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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動

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111.母の真実

 さぁギルドに行こう。

 その時一瞬、夜の鍛錬でさっきの体に斜め掛けするベルトをしたイリィを想像して悶絶していたアイルだった。

 一方、同じく夜の鍛錬で腕にミスト用のベルトと太ももにこの間買ったベルトを付けたアイルを想像して悶えたイリィだった。

 

 そんな邪な想像をしている2人とは違って腕のポケットから顔を出し、頭に蓋を載せて興味深々に外を見ているミストがいた。

 ハクは2人の邪な想像を感じて呆れていた。

 そろそろアルと交わりたいな…。腕と太もものベルトはなかなかいいかも?なんて思いつつ。

 

 腕ポケットで動くミストが可愛い。

 頭に蓋載ってるよ?でもそれも嬉しいみたいでたまに蓋を見上げている。

 そしてギルドに着いた。

 扉を入ったところで固まった。昨日見かけたあの同郷の女性がいたのだ。

 

 依頼受注の窓口にいる。でもなんか険悪な雰囲気。

 すぐにイリィが私を後ろに庇う体勢を取る。イザークさんはいつもの右端でその女性たちのやり取りを見ていたが私に気が付くと手で会議室を方を指す。

 そのままカウンターの左端を通り抜けて廊下に出た。

 ホッとしてしまった。ギルドでは会いたくない。私と関連付けられるのは困るから。

 

 イザークさんは単にイリィが揉め事から私を庇ったと思ったみたいだ。

 そんなに弱くはないんだけどな…。

 そして私を見て大丈夫か、と聞く。ここは何も言わずに頷いておく。

 

 会議室に入って椅子に座る。

 イザークさんが

「アイル、何か言う事はないか?」

 ん?何かな?キビスープの話とか。新鮮な牛乳が確保したいのでロルフ様の実家にお願いしたいってヤツ。

 え?違う?それなら弾けるキビのフレーバーかな。生キャラメル作るのにやっぱり新鮮な加熱殺菌処理済みの牛乳が欲しいってヤツ。

 違う?それもそうだけどもっとあるだろ??

 思い浮かばない。

「何かな?」

「あの牛乳から成分を分離する機械だ」

 あぁ、遠心分離器ね。それがどうしたの?首を傾げるとため息をついて

「おい、イーリス見張っとけって言ったろ?」

 肩をすくめるイリィ。

「さほど問題ないかなって。今までのやらかしに比べたら可愛いもんだよ」

 

 盛大にやらかしてる風の言い方止めて。。。

「あのまろやかな牛乳は何だ?おい。俺の仕事をこれ以上増やすな」

 何で増えるの?

「…もういい。で、そっちは何の用だ?」

 今は腕ポケットに隠れているミストを取り出す。

 目を丸くして見たイザークさんが固まる。

「…この小さいのは?」

「グレイウルフです」

「普通のグレイウルフか?」

 ギクッ。スッと目を逸らす。

「アイル…今度は何をやらかした?」

 え?何もだよ。だってね…。

 

 同意を求めてイリィを見る。え?何で目を逸らしたの?今度は私何もしてないよね…。

 ハクを見るとしっぽを振って誤魔化している。

 ほら、私じゃないよ?

「あの…少し特殊なグレイウルフなんだけど…少しだけ」

「なるほど、かなりだな。で、どう特殊なんだ?ん?」

 腕組みして睨まないで。

「先祖返りらしくて…ハクが保護しろと」

 

 ハクはゆるくしっぽを振る。可愛いぞ。おぉミストまで短いしっぽを振ってる。か、可愛いぞ。

 ほら?イザークさん可愛いでしょ?

 あ、ダメ?だから睨まないでって。本当に私じゃないよ。

「先祖返りとは…?」

「霊獣の魂を持つみたいです」

 すると左目に違和感を感じる。

『みたいじゃなくて霊獣の魂を宿した子だよ?分類上はもう霊獣だね』

 

「…」

「アイル、気のせいで無ければ…淡い光と微かに声が聞こえるのだが?

 え?イザークさん聞こえるの?普通の人なのに?

