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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
12/419

12.フェルとの出会い

今日は4話投稿

引き続きイザーク視点

 必要な道具と当面必要な食材を買って町を出る。父親が死ぬまで懐に隠し持っていた小さなポーチは空間拡張ポーチだ。俺はもちろん知っていたから、領主がそのまま渡してくれて助かった。

 空間拡張ポーチやカバンは登録者とその血縁者しか中に入っている物を取り出せない。中身の確認はしていないが、用心深い父親のことだからそれなりの物は入っているだろう。


 それもあってたいして不安に思うことなく森へと進んで行った。動物の狩や魔獣との戦い方は見て覚えた。ロクでなしな父親だったが唯一良かったのは魔力の多さだ。俺にも遺伝したらしく、まだ5才だが全ての属性が中級まで使える。

 生きていく上で必ず必要な水と、ないと不便な火が使えるだけでもかなり恵まれている。本当に唯一父親に感謝していることだ。


 森に入ってどんどん奥に進んでいく。後ろ暗い稼業だったから気配には子供ながらに敏感だ。余計な体力を使わないように動物の気配を避けて、拠点と出来そうな場所を探す。

 どれくらい進んだだろうか?けっこう奥まで進めたと思う。森の手前側は人が踏み固めた道があったがこの辺りは完全な手付かずの状態だ。

 危険な動物や魔獣がいなくて、出来れば水場が近い所。途中で見つけた小川沿いに行くとごつごつとした岩場のある所に着いた。

 その岩場は穴が開いていて中に入れる。入り口で様子を窺うが動物などの匂いも気配もしない。用心しながら進むと意外と奥行きがある。

 入り口は1.5メルくらいで少し狭いが奥は縦が3メルくらいで横は5メルほど。奥行きはザッと10メルほどか。暮らすのには充分な広さだ。入り口が狭いのもいい。大型の動物は入れないからな。

 動物などが入った痕跡も見当たらず、問題なさそうだ。


 当面はここを拠点とすることにして、一度外に出る。水場は20メルほど先で少し下った当たり。雨が降ってもここまで水が来ることは無いだろう。なかなかいい条件だ。

 洞窟の入り口は大きな木で視線が遮られるのでそれもいい。煮炊きに必要な木の枝と岩を探して拠点に戻る。さらに草を探して拠点の床に敷く。その上にさらに防水加工のしてあるマットを敷いてから毛布をかける。洞窟の中はほどほどに暖かい。外ではシャツの上に防寒着を着てさらにローブを羽織っているが、中ではシャツ1枚で大丈夫だ。

 ただ、夜はしばらく油断はしないでいた方がいい。夜行性の動物が活発に動き出すかもしれないからだ。


 結局、夜通し起きていたが何も起きなかった。動物が動く気配はしたがここには近寄らなかったので、やはり動物が入るのには入り口が小さいのだろう。

 こうして拠点が決まった。それからは薬草をつんで傷薬を作ったり、魔法の練習をしたり、動物を狩ったり魔獣を倒したりしながら生活をしていった。


 この森の拠点より町に近い所には人が入って来る。探索者などだ。そして不幸にも魔獣や動物に襲われて死んだりする。また、近くの街道で盗賊に襲われて森に逃げ込んで死ぬ奴もいた。

 そうやって死人から使える物を貰って俺は生きていた。彼らが残していくのはお金もあれば服やそれ以外の剣とか、食料や毛布などもあった。

 父親の空間拡張ポーチには思った通り、毛布やテント、剣やローブ、着替えに食料や食器と野営に必要な道具は一通り揃っていた。


 拠点に住むようになって魔法の有難みが良くわかった。何かと使えるのだ。

 魔法の中では特に風魔法が得意で、狩をするときに短剣の軌道を変えたり、速度をあげたりも出来る。

 また、自分の体を浮かせて風で運ぶ。そうやって木から木へと渡ることも出来るようになった。

 だから人が魔獣などに襲われているのを木の上から見ることもあったが、助けることはしなかった。自分には関係のないことだ。むしろ死んでくれれば落とし物が手に入る。好都合だ。そんな風に考えていた。


