前が決まった。


「キビの店 ガルシア」


 ガルシアはカルヴァンとアフロシアからだろうな…。まぁお皿とかはガルシアだけ。こちらはローマ字っぽい表記だから、例の女神がキビと犬を抱えたマークの下にガルシアと文字を入れて店のマークは決定。

 金具で判を作って、ポンポン押していく。自分とイリィが使う分だけはシャチ◯タ風にインクを貯めて押せるようにした。

 バレたらまた登録とか言われそうだから。こっそりね。


 店の看板は木の一枚板で毛筆風に書いた。文字の周りにはキビや料理の絵。うん、イリィは絵が上手だ。私は文字だけ。後はイリィのセンスで仕上げた。素晴らしい。私のイリィはきれいなだけじゃなく、芸術的なセンスまである。可愛い。


 後は紋章。こちらは貰った写しを線でなぞり、蔦とか絡めながら作っていく。素晴らしいのでは?そこは私とイリィの合作。いいね。

 その紙を樹脂でコーティング。また何か言われても秘密で押し倒すぞ!意匠登録とか言われないよな?知らない知らない。私は何も知りません…。

 これで準備は終わり。


 後は当日を待つのみ。屋台の準備を手伝ったら後は見物しに行く。それで依頼は終了。後10日後に感謝祭だ。


 それからの10日は朝の鍛錬、昼間は採取か生産、夜は時々甘い鍛錬…。そんな穏やかな毎日を過ごしていた。


 そしていよいよ、前日。屋台の配置が決まったので夕方から準備だ。紋章や看板は当日の朝なので、机とか鍋の準備。材料や仕込み済みのものも当日の朝。

 メインの通りの入り口側。さらに角という最高の立地。さすがは両侯爵家肝入りだ。私は屋台の手伝いはしないから他人事だけど…弾けるキビの実演は危険かもね…。行列の整理とか出来る人いるかもな?

 まぁそれはブラッドやサリナス、ダーナムとシグナスがいるから大丈夫だろう。


 結局、護衛と言われてたのに全く護衛になってなかったな。感謝祭が終わればこの町を離れるし…。ロルフ様も結婚したしカルヴァン侯爵家に戻るならどっちにしても保護の話は流れただろう。

 あ、ダイヤモンド鉱山の話があったか。多少の採掘権だけ貰って譲渡するかな。


 なんて軽く考えながら感謝際を控えた夜を皆んなで過ごした。

 ここに飛ばされて2ヶ月弱。色々あったなぁ。

 まだ不安なこともたくさんあるけど、ハクと出会い、ブランと出会い、イリィと出会い、ミストと出会い。

 レオやルド、イザークさんにフェリクス様、ロルフ様とラルフ様。スーザンにギルマス、リアやその他の人たち。

 ユーグ様とアーシャ様に、ファル兄様、シア兄様、ベル兄様との出会い。色んな人に出会えて今がある。


 明日からの3日間は楽しもう。多分、帰って来ると思うけどこの町ともしばらくお別れだから。

 そんな今までを振り返るような…。感謝祭の前夜だった。



 そしていよいよ感謝祭の当日、ファル兄様のお屋敷でする鍛錬も今日を入れて後3日。

 走り込みから型の訓練までは一通り息が上がらず出来るようになった。木刀を使った訓練はまだ途中で崩れてしまって腕が上がらない。

 ただ、足腰が少し安定したからかブレなくなってきている。

 ファル兄様は

「ふふふ、夜の鍛錬の成果かな…」

 なんて言われて赤面してしまった。

 

 見た目はほとんど変わらないけど内側に少し筋肉が付いたと思う。がんばったぞ。それでもまだまだだ。続けていこう。

 

 訓練が終わると今日はファル兄様の屋敷でシャワーを浴びて朝食を食べる。

 スーザンは今頃仕込みに忙殺されている筈。

 

 そういえばファル兄様たちはどうやって生計を経てているんだろう?

「私たちは白の森の採取権と狩猟権を貰っていた。その収入と生命樹の管理料として国からも一定の報酬を貰っていたんだよ。今はどちらも打ち切られているがね」

 それでは大変なのでは?

