オンナ/ユウシャ/ホシ
La virino
私がまだ幼い王子であったころ、宮殿で薄衣の女をよく見かけた。
近くに現れてはためらうように去り、追ってもその長い裾に追いつけなかった。
老王として生を終える今、薄衣の女がふたたび現れ、私を抱く。
ああ、お前は死か。
ならば子供の私にお前が近づいたのは誰が元であったのか?
わかっている、私が王になり処刑した母であろう……
* * *
Bravuloj
なんの力量を示したわけでもないのに、俺は勇者にされた。
勇者は半年ごとに各国から一名ずつ選出され、おなじ目標をめざす。
この世のどこかで財宝とともに眠っているという、伝説上の姫を探し目覚めさせるのだ。
しかし何千年もくりかえされてきたわりに成果は皆無、今ではどの国でも流罪同様の役目である。
勇者に推薦した上司と、最近まで俺の妻だった女を、おなじ寝台で永遠に眠らせ、俺は出発した。
女はそこらじゅうにいるが、伝説を聞き少年が憧れるような姫などは、この世にいたことはないのだ。
わかっていても、俺は、俺たちは、彼方をめざし歩まずにはいられなかった。
* * *
Steloj
稀に星の巨体が地表近くを通り、野にくっついてしまうことがある。
理由は不明。言い伝えでは、恋に破れた男星がさまよって地にたどりつくのだとのこと。根拠はなさそうだ。
最近は外国からむけられる非難の目もあり、建設重機を使い星を無理に空へ帰してしまうが、むかしは近隣集落が総出で星の肉や油を分け合い、笑顔を交わしたものらしい。
二百年前の大飢饉の際には、ある夜にふっくらと太った星が地上に横たわり、食糧となったので、多くの人命が救われた。
たとえ空では醜男であった星でも、田舎の人間は、地に着く星をみな、神の使い、神の一部としてあつかった。
わたしの実家は飢饉のころに建てられた星神社で、わたしの名も星にちなむものだ。
わたしはまだ星の味も恋の味も知らないけれど、夜をさまようほどの失恋にはあこがれている。
Fino
修正記録 (2023−11−01)ホシ:神の使いであり→であり、を削除。