110.森の精霊
するとどこからかほわほわとした光がやって来た。
(音がしたよ)(音がしたね)
(澄んだ音色だ)(澄んだ音色ね)
(何かな?)(誰かな?)
(ここだよ)(ここだな)
ざわざわしている。胸ポケットからミストが顔を出し
『わぅわぅわ』
(あぁ白灰狼だ)(先祖返りだ)
(私たちの仲間の魂を感じる)(感じる)
(精霊の魂を宿した子)
(強い霊力を感じる)
(仲間)(我らの仲間)(霊獣)
(精霊の愛し子もいる)(愛し子が守ってる)
(愛し子の側は安全)(守られてる)
(聖獣もいる)(この子は安全)
(僕たちの祝福を)(この子に祝福を)
(愛し子にも祝福を)(愛し子の番にも祝福を)
(僕たちが祝福を)
無数の光が飛び交う。その中からひときわ強い光を放つ子が私の目の前に来て空中に止まる。
これが精霊…?
それは手の平サイズの人型に羽の生えた男の子だった。水色の髪に水色の目。羽は透明でときどき虹色に光る。少し長い耳のお人形みたいな男の子だ。
癖毛は可愛らしくくるんとしていて体を覆う長い服を着ている。羽が透明じゃなければまるで天使のような愛らしさ。
その子がジッと私を見ている。
そのまま私の顔に近づくと鼻のあたまにキスをした。
(契約したよ。よろしくね、アイル)
えっ?契約…?
『精霊の守護だよ』
ハクを見る。何ですか…それ。
イリィを見ると軽く膝を折って頭を垂れている。
(君の番だね。とてもきれいな魂だ。聖獣が惹かれるほどの。我らと同じ魂を持つその子も…惹き寄せられたね)
「はい。アイはその魂の色がとても澄んでいます」
(分かるよ。君が出会えたのは幸運だ。わたしも何百年ぶりかな…)
「森の精霊…アーシャ様。お初にお目にかかります。イーリスです」
(あぁ、3代目の…。その魂は解放されたんだね…私たちの祝福が授けられた。ユウリの若木は君たちの訪れを待っているよ)
「ありがとうございます。現当主の父も喜びましょう」
(私はいつでもアイルの近くにいるよ。その瞳に印を付けよう)
何かが目に入るような違和感があってすぐに収まった。ん?
『左目にアーシャの印が付いたね。他の人には見えないよ。聖力や霊力が無いと』
「私が自分で見ても分からない?」
『アルは洞察力があるから見えるよ』
「イリィは見える?」
「見えるよ。祝福のお陰かな。虹彩に結晶のような模様が付いてる。凄くきれいだ…」
そう言って私の目を覗き込む。
イリィの目だってその虹彩に青の縁取りがとてもきれいだよ。
「森の精霊って?」
「精霊は自然界のいたる所にいる、と言われている。山にも森にも花にも木にも泉や川にも。でも人の前にその姿を表さない。ふわふわと光が漂うのは見えても、普通は声すら聞こえない。
僕たちはユーグ様や生命樹の精霊たちに祝福を貰ったから人より見えやすい。でも人型の精霊は高位精霊で、その姿を見ることはそれこそが祝福と言われてるんだ。その精霊に祝福されるなんて…」
『アルだからな』
ドヤ顔のハク…可愛い。
「ミストのことを精霊の魂が…とか霊獣って…?」
『先祖返りはグレイウルフがまだ霊獣だったころの名残だよ。今のグレイウルフは先祖のグレイウルフと人間の子孫。実体を持つ代わりにその霊力は弱まって、今はただの獣だけど…。たまにその霊力の強い子が産まれる。霊力は精霊の魂なんだ。精霊は実体を持たない。霊獣は半分実体を持つ。ミストは実体を持ちながら霊力が強いから精霊寄りの魂なんだ』
そうなのか…じゃあアーシャ様も目に見えるけど精霊だから実体はないのかね?