「使う機会もないし蓄えはそれなりにあるから大丈夫。何年か働かなくても生活できるくらいには、ね。

でもそれでは次の世代に残せないし、何より若木を定着させなくては。定着すればまた元の暮らしに戻れる」

 

「ファル兄様の後はシア兄様が?」

「まだ決めていないよ。イーリス以外のどちらかが継ぐ」

「イーリスは末の子としての使命を背負って色々と我慢してきたからね。ただでさえこんなに目立つ子だから。だから、若木が根付いたらイーリスは白の森を出なさい。あそこにいればまた狙われる可能性が高い」

「イーリスの幸せはあそこでは叶わないだろう」

「お前が好きなようにしたらいい」


 イリィは頷いた。そうか、あそこにはイリィが安らげる場所がないんだ。生まれ育った場所に…。どれだけ大切に育てられていても。

 帰る場所がないのは私も同じだ。私はそもそも物理的に帰れないけど。

 2人で過ごせる場所を探そうか…、イリィ。フードも被らず素の自分で過ごせる場所を。ハクが聖獣として崇められるのではなくただの銀狼として。

 ブランが聖獣としてではなくただの大空を自由に舞う大鷲として。ミストが霊獣としてではなくただのグレイウルフとして。

 誰の目も気にせず暮らせる場所を。私の色も気にせず、皆と戯れながら楽しく暮らせるような…。

 目指せ自給自足。私のジョブはまさにそれにふさわしい。

 新しい目標を決めた。



 さぁ中央広場に向かおう。すでにがやがやと屋台の準備が始まっている。そう言えば牛を連れて来るってどうしたんだろ?あ、サトウキビの話も中途半端だな。


 考えながら指定のブースに着くともうスーザン以下リア、レオ、ルドにブラッドとサリナス、ダーナムさんとシグナスさんもいた。

 さらにイザークさんとフェリクス様、ダナン様とロルフ様ラルフ様。お揃いだった。


 私は店の看板と紋章を取り出す。看板はテントの上。エプロン部分に、紋章はそれぞれ柱に。付ける位置の指示待ちだ。

 看板と紋章を見た皆さんは固まっていた。何でかな?今回はイリィとの共作だからやらかしてないよ!


 いち早く起動したダナン様が

「あ、アイル…この紋章の図柄は…なんて素晴らしい。この領だと分かるのに繊細で斬新で何と曲線の美しいかとか…」

 だろだろ、それは私たちの力作だ。主な図案が私で、イリィは細部の調整。ふふふ、どやっ。

「しかもこの表面の薄い膜は…硬いのに薄くて歪みがない…なんて素晴らしい!さらに軽い。これは領軍の旗に使えるぞ。後で少し時間が欲しい…」


 …イリィを見る。肩をすくめた。これは諦めろの合図か…。ハクを見る。呆れた顔してる…なんで?

 また涙目でイリィを見る。

「一緒に行くよ」

 そういうことじゃない…。しょんぼり。


「これも見たことないぞ?木なのか?」

 これはスーザン。看板持ってる姿がめちゃくちゃ似合う。

 私はそっと違う方向を見る…。そこには笑顔のリアがいた…。

「アイル、これは木の板かな?斬新だね。字体も凄く独創的で…意匠登録だね、ふふふっ」

 嫌だ。また涙目でイリィを見たら目を逸された。なんで?イリィ…縋るように腕を触れば仕方ないという顔で手を撫でてくれる。

 イリィ…。


「一緒に行ってあげるけど、登録はアイだよ?」

 そんなぁ…。本気で泣いてしまった。慰めてくれるのに…。

「き、共同で…?」

 首を振られる。ガックリ。看板ごときで意匠登録なんて…。あ、スーザンは?

 顔を上げて見たら目の前にリアがいて、笑顔で首を振る。

 スーザンは?探そうとしてもリアにブロックされる。うぅ、スーザン…最後の筋肉、もとい砦が。


「ウル、あまり虐めるな。本気で使い物にならなくなるぞ」

 リアは肩をすくめる。

「アイル、共同にしてやるから後で教えろ!」

 スーザン…。思わずその筋肉めがけてダイブした。突然だったからさしものリアもブロック出来ず、私はスーザンの固い胸に飛び込んで抱きついた。

 そしてスーザンは私を片手で軽々と抱き上げて、空いた手で頭を撫でてくれた。

 スーザン…思わずその頭に縋りついたよ。味方だ、唯一の味方を離してはいけない。ギュッ…。その見かけによらず柔らかい髪と太いクビに安心して身を任せた。


 リアが焦ってるけど私を抱っこしてるのはスーザンだし。しばらく安全地帯に避難しとこ。

「全く世話の焼ける…それがまた嫌じゃないのがな…アイルらしい」

 良く分からないけどスーザンは味方だ。しばらく抱きついていたらリアから不穏な空気が漂って来たので諦めて離れる。

 スーザンは優しく降ろしてくれる。私はそれでもスーザンにしがみついていた。味方はスーザンだけだ。

 イリィがそっと寄り添うとスーザンに抱きついていた手を取って首を振る。

 だって…

「僕も行くから…」

 うんうん頷いた。そんなことしている内に看板も紋章も据え付け完了。早いな!


