引っこ抜いた、引っこ抜いたから!
魔剣を引っこ抜いて見たところ
この剣に宿っているという女性が出てきた。
…というかもう母と呼んでもいいぐらいの年齢の人だった。
「ありがとうございます」
「あ、はい良かったですね。ではさようなら」
ここにこのまま居たら熱くて溶けてしまいそうだ…
…あと絡まれると面倒くさそう。
もう果実水とかどうでもいいからさっさと帰りたい。
「えーっと…?あなたはケルル・トレファーナっていう名前なんですね!」
なのに、なのに!
「なんでついてくるんですか!?」
「?引っこ抜いてもらったからですが」
至極当然のような顔をして言っている魔剣だがなぜか動き私のあとに付いてくる。
「というか!動けるなら自分で動けばよかったじゃないですか!」
そう、さっきから引き離そうとできるだけ早く歩いているのに平然と私についてくるのだ。
商会の影響で足が速いほうだと思っていたのだが、
こともなげについてくる魔剣を見て自信をなくした。
「大丈夫ですよー?一般人にしては早い方ですから!」
そして問題の魔剣は…ずっと話しかけてきている。
さっきからずっと無視しようとしているのだがいちいち言葉が癪に障り
つい、言い返してしまう。
「こんなもの連れてたら絶対立て直しとか無理だよ!」
「立て直し?」
焦るあまり余計なことを言ってしまった。
「最近トレファーナ商会の取り潰しが決まったの」
「トレファーナ商会?」
さっき本名を知られてたし知ってると思ったのだが知らなかったようだ。
「私の親が経営してる商会。売り上げが芳しくなくて取り潰しが決まったの」
暑さのあまり頭が狂ってしまったのかもしれない。
なぜ私は人外に説明をしているのだろう
そもそもこれは現実で起こってる出来事なんだろうか。
「あ、あぶなーい!」
体を冷たさが覆いそれでこの出来事が現実であると再確認させられた。
布と自分の体が擦れて気持ち悪い。
独特の匂い、微かにベタつく体、もしかして…
「すまん嬢ちゃん!果実水がかかっちまった!」
いつの間にか辿り着いていたのは目的の果実水を売っているお店だった。
「許さん!これ最後の一着なんだぞ!」
そう、これは唯一店の担保にしてなかったから没収されなかった服なのだ。
魔剣の精霊らしき人…名前は知らないけど、も絶句している様子だった。
「あー…あの…なんだ、本当にすまなかった」
「そんなに…?どうしよう…やらかしたかも」
嘆いてももう遅い、最後の一着は…ベトベトに濡れてしまったのだ。
引っこ抜かれた、引っこ抜かれたから!
…だからついていくんですよ。