『彼には祝福があるよ。血を分けた母親の祝福だね』

 それを聞いたイザークさんが見たこともない程の怖い顔で、そんな筈はない。母親は実から産まれた俺を殺そうとした!と言う。

『君はそれを父親から聞いたんだね?それは産まれた君を慈しみたい心と、自分を攫った男との子であるという相反する気持ちの中で…先のことを考えて寄り添うのではなく…命を懸けて君を守ることを選んだんだ』

「嘘だ!」

『君が血の繋がった叔父と出会えたのは偶然じゃない。祝福に導かれたんだ。彼女の一族…女性だけに伝わる命を懸けた魔法。自ら死ぬことで精霊に我が子の幸せを願う祝福を授けてもらう』

「それなら何故、父親は?」

『託したから。最後にこの子を頼むと…愛した男に。君のポーチに飾り紐が付けてあっただろ?』

「…たしかにあった。何故あの父親がそんな物をくれたのかと不思議だったが」

『君の首の後ろに…小さな痣がある。それが祝福の印。そして飾り紐は自分の髪を編み込んだお守りだ』

「…」

『あの襲撃で君が生き残ったのは偶然じゃない。父親が君を腕に庇い、そして祝福の力で一命を取り留めた…それが君が目を逸らしてきた真実だよ』

「…母親は俺を殺そうとしていなかった?父親は死ぬまで俺を庇った…?俺は望まれない子供じゃなかったのか…??」

『そうだよ。君がいま、この真実を知ったのは…分かるね?君へ込めた両親の願いが成就したからだ…おめでとう…イズ』

 

 イザークさんは固まったまま動かない。ようやく目に光が戻った時にはその目から透明な雫がとめどなく流れていた。

 彼には見えていた。子の実を撫でながらほほ笑む母親の姿が。

 その母親を見て不器用に声をかける父親の姿が。

 産まれた俺を泣きながら抱きしめる母親を。その母親ごと俺を抱きしめる父親を。

 俺を抱いた父親と俺に手を伸ばす母親を。その手が俺の首筋に触れると淡い光に包まれた。

 それを見届けて、血を吐いた母親は最後に親父の頬に手を当て…やがて力なく下に落ちた母親の手を。

 俺を抱いたまま母親を抱きしめる父親を。

 俺を胸に抱いて泣きながら母親を埋めている父親の姿を。その森は…その森は俺が暮らしたあの森だった。

 全ては必然…。あぁ俺は愛されていたのか…。

 

 

 顔を手で覆って泣き始めてしまったイザークさん。

 なんだかその背中はいつもより小さく頼りなく見えて…自然とその肩を抱きしめた。事情は分からない。でもアーシャ様とのやり取りでなんとなく察した。

 その気持ちは私には分からない。私はもう会えないけど両親にも、兄にもちゃんと愛されて育ったから。

 今のイザークさんにはダナン様とフェリクス様がいる。きっと大丈夫だろう。

 肩を抱いたまま遠慮がちにその髪に触れる。柔らかくて少しだけひんやりしていた。そしてその首には小さな雪の結晶のような痣があった。

 しばらく肩を震わせて泣いていたイザークさんがようやく顔を上げた。いつの表情の無いその顔は頼りなげに視線が揺れている。

 その目を覗き込んでその頬に手を触れる。


「さっきの声は森の精霊のアーシャ様。高位の精霊でその姿を見るだけでも祝福だと言われている。そもそも精霊は祝福の無い人には見えないし声も聞こえない。だからイザークさんには間違いなく祝福がある」

「アイルは何故アーシャ様と?」

「そのグレイウルフ、ミストの霊力に寄ってきた精霊の中にアーシャ様がいて。祝福を貰ったから」

「アーシャ様のか?」

「うん。イリィにもハクにもブランにも、もちろんミスト、そのグレイウルフにも祝福があるよ」

「アーシャ様の祝福はアイだけ。僕たちは普通の精霊の祝福。アイはそのアーシャ様の祝福の印が目に刻まれている」

 イリィ、その情報言わなくても良くない?

