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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
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10.初めての依頼

 ギルドについて中に入る。やはりこの時間は人が少ない。右端のカウンターにイザークさんがいたのでそちらに向かう。

 イザークさんはこちらを見て

「どうした?」

 と聞いてきたので小さな声で

「帰りにちょっと襲われまして…」

 するとカウンターから出てきて私を上から下まで見て、後ろに回って見てまた前に来てから

「ケガはしてないか?」

 と聞く。

「あ、うん。助けてもらったし…」

「誰に襲われた?誰かに助けられたのか?まさか自分で…はないな」

 矢継ぎ早に聞かれる。いや、最後は断定されてたけど。

 答える前に

「場所を変えよう」

 と言い、他の職員に目配せして歩き出した。後をついて行くとまたまたあの会議室だった。


 中に入ると椅子に座るよう促され、じっと見つめられる。

「襲ってきたのは3人の探索者で助けてくれたのは…フェリクス様です…」

 最後は小さな声で言ったが静かな会議室には思いの外響いた。

 すると扉がコンコンと叩かれる。イザークさんが席を立って扉を開けると

「イズ、久しぶりだね」

 そう言いながらフェリクス様が部屋に入ってきた。

「ここではイザークと呼んでください」

「相変わらず硬いなぁイズは」

 そう笑いながらフェリクス様はイザークさんに抱きついて肩をバンバン叩いている。


 驚いて固まっているとフェリクス様を剥がしたイザークさんが

「アイルがびっくりしてるだろ」

 と言って席に座るよう促す。

「あぁ悪いね。イズの顔を見たら嬉しくなっちゃって」

 笑って言うフェリクス様にイザークさんは苦笑いした。

「アイルが襲われた話だろ?」

「あぁ、視察で西門から外に出た時に見つけてね。相手が剣を抜いたからさ」

「何だと?誰だそのバカは」

「さぁ、門の衛兵に預けたよ」

 イザークさんはため息をついた。

「全く、迷惑かけやがって」

「最近、そういう報告上がってなかったよね?」

「ちゃんとした報告は無い。噂程度は聞いたことがあるが」

「まぁ舐められてお金取られたとかね、恥ずかしくて言いたくないよね」

 イザークさんは渋い顔をする。


「アイル、無事で良かった。しかし相手が剣を抜いたらケガだけでは済まないかもしれない。気をつけろ」

 私に関しては実際、魔法も使えるし大丈夫だけど…それは言えないしここは大人しく頷いておこう。

「うん、すぐ逃げることにする」


 昨日と今日しか知らないがイザークさんは基本的に無表情だ。それがフェリクス様の前ではだいぶ崩れるというか、年相応というか親しみやすく感じる。

 そう思ってイザークさんを見ているとフェリクス様がイザークさんに横から抱きついて

「ダメだよ。そんなに見たら私のイズが減っちゃう」

 …はい?私のイズ?

 言葉に詰まっているとイザークさんがフェリクス様を引き剥がし

「誰のせいだよ…」

 思わず笑ってしまった。 



 *******



 昼を少し過ぎた頃にアイルがギルドに来た。こちらを見るとそのまま歩いてきたので

「どうした?」

 と聞くと襲われたと言う。慌ててカウンターを出て全身を確認する。特にケガをしているようには見えない。

 場所を例の会議室に変えて聞くと助けたのがフェリクス様だと言うではないか。すると扉が叩かれ開けたらフェルが抱きついてきた。


 フェルとは幼馴染で3年前まで同じ屋敷で過ごした仲だ。会うのは久しぶりだが、変わらず俺を愛称のイズと呼ぶ。

 フェルといるといつもの無表情が崩れるので人前では困る。なのにフェルはそれを見て喜ぶんだから始末におえない。今日もアイルの前で抱きついて来たり、私のイズが減るから見つめるなと言ったり。

