109.鍛錬の始まり
昨日はファル兄様の所で話をして、それから久しぶりにイリィとハク、ブランと森に行った。
あの樹脂を採取した森。
そう言えば菜の花も取りっぱなしだ。菜の花の油取ろうと思ってたのに…。
精油を混ぜた石鹸とかシャンプーも作りたい。ボディクリームも欲しいな。それを使ってさらにツヤツヤウルウルになったイリィを見たいだけどなんだけどね。
で、薬草や花の蜜を採取してハクと走って大きくなったブランと戯れて…。
2人ともはしゃいで獲物を狩ってたよ。
角うさぎとか猪とか雉も。充分かなって思ったのにそのあとでヘビとか大カエルとかワニとか…魔魚とか。
なんか川があって取り放題とか言ってね…。
やり過ぎって思ったけどハクなんて可愛い顔でしっぽふりふりだし、ブランは大きな羽をたたんで頭をすりすりだし怒れないよね?
だからありがたく保管したよ。
お昼は猪でバーベキュー。皆んな美味しいってたくさん食べたよ。
薬草も追加で採ったし、カモミールも見つけたから採っておいた。ハーブティーにもなるし。
帰ったらスーザンにキビスープの話をしたよ。そしてら何ではやく言わない!絶対売れるだろ。美味すぎるって怒られた。
怒らなくても…ねえ?
キャラメルフレーバーについても話したら目をくわっとして
「だからお前は!」
何で怒られてるの?って顔したら頭を軽く叩かれた。
スーザンの隣でリアはため息ついてるし…?
「すぐにイザーク呼べ!」
えっ私?何でかな。キビスープはこの前食べたよ。美味しいってダナン様も言ってくれたし。
ドヤ顔で言ったら頭を抱えてられた。リアとケンカでもした?って聞いたら全てお前のせいだ、だって。酷いよね?
ブラッドとサリナスもなんか固まってたけど?生キャラメルフレーバーには2人の協力がいるから頑張ってね!
あ、ついでにイザークさんに伝言よろしく。お砂糖の手配が必要だから。
それからお店の名前もそろそろ決めてって言ってね。
その夜は疲れて、翌朝も早いからと早めに寝たよ。もちろんイリィと寄り添ってね…。
そして翌朝…ハクに顔を舐められて目が覚めた。んっ…もう少し…。待ってまだ眠いよ。
『強くなりたいんでしょ?アル…』
目が覚めた。そうだよ!鍛錬だ。イリィも眠そうだけど目を覚ました。起きるぞ。
支度をして2人で軽くジョギングする。動きやすい服装にしてあるからゆっくりね。
軽くでも走れば10分ほどで着いた。門の前でファル兄様が待ってくれてたよ。
「おはよく、良く来たね。こっちにおいで」
「「おはようございます」」
ファル兄様について行く。そこは庭ではなく訓練場だった。
すでにシア兄様とベル兄様が体を動かしている。
「おはよう」
それぞれ挨拶をして鍛錬の始まり。
「まずは基礎体力をつける所からかな。体をほぐしたらまずは訓練場の周りを10週。その後は軽く型の練習。いわゆる基本の動きを素手でやる。まだ体力があれば木刀で型の練習かな。さ、走っておいで」
イリィと私は走り始める。
…強くなる以前の問題だった…。5週くらいからイリィに離され、最後は2週遅れ。イリィは息すら乱れてないよ…。
何で?そんなに細いのに…。ふらり。あ、倒れる…。
私は今イリィに膝枕をされている。情けない…。この体に慣れてないってのは言い訳。体力がなさ過ぎる。
頭に当たるの太ももが気持ちいいけど、そんな事言ってる場合じゃないよな…。はぁ…。
そう言えば夜だってイリィは元気だもんなぁ。まずは体力付けなきゃ。
ファル兄様が
「アイルはまず体力からだな」
そして私の腕や足を触り
「その前に筋力か…イーリス。毎晩、筋力トレーニングをしなさい。それで筋力が付くまでは走り込みも少し減らして、軽く型の練習かな」
「うん。分かった」
「アイル、起き上がれるか?」
「大丈夫」
「なら体の動かし方を教えよう」
こうしてファル兄様の後ろから同じ動きをする。これがまた難しい。足が踏ん張れないのだ。ふらつきそうになるとシア兄様が腰を支えてくれる。
形がおかしい時はベル兄様が後ろから手で直してくれる。
隣でイリィは軽々とそれらの型をなぞっていた。わぁ凄いきれい。真剣な目で模範的な型をやっているイリィ。あ…。
「こら、アイル。よそ見してちゃダメだろ?」
優しく後ろから手を取られ直される。はい、ごめんなさい。
こうして動いてみて分かった。筋力も足りない。足だけじゃなく腕も肩も。最後は腕が震えて上がらなくなる。木刀すら持って無いのに。
私がヘタった後もイリィは型を終わらせて木刀を振る。それなりの重さがあるのに苦もなく、きれいな形のまま。
最後はファル兄様とイリィ、シア兄様、ベル兄様がそれぞれ打ち合う。
凄かった。皆んな細くてきれいなのに、その剣筋は素早くて鋭くて…。途中から木刀は軌跡しか見えなかった。
やっぱり圧倒的にファル兄様が強い。そのまるで剣舞のような流れる剣捌きに見惚れてしまった。皆んな凄いや。
何年もかかるから分からないけど、私も頑張ろう。魔法だけに頼ってたらダメだ。改めてそう思った。
ビクトル、効率的な鍛え方とかある?
