120.アーシャ様
今…消えないで…アーシャ様。居た堪れない。するとハクが
『僕の契約者だから当然だよ。アルは優しくて温かくて…本当に最高なんだから。その魔力は清涼で流れは穏やか…聖獣や精霊が好むものを備えている』
…ハク、追い討ちかけないで…。
『みゃうんみゃみゃ…(すごくいい匂いの魔力がしたよ…)』
えぇ…ミスト。今話するの?
『みゃんみゃみゃ…みゃうん(アル大好き)』
蓋を頭に乗せて必死に鳴くミストも可愛いくて…大好きだよ?その眉間を指で撫でる。うっとりと目を細めるミスト…。可愛い。ポーチから出して頬ずりする。
「んっん…そ、その子は…」
震える声で聞くのはシスティア様だ。ぷるぷるしてるぞ?
「グレイウルフのミスト…先祖返りの霊獣です」
「か、可愛い…」
…えっ?
ぷるぷるはそっちの方?
「さ、触らせて貰えるだろうか…」
指震えてますよ?そんなに触りたいの?
ミストを見る。まだピンク色の鼻をヒクヒクさせて目を瞑って気持ちよさそうにしている。
「ミスト、他の人が撫でたいって。どう?」
『みゃうんみゃ!(いいよ!)』
私はそっと立ち上がるとシスティア様の側に行き、ミストをその震える手にそっと乗せる。
ミストはその真っ青な目でシスティア様を見つめて…その手に頭を擦り付けた。
「!!!」
ほわほわの毛に驚きながらもそっと撫でている。
『みゃうんみゃん(もっと撫でて)』
「な、何て言ってるのかな?」
「もっと撫でて、だそうです。片手に乗せてもう片方の指で眉間とか耳の後ろを撫でてやると喜びます」
システィア様の手を支えるようにロルフ様が身を乗り出して手を差し出し、空いた手でミストを撫でる。
気持ちいいのか、体をくねらせて仰向けになった。
「わわわっ…」
「お腹も撫でてあげたら喜びます」
その頃には全員がミストの周りに集合して指でそっと順番に撫でていく。
その内、ぷすーすやー…。余程気持ちが良かったのか寝てしまった。そのミストを手にしたままシスティア様が呟く。
「なんと無垢な…。この子に選ばれる君は…」
沈黙…。システィア様が立ち上がり私にミストを託す。
そして私の側にいたハクに
「聖獣様、我々は彼を…彼の安全と自由を保証いたしましょう。どうか、この国の行く末を見守り下さい」
そう言って跪き、腕を胸に当てて礼をした。
貴族の正式な、そして最大限の礼だ。
『承ろう。アルが見限らないならば、な』
「はっ、肝に命じます。ハク様」
アイルには感じられなかったが、その圧倒的な聖力を他の誰もが感じていた。
白銀王…。今は小さな体だが、昨日乗り込んで来た時の立派な体躯はまさに、王に相応しい様相だった。
決して敵に回してはいけない。
「お店の名前、よろしくお願いします。俺はこれで…」
そう言って席を立てばイザークさんが一緒に扉を出て来た。
「帰りは馬車いらない…」
「送らせて欲しい。宿まで送り届けるから」
断るのも面倒だし、ハクを見て申し出を受けることにした。なんか、不穏な空気がね…ハクから。馬車で送る送らないで屋敷とか破壊されても困るし。
帰りも無言で乗っていたら
「今日は本当にありがとう。商業ギルドはいつ行く…?」
それがあったか。イリィは宿にいるしそのまま行くか?
「イリィの都合が良ければこの後でも?」
「俺は構わない。機械は?」
「持ってる。宿に着いたらイリィの都合を確認する」
程なくして宿に着いた。
扉を開けて宿に入るとイリィが待っていた。あれ?
「ブランが帰って来るって言うから」
ブランを見れば短い羽をパタパタしてる。可愛い。
その小さな頭にキスをして
「イリィ、例の分離器…やっぱり登録が必要で。今からイザークさんと商業ギルドに行くんだけどイリィも行ける?」
「もちろん、そんな事だろうと思ってたし」
「良かった。イザークさんが外で待ってるから…」
頷いたので一緒に宿を出る。
馬車の扉が開いてイリィとハクたちと乗る。ハクは私の膝、ブランは肩、ミストはポーチの中。可愛い。
イリィはもちろん隣り…可愛い。
膝の上のハクを撫でながらもふもふを堪能する。頬にはブランのふわふわ…。うん、今日も良きですな。
商業ギルドに着くとイザークさんがまた職員に話しかけている。前と同じ人だ。
「登録だ。製作と使用」
「ん?豪勢だな。個室に…」
個室に案内され、防音の魔道具が稼働する。
「で、何だ?」
私はポーチから機械を取り出して牛乳も取り出す。
実演はイザークさんだ。軽く取手を回して…別々の容器にクリームと水分が分離した。
「はっ?えっ…?えっ…」
固まった。
「おいっ、また何でもん持ってきたんだよ?えっ牛乳が分離した?なんだよこれは?」
「白いのがクリームと呼んでる。白い方はまだ名前はない。彼の登録は機械だ。で、アフロシア家とカルヴァン家はそのクリームと白い方の製法とレシピだ」
「両侯爵家が絡んでるのかよ…」
「まずは、機械の方だ」
「クリームの製法登録と機械の登録は離せないぞ?」
「あぁ、だろうな。侯爵家が絡むのは主にレシピの方だな」
「じゃあ機械とその製法までは坊主だな」
私は助けを求めるようにイリィを見る。首を振られる。ダメか…。なら共同開発だな。またイリィを見つめる。肩をすくめると
「アイと僕の共同で…」
私はコクコク頷く。一緒に小型化したし、部品も作って貰ったからね。
「分かったぞ。ギルドカード」
それぞれ取り出して渡すと
「あぉ、判の!?」
そうです。
「あれ凄いぞ!口座見てるか、お前たち?」
全く。って言うか講座って何?