 そんな俺とフェルのやり取りを聞いてあまり表情のないアイルが笑っていたくらいだ。その笑顔はとても無邪気で何故だかホッとした。




 思わず笑うとイザークさんに軽く睨まれたので真顔に戻る。イザークさんはフェリクス様に抱きつかれたまま

「お前はそう何というか、舐められやすそうだから気をつけろよ」

 と言った。横から抱きつかれた状態で言われても何だか締まらないけど、気をつけると答えておいた。

 ついでに初めての依頼を受注したいと言って補助を頼めるか聞くと

「明日でいいなら俺が付いてやる」

 とのことなので、お願いした。

「受けたい依頼は?」

「採取かな?」

「それなら妖精の涙とかいいんじゃない?」

 何故か横からフェリクス様が言う。

「それフェルが行きたいだけだろ?」

「ちょうど時期だし、私も必要だし明日なら空いてるから」

 いや、だから何の話…?


「まぁ仕方ないか、色々教えるのには場所も薬草も最適だ」

「でしょ?じゃあ決まりだね。明け方の採取だから夜の出発だけどアイル君は大丈夫?何なら屋敷(うち)に泊まる?」

 軽く聞いてくるけどうちって屋敷だよね?貴族の?

 ないない、あり得ない。慌てて

「夜出発でも大丈夫です。宿から行きますので」

 とっととお断りした。

「じゃあ私はイズのところに泊めて貰おう。ね、イズ?」

 イザークさんは仕方がないという顔で

「分かった」

 と返していた。


 結局、なぜか初めての依頼受注にフェリクス様が付いてくることに…何故こうなった…?


 妖精の涙とはこの時期にしか咲かない花から採取する雫で朝日が登るとともに雫が落ちる。だから夜明け前に現地について採取の準備をしておく必要があると教えてもらった。

 この薬草は上級薬の材料で時期や採取地が限られることから貴重な薬草だそうだ。

 採取に必要な道具は雫を入れるビンと保冷カバン。どちらもギルドの貸し出しがあるので、手続きをして借りておく。保冷カバンは自分だけなら無くても大丈夫だけど、時間停止の空間拡張鞄がどの程度普及しているか分からないので、これは人に知られないようにする。


 妖精の涙の採取地にフェリクス様が同行することにもう少し疑問を持っていたら、と後から思うことになるのだが…この時はまだそれを知らなかった。


 こうしてその日の夜に西門に集合となって解散した。今日も盛りだくさんで疲れた。まだ日は高いけど宿に帰って少し寝よう。ハクと連れ立って通りを歩いて帰った。

 宿に着くと変わらず立派な筋肉の宿の主人が

「早いな」

 と出迎えてくれる。

「色々あって疲れたから。少し寝るけど夕食に起きてこなかったら呼んで欲しい」

 そう伝えて部屋に入る。あぁ疲れた〜なんて濃い日何だろう。ヨレヨレしながらベットに転ぶとすぐに睡魔が襲って来た。ハクが布団に潜り込んだのを感じた気がする…。


 扉を叩く音で目が覚める。おぅと答えると宿の主人の声で夕食の時間だと言われたので起き上がり食堂へ降りて行く。

「起こしてくれてありがとな」

 と宿の主人に言うと軽く肩をすくめて夕食を持ってきてくれた。

 今日も変わらず量が多い。でもお腹が空いていたから完食出来た。まだおかわりはいらないな。

 部屋に戻り今日の魔法訓練を振り返る。全魔法属性の衝撃とその後、フェリクス様との出会い。まさかのイザークさんの幼馴染とか。

 濃い、濃すぎる。穏やかなスローライフはどこへ…?


 まだ出発まで時間があるのでシャワーを浴びて着替える。汚れた服はいつもの通り汚れを浮かせて捨てる。洗い替え用にもう何着か買うかな。そう考えながらこれからの生活について考える。


 探索者としてまずは初級を目指す。

 ある程度稼げるよう将来的には中級を目指す。

 中級になったら迷宮に潜る。

 お金が貯まったらどこか人のいないところで時々迷宮に入りながら自給自足で暮らす。


 こんな所か。考えているとそろそろいい時間になった。さぁ初めての依頼に出発だ。



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