夏の花火とブルーアイ
中学2年の春。
学校の廊下で同じクラスの二人組の女子にいじめられている如月杏樹(高校2年・14歳)。
いつも地味で目立たないポジションにいる。
安藤「如月さぁ、あんた邪魔なんだけど」
原田「そうそう、だから廊下の隅っこ歩いてくれない?」
如月「ご、ごめんね」
その様子をたまたま見かけたとなりのクラスのウィル・ブラウン。
ウィル"あの子、名前は知らないけどたしか隣のクラスの・・・"
別の日。
安藤「如月、あんたってほんとうざいよね」
如月「え・・・」
原田「いなくなってくれない?」
如月は今にも泣き出しそうだ。
しかし、ウィルが近づくと・・・。
安藤「あ、ウィルく〜ん!」
原田「ねぇねぇ、この前も体育の授業で活躍してたよね!かっこよかったよ〜」
ウィルが来たことで二人の態度が急に変わる。
ウィル「ありがとう」
クラスメイト1(男子)「おーい、安藤、原田ー!ゲームしようぜ!」
クラスメイト2(男子)「早く来いよー!」
安藤「もう、いいところだったのにー!」
原田「ウィル君、またお話ししようね!」
パタパタという足音と共に二人がいなくなったのを確認したウィルは如月の心配をする。
ウィル「大丈夫?」
如月「え、あ、ひょっとしてさっきの聞いてた?・・・」
ウィル「うん」
如月「大丈夫だよ、もう慣れっこだから
それに悪いのはトロい私だから」
ウィル「そんな事ないよ」
如月「え?」
ウィル「どんな理由があったとしてもいじめていい理由にはならない
だから自分が悪いなんて思わなくていいんだよ」
如月「ありがとう・・・」
ウィル「あ、そうだ!名前聞いていい?」
ウィルはさっきまでの優しい口調とは違ってフレンドリーな話し方に変わる。
如月「き、如月杏樹」
ウィル「杏樹!可愛い名前だね!じゃあこれから杏樹って呼ぶね!」
如月「いい、けど・・・」
如月"人懐っこい人だな・・・"
ウィル「僕の名前はウィル・ブラウン!ウィルって呼んで!」
如月「う、うん」
ウィル「よろしくね!」
如月「よろしく・・・」
ウィル・ブラウン(高校2年・14歳)はとなりのクラスの人気者の男の子。
無邪気で明るく、スポーツ万能なイケメン。
イギリスと日本のハーフで、栗色の髪にブルーアイが特徴的だ。
自身もいじめを受けた事があったウィルはその苦しさを知っている為、いじめられている杏樹をとても他人事だとは思えず放ってはおけなかった。
最初は放っておけない気持ちから気にかけているだけだったウィルだが、素直で優しい性格の如月に次第に惹かれていく。
夏。
ウィルは勇気を出して如月を花火大会に誘った。
人が集まっている場所から少し離れた場所で見ようということに。
花火が打ち上がり、二人は花火に釘付けになる。
如月「私、ウィル君と一緒に花火見れて良かった
ありがとう」
ウィル「僕の方こそ来てくれてありがとう
あのさ」
如月「うん?」
ウィル「僕、杏樹が好きです、僕と付き合って下さい!」
如月「・・・気持ちは凄く嬉しいけど、私なんかでいいの・・?」
ウィル「うん!杏樹じゃなきゃダメなんだ!」
1ミリの迷いもなく告げられたその言葉に如月は安堵する。
如月「私も・・・ウィル君が好きだよ、だからえと・・よろしくお願いします」
ウィル「え、ほんとに!?やったぁー!!」
ウィルはバンザイをして盛大に喜んでいる。
如月「ちょっとウィル君、そんな大声で・・・」
如月はというと恥ずかしさからオロオロしている。
如月"でも、こんなに喜んでくれるなんて嬉しい"
ウィル「これからよろしくね!」
ウィルは如月の両手を掴むとブンブンと上下に振った。
如月「うん」
如月"ウィル君って犬みたいで可愛い"
如月「ふふ」
ウィル「?どうしたの?」
如月「何でもないよ」
ウィル「そう?まぁ杏樹が楽しそうだからいっか!
