114.ロルフの結婚
ダナンの屋敷にて
「きっと彼が望んでいるのは静かで平穏な生活。でも回りがそれを許してくれない。霊獣のグレイウルフは先祖返りで、その父親は死の森に棲んでいる。その父親が彼に、正確にはハク様に鉱山の場所を教えて。それがダイヤモンド鉱山だと」
「何?ダイヤモンドだと…?」
「アイル、正確にはハク様とラルフが占領した死の森の一部にまたがっていると言うんだ」
「それはまた…どれだけ祝福された存在なんだろうね?彼は」
「今回はハク様への贈り物なんだろうけど、ハク様が鉱山を欲しがるわけもなく。結局そのグレイウルフもアイルの為に教えたとしか」
「空白地域とはいえ、さすがにダイヤモンド鉱山をはい、そうですか?と手放せないぞ」
「そう思ってラルフの実家も含めて一度話し合いの場を持つ必要があるとアイルには伝えている。感謝祭の前に」
「ラルフとロルフはそろそろ帰って来る。あちらも貴族法を詳細に知っていたよ。我々とは違う特例制度によってロルフとラルフの結婚が決まった」
「えっ?2人は兄弟ではない?」
「あぁ、イズは知らないんだね。高位貴族の間では公然の秘密だよ。ラルフはロルフの父親の妹、叔母の息子だ。そしてもう1人の親は前公爵の奥様だ」
私は驚いた。現公爵様は現王の弟君だ。そしてその奥様は現王の末娘。仲睦まじいと有名な2人なのに?
「娘くらいの年の子に奥様を取られたんだよ。しかも子の実を抱えて駆け落ちまでして」
「もちろん奥様は連れ戻されて、相手の女性も実家に戻った」
「その女性は馬車の事故で亡くなったそうだ。死んだ女性が腕に実から産まれたばかりのラルフを抱いていたとか」
「それで例の兄弟の登録をしていても…実の兄弟ではない場合は婚姻が可能となるというあの…?」
「そうだね。あちらの家も思い切ったね」
「ラルフはロルフしか見えてなかったからな」
そうだったのか。ラルフのロルフへの執着はフェルの私に対するものに通じると思っていた。望まれない妹の子供。
「ラルフは小さい頃体が弱くて…ロルフが薬草の研究家になったのも全てラルフの為だ。ラルフにとっては兄以上の存在だったんだろうね。きっと」
そうか…屋敷に籠って出てこないロルフが活動的に動き出したのはアイルと出会ってからだ。そしてアイルがきっかけでラルフは暴走し、そしてロルフが寄り添って実家に帰り…。
アイル、やっぱり君は人に幸せを運ぶ天使のようだね…。
「彼に関わった人は皆んな幸せになるな。スーザンしかり、イーリスしかり」
「本当に…不思議な子だ。彼はきっと神に愛された子なんだろう」
彼らは知らなかった。神の意志によって、アイルがその直面する試練に苦しんでいることを。苦しみながらもがいて、正しくあろうと頑張っていることを。
時間は少し遡るってカルヴァン侯爵家にて。
2人で長い夜を一緒に過ごし…朝が来て。兄様は普通に起き上がっていた。兄様のスキルは凄いな。
「おはようラリィ…寝不足?」
「兄様、体は大丈夫?昨日は無理をさせてしまって」
「私は大丈夫…体は丈夫だから。ラリィは体が弱いから…心配」
こんな時でも僕を心配してくれる兄様。大好きだよ。
僕も起き上がって服を着る。兄様は寝不足で少し目が赤い。それでも変わらずきれいだ。
「兄様…僕と結婚して?」
兄様は僕の頬を撫でると少し考えてから
「ラリィが望むなら…」
「兄様は?兄様の気持ちは?」
困った顔でそれでも考えながら一生懸命伝えてくれる。
「私は…誰とも結婚しないつもりで…だからラリィが望むならそれを叶えたい」
「僕は…兄様に選んで欲しいよ、僕を」
兄様は淡く微笑んで
「選んだ…僕はラリィの心を選んだ。それではダメ…?」