不思議だなぁ。
あぁでもだからユウリ様と人が結ばれる為には魂を捧げる必要があったんだね。
っと銅の採掘だ。これもロルフ様に相談だから適当に採って…どれくらいかな。そこそこの埋蔵量みたいだし、収納する時に不純物は分離して…。お試しだから5㎥くらいかな。風魔法でドゴン、バコン…
ズドドン。よし、いいだろう。
「イリィ、これはブロンズで食器に加工出来るよ」
「そうなんだ?僕にもくれる?」
「もちろん、そのために少し多めに摂ったよ」
「ありがとう、アイ」
イリィの為ならね、頑張るよ。
これでひとまず温泉に行ってお昼だね。少し過ぎてる。グレイとへここでお別れ。
私は胸ポケットからミストを出してグレイの鼻先に持っていく。グレイは鼻を押し当てミストの全身をペロペロの舐めた。ミストもグレイの口元を舐めてグレイは最後にその頭を舐めると背中を向けて森に消えて行った。
『わぉぉぉん』
哀しげにミストが鳴く。すると森からも
『わぉぉぉーん』
それはさよなら、と言っているようで切なくなった。その小さな体を両手で持つとそっと頬ずりする。ミストは軽く口元を舐めてから私の手の中で丸まった。その背中を撫でながら
「これからは私がパパだよ…ミスト」
温泉に着くまでそうやって撫でていたらやがて眠った。
温泉に着いたらまずはお昼ご飯。お腹空いたね。手早くお肉を焼いてパンと固形スープの素をお湯に溶かして食べる。
ミストは味付けのないお肉。ハクたち聖獣と違って塩は体に悪いかもしれないからね、念のため。
イリィもいつもより多めに食べてたよ。お肉美味しいよね…。私はあまり食べられないけど。
お昼ご飯の後は温泉。朝の疲れを取りたい。筋肉をほぐさないと明日が大変だから。
ミストはまだ小さいから入れないと思ったらハクが大丈夫というので任せた。入れるお湯の温度が違うから。
服を脱いで掛け湯をしてからお湯に浸かる。あぁぁ癒される。体がほぐれる…はぁ最高…。隣にはイリィの白くてきれいな体が…。
慌てて目線を外す。上気した顔が色っぽいよ。温泉マジックだね…いや違うか。イリィはいつだってきれいだ。ドキドキしているとお湯が動いてイリィが横から抱きついてくる。ま、待って…今はダメだよ。
お湯で温まった素肌が…直に…。顔を逸らしていると頬に手を添えてイリィの方を向かされる。
「僕を見て…アイ」
チラッと見る。優しい顔で淡く微笑んでいる。あぁ、女神がいるよ…。そのままキスして抱きしめてきた。イリィ…嬉しいけど恥ずかしいよ。
そのまま耳にキスをされて
「もう少しそのままでいさせて?」
コクコクと頷く。この体勢で美形に言われて断れる人なんているのかね?
その温かくて柔らかい体に抱かれて…幸せな時間を過ごした。
ハクとブラン、ミストは温度が低い方のお湯にくたッと浸かってる。ハクは顎を浴槽のヘリ乗せてブランとミストはそのハクの首辺りにしがみついて半身をお湯に浸かって目を閉じている。毛がしんなりしていつもより小さい。クスッと笑った。
皆が可愛い。もちろんイリィが一番だけどね。
ふぅほぐれた。そろそろ上がろうか。
お湯から上がって髪と体を魔法で乾かすと服を着て…。
少しだけ休憩室でまったり。いや、疲れてるし本気で休憩したら寝てしまうからね…。でも温泉で温まったイリィが横でくっついてたらそれだけで体温が上がってしまうよ。
嬉しいけどね…。だからそんなに可愛い顔で見ないで?抱きしめたくなるから。
ふわり…と抱きしめられて耳元で
「夜にも鍛錬しないとね?ふふっどんなのがいい…?下半身を鍛えるなら…立って…とか?僕の攻撃に…ちゃんと耐えてね?」
…イリィ…それはその…いわゆる筋力トレーニングではなく?その…そっち?
「お父様が夜に…って言ったよね?ふふふっ」
ファル兄様…まさかそういう意味?
耳元でクスリと笑うイリィは可愛いくて…でも小悪魔みたいだった。
「毎晩鍛錬したら…強くなれるよ?守ってくれるんでしょ?」
それは訓練という名の…。鍛えられるのかな?