 イリィと私はお皿とかマークの付いたものを指定の場所に置く。これで私たちの役目は終わり。

 念の為、マークなしのものも用意して、判とインクも置いておく。足りなくなったらこれで押してね。


 そのマークを見たダナン様が

「これは?」

「女神はイリィのマーク、犬は私のマーク、キビと店の名前でこの店専用のマークです」

「これは…この屋台専用の?」

「?屋台に限らずですが…両家が関わる店で使えば」

「これもキビの店、元祖として意匠登録しましょう」

「紋章は簡易紋章として登録するぞ」


 そっとその場を退場しようとしたら目の前にフェリクス様が…。ニッコリ笑った。

「紋章は関係ないし、店のマークも今回の屋台限定にしたら登録は不要です」

「いや、あのマークは採用だ」

「…ご自由に…」

「意匠代としての報酬がある」

「要りません」

「却下だよ。貴族家がそれをすると搾取になるからね…」

 イリィをチラッと見る。

「マークの発案自体がアイだよ、ちなみに図案もね。僕は清書しただけ」

「合作だよな…?」


「ん?なに…アイ?」

 あ、これはダメなヤツ。スーザンは…ダメだ。リアにガードされてる。あ、まだいたよ。レオとルドが!

「あの子たちも一緒に…」

 周囲を巻き込みまくるアイルだった。

 図案を考える時に意見を聞いた。うん、合作だ。間違いない。

「分かったよ、彼らが考えてる時一緒にいたならな…」

 よし、巻き込み成功だ。


 ちなみに成功だと思っているのはアイルだけだった。皆んな分かってて巻き込まれてくれていることをアイルだけが知らない。


 そんなこんなで調理用の机、受け渡しの机、弾けるキビの実演の机、そして裏には牛さんがいた。搾りたてだ。もちろん、遠心分離機もとい、円外分離機もスタンバイ。

 値段は皆んな分かってるよな?レオとルドはお金に触らないから大丈夫か。


「値段いちいち聞くの大変だし、紙に書いて貼って指して貰えば楽なのに…」

 何気ない一言に、くわっと振り返るのはサリナスとシグナス。注文担当だ。

「紙だと飛ばないか?」

「木の板でも。注文用と張り出し用に作れば値段を気にせず買えるかと」

 またしてもくわっと振り返るのはイザークさんとフェリクス様。

 怖いから…。


「おい、誰か木の板持ってこい!」

「インクもだぞ!」


「待ってる人が見やすいように貼り出し用は大きめにすれば。多分、行列になるから」

 三度目のくわっと振り返るのはダナン様とシスティア様。

「間違いないぞ。列の整理をするやつがいる」

「注文が追いつかないぞ」


「事前に番号札渡して注文を聞いておけば準備出来るのでは?」

 くわっくわっ!全員が振り返った。だから怖いって…。

「紙持って来い!」

「いちいち書くの大変では?」

 私は手元の紙にメニューを買いて、そこに数字を書き込んだ。ついでにメニューの横に値段も。

 それを見せる。

「こうすれば注文と会計が一緒に出来る。紙は注文ごとに番号を1番上に買いて、買う人には同じ番号の札を渡しておく。回収するから10個ぐらいの札があれば足りないかな?」


「…」

「君は本当に素晴らしい!」

 面倒なのでポーチの中でメニューと金額の大きな判を作る。いかにも作ってあった風に。

 取り出してイザークさんに渡せば固まった。その手元を見たダナン様とフェリクス様も…。


「インク持って来い!」


 いち早く復活したダナン様の声に応えてインクが運ばれて来る。

 小さく切った紙に押していく。紙に穴を開け、紐で括って番号を渡した人の注文書は受け渡し窓口へ運べばスムーズだ。


 皆んなが感心しながら連携と役割を再確認していた。

 私は離れた所から見ていることに。目立ちたくない。


 そして、いよいよ感謝祭の始まりを伝える教会の鐘が鳴らされた。さあ、始まったぞ。



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