 

「元々ミストが引き寄せたから…」

 イザークさんはまだ赤いその目で私を見ると

「やっぱりアイルはアイルだな」

 そう言って笑った。

「首の所の痣、私の目の模様と同じみたいだよ。イザークさんのお母様は森の精霊に願ったんだね」

「…私の母は…ダナン様の妹だ。その名前をイザベルという。母の愛称も俺の愛称もイズだ」

『もちろん偶然じゃない。全ては祝福の導き。君は母親の眠る森で…母親の敬愛したその兄と出会った。その祝福が君の魂に刻まれて、自然と求めたんだね、その兄を』


 イザークさんは私を見ると

「アイルといると聖獣や霊獣や精霊や…当たり前にいるから驚く。でも分かる気がする。皆んなお前に惹かれていくのが。そのミストもアーシャ様も…アイルを選んだのだろ?」

 私には良く分からない。なぜ皆んなが私の側にいたいと思ってくれるのか。

 でもとても心強いし、その期待に恥じない自分でいたいと思う。私はただ必死にこの世界で生きたいとそう思っているだけ。

 軽く私の頬にキスをすると髪を撫でもう大丈夫、だと言う。

 初めてイザークさんの笑顔を見た。それは輝くような明るい笑顔だった。

 

 ふわっと優しい風が吹く。ありがとう愛し子…

 そう聞こえた気がする。

 アーシャ様が淡く水色に光るとフッと消えて左目に軽く違和感があった。

 イザークさんが私の左目を覗き込む。

「それと同じ印が俺の首に…?」

「うん、祝福が無いと見えないのかな?」

 イリィがイザークさんの後ろ髪を避けて覗き込む。

「僕には見えるよ」

 イリィには祝福があるからでしょ?

『君の大切な人たちにはもう見えるよ。封印が解けたから…』

 イザークさんは軽く首筋を撫でると優しい目で早く見せてあげたいな、と言ったのだった。

 

 うんうん。やり切った感じで頷いていると

「ミストの登録をする」

 と言って紙を差し出してきた。サラっと記入する。種族…犬。まぁ似たようなもんだしいいよね?

 それを見たイザークさんの顔が引きつってたけど気にしない。

 

「ところでロルフ様はいつ頃戻る?」

 牛乳の手配とか生乳の手配とかダイヤモンド鉱山の事とか銅の採掘のこととか。話さないといけないことがたくさんある。

「何かあるのか?」

 そっと目を逸らしてミストをもふる。可愛いなぁ。

「おい、誤魔化すな」

 イリィを見る。なぜか首を振っている。え?私のせいではないよ?だってグレイが見つけたんだし。

「白状しろ!」

 あ、はい。ミストの父親?と思われる群れのリーダーの話。ハクの縄張りを守っていること。

 そしてグレイが見つけて私たちに教えてくれた新たな鉱山のこと。

 なるべくサラリと話をした。軽くね!

 

「で、何を見つけた?」

 いや…その…その。

「ブロンズとか…その…もろもろ?」

「もろもろの方を言え」

 えぇぇ、さっきまであんなに弱々しかったのに?仕事モードに戻るの早くない?

「…モンドとか 」

「声が小さくて聞こえない。何だって?」

「ダイヤモンドとか…」

 ピシッとイザークさんが固まった。

 眉間にシワがより目が吊り上がる。あ…なんかのスイッチ入った?


「お前は…なんでそんなにやらかしてんだよ、コラ!あぁ、アイルの前で泣いたのは一生の不覚だ!」

 えぇそれは酷くない?見つけたの私じゃないし。グレイだし。ミストだってグレイだし…グレイは元はと言えばハクだし…。

 ほら私悪くないよ?

「ダナン様とロルフも含めて話をする必要がある。感謝祭前に一度時間を取るぞ」

「私も…?」

「お前がいなくてどうするんだ?」

「ハクとか…」

 あ、そんなに怒らないで?あぁさっきあんなに可愛かったのになぁ…。恨みがましく見る。

 あ、頬にキスされたことフェリクス様にチクるか!ふふふっ。どうだ!


「お前…フェルに消されたいのか?自分でいうのも何だが…アイツは俺のことになると見境ないぞ?お勧めしないがやりたいのなら止めないが」

 いえ、全力で止めておきます。さり気なく横のイリィに抱き着く。うんうん、ありがとう。ナデナデ嬉しいよ。

 もっと甘やかして。イリィだけが味方だよ?大好き…えっ?それとこれとは別?ここは目一杯甘やかして。そのいい匂いのする首すじに頭を擦り付ける。首すじにキスしちゃおう。チュッ。


 イザークさんが正面から睨んでる。よし、話を変えよう。




※読んでくださる皆さんにお願い※


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