116.ハクの怒り
予約投稿し忘れ…30分遅れで投稿します
1日中、物作り…最高。横を見ればイリィのきれいな顔。足元にはハクのもふもふ。ブランとミストは危ないから机の上ではなくハクの首輪に付けたポーチに並んで入ってる。
それがまた可愛い。ふかふかとふわふわが共存。最高だよね?
疲れたらたまに手をそっとそのポケットに入れる。ふかふかの胸毛とふわふわの胸毛…どちらも素敵な。うふっ…そしてその手を抜いたらハクの首毛をもふる。もう最高だよね?天国?ここは天国ですか?
顔をあげてイリィを見る。真剣にビアマグを作っている顔が…うはぁ…ご馳走様です。拝んでいいかな?
伏し目のその震えるまつ毛が…繊細な指が…形の良い唇が。夜な夜な私を…いやいや、そうじゃなくてね?
もう見ているだけでまさに眼福。はい、今日もありがとうございます。そんな1人芝居をしていると
「どうしたの?」
首輪傾げて聞いてくる。さらりと揺れる淡い金髪…。頬にかかる髪を手で押さえているよ。はぁ美しい。単なる仕草なのに様になるよね?
「アイ…?」
私は首を振る。
「気になる…?」
「…」
イリィは優しく髪を梳いてくれる。そのまま頬を撫でて私の頭をふわりと抱きしめてくれた。
「気にしなくていい。アイは優しすぎる」
どうしていいのか分からない。関わりたくないのに…放っておきたいのに…やっぱり気になる。
小心者だから…悪いことをしてるみたいに思ってしまう。私が我慢すれば良かったのかと…。
『違うよ…アル。アルが周りを気遣ってるように、周りがアルを気遣っていない。彼らはただ寄りかかっているだけ。それは助け合いじゃない』
うん、ハク…分かってるよ。でも…私にとっては簡単なことだから…。だから…。他の人が簡単に出来ないと知ってるから。余計に…どうでもいい、と言い切れない自分がいる。
結局、そこで曖昧な態度を取るから、便利に使われてしまうのだろうけど。
向こうとこちらが違うと分かっていても…。結局、私はいい子ちゃんでいたいんだ。なんて度量が小さいのだろうか…。嫌になる。もっと大きくドッシリと構えていたいのに…。
「アイ…こっちにおいで?」
イリィがソファに腰掛けて私を呼ぶ。するとハクがのそりと起き上がると
『ちょっと出てくる!』
言うが早いかもう見えなくなってる。えぇ?扉閉まったままだよ?
「アイ…?」
「う、うん…」
イリィは優しい眼差しで私を見ている。ソファに近づくとイリィが抱きしめてくれる。
「アイ、力を抜いて?寄りかかっていいから」
「?」
「もっと頼ってよ…」
「頼ってるよ?」
イリィに手を引かれてそのまま膝の上に座らされる。
イリィの熱が伝わってきて…心地よい。目を閉じてイリィに体を委ねる。
「重くない?」
「大丈夫だから…そのまま寄りかかってて」
ありがとう。なんだか手が抜けないというか…うまく…息抜き出来ないというか…変な所で真面目。
そう言えば律にも良く言われたな…。甘えてるようで肝心な時に甘えてこないって。
今は甘えていい?その優しい手に癒されて…気が付けばソファでイリィに抱えられて横になっていた。心臓の音が聞こえる…優しい音。
「ねぇアイ…僕はもしかしたら、今ごろ生きていなかったかもしれない。だからアイと出会えたのは本当に奇跡なんだ…どんな悪意からも僕が守るから…」
ありがとう、イリィ。
私はそのままゆっくりも目を瞑る。今、イリィはここにいて…その鼓動は正確なリズムを刻んでいる。
生きていてくれて良かった…。この力強い鼓動が絶えることなく続きますように…トクン…トクン…。
アイは眠ったようだ。この世界はまるで悪意を持っているように、アイの心を揺さぶる。額にかかる髪を掬いそのおでこにキスをする。アイの胸が規則正しく上下する…。目を閉じたその顔はまだ幼なげで…とても無垢だ。純粋で…悪意のないその在り方。きっと元の世界は平和でアイは大切に育てられたんだと思う。
アイ…お願いだから、僕のいるこの世界を嫌いにならないで…。命ある限り…側にいるから。
一方、その頃ハクは……。
貧民街から飛び出してダナンの屋敷に向かった。風のようや通り抜けるのでハクを見れた人はいない。
そしてたどり着いた屋敷へひとっ飛びで侵入する。
簡単だ…壊すことなど。でもアルに迷惑をかけないために仕方なく我慢した。
ハクたち聖獣にとって人など矮小な存在はどうでもいいのだ。もちろん、契約者以外だが。
だからアルに対する周りの対応にイライラする。僕が側にいると知っていながらあの仕打ちだ。
アルが何も言わないならまだいい。でも今度のことはアルが明確に拒否反応を示したから…。だから僕は怒っている。結局、アルは自分を責めるんだ。自分なら簡単に出来るからと。
出来るからと何でもやってやる必要はない。アルも分かっていてもやっぱり何かしてあげたいって思うんだよね。そこがアルのいいところでもあるし。だから歯がゆい。
その優しさを当たり前だと思っているなら…ちゃんとお灸を据えないとね…?