楽しみなような怖いような…。
こうして少しの休憩を終えた。
ミストはハクの胸毛に埋もれてブランと寄り添っていたよ?はぁ可愛い。
では帰りますか。大きくなったハクにイリィとまたがりブランとミストは私の服の中でお休み。お腹に当たる羽毛と毛でくすぐったい。でもミストが落ちないようにしないとね。
ハクは凄い勢いで走って行く。そしてなんと…初記録の50分で西門から10分くらいの所まで着いてしまった。早い!まだ日は高くて街道は人もまばら。
最後はミストは胸ポケット、ブランは肩でハクは小さくなって横を歩いている。
ミストの登録しないとな。革屋で首輪を買ってからギルドだ。
西門をいつも通り通過…と思ったら
「アイルだな、探索者ギルドから伝言だ。戻ったらすぐギルドに来い、だとさ。何したんだ?」
衛兵がニヤリと笑う。
心当たりが…あり過ぎる。笑って手を振るとお礼を言ってギルドに向かう。
西門からは中央広場を抜けて突き当たりを右だ。でもその前にミストの首輪だな。
例の革屋に入る。
すると入り口近くに小さなポーチを見つけた。横型で蓋は留め金付き。あ、これミストを入れるのにいいかも?腕に巻くベルトを着けたらきっとフィットする。
でもこれ、凄くいい作りなのに…。
すると奥から
「よぉアイル。あ、それなぁ」
苦笑する。
「注文品なんだが、最後に気に入らなねぇとかっつってよ…参るよな。腕に付けて使うんだが。一般的じゃないからよ。捨てるには惜しいし…で捨て値で」
「だよな…銀貨1枚なんて有り得ない」
いくら何でも安すぎだ。
「じゃあさ、これとこれに合う腕に巻くベルトを買う。後首輪も買うから。まとめてくれよ。これも銀貨1枚じゃなくていいから。安すぎだろ」
「…いいのか?助かる。革もよ最上級の鰐で高いんだよ。よし、ベルトは任せろ。すぐに作ってやる。腕周りだけ計らせてくれ」
そう言って私の腕を取ろうとしたら横からイリィが
「僕がやる。どこを計るの?」
「ん?おおっ手伝ってくれるのか…助かる。脇から10セル(cm)くらい下の腕周りだ」
イリィが私の腕を取り脇に手を当てて10セルの位置を指で押さえ、そこの腕周りを計る。
アイに触っていいのは僕だけだよね?って。
やっぱりそっちの理由?
その長さをハンスに伝えると奥に行ってカンカンと作り始めた。
私はミストの首輪を見に行く。一番小さなサイズだな。どの色がいいかな。ミストはライトグレーの子。目は淡い水色だ。私の色だと同系色だからやっぱり水色かな?
ハクとお揃いの色でもいいか…?
するとミストが短いしっぽをパタパタ振る。ハクとお揃いがいいのか?これだね?分かったよ。
手の中のミストが嬉しそうに口元を舐める。ミストにとっては私ではなくハクがパパなんだね…。
少し寂しいけどより近い種族の方がいいもんな。
ハクと同じ色の首輪を2個選ぶ。すると奥からハンスが出てきた。
「出来たぞ」
おっ早いな。
「サイズ確認に嵌めてみろ。下がらないように肩にも留まるようにした」
本当だ。ベルトが2重で肩と腕に巻けるようになってる。ん?自然とイリィに手渡してるよ?
あぁ触っていいのは…だね。お願いします。
優しい手つきでまず肩に留めてから腕にベルトを巻いていく。それならズレないし意外と重くない。
蓋を開けてミストを入れる。うん、すっぽり。まだ余裕があるからもう少し大きくなっても大丈夫。
私はハンスにサムズアップする。
嬉しそうにハンスもサムズアップを返してくれる。
イリィは体に斜めに固定する短剣やナイフをさせるベルトを買っていた。
私は首輪2個と合わせて銀貨15枚。かなりオマケしてくれたんだな。
「ありがとな!余り革持ってくか?」
有り難く貰って帰ったよ。
ミストに首輪を付けてみる。うん、似合うね!
さぁ、ギルドに行こう。
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