兄様はずるいよ。僕は兄様に僕の側にいたいとそう言って欲しいのに。それなのに、僕の心を選んだと言ってくれる兄様の言葉も嬉しくて。
兄様の意思で僕を選んでって言えないじゃないか。
「僕が兄様なんてもういなくていいって言ったら?」
「私はラリィが大切だから…それでも見守っている」
あぁ本当に兄様は。そういう所だよ。素直で優しくて甘やかしてくれる。こんな兄様を知られたら…皆んな兄様を好きになってしまう。ダメだよ?そんなことは僕以外に言ったら。
僕は兄様に抱き付いてキスをする。
僕だけの兄様だよ?今までもこれからも…。だから結婚しようね。
「いいの?僕は兄様が本当に大好きで…凄く嬉しい。だから沢山抱きたい。結婚したらもう止まらないよ?」
兄様はまた困ったように笑って
「ラリィが…望むなら…」
やっぱり兄様は僕のことばかりだ。
「ラリィが楽しいと兄様も楽しい」
「結婚したら兄様じゃないよ?」
「私はずっとラリィの兄様。ラリィは兄様と結婚…嫌?」
「兄様こそ…お、弟との結婚は嫌?」
首を振ると
「誰とも結婚する気はなかった。だからラリィとなら…」
「兄様…」
大好きな兄様。やっぱり僕のことを1番に考えてくれる。
「キスして…?」
兄様はぼくの顎に手を当てると唇にキスをしてくれた。やっと僕のものになってくれたね…兄様。
朝食はお母様が部屋に運んで上げてと言ったそうで、執事が運んで来た。
2人で食べる。兄様の所作はきれいだ。眠そうでも怠そうでも、背がスッと伸びて動きが洗練されている。
見惚れていると
「お腹空いてない?でも食べて…」
「兄様に見惚れてただけ。食べるよ」
「ラリィ。ここには5日滞在しよう。その間に貴族院へ婚姻の届出をしたらゼクスに帰るよ。アイルの保護の話もだし、父上とフェリクスの家とキビの件で打ち合わせをしないと」
「そうだね、まずは感謝祭だね。僕は領地を離れられないから」
「後で父上と相談…その前に…報告。ラリィと私の…これからのことも…」
「お父様とお母様の都合を聞いてくる」
すると扉が叩かれる。ラリィが開けると執事が立っていた。
「旦那様と奥様からこの後、少し話をしたいから…動けるなら居間に。と伝言でございます。いかがですか?」
「すぐ行くと伝えて」
「畏まりました」
扉がが閉まると
「一度部屋に戻ってまた来るから…一緒に行こう」
兄様は頷くと軽く髪を整えていた。私は急いで部屋に戻ると着替える。
第2正装だ。ロルフ兄様のお父様とお母様に結婚に承諾を貰わないと。
きっと兄様も正装している筈。
第2正装は目上の家、僕らの場合は主に王家と王家に連なる家との謁見や会見以外で着用する最上位の正装だ。
侯爵家と公爵家の長男と血筋こそいいものの庶子である僕との婚姻は望ましいとは思えない。それでも、兄様が僕の希望を叶えてくれるなら、本気でお願いしよう。
許してもらえるだろうか…いや、兄様が望むなら大丈夫か?
兄様の部屋の扉を叩く。中から開けてくれた兄様はやはり第2正装でいつもながらとてもきれいだった。
「兄様…きれいだよ」
「ラリィも素敵だ…」
兄様は僕の手を握ると歩き始める。
居間に着くと執事が扉を軽く叩いて部屋を開けてくれる。僕は兄様に手を引かれて部屋に入った。
お父様とお母様も略式正装だ。身内同志の時用のものだ。
2人とも立ち上がる。すると脇に控えていた執事が大きな花束を兄様に渡した。えっ?兄様を見ると
「私が温室で育てた花だ…薬草だけど…きれいだろ?」
僕は頷く。兄様は片足を後ろに下げ、軽く膝を折って僕を見ると
「ラルフ…私と結婚してくれるか…?」
兄様…僕を選んでくれるの…?