花火もっと近くで見に行ようよ!」
如月「うん」
ウィルは如月と手を繋いで歩き出した。
ウィル「うわぁ!凄い綺麗!!杏樹はどの花火が好き?」
如月「んー、あ、あの青色の花火好き、ウィル君の目の色と似てて綺麗・・・あ、ごめん、嫌だった?」
ウィル「ううん、嫌じゃないよ、だって杏樹が好きって言ってくれたから」
如月「キュン・・・」
如月"ウィル君どこまでも可愛い・・・
明るくて真っ直ぐで運動神経良くて皆んなの人気者で
私なんかと釣り合わないよこんな素敵な人"
ウィル「また見に来ようね!」
如月「うん」
如月"でも、それを言ったら好きだって言ってくれたウィル君の気持ちも否定する事になる
だから言わない
今こうして一緒にいられる幸せな時間を大事にしよう
いつか、ウィル君の気持ちが変わってしまっても
今日見た花火を私は忘れないよ"
次の日。
校内は二人の噂話で持ちきりになっていた。
花火大会に来ていたクラスメイトに二人でいるところを目撃されていたのだ。
安藤「あんたさぁ、ウィル君と花火見に行ったんだって?」
原田「調子に乗らないで!」
如月「ごめ・・・はっ」
謝ろうとする如月だったが、その時ふとウィルの言葉を思い出す。
ウィル"杏樹、自分が悪くないと思ったら謝る必要ないんだよ"
安藤「は?なに?」
原田「聞こえないんだけどー?」
杏樹「私は何も悪いことしてない・・だから謝らない」
安藤「はぁ?何それちょーうざいんだけど!」
原田「生意気なんだよ!」
安藤が怒りのまま如月の肩を掴んだ瞬間。
ウィル「ストップ、そこまでだよ」
後ろからウィルが声を掛けた。
如月「ウィル君」
安藤「あ、ウィル君・・・」
原田「これはなんて言うか〜、そう!ちょっとふざけてただけ!ね!」
安藤「うんうん!」
原田「そんな事より!ウィル君、花火大会の日、如月と一緒にいたって聞いたんだけど〜」
ウィル「うん、そうだよ?」
安藤「それなら私達を誘ってくれたら行ったのに〜!」原田「ねー!わざわざ一緒にいてもつまらなそうな如月じゃなくたって〜!」
ウィル「んー僕、いじめをするような人とは花火見に行きたくないから」
安藤「え・・・」
原田「いや、さっきのは本当に違くて・・・」
ウィル「僕、杏樹をいじめてた事は許せない
でも、君たちがいなかったら僕はきっと杏樹を知らずに過ごしてた、だからありがとう」
安藤「杏樹って・・・」
原田「え、今好きって言った・・・?」
ウィル「うん、僕と杏樹は付き合ってるんだ」
安藤「な・・・」
原田「うそ・・・」
ウィル「杏樹、行こう」
ウィルは如月の手をぎゅっと握った。
如月「う、うん///」
手を繋いで歩いている二人を見た他の生徒達は・・・。
「きゃー!あの二人、手繋いでる!」
「えー嘘、まさか付き合ってるの?」
「二人で花火大会に行ったらしいよー」
「何でよりによってあの如月と?」
騒いでいる周りの声を無視して二人は手を繋いだまま学校を出た。
ウィル「すっかり噂になっちゃったね」
如月「うん、ごめんね、私のせいでウィル君まで悪く言われて・・・」
ウィル「杏樹は何も悪いことしてないんだから謝らない謝らない」
ウィルはポンポンと如月の頭を優しく撫でた。
如月「ありがとう・・あの、ずっと聞きたかったんだけどウィル君はどうして私の事好きになってくれたの?」
ウィル「なんでだと思う?」
如月「え?うーん、私特にいいところもないし、いじめられて可哀想だったからとか・・・」
ウィル「そんな理由で人を好きにならないよ
確かに杏樹を知ったきっかけはいじめられた場面をたまたま見かけたからだけど
俺もいじめを受けたことがあったから放っておけなかったんだ」
如月「え、ウィル君が?」
ウィル「うん、僕、ハーフでしょ?だから子どもの頃はそれでよくいじめられてたんだ
最近はだいぶ減ってきたけどそれでも時々あるよ」
如月「そうだったんだ・・・ウィル君も辛い思いしてたんだね・・」
ウィル「最初は杏樹が元気になればって思ってたけど
話してるうちにどんどん惹かれていったんだ
素直で優しい人だなって」
如月「そんな、私には何もないのに・・・」
ウィル「何もない人なんていないよ、杏樹にも僕にもいいところはいーっぱいあるさ!だからドーンと胸を張っていこうよ!」
如月「ウィル君は凄いなぁ、そんな風に思えるなんて・・・私もいつかなれるかなぁ」
ウィル「なれるよ!そう思えるようにこれからはずっと僕がそばにいるから!」
如月「ずっと・・・?」
ウィル「うん、死ぬまでずっと一緒だよ!」(ニッコー!)