(体に負荷を掛けるのが日常的な鍛錬になる)
具体的には?重量をかけるとかかな。自重を重くして?
(その通り。体重が55キロル。それを70キロルにすると歩くだけで負荷がかかる。突然負荷をかけ過ぎるのは体を壊すので、1キロルずつ増やすと自然に筋力が上がる)
なるほど…。2%ずつ自重を増やすかな。
決めたのだから頑張ろう。
結局、10週走って30分ほど型をやって私は終わってしまった。明日はもっと出来るように。少しずつ少しずつ。
鍛錬が終わると軽くシャワーを浴びて宿に帰る。皆んなカッコ良かった。イリィは凄くきれいだった。汗かいても美形なんてね…。むさ苦しさとかどこに置いてきたの?爽やか一家の中で恐るべし。
宿に戻ると朝食。お代わりはまだ要らないな。
今日はこのままハクに乗って温泉だ。イリィも来るって言うから途中まで軽く走ったらハクに乗って温泉へゴー。
身体が疲れてるから後で温泉に入るけど、今日は鉱物とか探したり取ったりだね。
イリィの作品にも使えるだろうし。
さて、いざ行かん。せっかくだしゆっくりと西門まで走る。そこから出たらまたゆっくり30分ほど走る。息はあがるけど何とか大丈夫。人がいないことを確認してして大きくなったハクにイリィと乗る。ブランは大きくなって空から付いてくる。
隠蔽と風魔法で楽々乗れる。最近は自分で風魔法を展開出来るようになった。
ハクは器用なことに走りながら魔獣や動物を狩ってそれを瞬時に収納している。後から取り出して私のポーチに仕舞えば肉も革など使える部位と捨てる部位にわけられる。解体不要なので、楽なんだ。
こうして1時間ほどで死の森に到着。占領した辺りに来るとグレイが迎えてくれた。
『ハク様。特に変わりはありません』
『グレイ、見張り助かる』
『珍しい鉱物を見たのでお知らせしましょう』
『アルが喜ぶ。案内して』
『こちらです』
おぉ早速いい情報だね。何だろう。珍しい好物って。異世界あるあるならミスリルとかオリハルコンとか?
ワクワクしながら着いていくとえっ…本当に?
…見ていいのかな?これ…。
でもね…もう見ちゃったよ。
そこは狭い入り口で奥は広くなっている。その辺りは何と…ダイヤモンド鉱山だった。わぁ…きれい。
本当にキラキラだよ。しかもこれ…ブラックダイヤモンドだ。あっちはピンクダイヤモンド。こっちは虹色に光ってて、まさかブルーダイヤモンド?
うわぁ…イエローダイヤモンドまで。
グレイ、なんてもの見つけたの?狙われるよ?狙われちゃうよ?