「私はいつだって…ラルフの幸せを願っている。この花の名はラルフィーネ、目立たないけど…とても可憐で万能な薬草の名…それからラルフの名を取った」
兄様…でも僕は…望まれない子で。
「お前を抱いたアリアナ叔母様はその花をラルフの小さな手に握らせていた…魔物避けに…ラルフは望まれた子…」
僕は…ちゃんと望まれたの…?
「兄様…ありがとう。これからも…よろしくお願いします」
そう言ってその胸に飛び込んだ。兄様は危なげなく僕を抱き止めて花ごと抱きしめてくれた。
僕は涙が止まらなかった。兄様はいつだって僕が欲しい言葉をくれる。大好きだよ…。
パチパチパチ…。
「素敵な求婚だったね」
「えぇ、私のロリィはやっぱり素敵な子ね」
僕は泣きながら
「僕たちの結婚を許してくれるの?」
「ロリィが朝早くに訪ねて来て、ラルフと一緒になりたいとね」
「ロリィが望むなら…そして相手があなたなら、反対なんてしないわ。むしろ大歓迎よ!」
「座ろうか」
こうして僕は泣きながら兄様にくっついてソファに座った。
お父様が
「お前の母親、私の妹は破天荒な子でね。本当にいつも何かしらしでかしてた。私も両親も苦労したよ。本人はやりっ放しだからね」
お父様は遠い目をする。でもそれはとても優しい目で。
「なのに、なんだか憎めない子でね…愛嬌があると言うのか…。それがまさか駆け落ちなんて…。なのに本人はお前を残して逝ってしまった。皆が途方にくれたよ。親の罪を子供は背負うと言われている。お前の体が弱かったのは生命樹の言祝ぎが無かったから。その代わりにロリィがお前を守った。私たちがロリィ以外の子を望まなかったのはロリィとラルフがいたからだよ。それで良かったと思ってる。でも2人とも片付いたし…ルシーと新しい子を使作ってもいいかもな」
最後はウインクしてそう言った。
あら、ふふふって笑いながらお母様も微笑む。
私は今の両親にもちゃんと愛されていたんだ。でもやっぱり僕が欲しいものをくれるのは兄様だ。
兄様を見上げる。優しく髪を撫でてキスをしてくれた。軽くまぶたにも。僕は安心してその体に寄りかかった。
「やっと体の力が抜けた…」
「?」
「ラルフはいつも…寄りかかっているそぶりだけ…どこかで遠慮してた…」
やっぱり兄様は知っていたんだ。
「知ってるさ…ラルフのことは…誰よりも」
兄様、さりげなく言われるその言葉に僕がどれほど助けられたか知ってる?僕は兄様がいたから…生きていられる。
兄様を見上げる。これからは1番近くで、その顔を見れるんだね…。目を閉じてキスをする。大好きだよ…誰よりも、何よりも…。
「さて、では手続きを済まさないとな。もう婚姻の届出を出そう。関係各所への挨拶はまた後でだな。まずは感謝祭だ。あぁ、ダナンには2人のことを伝えておく。話し合うことがあるから、お前たちが戻るタイミングで私も打ち合わせに行く。それを終えたらロルフは感謝祭が終わるまで、ゼクスに。ラルフはこちらに戻りなさい。お披露目はまぁおいおい、だな。
ロルフは例の彼、アイルを保護するのならゼクスにしばらくいるか?彼の希望もあるからね…。ダナンとも詰めなくては」
「ひとまず…4日後にゼクスに戻るから、フェリクスにその後打ち合わせを…。ただ、アイルが来る時にラルフは…無理」
「そこはダナンも含めて私がロルフと出よう。死の森の占領の件もあるからな」
「父上、お願い」
「お父様…アイルの件、よろしくお願いします」
「分かった」
後3日、ここで過ごす。兄様と…そしてお父様とお母様と…。新しい家族として。
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