「アイ、違うよ、口座。お金を振り込んでくれる」
知らないよ…?
「カードにそういう機能が付いてた」
へー。
「製法とか、使用登録したヤツ限定な」
なるほど。で?なにが凄いって?
「大手の商店がこぞって採用した。問い合わせも殺到して、金属で作れる人を探してるらしいぞ?」
作れるけど言わない。私は首を傾げる。イリィもだ、作れるけどね。
「使用料だけでかなりの額だぞ?」
ふーん、まぁ見てみるわ。
「しかも、この機械は製法登録だろ?原理登録もいる。派生した商品は全てこの原理絡みなら使用料がかかる。とんでもないぞ、また」
「例外規定で両侯爵家に対しては使用料と製法開示の料金を免除に」
「いいのか?」
イリィも私も頷く。
「分かった。書類作って来るから待ってろ」
「ふーやっぱり原理登録も必要だったな」
面倒だなぁ。遠心力なんてあちらの世界では常識なのに…。
「仕方ないよ…明確な原理として認識されていなかったんだから」
頷くしかない。そこまで待たずに戻ってきたら職員の手には紙の束があった。
「まず、製法登録だ。原理と一緒に登録する」
ここで、先程の簡易水切り機を披露。
「原理名は?」
「円外作用…とかは?円の外」
「なるほどな…分かりやすい。いいぞ。機械の名前は?」
「んー?」
イリィを見る。
「円外力による分離機」
「うん、それがいいな。製品名にするなら円外分離機かな」
頷く。
「製法と原理の開示価格は…?」
イザークさんを見る。もう丸投げだ。
「金貨1枚」
はい?なんですと…?
「利用価値が高いからだ。応用範囲がとても広い」
「納得だな」
「水切りと名のつくものには全て応用可能だ」
職員が頷く。
「原理のみの開示は?」
「無しだ」
「…ギルドとしてはして欲しいがな…」
「原理のみの開示でも大銀貨80枚だな」
「まぁそうなるよな。原理が特にな…よし、それでいこう」
えっ?マジで?金貨1枚は約100万、大銀貨1枚は1万だよ…。
続いて使用登録。これは円外分離機を商品として販売する場合にかかるものだ。実際は使う人が払うのだが、販売時点で実質的に回収しておくのだ。
今回は原理を利用した商品まで対象となるので、幅広い。
「使用料は?」
またイザークさんに丸投げ。
「商品につき銀貨3枚で」
「ふむ、安いな」
「派生商品まで含めたら多岐に渡るだろう?それでもかなりの収入だぞ?」
「そらそうか…よし、と。あとは坊主たち?だな。署名したらカードに登録して完了だ」
イリィと順番に署名する。
手元の機械を操作して、カードを差し込むと返してくれた。
「それで坊主たちは終わりだ」
イザークさんと職員さんに頷いて先に帰る。
帰りはイリィと手を繋いで歩いた。
「アイ…?」
「大丈夫」
手を握り返す。
「イリィ、口座って確認した?」
「うん、この間マルクスとギルドに来た時に」
「じゃあもう生活は大丈夫だな…」
イリィが立ち止まって
「アイ…」
不安そうに私を見る。ん?
「余裕が出来て良かったなって。家族にも再会出来たし」
「…嫌だよ…」
「何が…?」
「もう1人で大丈夫とか…言わないよね?」
私は苦笑する。
「私がイリィなしでは無理だよ」
そっと私の方に頭を乗せる。良かった…捨てられるのかと。
イリィの頭を撫でて
「そんなことしないよ…分かってるよね?」
頷くイリィ。
「そんなことしないって分かってても不安になって…」
「大丈夫、側にいる」
しばらくそうして抱きついた後、顔を上げてまた歩き出す。
「アイは…自分の口座にもお金入ってるのに…僕のことばかり」
「そもそもイリィがあの宿に来たのはお金が少なかったからだろ?」
「そうだけど…。今はアイ経由でギルドから報酬が出てるし、お父様たちとも合流な出来たから大丈夫だよ」
それもそうか。
顔を見合わせて笑う。隣のハクもご機嫌でしっぽを揺らしている、可愛い。ブランは肩の上でときどき飛び上がってパタパタしてる、可愛い。ミストはポーチから前脚と顔だけ出してキョロキョロしてる、可愛い。
帰りに中央広場の屋台でご飯食べて帰ろう。皆んな好きなものを食べたらいい。
のんびりと皆んなで歩いて行った。
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