僕のアイルを傷付けたらどうなるか…。
僕は屋敷に軽々と侵入した。
そして屋敷の庭で遠吠えする。
わぉぉぉぉぉーん!
屋敷から慌てて人が出てきた。僕は成長した姿で彼らの前に立った。すでに体調は2メルを超えた、その立派な体躯で。
僕を見たヤツラは跪き、頭を垂れた。
『お前たち…アルを便利に使うなら…この町など吹き飛ばしてやる…。と言いたいが、アルが悲しむから我慢する。忘れるな…僕にとってはアル以外の存在はどうでもいいんだということを…』
「そ、そのようなつもりは…」
「聖獣様…お初にお目にかかります。システィア・カルヴァンと申します。ロルフの父です。この度はラルフが契約者であるアイル君に無礼を…」
「ハク様。ダナンです。先日はイザークが失礼しました…」
『アルは優しい子だ。それに甘えるな』
「「はっ、肝に命じます」」
『アルは…今回の件も自分を責めている。出来るのにやらないのは…アルにとってはツライんだよ』
「「そんな…」」
『君たちの不用意な行動で結果、アルは傷付いている』
「「申し訳ございません…」」
『忠告だよ…』
「「はっ!」」
怖がらせ過ぎもダメだ。アルは優しいから…。また自分を責めてしまう。
僕の魂の契約者は本当に素敵なんだよ…?
やり切った満足感でいっぱいのハクだった。人間の決めた身分なんでどうだっていいよ。だってアルはある意味、最強なんだから…。
でもそのことに無頓着。だからこそ、そんなアルだからこそなんだろう。こんなに惹かれるのは。
ねぇ、アル…君は選ばれたんだよ?この世界に…だからこそ2体もの聖獣と契約し、生命樹の愛し子となり祝福もたくさん貰った。その希少性に気が付かない君だからこそ選ばれた…。
皮肉だよね?でもきっとそういう人しか精霊の祝福なんて貰えない。
僕が君の心も…守るからね、アル。
行きと同じくらいの速度であっという間に貧民街の工房にたどり着く。
もういっそ、ここに住んだら良くない?後で提案しよう。貴族の屋敷とか嫌だからね。
工房に着くとアルはイーリスに抱かれてソファで眠っていた。
その目には涙の跡が…。
本当にアルは優しすぎるよ。でもそんなアルが大好きで…。早くこの町を出たくて仕方ない。あぁ、死の森に住むのもいいかな。資源は豊富だし温泉はあるし…。
森はいいよ、僕も町より好きだな。
僕は前脚をソファに掛けるとアルの顔を舐める。大好きなアル…。今日はゆっくり寝て。感謝祭が終わったらこの町を出ようね。
その頃のダナンの屋敷では…。
イザークはダナの屋敷に探索者を連れて戻って来た。
そこで皆んなが扉の前に揃っているのを見る。
「どうしたんだ?」
フェルに聞くと耳元で
「ハク様が単身、乗り込んで来た。僕のアルを傷付けるな、と。彼は自分を責めているらしい…」
俺は驚いた。今回はこちらの不手際だった。だからといっても来るぐらいいいだろう。そんな気持ちがどこかにあった。無意識に上から目線だったようだ。
そのことに改めて気が付いた。なのに、彼は自分を責めている?