 そんなこんなで拠点にはそれなりのお金と剣などの装備、そして服などを溜め込んでおよそ2年が過ぎた。

 その日もいつも通り拠点から出たところで異変に気づく。意外と近くに人の気配がする。

 用心しながら木に登り気配を探る。少し離れたところに3人、いや4人いる。こんな森の奥に人がいるのはおかしい。

 風魔法で木から木へと飛び移るとやがて人が見えた。3人の大人と大人が抱いている子供だ。子供を抱いている男は大きな木を背にして、残りの2人はその前にいて剣を抜き、構えている。

 彼らの周りには黒狼が4匹いた。囲まれている。いつも通りしばらく様子を見る。


 狼は剣を構えている騎士に飛びかかった。それを騎士は剣でさばくがそれは悪手だ。残りの狼が姿勢を低くして彼らの足に齧り付く。

 狼は群れで狩りをする。分かりやすく飛びかかってくるのは陽動だ。動物との戦いには不慣れと思われる。足を齧られた騎士は体勢を崩して尻餅をついた。すかさず2匹が飛び込んで来る。

 座った体勢では剣を触れない。1人は肩に1人は脇腹に狼の牙が食い込む。


 いつもならただ見ているが何故かその時は自然と体が勝手に動いた。木の上から足に齧り付いている狼に短剣を投げる。距離はあるが風魔法で飛ばし、さらに軌道を風魔法で微調整する。過たず、狼の首に深々と刺さった。

 ちょうどその時、隠れていた1匹が子供を抱えた男の足元に後ろから飛びかかる。不意打ちに体勢を崩して男は子供を庇いながら横倒しになる。

 すると騎士に襲いかかっていた狼が子供を抱えた男に標的を変えるのが分かった。男は3匹の狼に囲まれたことを悟ると腕の中の子供をさらにしっかりと抱え直して覆い被さった。

 騎士が何か叫ぶ。そして狼はうずくまる男に飛びかかっていった。


 子供を庇う男を見て何かとても不思議な感じがした。既視感だ。そうだ、俺が盗賊達にに襲われた時、あのロクでなしの父親が俺を腕に庇わなかったかと。

 自分でも分からない気持ちが湧き上がり、咄嗟に飛びかかった2匹にナイフを投げる。それは奴らの目に突き刺さり、キャウンと鳴いて倒れた。余程痛いのか、転げ回っている。

 残りの1匹、多分群れのリーダーと思われる狼が即座に男の首に噛みつこうとする。俺は短剣を奴の喉元に向けて投げた。もちろん風魔法で速度を出して軌道修正もして。短剣は奴の首に吸い込まれていき、狼はそのままどさりと倒れた。胸が動かないことを確認する。

 目を抉られて転げ回っていた2匹は騎士たちが仕留めていた。


「ダナン様、フェリクス様」「領主様、坊ちゃん」

 騎士たちが男に呼びかける。男は子供を大事そうに抱えたままゆっくりと起き上がった。胸に抱いた子供は俺よりも小さくて幼かった。その目には涙が流れ小さな手で必死に男にしがみついている。

 ふいに涙で濡れた目がこちらを見る。枝と葉に遮られて俺の姿は見えないはずだ。しかし確かに俺の場所を小さな手で指差して

「ありあとー」

 と言った。騎士達も、当然その領主と言われた男も気がついているだろう。少し悩んだがストっと木から飛び降りた。


 俺を見た4人は明らかに驚いていた。

「君が…?」

 そう聞かれたので返事の代わりに狼たちに突き刺さった短剣とナイフを回収して頷く。

「ありがとう。君は私達の命の恩人だ」

 子供を抱いた男が礼を言う。

 俺は何だかこそばゆくなって

「たまたま近くにいただけだ」

 と目を伏せた。本当は今日だって助ける気はなかった。でも子供を庇う男を見て体が勝手に動いた。そんな自分に、こんな自分に領主という人間がお礼を言うなんて。居た堪れなさもあって顔を上げられなかった。

「たまたまでも助けてくれたんだろ?君は強いんだね」と微笑んだその顔がとても眩しくて、その顔を正面から見られなかった。


「何でこんな森の奥に?」

 話を逸らすように聞くと

「あぁ、色々とね。君、傷薬を持ってないか?彼らの手当をしたいんだ。お金は払うよ」

 誤魔化されたようだ。尤もさほど興味もないしそこは聞き流して

「ある」

 カバンから中級の傷薬を出して騎士に渡した。

「助かるよ」と言ってすぐに薬を傷口にかけた。

 中級だとそれなりに深い傷でも治る。骨折だと上級じゃないと治らないが、咬み傷なら充分だろう。

 さらに男に「ケガしてる」と言って初級の傷薬を渡す。見たところ荷物は持って無さそうだし、薬があれば自分で使うだろう。使ってないなら待っていないはず、そう思って渡した。

