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オロチ La serpentego




 ことわれない性格のせいで、昔から損ばかりしてきた。

 今回も、医者でもないのに代診をたのまれことわれず、いやいや山にむかっている。


 山中の大樹の根元に、白いオロチがとぐろを巻いていた。

 わたしは持ってきた袋から大豆をざらざらと出して山にし、オロチに供えた。オロチが大豆を食べているあいだに、その体を診察するのだ。


 白くつややかな身にそっと手を入れる。

 感触は冷たい水そのもの。中も見えるようになるので、ゆっくりと深くまで手を進める。

 そこにはひっそりと開いている水中花がある。

 わたしは指先で慎重にその繊細な花弁の開き具合をととのえる。これがオロチの診察である。


 花はひとつだけではない。場所を少し移動しては、オロチの体にそっと手を差しこみそっとととのえそっと手を引く、この動作をくりかえす。

 手を入れる際に、身の内側から甘い香りが放たれる。これに魅惑されると、オロチの体に溶けこみ、冷たい水中花となってしまうのだ。

 それもいいかもしれない、とすでに思いはじめている。危険なので、一刻も早く終らせたかった。

 診察が進むにつれオロチは体を動かし少しずつとぐろを解くのだが、その体は、無限に現れ出てくるようだった。


 気づけば、オロチが大豆を食べるのをやめて赤い目でじっとわたしの手元を見ていた。

 わたしは冷や汗を流しながら診察を続ける。自分の汗の匂いと花の香りがまざって結びつき、わたしも同様に捕えられそうに思われて目眩がする。美しく繊細な、無数の花が、彼方まで続いて見えた。

 たいせつに守られる花々。わたしはなぜそちらの側でないのだろう……。


 ぴた、と小さな音がした。われに返って音のした方を見ると、オロチの白い体に染みができていた。木の枝に止まった鳥がふん・・を落としたのだ。


 あ、とわたしが声をあげるより早く、かん高い叫び声が響いた。

 オロチが急に動きだした。いやオロチではない、わたしは自分がずっと、たいしたことのない大きさの灰色の蛇の体を撫でていたのを知った。

 蛇はせわしく身をくねらせて草むらの中に消えた。その方角には川がある。


 帰るべく腰を上げながら、もう少しがまんすればわたしが汚れを拭いてあげたのに、と残念に思った。

 わたしにとっては、鳥の邪気のない無神経さより蛇の精一杯の気どりの方が、ずっと好ましかったのである。





 Fino





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