本当にどこまで君は…。そしてそんな君を俺たちは…。
「イザーク、そちらは?」
ダナの声で我に返る。
「探索者のブラッドとサリナスです。牛乳の使い方を…」
ダナは頷くと
「良く来たね」
そう声を掛けて屋敷に招き入れる。
皆んなでまた移動して、応接室に入った。そこでブラッドとサリナスが小ぶりな機械をカバン取り出す。
皆んなが何だ?と見ているとシスティア様が新鮮な牛乳を彼らに渡す。
彼らはそれをさっきの機械に付いている容器に入れて、ハンドルを回し始めた。すると水っぽいものと乳白色の滑らかなものに分かれた。
「こちらがクリームと呼んでいます」
滑らかな方を指して言う。
小型のコンロを出すと鍋にそのクリームを入れて、砂糖を少し…。それを火にかける。しばらくすると表面が泡立ってくる。火を弱めてヘラでゆっくりと混ぜ合わせていく。徐々に甘く芳しい匂いが立ち込めてくる。
ごくり…
誰からか…そんな音が聞こえた。
色が茶色くなり、もったりしたところで火を止める。それを出来ていた弾けるキビに絡める。
残りはそのままキビパンと一緒にスプーンを添えて皿に入れる。
「これがカラメルです。どうぞ」
皆んながまず弾けるキビを食べ始める。
「「!!!」」
「これは…」
「まろやかで何と美味しい…」
「甘さが上品で口に残るこの味」
「クセになる…キビの軽さと相まっていくらでも食べられるぞ」
「これはまた…」
全員がそのあまりの美味しさに絶句する。
次にキビパンに少し乗せて食べる…。
「「「!」」」
それはまた…。なんと美味しい。全員が余りの美味しさに次々と手を伸ばしあっという間になくなった。それはまた格別だ。貴族ですら感動する味だ。
「この機械は…」
「…アイルが…」
「なんか、こんな感じかなぁとか言いながら試作つって作ってたぞ?作るとこは見てないけどな」
「どういう原理だ…?」
「んー回る時に外向きに力がかかるから…とか何とか?」
「軽い水分がそれで飛ばされて分離?するとか?」
良くわかんないけどな…と言う。
「布をよ、振り回すと風が起こるだろ?あれと同じとかって…」
システィアが自分のスカーフをとって回す。外側に風が起こる…。水分を含んだものはこうやって分離する?
「服を洗った後に回して水気を飛ばすんだってさ。軽く言ってたけど…魔道具作れそうだよな?アイツはそんな考えとか当たり前に話するんだよ…危なっかしいぜ…本当に」
「常識を教えるって言う理由が分かった。一見ごく普通なのに…その思い付きがぶっ飛んでやがる上に、無防備だ」
回転させて水分を飛ばす…。当たり前のようで誰もが思いつかなかったこと。何故彼はそれに気がついた?
「なんか…連れてる犬に水がかかって…んで、体を回転させながらブルブルしてるのを見てあれ?って思ったって。で、洗いたての服でやってみたら水が渦巻きみたいに外に飛び散ったとか。でもよ、それを見て水分を飛ばせるとか考えんのが普通じゃないよな?見てたってそんなもんだって思うだろ?」
やっぱりアイツはめちゃくちゃ頭いいんじゃねぇか?
と最後にサリナスが言った。ブラッドも頷いている。
もちろん、アイルは遠心力を知っているから当たり前なのだが。
「その…水分の方も使い道がある。ブラックベアとか硬い魔獣の肉が、これに漬けると柔らかくなる」
「「!」」
また全員が固まった。
ブラッドがカバンから肉を出す。
「これがブラックベアの肉だ」
それを先ほどの白く濁った水に漬ける。そのまま今夜の料理に使うといいと言って皿に置くと、すでに漬け込みが終わった肉を取り出す。
それを適当な一口大に切ってフライパンを取り出してコンロにかけ焼く。軽く塩を振って何かを散らす。取り出して皿に盛り、小型のフォークを出して近くに置いた。
「試食用に…そのフォークはデザート用だって」
システィアが真っ先にフォークを取って肉に刺す。驚いた顔で食べると
「なんて柔らかい!」
他の人も食べ始める。
「「!」」
「なんて柔らかい…」
「この味付けは?」
「あー薬草だって。バジリ?いや、バジルか…傷薬に使う薬草だとさ」
まさか、あのバジルか…?肉の臭みを決して爽やかな後味…。まさかあのバジルが…?
「これもアイルが?」
「あぁ、故郷では柔らかい新葉をこうして薬味にして食べていたってさ」
バジルは一般的な薬草でさほど貴重品ではない。しかも他に傷薬に使える薬草はあるのでさほど注目されていない、とはロルフ談だ。
彼はどれだけ私たちを驚かせれば気が済むのだろうか?いや、これこそ彼にとっての常識なのだろう。
俺たちは頭を下げてでも彼に助力を乞わなければならない立場なのだ…。
システィア様は
「あぁ、君たちありがとう。急な呼び出しに応じてくれて」
2人は滅相もない…とあわてて頭を下げて帰って行った。送ると言えばもう帰るだけだからと断られた。
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