 案の定、持っていなかったようで助かるよと言ってまずは男の子の手についたかすり傷に薬をふりかけ、自分のケガにもかけた。


「ここはだいぶ森の奥の方かな?」と聞かれたので頷く。

 襲われた場所に馬車があるから案内して欲しいと頼まれた。街道沿いならここから3時間はかかる。微妙な時間だ。少ないとはいえ森には魔獣もいるし、動物もいる。ケガが治っても血を流しているから夜の森の移動は俺がいても危険だ。

 そう考えて今日は街道まで戻るのは難しいと伝えた。


 男は少し考えると

「君はここで何をしていたの?」と聞いてきた。何をしていたと言われると何だろう?パトロールかな?

 答えずにいると質問を変えた。

「この辺りで一晩過ごせる場所はある?」

 これにはすぐに頷く。拠点が近いからだ。

「それなら今日は野営して明日の朝、街道まで送って貰いたい」

 これも問題ないから頷いた。


 こうして約2年ぶりに会った人を拠点に連れて行くことになった。

 実は洞窟の拠点は季節によっては暑くて寝られなかった。なので拠点の目の前の木に家を作っていたのだ。いわゆるツリーハウスだ。

 そこにはハシゴで登っていく。高さは洞窟より少し高い。およそ3メルくらい。そこに木で作った家がある。この木は巨木で幹回りが5メルはある。枝振も立派でちょうど幹が枝分かれする場所に床を敷いて作った。ツリーハウスといえど巨木だけあって結構広い。

 入って左に台所と隣に食事スペースの机と椅子。さらに右側にはソファのあるリビング。リビングの奥は寝室でベットと机があり、その隣には倉庫まである。


 まず巨木まで案内する。その横には簡易な木の壁で囲まれた小さな箱のような物が2つある。屋根付きだ。それをトイレとシャワールームだと説明する。

 トイレにもシャワーにもレバーがあって押すと水が出るようにしてある。水は近くの川から引いている。

 拠点に来てから1年ほどかけて使った力作だ。

 皆んなはそれを見てとても驚いていた。

「これを君が作ったのかい?」

 頷くとほぉと感心していた。


 それからツリーハウスに行くためにハシゴを登ろうとして男の子を見る。1人では無理だし慣れていない大人が抱えるのも危ない。

 領主に手を出して「俺が抱えて登る」と言うと口々に危ないからと言う。それに対して慣れてるし俺なら魔力で体を軽く出来ると言うと不安そうにしながらも子供を託してきた。

 その子は大きな目でマジマジとこちらを見ると首にひしっとしがみついて来た。男の子はとても軽くて暖かかった。そのままでも大丈夫だったけど少し風魔法で軽くして片手でしっかりと抱いた。