わたしのスローライフが遠ざかって行く…。
「アイ…僕は実物見たの初めてだけど…これダイヤモンドって言う石かな?」
「多分ね…ビクトルに聞くよ」
(ダイヤモンド鉱山。埋蔵量はかなり多い。
最上級の透明度と輝き。カット次第でさらに輝く。
ブラック、ピンク、ブルー、イエローはこの世界で初の発見。
ラルフの占領区域にまでまたがる鉱山。
ロルフに発見者となって貰えばいい)
おふっ…色付きは初なんだ…。ロルフ様呼ばなきゃ。ハクにここ掘れわんわんして貰おう。私は発見者じゃないよ。うん。ロルフ様頑張って。
でも折角だしアイルの為のアクセサリーに使いたいから拳大のと欠片を採取する。でも硬いんだよね。
(魔法で切れるよ。風でも水でも)
ビクトル…ナイスなアドバイス。
風でサクッと採掘。欠片も風魔法で収納。
「アイ…僕にも少し欲しい…」
「分かった」
イリィの為に小さめに切り出した各種ダイヤモンドを採る。小さな粒でも圧倒的にきれいだ。ペンダントトップに加工して…それをイリィの首に。白い肌と細い首、そして小ぶりな輝くダイヤモンド。
いい、絶対いい。今すぐ見たい…。
うん、温泉に入る前に作ろうかな?似合うだろうなぁ。うふふ。
『ハク様。なにかお探しですか?』
『アルがね、鉱物を探している。金属とかその原料になるもの。知らない?』
『あそこなら或いは…我らの縄張りです。こちらへ』
グレイについて行く。
するとグレイウルフが何頭か顔を見せた。ハクにしっぽを振る。もふもふともふもふがたくさん。これはまた良い長めだ…。
おっ小さいのがいる…子供かな?可愛いぞ。うんうん。あれ?あのおチビちゃん…。
『さすがアイル様。先祖還りです。群れからはそろそろ出さねばなりません』
「何で?」
『そういう掟です。外に出て自らの力で生き抜かなくてはなりません』
ヨタヨタと覚束ない足取りで私の側まで来る。ハクに鼻で挨拶するときゃうきゃうと鳴いてわたしの足元に来た。私の足に前脚をかけてしっぽを振る。その子はまだわたしの手の平サイズ。外にでたら途端に魔物に殺されてしまうかも知れない。
私はその子をそっと手で包み込んで持ち上げる。短いしっぽを振ってつぶらな青い目で私を見る。吸い込まれそうなほど澄んだ淡い目の色。
(アイルに保護して欲しいと思っている
グレイも許されるのなら連れて行って欲しいと思っている
彼らはこの子を大事に思っているが、掟は守らなければならないから)
私はハクを見る。
『もう決めてるんでしょ?』
「反対しない?」
『僕はいつだってアルの味方だよ』
私はイリィを見る。
「アイが決めて。この子はアイに助けを求めた。これがこの子の意思だよ」
「グレイ、預かるよ。責任を持って大切に育てるから」
グレイはわぉぉん、と鳴くと私の手の平のその子に鼻を寄せてその顔を舐めた。他の狼たちも同じようにその子を舐めた。その子はしっぽを振ってわぅわぅ鳴いて、グレイ以外の狼は去って行った。
私は自分の服の胸ポケットにそっとその子を入れる。
「グレイ、この子の名前は?」
『ミスト…我々の言葉で幻という意味です』
「ミスト…幻。私には幻じゃないよ、ミスト。人の言葉では霧。夜を包む霧だよ、決して幻なんかじゃない。いい名だね。よろしく」
『わぅあ…』
その小さな頭を指で撫でる。
そして鉱物のある場所へ。
そこにあったのは銅だった。また汎用性の高い鉱物だ。熱伝導が高いから鍋とかに使われてる。
合金は楽器とかだよな。
こちらの世界での楽器の位置づけが分からない。
ビクトル、よろしく。
(青銅。こちらではブロンズ。主にベルに使われる。調理器具には加工されていない。金管楽器はこちらにはない)
「イリィ、この世界に楽器ってないの?」
「楽器ってなに?」
無いのか。
「音楽を奏でる物だよ」
「人の声以外で?」
「うん」
私は土を使ってジョブでオカリナを作る。それを吹いた。曲は赤とんぼ。
それを聞いてイリィが目を丸くしていた。
「なんて澄んだ音。初めて聞いたよ」
そうか…。これも封印だな。難しい。するとどこからかほわほわとした光がやって来た。
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