満面の笑みと共にさらりと告げられた"死ぬまで"という言葉。
しかし、当の本人の目はキラキラと輝いていて冗談ではなく純粋に心からそう思って言っているのだと分かる。
如月「まじか」
ウィル「まじまじ♪」
その後、ウィルによる溺愛高校生活が始まったのは言うまでもない。
そのウィルの姿はさながらご主人様に引っ付いて回る犬のようだといつしかわんこと呼ばれるようになった。
ウィル自身はどうして自分が"わんこ"と呼ばれているのか分からない様子だったが、犬が好きなこともあり嫌な気はしておらず、
呼ばれる度に"ワンワン"とふざけて返すようになっていた。
1ヶ月後。
ウィルの担任の先生(男)「如月、ちょっといいか?」
如月「え?はい、何でしょうか」
ウィルの担任の先生「ウィルのことでちょっとな
ウィルはよくはしゃいでいるだろう?」
如月「は、はい」
ウィルの担任の先生「元気なのはいいことなんだが、落ち着きがなさ過ぎるのがたまに傷というか・・・話によると如月はどうやらウィルの飼い主らしいじゃないか」
如月「確かにウィル君とはお付き合いはさせてもらってますが飼い主じゃ・・・」
ウィルの担任の先生「指導、頼むよ」
如月「そ、そう言われましても・・・」
如月"うわーん、本当に違うのにー!"
ウィル「杏樹ー!」
如月の姿をみつけたウィル。手をブンブンと振りながら如月の方に向かって走って来る。
ウィルの担任の先生「じゃ、頼んだぞ如月」
手で合図をするとさささっといなくなるウィルの担任の先生。
如月「あ、ちょっと先生!・・・」
ウィル「先生と何話してたのー?」
如月「えーと、授業で分からないところがあって」
ウィル「そっかぁ、杏樹は真面目だね」
如月「う、うん、あのさウィル君」
ウィル「んー?」
如月「ウィル君はわんこってあだ名付けられて嫌じゃないの?」
ウィル「全然!むしろ嬉しいよ、僕、犬好きだし」
如月「そ、そう・・・」
ウィル「でも何で僕がわんこなんだろうね?どこも似てないのに」
如月"やっぱり自覚ないんだな、とゆうか、私が飼い主って言われてることはまだ知らないみたい"
如月「はしゃいでるところがそう見えたんじゃないかな?」
如月は遠回しに答える。
如月"私が飼い主と思われてるとはとても言えない"
ウィル「そっかぁ、僕が犬なら杏樹はなんだろう?小さくて可愛いからうさぎかな?」
如月「そ、そうかな?そんな風に言ってくれるのウィル君だけだよ、ありがとう・・・」
周りにいた生徒達"いや、誰がどう見てもお前の飼い主だろ"
最初は二人の交際宣言に驚いていた周りの生徒達も、ウィルが如月に懐いている姿や、ウィルの面倒を甲斐甲斐しく見る姿を見て、
いつしかウィルの面倒を見れるのは如月しかいないという結論に至った。