 空いている片手でハシゴを掴むとスルスルと登ってあっという間に着いた。下を見て上がってくるように言うと男の子も恐々と下を見た。そして周りを見回して

「凄い。高い!」

 そう行って上に手を伸ばした。少し前にあんなことがあったのにもうキラキラの笑顔だ。可愛いな、そう思っていると領主の男が登ってきて騎士の2人も続いて来た。

 扉を開けて中に入ると一同ほぉと呟く。男の子は俺の腕を叩いて降ろしてと叫ぶ。そっと降ろしてやると

「凄い!お兄たん凄い!」

 舌足らずに叫ぶなりリビングのソファに座り、飛び降りて台所にかけて行き、さらに奥の部屋の扉を開いて俺の寝室に突撃して行った。

 あっという間だったので止める間もなかった。慌てて領主の男が走っていく。寝室は布団も起きたままだし着替えも放ってあるから気まずい。


 急いで俺も寝室に入ると男の子はベットに寝転んでいた。いや、何でだよ!こんなところに住んでる怪しい奴の家なのになんでそんなに無防備なんだ。

 横を見ると領主も苦笑いしている。

「済まないね、嬉しくて仕方がないようだ」

 騎士たちもいつの間にか俺の寝室に入っていて

「これははしゃいでも仕方ないでしょ。ツリーハウスなんて楽しすぎますよ」

 そう言って目を輝かせている。

「確かにね。ここは素晴らしいよ」


 領主はベットで寝始めた子供を抱えて皆んなでリビングに戻る。俺は台所でお湯を沸かす。火魔法の応用だ。箱の中に焼けた炭が仕込んであって火魔法で炙ると湯が沸くのだ。

 近くで取れる薬草でお茶を淹れると彼らに出す。カップは土魔法で作った物と死人から貰った物があるが、何となく魔法で作った物にした。


 自分にも入れて飲み始める。スッとする味でなかなか美味しい。彼らも一口飲んで美味しいと呟いていた。

「改めて礼を言わせてもらうよ。私は隣の領の領主でダナン・アフロシアという。この子は息子のフェリクス。ゴツいのが騎士隊長のグリードで隣が副隊長のマーカス。君がいなかったら狼にやられていた。

万が一、討伐出来ても彼らは大ケガをしていた。私達だけでは森で夜は越せなかっただろう。本当に感謝しているよ。私たちを助けてくれてありがとう」


 そう言って子供を抱えたまま俺に向かって頭を下げた。隊長と副隊長は胸に手を当て同じく頭を下げる。びっくりした。俺は良く分からないけど普通、偉い人はこんな風に頭を下げたりしないはずだ。


 焦って固まっていると頭を上げた領主のダナンが

「困らせてしまったかな。でもね、それくらい君には感謝しているってことだよ」

 と言って微笑んだ。まだ焦っていた俺は食事の用意をするからと言ってから寝室に入り、毛布を掴んでダナン様に渡した。ありがとうと受け取るとソファにフェリクス様を寝かせて毛布をかけた。


 台所に行くと副隊長のマーカスさんがついてきて手伝うよと言うので、野菜を切って貰った。

「あのソファ。座り心地良かったけど何で作ってあるんだ?」

「座面は乾かした草の上に綿を詰めてる」

「綿花があるのかな?」

 この拠点の近くには綿花の群生地があってせっせと採って貯めていたのを使ったのだ。

 それを話すと感心したように

「君は本当に凄いな。あの短剣を過たずに投げる技量も」

 それは得意な風魔法で補助していると言うとそれはそれで凄いことなんだけどねと笑った。

 俺はそもそもがかなり特殊な環境で育ったから普通が何か知らない。だから凄いと言われても実感が無いのだ。あの父親ですら俺よりはるかに強かったし。


 そんな感じてポツポツと話をしていたら食事が出来上がった。茹で野菜のサラダにスープ、キビ粉から作った薄いパンに焼いた肉と魚。野菜は野生のもの、魚は近くの川で釣ったもの、肉は近くで狩った動物の。

 味付けには少し遠くにある岩で採った塩と乾燥させた薬草。これがいい仕事をする。


 意外と豪華な食事に起きてきたフェリクス様は目を輝かせて野菜をぱくりと食べた。え?俺まだ食べてないけど?

 ダナン様を見ると苦笑しながらも頷く。

「マーカスも手伝ってるし、今ここで私たちを殺す理由は君にないからね」

 と言って食べ始めた。


 そうか、マーカスさんが手伝ったのはそういう意味もあるのか…と思っていたら

「違うよ。彼は単に料理に興味があっただけ。君を疑ったりはしてないよ」

 ダナン様はそうおかしそうに言って美味しいよと呟いた。そのダナン様の呟きに被せるように

「美味しい!お兄たん美味しいよ!僕こんなに美味しいお魚、初めて食べた」

 舌足らずで無邪気なはしゃぎ声にふと笑みが漏れた。そしてまだ名乗っていないことに気づく。


「あの、名前言ってなくて…俺、イザーク」

「イザーク君だね、改めてよろしく」

 ダナン様はそう言い、

「イジャーク?」

 言えてないよ、フェリクス様。笑いながら

「イザーク」

 と言うと

 「イジャー、イジ…イズ!イズお兄たん!」

 

 結局言えずにイズになった。俺の愛称なのかな、なんだか恥ずかしくて横を向くとグリードさんと目が合う。優しげに微笑まれて余計に恥ずかしくなった。


 

 

読んでくださりありがとうございます♪

面白いと思って貰えましたらいいね、やブックマークをよろしくお願いします。

頑張れます!

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